New Food Industry 2010年 7月号

スルフォラファンのメラニン産生抑制機構

白杉 一郎、鎌田美友貴*、松井 隆史、榊原 陽一、水光 正仁

メラニンは紫外線やそれによって発生する活性酸素種から皮膚や髪を保護する重要な役割を果たしている。しかし,老化や酸化ストレスによってメラニンの過剰な合成や蓄積が起こると,皮膚の老化現象であるしみやそばかすが生じる。近年,このような皮膚のトラブルに悩む女性の間で白く美しい肌(美白)への関心が高まっており,化粧品産業だけでなく医薬品産業や食品産業においてもしみやそばかすの改善効果もしくは予防効果を有した製品の開発に力が入れられている。我々は,メラニン産生抑制作用すなわち美白作用をもつ新規の化合物の探索を行い,その作用機構の解明を目的とした研究を実施した。

−地域の食資源から抗酸化作用と生理機能の探索− ガマズミ果実の抗酸化作用と糖尿病予防効果

岩井 邦久

現在,高齢化の進行とともに生活習慣病の減少しないことが医療費の増大を引き起こし,社会的な問題となっている。生活習慣病には食生活の乱れ,運動不足,休養の不足や極度のストレスなど,ライフスタイルそのものが関わっている。そのため,適切な食生活による一次予防の重要性が主張されるとともに,平成20年4月から始まった特定健診制度は,治療から予防へのシフトを進め医療費圧縮を図る国の施策の一環となっている。また,食物が有する3つの機能の中で生体調節機能,即ち三次機能に注目が集まり,食による生活習慣病の一次予防に役立てようという研究や製品開発が盛んに行われている。

ムラサキ芋抽出物による神経細胞保護作用

佐々木 一憲 、韓 畯奎 、礒田 博子、田丸 保夫、脇之薗 勝

種子島ムラサキ芋(品種名:ムラサキマサリ;図1)は,濃赤紫の皮色,紡錘形の形状を特徴とする品種として鹿児島地域特に種子島地域で多く栽培されている。その肉色は鮮やかな紫でアントシアニン色素の含有量が多いことがよく知られている。ムラサキ芋は青果用には適しないため,主にパウダー,ペースト,アントシアニン色素利用などの加工用に使われている。
 一方,カフェオイルキナ酸 (Caffeoylquinic acid,CQA)は,コーヒー豆から初めて単離された成分である。コーヒー豆の他に,サツマイモ,プロポリス等に多く含まれて成分である。CQAはコーヒー酸のカルボキシル基がキナ酸のヒドロキシル基とエステル結合した構造を持つ化合物であり,カフェオイル基の数や位置に応じて,5-CQA(クロロゲン酸),3,4-di-CQA,3,5-di-CQA,4,5-di-CQA,3,4,5-tri-CQA等のCQA類縁体が存在し,分類されている(図2)1-3)。CQAの生理活性作用に関しては,抗酸化,抗腫瘍,抗高血糖,抗炎症,抗突然変異作用などが報告されている4-6)。

チュニジア産オリーブ葉抽出物のヒト白血病細胞分化誘導作用

中崎 瑛里、韓 畯奎、礒田 博子

オリーブ(Olea europaea)は,モクセイ科の常緑樹であり,その野生種は地中海沿岸からアフリカ北岸一帯に自生している。古くから,オリーブの実やその油,さらに葉は,栄養学的,薬学的,儀式的に幅広く利用されてきた1)。さらに,オリーブは地中海地域において重要な産業作物であり,その地域だけで,全世界の約98%もの生産量を誇っており2),経済的,栄養学的にその地域の人々に与える影響は大きい3)。その地域での伝統的な地中海式食事法は,野菜や果物,それに穀物など植物性食品の豊富な摂取,オリーブオイルやオリーブ製品の日常的な使用が特徴として挙げられる。その食事法によって,健康増進だけでなく,地中海地域での循環器疾患や大腸がん,乳がん,皮膚がんの発症率が他の地域に比べて低いことが疫学的に証明され,その主な要因として,オリーブオイル独特な味や香り物質であるいくつかの微量成分やオレイン酸などの不飽和脂肪酸が影響していると考えられている4)。

食用藍藻:スイゼンジノリ,イシクラゲ,および髪菜の生理機能

竹中 裕行、山口 裕司

大伴家持が詠んだ「雄神川 紅匂ふ娘子らし 葦附とると 瀬に立たすらし」(万葉集 巻17.4021)。葦附は藍藻のアシツキノリ(Nostoc verrucosum)で,万葉の時代から藍藻は食べられていたようだ。
 現在,日本国内で入手することができる食用藍藻は,スイゼンジノリ(Aphanothece sacrum),イシクラゲ(Nostoc commune),そして髪菜(Nostoc flagelliforme)の3種がある。イシクラゲと髪菜は,アシツキノリと同じネンジュモ科(Nostocaceae)ネンジュモ属(Nostoc属)である。これら食用藍藻は古くから食べられてきた。食用藍藻として最も有名なのはスピルリナ(Spirulina platensis, S. maxima)であろうが,スピルリナはサプリメントや食品添加物として利用されているものの食材としての利用は今のところない。

乳酸菌SB88によるアルコール性肝障害抑制作用

瀬川 修一

今から約5000年前に,古代メソポタミアでビールの原型になるものが作られたという記録があるように,酒は人類誕生以来人間と深い関わりを保ってきた。酒は各種の農産物から酵母によるアルコール発酵により作られるため,それぞれの地域の気候・風土に応じたさまざまなアルコール飲料が長い人類の歴史の中で開発されてきた。さらに, 酒は「酔い」という神秘的な力を持っているため,宗教,祭事などと密接なかかわりを持ち,社会生活にあっては人生儀礼,社会儀礼として切り離せない媒体として用いられ,独特な飲酒文化が創出されてきた。
 しかしながら,現代のような日常飲酒の時代では,酒はいつどこでも安価に手に入ることができるようになった。その結果として飲酒量の増大に伴うアルコール中毒,肝機能障害などの健康上の弊害といった問題が浮上してきている。

