New Food Industry 2009年 3月号

小麦α-アミラーゼ阻害粉末 α-AIについて

松岡 由記、原田 昌卓、柴田 健次

糖尿病患者は世界中で増加しており,2006年の厚生労働省の国民健康保険栄養調査報告では,糖尿病が強く疑われる人は約820万人,耐糖能異常を有する予備群とされる人は約1000万人以上と推計されている。また,近年,高血圧,高脂血症,耐糖能異常,肥満を動脈硬化症の四大危険因子とし,これらはメタボリックシンドロームと呼ばれているが,これらの症状の共通点はインスリン抵抗性とそれに伴う高インスリン血症の存在である。インスリン抵抗性とは食後の急激な血糖上昇と高血糖状態の継続により,インスリンが機能を失う,またはインスリンの分泌が不足する状態を意味し,インスリン抵抗性の改善には血糖コントロールをすることが非常に重要であると言われている。

マスティックの機能性の追及

坂上 宏、周 麗、佐藤 和恵

マスティックとは,東エーゲ海に浮かぶギリシャのヒオス島南部にしか生育しないウルシ科の低木Pistacia lentiscus var. Chiaの樹液状滲出液である。幹や枝に鋭い刃物で切れ込みを入れると滲出し,やがて乾燥して結晶化する(図1)。ギリシャの伝統医学では,胃痛や,消化性潰瘍などの病気に3000年以上使用されてきた。マスティックは,抗菌,抗動脈硬化作用,抗腫瘍活性,創傷治癒効果を示すことが知られており,ピロリ菌や,クローン病に対して有効であるとされている。ヒオスマスティックは,海外に輸出され,様々な症状を緩和し,香味,芳香を提供する。ヘルスケア関係では,サプリメントとしてダイエットに,石鹸やシャンプー,顔用クリーム,頭髪の手入れなどの化粧品として,抗菌活性を活かした歯磨きや洗口液,創傷治癒や,火傷や皮膚の手入れ用軟膏として応用されている。食品としても,パン,スナック,ソース,アイスクリーム,キャンディー,チューインガム,リキュールや飲料,様々な料理などに添加されている。

「トマト由来の新規動脈硬化抑制化合物」について

藤原 章雄、池田 剛、竹屋 元裕、野原 稔弘、永井 竜児

近年,我が国は高齢化が急速に進行し,それに伴い国民皆保険の医療制度が崩壊の一途をたどっている。近い将来には医療費の負担増加が深刻な社会問題となってくる。このような経緯から,現在,予防医学的なサプリメントや代替医療,健康食品が非常に注目されている。このような今日の健康ブームの中,我々は,生活習慣病の予防や改善に有効な天然薬物の探索研究を行っており,その一環として,動脈硬化を抑制する天然薬物の探索を行っている。
 動脈硬化は,血管内膜下にプラークが発生し血流が悪くなる状態であり,最終的には動脈の血流が遮断されて,酸素や栄養が組織に到達できなくなる結果,脳梗塞や心筋梗塞の原因となる。

ワサビ葉柄成分の新規機能性としての骨量増進効果と植物成分p-ヒドロキシケイ皮酸の抗骨粗鬆症作用

山口 正義

食品には,栄養機能としての一次機能,感覚機能としての二次機能に加えて,多彩な生体調節機能としての三次機能がある。近年,食品の生体調節機能が注目され,機能性食品として活用されている。筆者らは,高齢人口の増大に伴って社会的関心が高まりつつある骨粗鬆症に着目し,その予防に役立つ食品因子とその素材の開発を目標にした研究をおこなってきた。
 ところで,ヒトの一生において,骨量は,成長とともに増大し,青年期において最大骨量(peak bone mass)に達し,30歳以後から加齢とともに減少する。特に,女性においては,閉経期の40歳代を迎えると,女性ホルモンエストロゲンの分泌低下に起因して,骨量は急激に減少し,閉経後骨粗鬆症を引き起こすようになる。臨床的には骨粗鬆症と診断されると,薬物投与により骨量減少を修復し,骨折の危険性を低下させる。

