New Food Industry 2009年7月号

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New Food Industry 2009年 7月号

リコピンの機能性 -最近の研究成果を中心に-

林 宏紀、稲熊 隆博

トマトに含まれる赤色の色素であるリコピンは,食品に含まれる代表的なカロテノイドの一種である。カロテノイドは,リコピンの他にニンジンに含まれるβ-カロテン,α-カロテン,赤ピーマンに含まれるカプサンチン,植物以外ではカニやエビの甲羅に含まれるアスタキサンチンやカンタキサンチン,ワカメに含まれるフコキサンチンなどがある。Burtonらが低酸素環境下でのカロテノイドの抗酸化作用を報告してから,低酸素環境下である生体内での抗酸化作用が期待され,研究されてきた1)。その後,リコピンは活性酸素の中でも一重項酸素の消去能が,他のカロテノイドに比べて高いことが判明した2)。
 近年,リコピンは抗酸化作用のみならず,免疫調節作用や骨代謝への影響といった生体調節作用も報告されており,食事から摂取できる重要な成分の1つとして知られている。本稿では,抗酸化作用,免疫調節作用,そして骨代謝に対する作用について最近の研究成果を中心に述べる。

乳酸菌バクテリオシンを用いた清酒の火落ち防止技術の開発

石山 洋平、田中 孝明、谷口 正之

清酒は原料処理,酒母,もろみ,製成,火入れおよび貯蔵工程を経て製造されている。この工程において,いわゆる「火落ち」と呼ばれる清酒の腐敗現象が深刻な問題となっている。火落ちを引き起こす微生物として,火落菌と呼ばれるLactobacillus属のエタノール耐性乳酸菌が知られている1-3)。火落菌による清酒の腐敗は,pHの低下,混濁,ジアセチルなどのオフフレーバーの発生を引き起こし,清酒の商品価値を著しく低下させる。この火落ちを防ぐために,ミクロフィルターによる濾過や「火入れ」とよばれる低温での加熱殺菌処理が行われている。しかし,それらの方法は清酒の風味の劣化を伴うばかりでなく,火落ちを完全に防ぐ手段とはなっていない。近年,微生物の管理技術が向上し,以前に比べて少なくなってきているとはいえ,現在でも火落ちは清酒の品質や風味を劣化させる深刻な問題となっている4,5)。したがって,火落菌による清酒腐敗を防止する新技術の開発は,清酒業界の重要な課題となっている。

GABAを高濃度に含む健康機能性米

赤間 一仁

過食,睡眠・運動不足などの誤った生活習慣や過度の喫煙・飲酒に起因する「生活習慣病」と言う言葉が用いられるようになってから10年以上も経過した。また最近では,動脈硬化症のリスクが高まる「メタボリックシンドローム(内蔵肥満症候群)」と言う言葉が国民の間に広く浸透している。しかし,これらの代表的な症状である高血圧症,肥満症,糖尿病,高脂血症などの患者数は増加の一途を辿っており,2006年の統計1)から,実に国民の二人に一人は患っている実態が見える(表1)。生活習慣病の特徴として,すぐには痛みを伴わないために,知らない間に症状が悪化し,気づいてみると脳梗塞や脳卒中などの重篤な疾病を引き起こし,取り返しのつかない事態に陥ることが多い。生活習慣病が原因で亡くなる日本人は総死亡者数の6割以上も占めており,国民の健康と生活の質 (QOL) を維持し,増え続ける医療費を抑えるためには抜本的な施策が求められている。

最近発生したフグによる食中毒事例

村上 りつ子、野口 玉雄

フグはその体内に猛毒を持つことは広く知られているにもかかわらず,古来より,多くの人に好んで食され,それに伴う食中毒の発生は後を絶たない。フグ毒による食中毒は,致死率が高く,不幸な結果も珍しくないことから,フグの取扱いについては,法的な規制措置がとられているものの,中毒の発生は防止しきれていない状況である。そこで,フグによる食中毒対策の一助とするため,ここでは,最近発生した事例をもとに,フグ毒およびそれによる食中毒について考えてみたい。

