New Food Industry 2009年 9月号

L-シトルリンの生理機能

木崎 美穂

L-シトルリンは,平成19年に厚生労働省の通知により食品としての使用が可能となった。L-シトルリンは,米国では健康食品素材として使用されており,ヨーロッパではフランスでシトルリン-リンゴ酸塩が疲労軽減作用を持つOTC薬として1978年より30年間使用されてきた。
 L-シトルリンは食品ではスイカ中に多く含まれていることが知られている。特に熟したスイカ中の含有量は180㎎/100g(湿重量)である1)。部位により含有量が異なり,緑色の外皮に多く,種にはほとんど含まれないことを確認している2) (表1)。その他の動植物にもほぼ普遍的に含まれているが,その含有量は少ないことが知られている。L-シトルリンは体のタンパク質を構成するアミノ酸では無く,ヒトや動植物の生体内では主に遊離型で組織中に存在している1-7)。L-シトルリンは食物として動植物を摂取することにより生体内に取り込まれるほか,生体内でも生合成される8)。L-シトルリンは,生体内において,血管拡張作用を持つ一酸化窒素(NO)の産生に関わることやオルニチン回路の構成成分であることなどが知られている8)。

アミノ酸・シトルリンの働きと効果

遠藤 文夫

シトルリンは1930年に,日本人によってスイカから発見されたという歴史を有している。シトルリンという名前はスイカの学名Citrullus vulgaris(シトルラス ブルガリス)から名づけられたといわれている。このアミノ酸の構造は図1に示すように比較的大型で窒素が3個含まれている。また水に良く解ける。たんぱく質の合成に使用されることはない。しかし人体内には血液中など広く存在し代謝の面で重要な役割をはたしている。

持久的トレーニング期間中の魚肉ペプチドの摂取がラット骨格筋の筋タンパクおよび筋グリコーゲン含量に及ぼす影響

内藤 久士、関根 紀子、黒坂 光寿、柿木 亮

一般に,運動トレーニング期間中の栄養摂取の内容やタイミングなどは,トレーニングの効果に影響を及ぼす重要な要因の一つである1)。このような観点で,近年,運動やトレーニングに対するペプチド摂取の効果が着目されており,ペプチドの摂取によって,筋力の向上が得られたことなどがヒトを対象とした実験で報告されている2)。また,実験動物を用いた基礎研究では,大豆ペプチドの摂取がトレーニングに伴う筋損傷を抑制したり3),トレーニング期間中の大豆ペプチド組成のアミノ酸混合物の摂取が,筋重量の増加を高めるなどの効果4)をもたらすことが報告されている。しかしながら,ペプチドがなぜそのような効果をもたらすのかについては不明な点も多く,ペプチドの高い吸収率や,そのアミノ酸組成が筋タンパク合成に効果的に作用している可能性が示唆されている3,4)。

果物で骨粗鬆症を予防できるか~最近の研究から~

杉浦 実

我々果樹研究所では,ミカンの摂取がどのような生活習慣病の予防に役立つかを明らかにするため,国内有数のミカン産地である静岡県浜松市北区三ヶ日町の住民を対象にした栄養疫学調査(三ヶ日町研究)を平成15年度から行っている。この調査ではミカンに特徴的に多く含まれているカンキツ成分であるβ-クリプトキサンチンに着目し,血清中β-クリプトキサンチン濃度をミカン摂取のバイオマーカーとして様々な健康指標との関連について解析を行っている。これまでの横断的な検討から,血清β-クリプトキサンチン濃度が高い(ミカンをよく食べる)人達では,肝疾患や動脈硬化,インスリン抵抗性,メタボリックシンドローム等のリスクが有意に低いことを明らかにしてきた1-5)。また三ヶ日町研究では,骨密度調査についても平成17年度から開始しており,ミカンが骨粗しょう症の予防に有効かについても検討を行っている。
 本稿ではまず骨粗鬆症について説明し,果物と骨の健康について最近報告されている国内外の研究成果を紹介するとともに,三ヶ日町での調査結果について解説する。

