New Food Industry 2010年 8月号

新規指定添加物 「ステアロイル乳酸ナトリウム(SSL)」について

村上 敦也

ステアロイル乳酸ナトリウム(以後SSL)は,米国・EU等では,古くから類縁のステアロイル乳酸カルシウム(以後CSL)と共に,食品用乳化剤・小麦粉製品の品質改良剤として,ベーカリー製品等,幅広い食品に使用されている。FDA(米国食品医薬品局)でのSSL及びCSLの認可は1961年である。
 一方,日本では,Ca塩であるCSLは1964年にパン用品質改良剤として認可され,1993年と2002年に使用基準が改正されて,現在ではパン以外にも対象食品が広がっているが,Na塩であるSSLは,これまで食品添加物としては認可されていなかった。しかし,今回,2010年5月28日付けの官報(号外第112号)により,SSLが日本においても,食品添加物として正式に認可された。

桜の花からの清酒酵母採取とその利用

加藤美都、山岡 邦雄、柏木 亨

近年,日本酒の消費量は停滞しており,業界としては,若者や女性向けの新しい日本酒に対する要望がある。その背景としては,日本人の食生活がここ数十年大きく変化したことがあげられる。一方,清酒も生酒や吟醸酒,純米酒が広く浸透し,味の成分が辛口淡麗化してきているが,清酒の甘辛を含めた味覚が,現代の消費者一般の嗜好に合わなくなってきたことも考えられる。そこで,何とか現代の食生活にマッチした個性のある清酒ができないものか,という強い希望が業界に生まれた。その対策の一つとして,新しい野生酵母を自然界から採取し,特徴のあるエタノール製造に用いる試みが,地域おこしなどの目的で,各地で行われている。しかしながら,得られた酵母のエタノール生成量は低い場合が多く,従来から用いられている協会酵母(一般に清酒醸造に用いられている酵母)に勝る酵母を採取できていないのが現状である。

窒素循環型減圧噴霧乾燥によるレモン果汁の粉末化

北村 豊、山野 善次、山崎 和彦

液体食品の貯蔵・運搬のための水分蒸発による容量減少と品質安定の技術として噴霧乾燥法が知られている。噴霧乾燥法は,乾燥塔内で微小液滴化した材料に直接熱風を接触させることにより,瞬時に水分を蒸発させて乾燥粉末を得る方法である1)。液体食品を短時間で連続的に処理することから,乾燥効率が高く製造コストを低く抑えられる利点があり,粉乳,粉末果汁,粉末調味料,粉末香料などの生産に広く利用されている。液滴は乾燥初期に高温の熱風と接触するが,乾燥の進行とともに熱風温度が低下するため,乾燥粒子は比較的低温になるとされる。しかし乾燥塔内に残留する粒子は乾燥後も熱風に暴露されることがあり,その間に粒子中の感熱性成分は,変質・消失する可能性も示唆されている2)。

芽胞比率を高めた納豆の発酵制御技術

古口 久美子

納豆菌はBacillus subtilis の一種の好気性グラム陽性桿菌であり,細胞内に芽胞を形成する。芽胞は栄養細胞に比べ,酸や紫外線,熱に対する耐性が高いことが知られており,消化液に対する耐性もある。
 そのため,納豆菌の芽胞には,生きたまま小腸上部に到達し,腸内で発芽することによる整腸作用が認められている1,2)。
 食品としての納豆の場合も一定数の芽胞を確保した試験で,同様の効果が確認されている3〜5)。その結果4)をもとに,2008年2月には旭松食品株式会社の「おなか納豆」(50g中に30億個の芽胞を含む)に対し,特定保健用食品として「おなかの調子を整える」効果の表示が認められた。

防臭・消臭食品容器を目的とした光触媒/DLCコーティング技術の開発

尾関 和秀

タッパーウェア®に代表されるプラスチック製の食品保存容器(図1)は,1963年に日本での販売が開始されて以来1),軽くて密閉性が高いなど,使い勝手の良さから日本の台所に急速に広がっている。そして,今やその市場規模は食品保存シートを含め70億円程度に達している2)。その用途としては,残った食材の保存,食材の取り分け,食材の収納等が主であるが,最近では電子レンジに対応できるものまで販売され,今や家庭の台所用品としてなくてはならない存在になっている。
 しかし,この便利なプラスチック容器も,半永久的に使用できるものではなく,破損,傷,食品から出る臭いの吸着等,様々な理由で使えなくなる。特に臭い吸着については機能上や外観上の問題がなくても,臭いの強い食品,例えばカレーやニンニクの含まれた食材等の保存に使用すると,他の食品への臭い移りが気になり,ひどい場合には廃棄に至ってしまうケースもある。

