New Food Industry 2009年5月号

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New Food Industry 2009年 5月号

アンセリン含有サケエキス(SEAns)の多様な機能性と食品への応用

江成 宏之

サケ類の2007年度日本国内総供給量は輸入分も含め約54万トンに達するが1),これは乳幼児まで含めた全国民一人あたりに換算すると,およそ4kg,即ち大型のサケ1匹分に相当し,如何に我々日本人にとって馴染み深い魚かが分かる。また,塩蔵(山漬け,新巻)や燻製をはじめ,軟骨,内臓に至るまで,様々な加工法により調理された伝統的な料理が数多く存在するなど,魚介類の中でもサケは非常に人気が高い食材の一つである。一方,サケはその美味しさだけではなく栄養バランスに優れ,タンパク質は勿論,脂質の中には生活習慣病に予防効果のあるn-3系のDHA(ドコサヘキサエン酸)とEPA(エイコサペンタエン酸)が多く含まれている。また,万病の元といわれる活性酸素を消去する働きがあるサーモンピンクの色素「アスタキサンチン」や本稿で紹介する「アンセリン」,体調を整える各種ビタミン,ミネラルなども豊富に含まれており,これもサケが古くより食されてきた所以と考えられる。

微細藻類ユーグレナの多機能性を活かした食糧としての可能性

中野 良平、嵐田 亮、ミトラ シャルバニー、吉田 絵梨子、鈴木 健吾

微細藻類を含めた光合成生物は,その誕生から現在に至るまで,我々人類をはじめとする多くの高等動物に酸素と有機化合物を供給し続けてきた。しかしながら,食物連鎖ピラミッドの頂点に位置するヒトの劇的増加は,いまや重量ベースで動物全体の2割以上を占めるとされ1),生態学的観点からもその異常性は明らかである。このような人口の急激な増加は,結果的に食糧問題,エネルギー問題,さらにはCO2を中心とした温室効果ガスの増加が原因とされる地球温暖化問題といった現在のトリレンマを引き起こした要因の一つとしてとらえることができる。中でも食糧問題は,過剰なカロリー摂取が原因とされるメタボリックシンドロームが深刻化している先進国と,飢餓や栄養不足に陥っている途上国との間の食事情のインバランスを解消することが求められている。そこで本稿では,これらの問題を打破するポテンシャルを有した素材として微細藻類ユーグレナを紹介し,これまでに複数の研究者によって裏付けられてきたその多様な機能性を総括する。

海洋生物カロテノイドの生理機能

渡辺 敏郎

この数十年で日本人の食生活は欧米化が進み,一見,食生活は豊かになったようにみえるが,栄養バランスは大きく偏ってきている。かつて,日本人の摂取エネルギーに占める脂肪の割合はわずか5%であったものが,現在ではその5倍以上の25.3%に達している。昔の食卓のように,ご飯に味噌汁,焼き魚,野菜の煮物といった食事が減り,肉類を食べる機会が増え,炒める,揚げるなど油を使う調理法が増えたためと考えられる。それと共に,わが国の肥満人口は急激に増加し,なかでも腹腔内脂肪蓄積を基盤に耐糖能異常,脂質代謝異常,血圧上昇などが一個人に集積するメタボリックシンドロームは,動脈硬化性疾患の進展リスクを高めることから問題視されている。
 昔の日本人は発酵食品を好んで食べており,我々は発酵させた素材にはこのメタボリックシンドロームの症状を改善できる成分が存在するのではないかと考えた。特に清酒製造過程で得られる酒粕は古くから様々な機能性を有する発酵素材として知られている。

