New Food Industry 2010年 6月号
レオメーターを用いた粘性液体食品の新しいレオロジー評価の可能性
朝田 仁 、鈴木 寛一
たれ・ソースなどの粘性液体食品は,惣菜・中食産業の発展に伴って様々なレオロジー特性が要求されてきており1),この要求を満たすために,たれ・ソースのみかけ粘度は1.0 Pa・s以上に高粘度化してきている。そこで問題になるのが,これらの粘性,レオロジー特性管理である。
たれ・ソースの製造工業における製品の粘性管理値には,測定の操作性と汎用性の点から単一円筒回転粘度計によるみかけ粘度を用いる場合がほとんどである。しかしながら,レオロジー特性が多様化,広範囲化してくると,回転粘度計ではローターの種類,回転数などの測定条件を同一にして測定するには不都合が生じる。即ち,回転粘度計では,測定条件が統一できないために非ニュートン流動体の高粘性液体食品の粘性管理が困難になっている。そこで,食品工場の現場では,回転粘度計に代わる新しい操作性,汎用性の高いレオロジー特性の評価法が必要とされてきている。
超臨界二酸化炭素を用いたホタテガイ内蔵からのEPAおよびDHAエチルの精製
齊藤 貴之
青森県におけるホタテガイの生産量は,年間約10万トンにも及び1),その95 %以上が養殖である。また,出荷されるホタテガイの約80 %以上が加工品である。加工品として出荷される部分は貝柱であり,それ以外の貝殻などはすべて廃棄物となる。ホタテガイ生産量の半分が貝殻として廃棄され,内蔵系廃棄物は約2万トンである。よって,ホタテガイ生産量の約70 %が廃棄物となるため,その処理は大きな問題となっている。
ホタテガイの内蔵の中で,エラや外套膜は食べられることから,それほど処理に困らない。一方で,中腸腺(ウロと呼ばれる緑色の部分)は,イタイイタイ病の原因物質であるカドミウム(Cd)を高濃度(乾燥重量当り10~40 ppm)に蓄積しているため,食べるどころかそのまま廃棄することもできない。中腸腺は,かつて,海洋投棄もされていたが,国際条約の批准に伴い,投棄が禁止され全て焼却処分されている。現在,ホタテガイの生産額約100億円に対して,中腸腺の処理費用は約1億円となっており,この分だけ利益を押し下げている。
バイオブラン(米ぬかアラビノキシラン)の機能性 -樹状細胞成熟促進作用を中心に-
加藤 久宜、三原 早紀子
1970年代前半に始まった樹状細胞の研究からこれまでに多くの知見が得られ,その免疫調整に関与する細胞としての期待も大きい。
一方で,免疫調整機能を有するバイオブラン(米ぬかアラビノキシラン)が樹状細胞の成熟を促進することが明らかになった。本稿ではバイオブランの機能と樹状細胞への働きかけについて最近の研究を紹介し,バイオブランの免疫調整作用と樹状細胞の関連性を考察した。
魚類由来コラーゲン関連物質による機能性材料の創製
飯島 道弘、梶塚 綾乃
人々の美や健康への追求は古くから続いており,現在でも美しさや健康,若さを判断する基準として肌の張りや色などを利用している。このような背景から,「コラーゲン」について大部分の人が関心を持っており,皮膚や身体に良いものと曖昧に感じている。
コラーゲンは,日本では古くから膠原質(こうげんしつ)として知られており,膠(にかわ)の原料として使用されていた。最近では化粧品,医薬品,サプリメントなど様々な用途で利用されている。コラーゲンは,生体組織に含まれるヒアルロン酸,キチン・キトサン,エラスチン,ケラチンなどと同じ高分子化合物であり,注目を集めている物質のひとつである。
50歳以上の朝食における低塩・高カリウムの必要性
田形 睆作
