New Food Industry 2007年9月号

tree-4.jpg

  

New Food Industry 2007年 9月号

特集「高圧力と食品」をはじめるにあたって

鈴木 敦士、赤坂 一之

本特集は平成18年10月14日(土)近畿大学生物理工学部(和歌山県紀の川市)において開催された日本学術振興会の先端研究拠点事業No. 17009「圧力を用いる蛋白質構造とダイナミックスへの新しいアプローチ」の活動の一環として行われた『高圧力と食品セミナー』での講演を基に,各講演者に執筆をお願いしたものである。
 私達が食べている食品は,植物性,動物性を問わず,収穫により個としての生命を断たれると,直ちに細胞レベルでの変質が始まり,時間の経過とともに変敗から腐敗に至る。この変敗から腐敗に至る過程は主に,食品自身に含まれる酵素と外部から付着した微生物によって引き起こされる。

特集 細胞膜に与える高圧力の影響−脂質膜に何が起こっているか−

楠部 真崇

人類はその進化の過程で炎の使用技術を獲得し,文明を発展させてきた。初期の人類は暖を取ることや,獣から身を守ることなどに炎を用いていたと考えられるが,その他にも食物の加工に用いていたと容易に想像できる。当時の人類は生よりも火を通した味を好んだのか,ただ火を使った食物を食べていた者が生き残ったのか否かはわからないが,結果的に食物を殺菌した後で口に入れることになったのは事実であろう。これらの痕跡は約50万年前の北京原人住居遺跡から発見されたため,人類と炎の歴史は少なくとも50万年前に遡ると考えられている。

特集 圧力処理が食肉うまみ成分IMPの生成に及ぼす影響−ATP関連物質分解酵素の圧力安定性−

池内 義秀

食品加工の目的は,食品自体に含まれる酵素および外部からの微生物汚染によって引き起こされる変敗それに続く腐敗の過程を極力抑え,長期間貯蔵すること,と同時に,この貯蔵過程で生じる副次的な効果(風味,テクスチャーの改善など)をうまく引きだすことである。一般に加熱による食品加工は,栄養分の損失,味の劣化,異常物質の生成など,本来食品がもつ特徴・機能性を失わせることがある。これに反して,圧力による加工は食品の風味や栄養価を損なわず殺菌可能であること,あるいはエネルギー消費が少なくて済むなど,加熱加工とは異なる特徴を備えている。

望酸化カルシウムを主成分とする焼成ホタテ貝殻粉末の細菌芽胞に対する抗菌特性

澤井 淳

我が国の平成16年度における貝類の水揚げ量は,約86.3万tである。その約6割をホタテが占めている1)。貝の可食部,いわゆる“身”の重量は約2割で,残りが貝殻となる。アサリやシジミと異なり,ホタテの大部分は生産地で身と貝殻に分けられ,「むき身」として流通する。その結果,出てくるホタテの貝殻は年間約40万tにも及ぶ。現在,ホタテ貝殻の一部は食品添加物などに再利用されているが,大部分は産業廃棄物として処理されている。産地では放置された貝殻からの悪臭,および内臓に含まれている重金属(特にカドミウム)による土壌汚染,さらには地下水汚染が大きな公害問題となっている2, 3)。

特集 高圧処理による食品アレルゲンの低減化−その構造との関係−

小谷 スミ子、原 崇、松野 正知、鈴木 敦士

近年,アレルギー疾患が増加している。特に食物アレルギーは生命の維持に不可欠な食物を原因とし,乳幼児および小児に集中して発生するため一層深刻な問題として関心を集めている。食物アレルギーとは食物を摂取することにより引き起こされる生体の障害反応の中で,免疫学的機序に基づき発生する疾患である。アレルギー反応の原因となる抗原物質をアレルゲンと言う。食物アレルギー患者がこれを含んだ食物を摂取することでアレルギー症状が引き起こされる。
 食物は生体にとって必要不可欠なものであるから,健常人の身体では食物抗原に対して免疫系が反応しない状態,すなわち経口免疫寛容が成立している。

鶏肉の肉質改善 −肉用鶏生産におけるトレハロースの利用−

松下 浩一

食生活の変化により動物性タンパク質の摂取量が増加するなかで,我々の食卓には毎日のように食肉が並んでいる。なかでも安価に供給されている鶏肉は,ヘルシーなイメージにより消費量は安定し,牛肉,豚肉と並んで我々の生活には欠かせないものとなっている。我が国における鶏肉生産の歴史は,1960年以前は採卵鶏の抜き雄(孵化時に雌雄鑑別がされ,雌は産卵用に飼育されるが,雄は肥育して食肉とされていた)を用いての自家生産が中心であった。しかし,1960年代に外国から優れた種鶏が輸入されたことで本格的なブロイラー産業が開始されるに至った。統計によると1960年には国内生産量が10.3 万t,人口1人あたりの消費量でわずか0.8 kgであったのであるが,現在では,生産量が当時の13倍,消費量も13.4倍にもなっている。

