New Food Industry 2010年 3月号

マイクロフローラ解析によるアドバンスドサニタリーシステムの開発

関根 正裕

食品偽装,毒物混入,食中毒など食への信頼を揺るがす事件が頻発し,食品の安全性に対する消費者の目が一層の厳しさを増した現在,食品製造業者は安全衛生面における品質確保を何よりも最優先としなければならない。食品製造における一般的な衛生管理では,抜き取り試験によって製品の一般生菌数や大腸菌群数を調べ,製品の安全性を確認する1)。もし許容限度を超える菌数が検出された場合,製造工程中の汚染箇所を探し出し清掃浄化することで食中毒事故を未然に防止する。しかし,汚染源を特定し完全に浄化が確認されるまでは生産を休止せざるを得ず,相当額の損害を避け得ない。また,抜き取り検査だけでは散発的に発生する微生物汚染を防ぐのは難しく,流通期間の短い日配食品の場合,検査結果が判明する前に汚染された食品が消費者に渡る危険もある。そのため,現在はこれらの課題に対応できる衛生管理システムHACCPの普及が進んでいる。

GABA茶の抗ストレス効果機能

陽東 藍、横越 英彦

高ストレス社会と言われる現代,食生活による各生活習慣病の予防や気分の改善効果への要求が高まっている。今回は,日本人の日常食生活になじみ深い茶飲料の摂取によるヒトの生体反応の変化に注目した。
 茶は,平安時代の初期に南宋から日本にもたらされ,「養生之仙薬」(薬)として珍重された歴史を持つ。近年は,緑茶の効能が盛んに研究され,生活習慣病の予防をはじめ,抗菌作用や抗ウイルス作用が報告されている。緑茶特有アミノ酸であるテアニンは血圧低下作用,リラクゼーション効果(脳波α波の増加)などがあり,脳内ドーパミン放出促進作用の機構も解析されてきた。また,最近注目を浴びるようになった緑茶に含まれるGABAについては,血圧降下作用の他1),動物実験,ヒトボランティア試験で抗ストレス作用なども明らかにされつつある2〜5)。GABAとは,植物や動物,ヒトの体内に広く存在する天然アミノ酸のひとつGamma-Amino Butyric Acid(γ-アミノ酪酸)の略で,主に抑制性の神経伝達物質として機能している物質である。分子式はC4H9NO2,構造は図1で示す。

PropolisAgaricus blazei Murrillの単独並びに併用投与による抗がん作用と放射線防護効果の研究

具 然和

放射線は,様々な領域で利用されている。その反面,放射線が人体に対して影響を与えることも明らかとされている。放射線による影響は直接作用(DNAの2重螺旋の切断)と間接作用(フリーラジカルの発生による細胞の損傷)がある。放射線被曝は大きく2つに大別される。1つは,自然放射線(2.4mSv/年)ともう1つは人工放射線である。これらの放射線の中で感受性が最も高いのが,生殖器官と造血組織である。造血組織が放射線影響を受けると免疫能力の低下により,細菌やウイルスによる感染症にかかることが懸念される。ここでPropolisAgaricus blazei Murrillは,自然食材である。これらは,共に高い抗腫瘍効果が認められている。このため,癌治療に用いられている。癌治療は,主に放射線治療,化学療法,外科療法等治療法を単独および併用して行われており,本研究で用いる試料との併用もこの先考えられる。

第7回「国産ナチュラルチーズコンテスト」から 〜日本食文化との融合〜

深澤 朋子、吉村  薫

わが国のナチュラルチーズの消費量は,食の洋風化,ワイン・外国料理ブームを背景として着実に伸びてきた。特に国産ナチュラルチーズの消費量はここ数年で飛躍的に増加している。しかしながら,消費全体を見れば依然として輸入ナチュラルチーズに負うところが大きいとともに,順調に拡大してきたチーズ消費量そのものも,国内外の景気等の経済事情に大きく影響を受けていることも事実である。チーズ消費の広がりとその消費の形態はまだまだ限定的であり,完全に日本にチーズの食文化が根付き,定着しているとは言えないのが現状である。
 一方,日本の生乳は世界でもトップレベルの品質に達しており,最近ではこの高品質の生乳を原料に,地場の気候風土に育まれた,個性豊かな味わい深いナチュラルチーズが各地で生産されている。実際に,ここ数年で国内のナチュラルチーズ製造施設は増えており,国産ナチュラルチーズは多くの可能性を秘めているといっても過言ではない。

蕎麦研究の最近の動向

池田 清和、池田 小夜子

筆者は,重要な食糧である蕎麦について,健康にかかわる特性(栄養特性)や,嗜好にかかわる特性(嗜好特性)などについて永年研究を行って来ている。また同じく筆者の池田小夜子は,蕎麦に含まれるミネラルについて食品栄養学的特性などについて研究して来ている。筆者らは,以前に本誌に蕎麦に関する論説を幾度か1-6)書く機会を与えて頂いた。この度この雑誌に記事を書く機会を重ねて与えて頂いたので,本稿では,「蕎麦研究の最近の動向」と題して以前の記事とは異なる視点から述べたい。前回の記事に書いた内容で全体の流れから重ねて記述した方が良いと思われる事については重複して述べた。

伝える心・伝えられたもの — 加賀藩下屋敷を訪ねて —

宮尾 茂雄

東京家政大学の食品加工研究室に通うようになってまもなく2年になる。管理栄養士専攻の学生は国家試験を控えているせいか,1年生の時からみんな熱心に勉学に励んでおり,講義,実習に追われる毎日である。90分の講義のためには,その倍以上の準備が必要であり,また実習終了後は,百名以上のレポートの採点が待っていて,息つく暇もない。卒論生のテーマ選びも,家政学の特徴を生かしつつ,発酵にも興味を持ってほしいと思い,自分の研究テーマを考えるよりもずっと頭を悩ませている。大学は板橋区加賀町にある。加賀という地名からもわかるとおり,江戸時代には加賀藩下屋敷があったと聞いていたが,どのあたりにあったのか,興味はあるものの知る機会もなく時が過ぎた。

築地市場の魚たち

山田 和彦

3月ともなると寒さもいくらか和らいで,春の兆しが見えてくる。冬の間,場内にはカモメ達がおこぼれをあずかりにやってくる。その中でも特に賑やかなのが,ユリカモメである。小ぶりで白っぽく,見た目はかわいらしい。ところが,声はギャーギャーとやかましい。そんなユリカモメたちも,シベリアにある繁殖地へ旅立つ季節である。南北に長い日本列島。北国は,まだ雪景色の中であるが,南からは春の便りが届いてくる。築地市場に入荷する魚も,冬の間は少なめであるが,春の訪れとともに徐々に増えてくる。春の魚,今回はメバルを紹介する。

“薬膳”の知恵(44)

荒 勝俊

“薬膳”とは中医学に基づき健康管理や病気治療のために食材の持つ様々な機能を組み合わせて作った食養生のことである。中医学には“薬食同源”という考え方があり,健康管理や病気治療のために大切な手法のひとつと考えられている。こうした食材の持つ潜在能力を最大限発揮させる為には,食材の働きを把握し,季節,体調を考えて,組み合わせを工夫することが基本となる。即ち,現在の自分の身体の状態を知り,身体が望む最適な食材を選び料理する事が薬膳料理の基本であり,こうした体の状態を診断する診断法を知る事が重要となる。