米澱粉系新規高機能性食品素材および添加剤の開発

藤田 直子、阿久澤さゆり

澱粉は,植物があらゆる組織に蓄える炭水化物であり,地球上の全ての生物の生存の基盤となる物質である。植物の澱粉は,葉などのソース組織に蓄積する同化澱粉と,貯蔵組織に蓄積する貯蔵澱粉に大別されるが,我々が食品,加工品,工業品等として利用しているのは,胚乳,塊茎,根茎,子葉等に大量に蓄積する貯蔵澱粉である。エネルギー不足,炭酸ガスによる地球温暖化などの環境問題,我が国における食糧自給率の低下,食の安全性,人口増加にともなう地球レベルの食料不足などの食糧問題等の解決が急務である現在,植物が生産するこの有用な物質を,より有効に使っていくことが益々望まれている。

抗炎症作用を有する未利用資源穀類外皮由来の難消化性多糖類

江頭 祐嘉合

食品素材を開発した場合,何らか機能性評価を行う。その中の1つに抗炎症に関する評価がある。炎症は,ガン,生活習慣病,肝炎など様々な疾病に関与している。当研究室では,マウスRAW264.7マクロファージ様細胞や動物(マウス,ラット)に薬剤で炎症を誘発し,これを用いて食品成分の抗炎症作用を評価してきた(図1)。動物を用いた急性肝炎モデルの評価系もこれに含まれる。そこで本稿では,筆者らが手掛けている,通常廃棄される穀類外皮(未利用資源)から機能性が期待できる水溶性の難消化性多糖類の調製とその食品素材としての機能性(抗炎症作用)に関して概説する。

重金属の野菜中への蓄積量の予測手法 -安心・安全な野菜とは-

庄司 良、長田 拓哉 、田中 優也

アフリカ各国では,外貨獲得手段として鉱業が盛んである。主に,プラチナ,コバルト,ダイヤモンド,クロム,マンガン,金,ウラン,ポーキサイト,ニッケル,銅鉄鋼,亜鉛,スズ,鉛などが採鉱される1)。2005年度にアフリカで採鉱された鉱量を表1に示した。アフリカ地域では,マンガン,クロム,銅の採鉱によって生じた排水を適切な処理なく放置もしく河川へ放流することにより河川が汚染される。河川が汚染されると河川流域の土壌が重金属を吸収するため,アフリカのように鉱業が盛んな地域では土壌中の重金属が高濃度で蓄積する。
 河川流域における重金属の土壌汚染問題は過去に日本でも起きた。足尾銅山鉱毒事件は銅採鉱によって生じた排水を適切な処理を行わなかったため,銅が河川に流出し,河川流域の土壌に重金属が吸収されたので,土壌周辺の生物が死滅し,100年以上たった現在でさえ足尾銅山付近の土壌中に銅が多量に蓄積している。足尾銅山鉱毒事件のように重金属による土壌汚染は近隣の環境に大きな影響を与えている2)。

築地市場の魚たち

山田 和彦

東京の夏の暑さは,強烈である。沖縄よりよほど暑い。林立するビルやアスファルトの道路などによってヒートアイランド現象が起きているという。築地市場は隅田川の川面に面しているが,防波堤で遮られているためか,銀座辺りと比べても,それほど涼しくはない。そんな暑い所で生鮮魚貝類を扱うのだから空調設備が整って,涼しい場所で売られていると思いがちである。ところが,一部のせり場や事務所を除いて,築地市場内は外気そのままである。なぜか。それは大量の氷が使われているからである。場内には何箇所にも製氷所がある。そこから随時,仲卸店舗まで氷が運ばれる。冬でも氷は欠かせないが,暑い時期ともなると製氷所はフル回転である。魚市場の人たちは,汗だくになって働いているが,魚の方は適温で鮮度が維持されているのである。ちなみに,同じ築地市場内であっても,青果の売り場はエアコンが効いている。野菜には氷を当てることができないためである。暑い時期には食欲も落ちがちである。しかし魚の中には,寒い時期の産卵に備えて,今のうちに餌をたくさん食べて,栄養を蓄えているものがある。夏に美味しく,またさっぱりとしたスズキを紹介する。

“薬膳”の知恵(48)

荒 勝俊

中医学における美容の目的は“健康美”を達成することだと述べている。中医学は,《すべての物質は陰陽二つの気が相互作用し,表裏一体で構成されている》と考える“陰陽学説)と,《宇宙に存在する全ての事象は“木・火・土・金・水”と呼ばれる五つの基本物質から成り,その相互関係により新しい現象が起こる》と考える“五行学説”に基づいた独自の整体観から構成されている。即ち,人体も自然界の小宇宙として“陰”と“陽”が存在し,常に相互作用しバランスを保ちながら生命活動を営んでいるが,陰陽のバランスが崩れる事で体表に現れる美容上の変化は身体内部の状態を反映している。中医学では人体を一つの有機的統一体と考え,人体の構成要素である気・血・津液の状態をこれまで延べてきた診断法にて診断し,そのバランスを改善させる事でその人が本来もっている臓器の機能を回復させ,身体の内部を整え,新陳代謝を改善し,肌により多くの栄養を供給する事で,健康美を獲得できると考えている。