食品包装材の放射線照射

石居 昭夫

前回(本誌2009年1月号)は,食品に対する放射線の直接照射に関してFDAの規制と現況について説明いたしました。今回はその続編として食品に接触して照射される包装材(Food Packaging Material)の規制について概要を紹介いたします。
 FDAは,特定の食品に対する安全性を改善し,また,その寿命を延ばす手段として放射線の照射を認めています。食品に対する照射はまだ広く利用されているとはいえませんが,食品に存在する昆虫や寄生虫だけでなく,食品由来の病気や食品腐敗の原因となる微生物を退治する上で大きな成果をあげています。たとえば,イチゴは通常そのままで3〜5日間程度もちますが,照射したイチゴは3週間くらい腐敗しないで鮮度を保つことが知られています。

日本のバイオ資源需給状況

兎束 保之

本連載では,年毎に再生産が可能なバイオ資源を,高度に利用するのに必要な,科学的考え方へ理解を深めようとしている。
 江戸時代(1603年~1868年)の日本は,清国,朝鮮半島とオランダとの僅かな通商関係を除き,外国との貿易を禁止する鎖国政策をとっていた。したがって,人々の生活は,日本国内で年毎に生産できるバイオ資源を上手に再利用する“循環型社会”であった。
 ところが,江戸時代が終わって明治時代に入ると,開国(外国との間で物資と人の往来ができる状態)された。そこから150年足らずの間に,日本の人口は約4倍に膨れ上がり,“使い捨て”を潜在思想とした近代工業社会にどっぷりと浸かってしまった。その代償として,バイオ資源の大半を輸入に依存する社会構造になった。
 時代が進展し,21世紀はバイオ資源をはじめとして,全ての資源を循環利用する社会へと,再構築しなければならない。その出発点にあたり,現在の日本では,バイオ資源の需給状況がどのようになっているかを,理解しておきたい。

連載 薬膳の知恵 (37)

荒 勝俊

中医学の特徴は,人体を一つの有機的統一体とみなし,局所における変化が全身に影響を及ぼす事から,舌を観察し,脈を診断し,声を聞き,症状を尋ねる事で,体の各方面に現れた変化を情報として取り出す事で行われる。具体的には,視覚により全身および局所の状態を観察する「望診」,聴覚と嗅覚により声や分泌物の臭いの異常を知る「聞診」,本人や家族から自覚症状,愁訴を詳しくたずね,病気の経過,熱・汗・食欲など診断に必要な情報を収集する「問診」,直接触れて診察する「切診」の4種類の診断方法(四診)から構成されている。四診で得られた情報を整理・分析し,「証」を見極める事で各々の状態により適した治療方法を選択する根拠(弁証論治)ともなる。

築地市場の魚たち 魚の歳時記 −夏−(7)

山田 和彦

ビルとアスファルトに囲まれた都会では,暑さも強烈である。今年は「猛暑日」なる名称も現れた。市場の中にある食堂で昼食を取ろうと入場したサラリーマンも,日陰を選んで歩いている。昼時の築地市場は,その日の取引が終わり仲卸もあらかた片付けられている。片づけが進む中,散水車が走ってくる。ゆっくりと進むトラックの前方から扇状にまかれる水は,道に溜まった魚の体液や細かなゴミを,きれいに洗い流してくれる。外国の方が築地市場を訪れ,臭くないので驚いたという話を聞いたことがある。築地市場では,青果も扱っている。

伝える心・伝えられたもの — 高瀬川 —

宮尾 茂雄

2009年冬,京都木屋町二条にある島津創業記念資料館を訪れた時,1枚のセピア色の写真と出会った(写真1)。それは明治中頃の高瀬川舟運(慶長19年(1614)~大正9年(1920))の様子を示すものであった。高瀬川には船底の平らな高瀬舟が並び,川沿いの船曳道を舟曳人夫(曳夫)が綱を体に巻きつけるようにして舟を引いている。ピンと張られた綱からは,荷を積んだ舟がたいそう重いことがわかる。一人の船頭は長い竿に力をこめて,右に緩くカーブした水路に沿うように舟の方向を曲げている。舟は二条に向かっての上り舟とのことだ。舟運とはいえ,人力を頼りにしていた1)。舟と曳夫が綱場を通るため,橋げたの高さは人の身長位,アーチ状や階段状に橋が架けられていたという。