New Food Industry 2010年 2月号

クマザサ抽出液(ササヘルス)の抗炎症作用に基づく口腔環境改善効果の可能性

坂上 宏、周 麗、河野 みち代、メイ・モウ・テツ、長谷川 秀夫、田中 庄二、町野 守、天野 滋、黒下 礼奈、渡部 茂、金本 大成、寺久保 繁美、中島 秀喜、関根 圭輔、白瀧 義明、植沢 芳広、毛利 公則、儲 慶、王 勤濤、北嶋 まどか、大泉 浩史、大泉 高明

ササヘルス(SE)は,イネ科の植物であるクマザサ属クマイザサ(学名Sasa senanensis Rehder)またはその他近縁植物のクマザサ属(Sasa albo-marginata Makino et Shibata)の葉より,樹脂分を除去した後,希水酸化ナトリウム溶液にて加熱加水分解した液を,中和して得られた抽出液である。SEの成分分析,細胞傷害活性,腫瘍選択性,抗腐食作用,抗菌作用,膜安定化作用,抗炎症作用,ラジカル消去活性に関する研究成果を報告してきた1-5)。その過程で,SEの二つの際だった特徴が明らかになった。

マカとマチョの投与による雌雄マウスの催淫性および受胎率の効果

具 然和

近年,社会において女性の進出がめざましくなり,それと同時に晩婚化や高齢出産が増加傾向にある。また,高齢化の時代に入り更年期障害やストレスからくる若年性更年期障害が注目されるようになってきた。そこで,我々はこれらの治療に対して現在臨床の現場で盛んに行われているホルモン補充療法のひとつとして,ペルーの民間療法薬二種類,マカLepidium meyenii Walp;以下(LW)とマチョJatropha macrantha(JM)を用いて研究を行った。LWを雌雄マウスに用いて血中エストラジオール-17β,プロゲステロン,テストステロンの変化を測定した。結果,血中エストラジオール-17βとプロゲステロンでは,LWとJM投与群が有意に上昇を示した。また,血中テストステロンでも,LWとJM投与群が有意に上昇を示した。LWとJM投与群においては性ホルモンの上昇に対してどちらにも促進的に働くことが示された。これらは,LWとJMの有効成分であるセスキテルペン,アルカロイド,ムイラプアミン,フォルバフェーネにより,体内の恒常性の亢進により,エストラジオール-17β,プロゲステロン,テストステロンが上昇したと考えられる。これらの結果より,臨床の現場でもこれらの天然物質の効果が十分期待できるものと考えられる。

ソフトスチーム技術を利用した高品位食品加工技術

関根 正裕

米近年,簡便化,低価格化から本物志向,高級志向まで,食に対する消費者志向は多極分散し,その変遷もめまぐるしい。このような状況の中,食品製造業は常に新しい技術を模索し,消費者ニーズに対応した製品づくりに努めなければならない。食品製造の基本である加熱調理技術においても,従来から行われてきた基本的な伝熱加熱に加え,電磁波加熱,超高圧加熱,過熱蒸気加熱などの新技術が次々に開発され実用化されている。しかし,加熱調理の手段で最も基本的なものはやはり,「焼く」,「揚げる」,「煮る」,「蒸す」などの伝熱加熱である。これらは,それぞれ空気,油,水,蒸気を媒体として熱を伝達するが,いずれも100℃以上で使用されるため,食材自体が加熱されるのは100℃である。この温度における加熱調理は人類が火を使い初めてから今日まで長年受け継がれてきた文化のひとつとも言え,機械化の進んだ現代の食品工場でも100℃の加熱が一般的である。

異種筋肉タンパク質を混合したゲル化食品の開発,特に熱安定性の異なる三種混合加熱ゲルのゲル形成に及ぼす鶏卵白の影響

舩津 保浩、 山澤 聡一郎、 北上 誠一

陸上に生息する動物と海洋に生息する動物(変温動物)では,生息環境が異なるため食肉製品や魚肉ねり製品を製造する際に重要な役割のある筋原線維タンパク質の熱安定性が異なると報じられている(図1)1, 2)。また,海洋に生息する動物でも,キハダのように25℃付近で生息する動物からスケトウダラのように4℃付近で生息する動物まで陸上動物に比べると生息温度範囲が広いことも知られている。陸上動物から食肉を製造する場合,食肉のテクスチャーが硬いため,冷蔵でしばらく熟成し,テクスチャーを軟らかくした後の製品が市場に出されるが,海洋動物では,一般的に筋原線維タンパク質の変性が速いため,漁獲後速やかに加工原料に処理されている。このため,陸上動物と海洋動物ではそれぞれ単独で別々に加工特性を改良することを目的とした研究が行われてきた。また,海洋動物でも魚種によりねり製品原料としての適性が異なることも知られている。すなわち,一般的に冷水性の魚種は坐りやすく,熱帯性,温水性および淡水魚は,坐りが遅いと報じられている3)。

ビールと健康

橋本 直樹

近年,先進諸国では酒の消費が全般的に停滞若しくは漸減している。その原因はいくつかあるが,大きいものは飲酒によって健康障害が起きるのではないかという懸念である。アルコール濃度の高い蒸留酒を飲む習慣がある北欧諸国では,蒸留酒の大量飲酒を自粛させるため販売広告の規制,健康危害の警告表示が早くから行われてきた。ビールはアルコール濃度が5%と低いのでこの規制外にあって順調に消費を伸ばしてきたが,最近の15年はビールの消費も欧米先進国では漸減し始め,我が国でも同様である。我が国のビール消費量が最も多かったのは1994年の719万kLで,容量で比較すれば全酒類の73%を占めていたが,それ以降は消費が低迷しつづけ,2008年には発泡酒,第3のビールを含めても611万kLに減少している。
 消費者の食に対する安全性意識と健康志向が急速に高まる中で,酒類もその対象外ではない。宝酒造社が酒を飲む男性ビジネスマン,600人を調査したところ,半数以上の人が酒を飲むときに健康への影響を多少なりとも意識していると答えている。

築地市場の魚たち

山田 和彦

正月の間は,築地市場も休みである。毎年12月31日から1月4日までは休市となっており,原則としてすべての業務が休みとなる。このため,ふだんは24時間開け放たれている各門は閉ざされ,場内は静まり返っている。
 1月5日。初荷,初セリの日。いつもの喧騒が築地に戻り,1年の始まりである。不景気な話題ばかりの昨今であるが,この日ばかりは景気の良い,ご祝儀相場となる。仲卸店舗のあちらこちらに,各地から出荷された荷に付けられていた初荷の札(細い竹の先に目立つ色で「初荷」と書かれた紙が付いている)が掲げられている。今年こそは,よい商売ができるように。誰もが願う一日である。
 関西では福にあやかって「ふく」と呼ばれるフグ。今回はその代表でもあるトラフグを紹介する。

“薬膳”の知恵(43)

荒 勝俊

“薬膳”は食材の持つ機能を中医学の理論に基づいて活用し,病気の予防や回復を助け,健康を維持するための料理のことである。“薬膳”の起源は中国王朝の周代にまで遡り,当時皇帝の食事を管理する“食医(宮廷医)”が,皇帝の健康管理や病気治療のために食材の持つ様々な機能を組み合わせて作った食事がその始まりと言われている。こうした食材の持つ潜在能力を最大限発揮させる為には,食材の働きを把握し,季節,体調を考えて,組み合わせを工夫することが基本となる。即ち,現在の自分の身体の状態を知り,身体が望む最適な食材を選び料理する事が薬膳料理の基本であり,こうした体の状態を診断する診断法を知る事が重要となる。