食品に含まれる生体防御活性化物質

中村 宜督

今日,生活環境の変化に伴い様々なストレス要因が急増しているため,過剰の情報刺激やウイルスによってコンピューターなどの情報処理システムが破綻するのと同じように,核酸・蛋白質・脂質をはじめとした生体分子に対しても大きな歪みが生じ,それが糖尿病,動脈硬化,癌などの疾患を増悪化させ,また一方では老化を進行させていると考えられている。なかでも酸化ストレスは,直接的な病因として,或いは細胞内情報伝達の調節因子として,疾病の発症への密接な関与が示唆されている。その一方で,野菜や果物,穀類などの植物性食品の摂取は,がんをはじめ,虚血性心疾患,骨粗鬆症や様々な生活習慣病のリスク低減だけでなく,通常の健康状態に関しても寄与しているものと受入れられている。すなわち,抗酸化作用を有する食品成分の継続的な摂取が,酸化ストレスの,ひいては様々な疾患の予防に有効であると信じる研究者は多い。

食品トコトリエノールの新たな機能性について

柴田 央、仲川 清隆、宮澤 陽夫

ビタミンEは緑葉植物,海草類,甲殻類,魚類,高等植物,人など自然界に広く分布している。ビタミンEはクロマン環に側鎖が結合した両親媒性の化合物であり,飽和側鎖(フィチル側鎖)を有するトコフェロールと,不飽和側鎖(イソプレノイド側鎖)を持つトコトリエノールがある(図1)。それぞれ,クロマン環に結合するメチル基の数や位置の違いによって4種類の異性体(α-, β-, γ-, δ-トコフェロールおよびトコトリエノール)が存在する。植物のビタミンE生合成経路(図2)として,トコフェロール経路とトコトリエノール経路の2種類があり,いずれもホモゲンチジン酸がフィチルピロリン酸あるいはゲラニルゲラニルピロリン酸と縮合・環化してはじめにδ型トコトリエノールになり,次にメチル基が導入されてβおよびγ型へ,さらにメチル化されてα型に生合成されると考えられている1)。一方,動物におけるビタミンEの生合成(例えば,β-, γ-, δ-トコフェロールがメチル化されてα-トコフェロールになる,あるいはトコトリエノールからトコフェロールに変換される)は知られていない。最近,上記の8種類のビタミンE同族体に加えて,側鎖に二重結合を一つだけ持つ2種のα型ビタミンEが発見された2)(図3)。一つはα-トコモノエノールで,α-トコトリエノールの側鎖の二重結合が還元された代謝中間体だと考えられている。もう一つは,サケの卵など低温環境の海洋生物に見られるmarine-derived トコフェロールである。

植物系バイオ資源の基本構造と化学的性質

兎束 保之

人類からみて,持続的に供給が可能であると期待できるバイオ資源は,陸地産の植物系資源にほぼ限定される。中でも,特に利用しやすいのは四季を通じて入手できる森林の木質系資源である(3-3-4 参照)。木質系バイオ資源はどのような構成要素が,どのような組み合わせになって結合しているかを理解してこそ,有効な利用方法がはかられる。
 ここから先は,日本では俗に「亀の甲」といわれている化学構造式が入ってくる。「むずかしい」と頭から決め込んでしまえば厄介な代物(しろもの)であろう。だが,バイオ資源の性格を理解する程度に限定しておけば,クイズを楽しむような気安さで,話の筋を追ってゆける。緊張感を持たずに気楽に構え,自分の知識の幅が広がっていく過程を楽しんで欲しい。

連載 薬膳の知恵 (39)

荒 勝俊

“薬膳”を簡単に定義すると,健康を守るうえで「食材は病気になる前に体のバランスの崩れを正すための最高の予防薬(食養)」,「すべての食材には薬効があり,疾病の治療に有効(食療)」という二つの中医学の理論に基づいた考え方を核として,病気の予防・回復を助け,健康を維持するための食事の事である。そこで,薬膳に用いる食材の持つ潜在能力を最大限発揮させる為には,食材の働きを把握し,季節,体調を考えて,組み合わせを工夫することが基本となる。即ち,体の状態を知り,体が望む最適な食材を選ぶ事が薬膳料理の基本であり,こうした体の状態を診断する診断法を知る事が重要となる。

築地市場の魚たち

山田 和彦