ヤマブシタケの抗認知症効果

河岸 洋和

ヤマブシタケ(Hericium erinaceus)はベニタケ目ハリタケ科ヤマブシタケ属のキノコである。その名は,山伏が身に付ける鈴掛衣の胸に付いている丸い飾りに似ていることから名付けられたと言われている(写真1,2)。英語ではLion's Mane(ライオンの鬣),中国では猴头菇(サルの頭のキノコ)と呼ばれている。インターネットで検索し健康食品関係のサイトを見ると,このキノコは古来より「頭に良い」キノコとして知られているという記述を散見する。しかし,それは事実と異なり,健康食品としての付加価値を付けようとする何者かの意図によって,我々の20年に及ぶ抗認知症効果に関する研究が,いつの間にか古来からの伝承にされてしまったのである。

福島県産小麦ゆきちからの性質と中華麺への応用(2) −中華麺として求められる加工特性−

庄司 一郎

 小麦粉に加水して捏ねた生地(ドウ)は,写真1のような構造になっており,丸いデンプン粒の間に白く見えるグルテン粒(グリアジンとグルテニンが結合したもの)が形成されている。建物に例えると,グルテンが鉄筋,デンプンがコンクリートの役割を果たしていることになる。中華麺やうどんの食感は,グルテンとデンプンの関係で決まり,特に中華麺は,グルテンの役割が重要で,麺のコシや切れやすさに影響を与えている。上述したようにタンパク質はグルテン形成にかかわる重要な性質で,茹で伸びや食感,色相からタンパク質含量は12%が適性だと考えられる(表1)。

伝える心・伝えたいもの

宮尾 茂雄

数年前に初めて訪れた正倉院展で,天平宝字2年(758年)8月12日東大寺写経所の役人が「西市」で瓜と生大豆を購入したことを記した古文書に出会った1)。平城京の「東市」,「西市」はどこにあったのか,そこではどのようなものが取引されていたのだろうか。大学の卒業式が終わった3月下旬,古代の市「海柘榴市(つばいち)」と平城京の「東市」,「西市」を訪ねて,奈良に向かった。

“薬膳”の知恵(49)

荒 勝俊

中医学における美容の目的は“健康美”を達成することだと述べている。中医学は,《すべての物質は陰陽二つの気が相互作用し,表裏一体で構成されている》と考える(陰陽学説)と,《宇宙に存在する全ての事象は“木・火・土・金・水”と呼ばれる五つの基本物質から成り,その相互関係により新しい現象が起こる》と考える(五行学説)に基づいた独自の整体観から構成されている。即ち,人体も自然界の小宇宙として“陰”と“陽”が存在し,常に相互作用しバランスを保ちながら生命活動を営んでいるが,陰陽のバランスが崩れる事で体表に現れる美容上の変化は身体内部の状態を反映している。中医学では人体を一つの有機的統一体と考え,人体の構成要素である気・血・津液の状態をこれまで延べてきた診断法にて診断し,そのバランスを改善させる事でその人が本来もっている臓器の機能を回復させ,身体の内部を整え,新陳代謝を改善し,肌により多くの栄養を供給する事で,健康美を獲得できると考えている。

築地市場の魚たち

山田 和彦

まだまだ暑い日の続く築地。そんな夏の日の出来事をひとつ。ある日,場内の某事務所に行くことになった。場内には,まだ昭和初期に立てられたと思われる古い木造の建物が残っている。その事務所も,そんな建物の2階にあった。階段をきしませ,汗をぬぐいながら事務所に上がると,なんと窓が全開にしてある。あるのは扇風機だけ。今どき,どこでも事務所はクーラーがギンギンにかかっているものと思っていたので驚いた。聞くと,場内作業で出入りが多いので,外と中の温度差が大きいと,体に悪いという。たしかに,開け放たれた窓から吹き込む隅田川からの風は,クーラーよりよほど体にも,地球にも優しそうであった。また別の日に,隅田川沿いを散策していたところ,大きなウナギが泳いでいるのを見かけた。高層マンションが林立し,護岸を固められた隅田川に自然の姿はないが,かつて隅田川は江戸前ウナギ の産地であった。
 今では一年中スーパーの店先にも並び,季節感の薄れた感のあるウナギであるが,土用の丑の日。やっぱり夏はウナギ。今回はウナギを紹介する。