New Food Industry 2007年 4月号
多機能食品としてのマスティックの生物学的作用
高橋 慶壮、坂上 宏、小林 正樹、橋本 研、鈴木 史香、五十嵐 武、栗原華絵子、中島 秀喜、清水 貴壽、武田 健、佐藤 和恵、渡辺 秀司、中村 渡
マスティック(洋乳香)は,ギリシャのヒオス島にのみ自生するPistacia lentiscusの木から採取される天然の樹液エキスで,ギリシャおよび地中海沿岸の人々が5,000年以上も昔から健康増進,とりわけ消化器官の疾患に対する治療薬として使用してきた健康食品である1)。その形状とさまざまな効能を持つことから『キリストの涙』と呼ばれてきた(図1)。マスティックは,胃および十二指腸潰瘍に優れた治癒効果を示し2-4),抗菌作用の他にも抗炎症および抗潰瘍作用を有することが報告されている。本稿では,多機能食品としてのマスティックの多様な生物活性について紹介する。
ナンテンの葉から抽出されたチロシナーゼ活性阻害剤
増田 俊哉
食品の酸化には,大きく分けると,化学的な酸化であるいわゆる自動酸化と酸化酵素が介在する酵素的な酸化が知られている。酸化劣化(酸敗)は,腐敗や成分間反応とともに,いずれも食品の品質に重篤な影響を及ぼす劣化現象であり,その制御が望まれる。化学的酸化は,食品全般に見られ,光や遷移金属の存在や,時には,元からの酸化成分の存在がきっかけとなって進む。一方,酵素的酸化は,加工前の食品,たとえば,野菜や果物,水畜産物などの生鮮食品や穀物などにおいて,本来の生物が有する酸化酵素が働いて進む。特に,食品としての加工操作がきっかけとなって,食材由来の酵素が活性化されて急速に進む特徴を有する。生物系の酸化酵素には様々なものがあるが,食品の劣化に密接に関わるものとしては,ポリフェノールオキシダーゼやリポキシゲナーゼがよく知られている。
南米植物マカの生理活性に関する研究
鈴木 郁功、髙木 康之、鷲野 憲之、橋口 良彦、具 然和、山本 肇
南米ペルーを原産地とするマカMaca (Lepidium meyenii walp)は,アンデス高原生態層のアブラナ科に属する原生植物である。これは標高4000m高山地帯で栽培されており,古来インカ帝国の時代より活力再生,強壮剤として知られている(Fig. 1)。
最近では,多産性と催淫性から健康食品として世界中から注目を集め多産の促進,月経周期の正常化,活力再生,滋養強壮に効果があり,不感症,インポテンツ,不妊症などの治療に有効1)といわれている。さらにリュウマチや呼吸器系疾患などにも優れた効果があり,その他のあらゆる疾病への効果が期待されている。マカは,ビタミン類,亜鉛,燐,マグネシウム,カリウム等のミネラル類および多糖類のアルカロイドを含み,乾燥物の半分の重量を占める多種類の糖も有効成分として考えられている。またエネルギー活性を有し,NASDAが宇宙食の栄養補助食品として検討されており,非常に栄養価が高い。
トレハロースの機能性から考える代替医療分野における可能性
三輪 尚克
トレハロースは既にテレビCMでもお馴染みとなり,我が国においては数多くの食品に使用され,海外でも食品分野において市場を築きつつある。さらに化粧品にもトレハロースを配合している製品が多々ある。医療分野においても医薬品添加物として使用されているほか,トレハロースの持つ生理機能面や生物学的なユニークな特性に関する数多くの応用研究事例がある。
本稿では「代替医療」を上述の「日本補完代替医療学会」の定義としたときのトレハロース利用の可能性を論じてみたい。さらに,厳密には「代替医療」ではないが,既に大学や公的研究機関等で実施されている先端的な臨床研究での利用例も紹介し医療分野における可能性について私見を交えながら考察する。
イチゴジャム色素の安定性に及ぼす保存および調製条件の影響
渡邉 義之、蔵田 明子、山中 一浩、杉中 喬
イチゴのアントシアニン系色素は熱や光に弱く加工・貯蔵過程で速やかに分解し,ジャムの品質を著しく劣化させることが知られている。イチゴジャム中のアントシアニン系色素の安定性は原料の品種,加工および流通条件に大きく左右されるため,より安定性が高く,かつ多量な色素を含有する原料イチゴを利用することが強く望まれてきた1)。イチゴジャムの退色は,主にイチゴ色素の主成分であるアントシアニン系化合物カリステフィン(Pelargonidin-3- glucoside,図1)2)が分解されるためである。しかしながら,イチゴ各品種の構成アントシアニン色素に関する基礎的研究は少なく,取り分けジャムを対象とした研究は少なく加工利用上のネックとなっている。
陽イオン交換樹脂を用いた脱アミド化による食品タンパク質への新機能付与
熊谷 日登美、熊谷 仁