食品成分および微生物の固体表面に対する付着挙動度

﨑山 高明

加工・製造される食品の品質と安全性を担保するうえで,食品製造に使用される機器および環境の衛生管理は極めて重要である。特に,加工食品への依存・食の外注化が進んだ昨今では,製造現場での小さな事故が大規模な健康被害を引き起こす可能性がますます高くなっており,食品を製造・提供する側もこれまで以上に衛生管理に対して神経を使う必要がある。
 食品製造機器の衛生管理では,機器表面に付着する食品成分と生残する微生物の双方に注意する必要がある。食品を製造するたびごとに,食材の一部や食品に由来する成分が機器表面に汚れとして付着する。このような食品由来の汚れが例えば洗浄不良で機器表面に残存すれば,次に製造される食品に異物または異成分として混入する可能性がある。特に多品種少量生産を行っている食品製造現場ではこのような混入の可能性が高い。

食育における安全性に関する情報の提供 ―弁当の保存性に及ぼす下準備・調理操作の影響―

吉田 啓子

昨今,食を取り巻く環境や社会の変化とともに,食・健康に対する人々の不安が高まり「食の安全性」に注目が集まっている。また,多種多様な情報が氾濫する中で,個人個人の判断力が重要となってきた。このような社会的ニーズを受けて,健全な食生活を実践する人材の育成を目的として平成17年には食育基本法が施行,平成18年3月には食育推進基本計画が作成され,さまざまな試みが始まっている。基本的方針として,健康保持や文化の継承とともに安全性については「食品の安全性等食に関する幅広い情報を多様な手段で提供するとともに,行政,関係団体,消費者等の間の意見交換が積極的に行われるよう施策を講じること」と項目の一つに掲げている。また,食の安全性に関する目標として,「食品の安全性に関する基礎的な知識を持っている国民の割合の増加」を示しており,各自治体や企業でも盛んに食育に関するフォーラムや講座などが盛んに開かれるようになった。

特許法の一部改正について

坂野 博行、工藤 力

第169回通常国会において,「特許法等の一部を改正する法律」(平成20年法律第16号。平成20年4月18日公布1))が成立した。今回の改正は,通常実施権等登録制度の見直し,不服審判請求期間の見直し,優先権書類の電子的交換の対象国の拡大,特許関係料金の引き下げ及び料金納付の口座振替え制度の導入を目的としている2)。本稿では,食品関係の研究者・技術者にとって重要な改正である通常実施権等登録制度の見直し,不服審判請求期間の見直し及び特許関係料金の引き下げの概要を紹介する。

高まる食品不安

橋本 直樹

食品の賞味期限の付け替え違反,原産地の表示偽装が続発するようになって食品企業への不信感が高まっている。昨年は中国産輸入餃子や冷凍インゲンの殺虫剤混入事件が起きて,冷凍食品全般の売れ行きが落ちた。その後では事故米を食用米に転用する偽装が摘発された。
 2003年に消費者の健康を守ることを最優先にする「食品安全基本法」が施行され,食品の安全性を公正に審議する食品安全委員会が発足した。それ以来,食品添加物や農薬の使用は従来以上に厳しく規制され,食品の原産地や製造原料などを保証する食品表示制度とその違反を監視する体制が拡充された。環境ホルモン,遺伝子組換農産物やBSE汚染牛肉などについても検査体制が整備された。

“薬膳”の知恵(33)

荒 勝俊

人体は一つの有機的統一体であり,局所における変化は全身に影響を及ぼし,内臓の変化は五官,四肢,体表などに変化を及ぼす。こうした観点から,中医学における証の診断は,舌を観察し,脈を診断し,声を聞き,症状を尋ねる事で,体の各方面に現れた変化を情報として取り出す事で行われる。具体的には,視覚により全身および局所の状態を観察する「望診」,聴覚と嗅覚により声や分泌物の臭いの異常を知る「聞診」,本人や家族から自覚症状,愁訴を詳しくたずね,病気の経過,熱・汗・食欲など診断に必要な情報を収集する「問診」,直接触れて診察する「切診」の4種類の診断方法(四診)から構成されている。

築地市場の魚たち

山田 和彦