New Food Industry 2010年 5月号
天然機能性高分子素材としてのDNAとその活用
江成 宏之
(社)漁業情報サービスセンター(JAFIC)の調べによれば,サケ類の日本国内総供給量は輸入分も合わせ約51万トンに達するが,これは乳幼児まで含めた全国民一人あたりに換算すると,およそ4kg,即ち大型のサケ1匹分に相当し,如何に我々日本人にとって馴染み深い魚かが分かる。また,サケ消費量ランキング上位の青森県,新潟県,岩手県,北海道を中心に,塩蔵(山漬け,新巻)や燻製を始め,軟骨,内臓に至るまで,様々な加工法により調理された伝統的な料理が数多く存在する等,魚介類の中でもサケは非常に人気が高い食材の一つである。一方,サケはその美味しさだけではなく栄養バランスに優れ,タンパク質は勿論,脂質の中には生活習慣病に予防効果のあるn-3系のDHA(ドコサヘキサエン酸)とEPA(エイコサペンタエン酸)が多く含まれる事が知られている。さらに,万病の元といわれる活性酸素を消去する働きがあるサーモンピンクの色素「アスタキサンチン」や,前稿1)で紹介した「アンセリン」,体調を整える各種ビタミン,ミネラル等も豊富で,こういった要素もサケが古くから食されてきた所以と考えている。
未利用部位「サケの頭」を利用した高齢者用ゲル状食品“煮こごり”の実用化に向けて
永塚 規衣、長尾 慶子
冬期,ひらめやまこがれい,ぶりなどの魚を甘辛く煮込み,容器ごと翌朝までおいておくと,魚の煮汁がゼリー化し,いわゆる“煮こごり”ができる。これは加熱により魚の中のコラーゲンがゼラチン化し,ゲル化したもので,そのまま温めずに食した場合,ゲルは口の中で自然に溶け,煮汁中のうま味成分と共にその滑らかなテクスチャーを楽しむことができる。これまで “煮こごり”は周囲を海に囲まれた日本の各地で昔から食されてきた伝統料理であり,熱い飯にかけたり,来客時のもてなし料理としたり,忙しいときの保存食とするなどその土地ごとで様々な食べ方が伝承されてきた1~4)。その動物の硬たんぱく質から抽出された “煮こごり”には,加熱により低分子化した幅広い分子量分布のたんぱく質が存在している。そのため,今日の高齢社会において,“煮こごり”は吸収特性の優れたたんぱく質給源や水分補給源としてだけでなく,健康機能面からも高齢者や咀嚼嚥下困難者に適した食べ物として見直されつつある料理である。
海苔に含まれる新しい抗酸化成分
豊﨑 俊幸
海苔は日本の食文化を代表する食品であり,平素の食卓にはなくてはならない食品として日本人に深く浸透している。海苔を栄養学的に捉えた場合,タンパク質,脂質を中心にミネラルあるいはビタミン類等を多く含む多成分系であることから,食品化学分野の立場から見るとほぼ完璧に近い食品である。例えば,ミネラルに関しては,カルシウムの含有率が,牛乳に比較して約8倍含んでいる。また,β-カロテンは人参に匹敵するレベルの含有率を有している。ビタミンB12や葉酸の含有率もほうれん草に比較して約2倍量含んでいる。また,食物繊維の含有率は40%以上である。脂肪酸に関してはイコサペンタエン酸(EPA)が約50%含まれている。さらには,タウリンの含有率も1〜2%であり,海苔1枚当たり30〜36 mgを含んでいることになる。
山菜のシドケ(モミジガサ)に含まれる機能性物質の癌細胞に対する作用
木村 賢一
1981年(昭和56年)に日本人の死因の第1位が癌になってからもうすぐ30年になるが,それは揺るぎのないものとして国民全体を不安に陥れている。しかし,わずか70年前に目を向ければ,死因の第1位から第3位までが細菌による感染症(肺炎,気管支炎,結核,胃腸炎)であったものが,カビや放線菌などの微生物天然資源から抗生物質(ペニシリンやストレプトマシシン)が発見されて実用化に至ったノーベル賞の研究により激減した1, 2)。また,現在の死因の第2位が心臓病,第3位が脳卒中であるが,それらについても,ノーベル賞候補と言われている我が国の遠藤章先生(バイオファーム研究所長)によるカビからのスタチンの発見と実用化により2〜4),動脈硬化の予防や治療に結びつき人類の寿命の伸びに大きく貢献し始めている。
ノロウイルス食中毒の起因なる原因食材ついて
西尾 治、菊地 正悟
ノロウイルスが1997年に食中毒病因物質に加えられたのは,当時カキによる食中毒事件が多発したことによる。カキはノロウイルス食中毒の元凶のごとく言われてきた。後述するが,ノロウイルスはカキが本来持っているものではなく,ヒトが水環境にノロウイルスを放出することにより,カキがノロウイルスに汚染される。言わばカキは被害を受けていると言える。近年カキによる食中毒事件は激減する一方,ノロウイルス感染者の手を介して食品,調理器具が汚染される,食中毒事件が多発している。ノロウイルスによる食中毒と感染症は表裏一体であり,両面からの予防対策が必要である。
築地市場の魚たち
山田 和彦
使い古され,なかにはもう耳にたこができた,とおっしゃる方もいるかもしれない。とはいえ,この時期となれば,やはり…
目には青葉 山時鳥 初鰹
隅田川沿いの遊歩道の木々も新緑に燃え,色とりどりのツツジが満開である。現在の築地ではホトトギスの声を聞くことはできないが,日差しはもう夏の日差しである。気分的にも何か新鮮なものを求めたくなるのは,日本人としていつの時代も変わらないのかもしれない。江戸時代,競って初鰹を求めたというのも納得できる。今回はカツオを紹介する。
“薬膳”の知恵(46)
荒 勝俊
中医学は,中国古代哲学の基礎概念である《すべての物質は陰陽二つの気が相互作用し,表裏一体で構成されている》と考える(陰陽学説)と,《宇宙に存在する全ての事象は“木・火・土・金・水”と呼ばれる五つの基本物質から成り,その相互関係により新しい現象が起こる》と考える(五行学説)二つの学説から構成されている。即ち,人体も自然界の一部として“陰”と“陽”が存在し,常に相互作用しバランスを保ちながら生命活動を営んでいるが,陰陽のバランスが失われると不調が現れたり,病気になったりする。この様に,中医学では人体を一つの有機的統一体と考えており,局所における変化は全身に影響を及ぼし,内臓の変化は五官,四肢,体表などに変化を及ぼす。
シンガポールのKAYA(カヤジャム)~「アジアの力特集」(伊勢丹新宿店本館地下1階)から~
深澤 朋子
フォー,パッタイ,ナシゴレン。昨今ますます日本人にとって近しい存在になってきた東南アジア料理の数々。味付けや仕上げは国ごとに異なるが,素材や調理法など,日本の食文化と相通ずる部分が多いことも人気の理由かもしれない。また,料理と比べるとまだ馴染みの薄い菓子の分野においても,実は日本の菓子と相通ずる面があり,東南アジアの菓子の主原料は,和菓子と同じ米・豆(小豆)・砂糖・卵。それらをベースに,現地で収穫されるハーブやスパイスなどで個性を出し,ココナッツの豊な甘みによって南国ならではの雰囲気を醸し出している。そうした美味が生まれた背景を紐解くと,見えてくるのはさまざまな地域の菓子文化を吸収し昇華してきた融合の歴史である。