微生物による有用ペプチド生産の最終ステップに関与するタンパク質性

西江 麻美、塩屋 幸樹、園元 謙二

アミノ酸が数~数十個連なったペプチドは様々な機能を有していることが知られている。ホルモン作用物質,成長因子,酵素阻害剤,抗原,抗生物質,イオン透過担体などがその例である。これらの有用ペプチドは医薬をはじめとして様々な分野に利用されている。
 ナイシン(nisin)はLactococcus lactisが生産し,ランチオニンなどの異常アミノ酸を含むランチビオティックと呼ばれる抗菌性ペプチドの一つである(図1)。1928年に発見されて以来,リステリア菌やボツリヌス菌,黄色ブドウ球菌,セレウス菌などの食品汚染菌を含む幅広いグラム陽性細菌に対して抗菌活性を示すことが明らかにされてきた。1951年からは天然由来の保存料として生産が開始され,缶詰やチーズなどの食品保存料として応用されている。ナイシンは世界保健機関(WHO)によりヒトなどの真核細胞には毒性を示さないこと,体内の消化酵素で容易に分解されること,腸内常在菌のグラム陰性細菌に対しては影響を及ぼさないことなどから,食品保存料として認められており,米国FDA(食品医薬品局)によりGRAS(Generally Recognized As Safe)として認可されている1)。

茎葉利用サツマイモ品種「すいおう」の収穫特性と栄養・機能性

吉元 誠

サツマイモは生産量で世界第7番目の作物であり,熱帯から温帯地方にかけて世界中で栽培されている。我が国では約300年前に沖縄,鹿児島を経て各地へ広がった。サツマイモは穀物(主にエネルギー源の供給源)と野菜類(ビタミンやミネラル類の供給源)の両方の性質を兼ね備えており,サツマイモだけを毎日摂取してもヒトは生存可能である。サツマイモが飢饉を幾度も救ったことは良く知られており,救荒作物として大切に栽培されてきた。サツマイモが健康に良い作物であることは約400年前に,李時珍が「海辺に住み,五穀を食べずにサツマイモを食するヒトは長寿である」と述べている。サツマイモが準完全栄養食品と言われる所以である。

“薬膳”の知恵(35)

荒 勝俊

中医学には「食材は病気になる前に体のバランスの崩れを正すための最高の予防薬(食養)」,「すべての食材には薬効があり,疾病の治療に有効(食療)」という薬食同源という考え方があり,食養生は健康管理や病気治療のために大切なもののひとつと考えられており,“薬膳”という形で実践されている。黄帝内経の素問には”五穀為養,五果為助,五畜為益,五菜為充,気味合而服之,以補益精気”という言葉が引用されており,食の保健効果を明確に述べている。即ち,五穀(麦,黍,稗,稲,豆)は五臓を養い,五果(李,杏,大棗,桃,栗)は五臓の働きを助け,五畜(鶏,羊,牛,犬,豚)は五臓を補い,五菜(山葵,豆,薤,葱,韮)は五臓を充実させる事を示しており,多くの食材をバランス良く摂取する事で身体の精気を補うことができると述べている。

伝える心・伝えられたもの — 竹林 —

宮尾 茂雄

立春を過ぎ,日差しが暖かく感じられるようになった一日,京都市洛西に竹林を訪ねた。JR向日町駅から住宅地を抜けると物集女(もずめ)街道沿いに物集女車塚古墳(前方後円墳)があり,その脇を抜けて浄水場を通り過ぎると,やや上り坂の両側に竹林が姿を現した。太い竹と雑木が隙間なく混生し,道の両側に迫って頭上を覆わんばかりの薄暗い上り坂であった。切通しの崖壁に生えた太い竹の根元からは何十本という地下茎が地中に延びている様が見えた(写真1)。ところどころ地表に顔をのぞかせた地下茎は,マダケでは12メートル以上,モウソウチクでは7メートル以上にも地中を走っているという1)。さらに道なりに歩いて行くと,竹林はやがて竹垣で囲まれるようになり(写真2),1本1本の竹の間隔は1~2メートルとゆったりと広がり,根元にはふっくらと土が盛られていた。手入れの行き届いた美しい竹林のまっすぐに伸びた先には葉が揺れ,明るい木漏れ日が地面まで差し込んでいた(写真3)。青竹がすっくと立ち並ぶ竹林は凛とした趣がある。人の手によって大切に養生された竹林の豊かな美しさに心をうたれた。

築地市場の魚たち

山田 和彦