New Food Industry 2007年 7月号
ビフィズス菌の免疫調節機能及びロタウイルス感染防御作用
保井 久子
ビフィズス菌は腸内構成菌の主要な一員であり,乳児から成人までの健康に大きく関わっている。このビフィズス菌の中に免疫調節機能を有し,ウイルス感染防御作用を示す菌株が存在することが明らかになってきた。そこで,本稿では,乳幼児の冬季の下痢症であるロタウイルス感染症に注目し,免疫機能を高めこれを予防・軽減するビフィズス菌について解説する。
タンパク質の構造変化を利用した抗酸化性評価法の確立
寺嶋 正明
食品に含まれる抗酸化性に対する関心はきわめて高く,例えばGoogleで「食品,抗酸化性」をキーワードとして検索すると39,000件以上のサイトがリストアップされてくる。また,医学・バイオテクノロジー関連の文献検索サイトであるMEDLINEで「food, antioxidant」というキーワードで検索すると過去3年間に限っても200報以上の文献がリストアップされてくる。食品と健康との関連性に関する世間一般の関心の高さには尋常ならざるものがあり,食品成分の持つ機能性を正しく測定・評価し,わかりやすく伝えることの重要性はますます高まっている。食品中に含まれる成分の抗酸化活性についても正確に定量・評価することが強く望まれているが,現状では評価法自体に改善すべき点は多く新規な分析法に関する研究も進められている1-2)。食品の抗酸化性を評価するといっても様々なレベルがある。
ホップ水抽出物の花粉症軽減効果
瀬川 修一、高田 善浩、脇田 義久、金子 隆史、金田 弘挙、渡 淳二、榎本多津子、榎本 雅夫
アレルギー性鼻炎は最近患者数が増加し,日本人の有病率はスギ花粉症16%程度,通年性アレルギー性鼻炎18%程度であると報告されている1)。これらアレルギー性鼻炎はI型アレルギーに分類される。抗原の侵入により抗原特異的IgE抗体が産生され,このIgE抗体のマスト細胞や好塩基球などの表面に存在するIgE抗体レセプター(FcεRI)への結合,さらにIgE抗体と抗原との架橋形成を経て,マスト細胞が活性化されることで,ヒスタミンやロイコトリエンなどのケミカルメディエーターが遊離する。これらケミカルメディエーターはくしゃみや鼻汁などの即時相アレルギー反応を引き起こす2)。したがって,これらケミカルメディエーターの遊離を阻害する成分はアレルギー症状を緩和する方法として有効であると考えられる。
食べ物の香りー昔の思い出調査から
奥田 和子、山本 由美
これまで,女子大生を対象に「香りのよい食べ物とはなにか」という意識調査をした1,2)。その結果をもとに,香りがよい食べ物を実際に調理し官能評価をおこなった。その結果,香りがよい食べ物は「肉料理」で,調理方法は「揚げ物」「炒め物」「焼き物」,そのほかに「一部の発酵食品」であることがわかった 3)。
現在の若者が好む香りはひと昔前に台所で漂っていた香りとは相当異なるのではないかと推察した。ちなみに,今日食べ物の消費傾向は魚から肉へ,野菜では煮物から生食のサラダへと移行し,手間のかかる手作りは敬遠され中食,冷凍食品,加工品へと推移している。
乳清給与によるブロイラーの飼育とその肉質
金子 国雄、飛佐 学、古瀬 充宏、大橋 登美男
日本人の食生活が欧米化するに伴って,肥満や高血圧ならびに血中コレステロールの上昇が大きな社会問題となっている。そのために,畜産物においても低脂肪食品の供給が望まれている。特に,ブロイラー肉は他の食肉に比較すると低脂肪で低カロリーの食肉と考えられていた。しかしながら,今日のブロイラーは,大型で早熟化するにしたがって体脂肪が増加し,“肥満化”の傾向にあることが指摘され,この問題を解決する方策として低脂肪鶏の生産が重大な課題である。
ブロイラーの過剰な脂肪蓄積を抑制する方法として成長初期に制限給餌する方法等が検討されているが,制限給餌を解除する時期などに難点があって普及していない。
アスベスト災害とリスクコミュニケーション−負の遺産から学ぶべき今後の課題−(後編)
三好 恵真子