タンパク質を構成するアミノ酸は20種類あるので,もしこれらが同割合で存在すれば,各アミノ酸は5%ずつとなる。グルタミンとアスパラギンの割合も計 10%になるはずで,例えば,乳αS1-カゼインの場合には約13%である。しかし,穀類や豆類タンパク質においては,グルタミンやアスパラギンの占める割合は,大豆グリシニンでは約19%,小麦グリアジンでは約36%,というように多いので,脱アミド化は,これらのタンパク質の機能改質に特に有効であると考えられる。我々は,カルボキシレートタイプの陽イオン交換樹脂を用いて,簡便・安価に効率良く食品タンパク質を脱アミド化する方法を開発し,さらに,得られたタンパク質が元のタンパク質にはない新たな機能を有することを明らかにしたので紹介する。
マグネシウムイオンの鎮静作用を利用したヤリイカおよびスルメイカの活輸送の試み
舩津 保浩、川崎 賢一、臼井 一茂、仲手川 恒、清水 俊治、阿部 宏喜
近年,日本だけでなく中国や中南米諸国でイカ漁業が盛んになり,世界の漁獲量は300万トンに達している。平成17年家計調査では,生鮮イカの1世帯当たり消費量は3,103gでマグロ(3,201g)に次いで2位であり,また,平成16年のイカの需給量(生鮮,加工品をあわせた総消費量)で比較してみても,イカは68万トンと一位である。1) これらのことから日本人はイカを好んで食していると思われる。
イカはするめ,丸干し,ソフト裂きいか,しゅうまい,射込煮,塩辛などに加工されている2)が,刺身で食べることも日本人には多い。最近では,消費者の嗜好性の変化から透明感やコリコリした歯ごたえのある活イカの需要が増加している。しかし,大部分は生鮮・冷凍で流通しており,可食部が不透明で歯ごたえも弱いのが一般的である。
ノロウイルス〜今や食中毒の横綱に!
北元 憲利
ノロウイルスは1968年に米国のオハイオ州ノーウォークという町の小学校にて集団発生した急性胃腸炎の患者の糞便から初めて分離されました。1972年には電子顕微鏡でその形態が明らかにされ,発見された土地の名前をとって「ノーウォークウイルス(Norwalk virus)」と呼ばれるようになりました。その後,このウイルスと似た形態のウイルスが世界各地で分離され,それぞれの地名をつけた名前で呼ばれるようなりました。たとえば,スノーマウンテンウイルス,メキシコウイルスやハワイウイルス,日本ではチバウイルス,アイチウイルスなどと命名されています。小さくて(small),球形の(round),構造をした (structured),ウイルス(virus)であることから,小型球形ウイルス(SRSV)とも呼ばれていました4)。SRSVという言葉は,分類上正式には認められていませんが,便利な名称ということもあり,法律上や厚生労働省の「食中毒統計」の中で一般的通称としてよく使われていました。 SRSVというのはひとつのウイルスではなく,ノロウイルスの他にサポウイルスやアストロウイルスなどを称してつけられた名前です5,6)。
薬膳の知恵 (11)
荒 勝俊
経絡・経穴学説とは中医学の基礎をなす理論の一つで,“経絡”と“経穴”の働きに関する学説である。“経絡”とは,身体の表裏を網の目の様に走っている気血の通り道である。中医学においては,生命活動の本質は五臓六腑の中を流れる気血であり,“経絡”を通して生命エネルギーが循環していると考えられている。即ち,“経絡”の働きは,体内の五臓六腑と感覚器,皮膚,筋肉など全ての器官をつなぎ,全身に気血を運ぶ事で臓器の状態に関する情報を伝えている。全身の気血の流れが滞りない状態を中医学では健康と想定しており,いったん表皮や臓器に病邪(外邪)が侵入すると気血の運行が乱れたり滞ったりした状態を形成する。こうした気血の乱れを上手に把握し,その状態を改善する手段として“薬膳”は有効である。更に,どこの経絡上に病邪が存在するかを判断し,症状に合わせて薬膳を処方する行う事も重要である。今回はこうした経絡に関して,理論とその働きについて述べる。
中国食品通信 ◆中日干し椎茸交流会が北京で開催
馬 桂 華
中国から日本へ輸出する椎茸に関して,日本の厚生労働省が,2006年8月11日に実施した命令検査に有効に対応するために中国側からは中国食品特産品畜産輸出入(貿易)商会の中の干し椎茸輸出協調グループ,日本側からは日中干し椎茸輸入協議会が一同に北京で会し,中日干し椎茸交流会を開催した。中国政府関連部署として,商務部外貿(外国貿易)司,国家品質検査総局輸出入食品安全局,農業部栽培業司の関係者が会議に参加した。関係業界からは,中国食品特産品畜産輸出入商会干し椎茸輸出協調グループに属する理事,検視単位および西峡椎茸基準化基地連合体のメンバーなど,計36企業の代表が会議に参加した。日本側からは,日中干し椎茸輸入協議会などの5企業の代表が会議に参加した。