アブラナ科野菜類のイソチオシアネイト類と大根の4 -メチルチオ- 3 -ブテニルイソチオシアネイトについて(2)

馬上 元彦、大石 清三、小谷 明司

大根を磨り下して大根オロシにすると短時間で特有の辛味のあるフレ−バ−を発生するが,この特有のフレ−バ−は150年以上も前から有機化学者の興味を惹き原因物質の分離 同定が試みられてきた。後述するように,このフレ−バ−に寄与する成分であるMTBITCは不安定な物質であるため,なかなか成功しなかったようである 2)。しかし,既に100年以上前に大根の辛味成分が配糖体から二次的に生成することは既に推測されていた3)。大 根のフレ−バ−物質について最初に正確な結論を下したのはFriisとKjaerで,成分を水蒸気蒸留により分離しガスクロ・質量分析・1H-NMR等を援用して,大根の辛味成分の主体はMTBITCであることを初めて明らかにした4)。その後,ITCsの大根からの分離法が改良さ れ,現在では大根を磨砕し即座に有機溶媒で抽出してITCsを水相から分離する方法が一般化された。理由はMTBITCは水と共存すると速やかに分解するためである。やや古い文献ではアンモニアを反応させて安定なチオ尿素誘導体に変換して分析する方法も見られる。

薬膳の知恵 (16)

荒 勝俊

中医学では,人間も自然の一部として捉え,自然と調和してバランスを保つことが健康を維持する上で重要と解いている。人体の機能が失調したり,自然界の変化が人の恒常性維持機能の限度を超えたりすると病気になる。人体と天地が対応している(陰陽五行学説)とする観点から考えれば,発病因子を明確にする為には発病している部分だけに着眼して診断を行ってはならない。人体の皮肉脈筋骨,経絡と臓腑はこれまでに述べてきた様に非常に緊密な関係にあり,臓腑を中心として経絡により内外が連絡されている。身体が発病すれば,部分の異常が全身に影響を与え,全身の異常も身体の一部分に出現する。局部を診察する事で全身の状態を知り,全身を診察する事で局部の発症原因を探し出す事が重要となる。

築地市場の魚たち(3)

山田和彦

築地市場には,魚以外にも多くの種類の水産物が入荷する。仲卸業者の中にはエビ,貝類,クジラなど魚以外を専門とする店も多い。日本人は,古くから貝をはじめとする多様な水産物を利用してきた。その証は,貝塚として現在でも各地に残っている。反面,種類が非常に多く,全体を捉えることは容易ではない。今回は,魚を除いた水産生物について触れてみたいと思う。
 知っている貝の名前は?と問われ,何種類言えるだろうか。あおやぎ,アカガイ,アサリ,あわび,サザエ,しじみ,平貝,つぶ貝,トコブシ,トリガイ,ほたて貝,ほっき貝,バイ,ハマグリ(片仮名は標準和名と同じ)。10種類は出てくるであろう。一般の 名称として,これだけ多くの種類が知られている国は,あまりない。現在,世界には10万種を超える軟体動物が知られている。

エッセイ 楊枝の歴史と文化 -楊枝生産の好立地 河内長野-

稲葉 修

楊枝は需要の高まりにつれて,店先での製造販売から,材料の産地で製造されるようになった。上総の久留里,下総の古河,河内の玉串村,豊前の立石村等である。いずれも原木が近くにあり,且つ消費地に近いところに発達したのである。では,このように全国的に多くあった産地が河内長野に集約された背景を探ってみる。河内長野は明治の初め頃には近隣に多くあった黒文字(クスノキ科の灌木で指程の太さの黒い肌の香木)や卯木うつぎ (スイカズラ科で直径5cm位の木で縦の繊維がよく通った,黄色っぽく品の良い木)の原木を当時の製造家に販売していた。

中国食品通信

馬 桂 華

日本の厚生労働省は,2006年8月以来,中国が日本向けに輸出した烏竜茶およびその加工品に残存している三?燐(Triazophos:トリアゾホス)に対する“命令検査” を実施し,不合格率が5%に達した場合は,日本への輸出を禁止することにしている。同年6月,中国食品輸入輸出商会茶葉分会に所属する12の輸出茶葉企業は,日本国際貿易促進協力会中国烏竜茶輸入商社協議会に属する16の輸入商社との間で,『中国烏竜茶小売販売包装協議書』に署名した。その趣旨は,互いに協同することにより,烏竜茶の日本に対する輸出を促進することにある。