環境疫学を専門とする岡山大学の津田敏秀教授は,2005年9月20日の朝日新聞に寄せた「アスベストと疫学」という評論の中で,「アスベストでも薬害問題でも,なぜ繰り返されてきたことについては,日本には共通点がある。」と指摘している。「人体に有害な原因,とくに長い潜伏期間後に発生する癌の原因を明らかにする方法論に対する理解が,行政にも社会にも研究機関にも欠如しているとしたら,対策など打ちようがない。その方法論は疫学と呼ばれる。疫学は,ヒトを観察することで得られたデーターから,原因と病気の因果関係を定量的に明らかにする方法である。」津田のこの指摘は,2 - 2で述べた,欧州環境庁の報告書の考え方に相通じるものがあると言える26)。
エッセイ 楊枝の歴史と文化−仏教の伝来と共に−
稲葉 修
楊枝は奈良時代(538年)に仏教と共にインドから中国・朝鮮半島を経てわが国に伝わった。当時は歯木と呼ばれ、木の枝の一端を噛んで毛筆の毛先のようにブラシ状にしたものである。そもそも、お釈迦さま(紀元前500年頃)が弟子達にこの歯木で歯を清潔にすることを教えられたのである。お釈迦さまが使われた小枝を野原に投げられると大木になり、人々はそれをダンタカーシュタ(歯の木)と名づけ、その後この木の枝を使って歯を磨くようになったといわれている。ダンタはデンタルの語源であり、インド数字で32を表す。歯の数である。インドではニームという木の枝を用いた。ニームは薬木でその葉を使ったニーム茶もある。中国にはこの木はなく、よく似た木ということで楊柳を用いた。それでようじを楊の枝、即ち楊枝と書くのである。
築地市場の魚たち
山田和彦
銀座から歩いて10数分。ビルに囲まれていた視界が急に開けると,そこは築地市場である。早朝の入札が終わり,仲卸業者の店舗にたくさんの魚貝類が並んでいるのを見ると,一瞬都会の真ん中であることを忘れてしまう。網の目のように走っている通路の両脇には,およそ800の仲卸店舗が並んでいるので,慣れるまでは迷路のようである。仲卸はそれぞれ専門性があって近海物鮮魚,特種(寿司だねや貝類),マグロ,えび,冷凍品,塩干物など特定のものを扱っている。それらの店舗が不規則に並んでいるので,店を覚えるのも一苦労である。築地市場が開いている日(開市日)のほぼ毎日,店の人や買出し人でにぎわう通路を行き来して,その日,場内に入荷した魚貝類を調べる(店の邪魔をする?)のが私の仕事であった。ここでは,12余年間に築地市場で見聞きした魚貝類の話を,生物学的な視点から書こうと考えている。また,食品や水産関係の方が現場などで活用できる手法も,あわせて紹介するつもりである。
【特別寄稿】60才からのコラーゲン研究物語会社定年後の一つの生き方(3)
和田 正汎、青柳 康夫、長谷川 忠男
食肉は,筋線維と筋線維を束ねる結合組織から成る。筋線維の主成分であるミオシンタンパク質とアクチンタンパク質は,それぞれミオシンフィブリル,アクチンフィブリルを形成し線維化を成している。この筋線維をフィブリル化している結合組織のコラーゲンが被覆し筋肉のはたらきを支えていることは,前に述べた通りである。食肉の硬さは,筋原線維と結合組織の2つの組織により大きな影響を受けているといわれている。この筋原線維による食肉の硬さを “actomyosin toughness”,結合組織による食肉の硬さを “background toughness”と称している。我々が精肉店から購入する食肉は,熟成されたものである。
薬膳の知恵 (13)
荒 勝俊
中医学では,“人間も自然の一部として捉え,自然と調和してバランスを保つことが健康を維持する上で重要であり,これが崩れると病気になる”,と考えている。また,体質も含めた体全体で判断するのが特徴であり,特定の器官や細部に着目して病名を決定する西洋医学とは大きく異なる。中医学における病気の診断は,個人から得た情報をもとに,病邪が表にあるのか裏にあるのか,病気の性質は寒なのか熱なのか…といった“証”を陰陽五行学説の考え方を応用して分析し,総合的に治療方針を決定する。証の解析方法としては,代表的なものに“八綱弁証”などがある。
中国食品通信
馬 桂 華
中国の食品新聞によると天津浜海新区にある“日本不二蛋白有限公司”は日本の不二製油株式会社が投資した日本企業で,中国では既に吉林不二(吉林省)と天津不二(天津市)の2つの大豆加工に関する企業を設立している。吉林不二公司は東北の優良な大豆を原料として1次加工を行なった後,引き続いて天津不二公司が2次加工することにより,最終製品である大豆ペプタイドを製造している。年生産量は約3000トンに達している。