高血圧は日本人に最も多い病気です。ほとんど自覚症状がないため「サイレントキラー」といわれ,知らないうちに命を奪ってしまう危険な病気です。しかし,食生活を始めとする生活習慣の改善によって,高血圧を予防し改善することは可能です。4月号1)では食と高血圧との関係を探り,毎日の食生活において食塩摂取量を低減し,カリウムの摂取量を増やすことを提案した。また,「低塩にすると塩味が不足し,おいしくない」という一般的な不満を焼津水産化学工業の『ソルケア低塩しお,しょうゆ』の使用でおいしく,さらに,低塩で高カリウム摂取が可能になることを述べた。本報告では50歳以上の朝食にスポットをあて,低塩・高カリウムの必要性を述べる。
“葉酸欠乏”が原因となって生ずる疾患群
大井 静雄、木下 果倫
2008年5月16日のNHK総合ニュースでの国内トップニュースとして,私共の体重599gの世界最低体重新生児二分脊椎手術が報じられた。
このニュースには,日本の新生児管理や新生児手術の医療技術が優れていることを示唆する以上に重要なことが隠されている。すなわち,本邦では,ヒトの健康管理の原点である“食育”による疾病予防対策が,なおざりにされてきた。そして,ファーストフードやダイエットの過剰なブームによって,“葉酸欠乏”の重篤な事態を招いている。先進諸国は,これに逸速く行政レベルで対応した。本邦においても,医療技術向上の支援以上に最優先して,行政レベルでの“食育”による先天性重症奇形の発生予防に積極的に取り組まれねばならない。
本総説では,21世紀10年目の今日,日本が直面する“葉酸欠乏”による重症先天奇形の現状を示しつつ,そこに直結する疾患群の先進諸国の予防対策とその効果につき解説する。
築地市場の魚たち
山田 和彦
築地市場には全国各地のみならず,外国からも水産物が入荷する。その多くはトラックで運ばれてくるので,夕方から明け方にかけては魚を満載した大型の保冷トラックがひっきりなしに出入りする。しかし,かつて魚の搬入は,船が主役であった。築地市場は隅田川の河口に面していて,そこには川に向かってたくさんの桟橋が突き出ていた。魚河岸の所以であろうか。現在では岸壁に接岸し,築地市場に直接魚を水揚げする船は少ない。そんな船の中に伊豆諸島からの水産物を運ぶ船がある。春の終わりから夏の初めにかけては,島周りの新鮮な魚の中でもトビウオ類が目に付くようになる。もう夏は目の前である。今回はトビウオを紹介する。
“薬膳”の知恵(47)
荒 勝俊
中医学は,《すべての物質は陰陽二つの気が相互作用し,表裏一体で構成されている》と考える(陰陽学説)と,《宇宙に存在する全ての事象は“木・火・土・金・水”と呼ばれる五つの基本物質から成り,その相互関係により新しい現象が起こる》と考える(五行学説)に基づいた独自の整体観から構成されている。即ち,人体も自然界の小宇宙として“陰”と“陽”が存在し,常に相互作用しバランスを保ちながら生命活動を営んでいるが,陰陽のバランスが崩れると不調が現れたり,病気になったりする。そこで,人体を一つの有機的統一体と考えて人体の構成要素である気・血・津液の状態を診て,そのバランスを改善させる事でその人が本来もっている臓器の機能を回復させるのを目的としている。例えば,気(生命エネルギー)の流れる道筋(経絡)は人体に主用なものとして14本あり,それぞれが五臓六腑と密接に関連しており,そのバランスが崩れると関連する経絡上の経穴に強い反応が現れる。
春の薬膳料理
孫 国 鳳
春に吹く風は強く,また,乾燥している場合が多いことから様々な病気を引き起こす季節でもある。特に高年齢の者は病気にかかり易くなっている。薬膳の世界では,乾燥は温乾燥と寒乾燥に分けて考えている。したがって,薬膳料理に関しても温乾燥と寒乾燥によって生じる症状に応じた薬膳による食物治療が必要となる。
患者の特徴としては,咳が出やすく口内は乾燥気味となる。一方,痰は少ないが,痰の中にときどき血が混ざるときがある。また,胸が痛むこともあり,その上,鼻づまり,頭痛および悪寒を感じ,体温は高い傾向が続く。このような症状がみられる患者は以下のような薬膳を食用するのが良い。