New Food Industry 2007年12月号
高圧力処理による香水の熟成期間短縮に関する研究
谷内 正博、清水 昭夫
香水は原料となる香料を調合後3ヶ月以上1),場合によれば1年以上もの長時間冷暗所に放置し熟成させて初めて完成する。従って,この熟成過程を短縮することが出来れば香水製造時間および開発時間を大きく短縮することが出来ると考えられる。また,長期の熟成期間が必要無く調合後すぐに製品として出荷できれば保管場所,保管場所を低温に保つためのエネルギー削減を含めた生産コストの削減につながる事が期待される。本研究では調合後の香水を高圧力処理する事により熟成促進効果が得られる事を確認したのでその結果を報告する。
新規ゼロエミッション焼酎製造法による新焼酎と食品素材開発
瀬口 ひろみ、菅沼 俊彦、沖園 清忠
現在,全国的に芋焼酎ブームであり,鹿児島県の焼酎の生産量は,平成17酒造年度(平成17年7月〜平成18年6月)で約256千キロリットルである。これは,10年前の約2.1倍,5年前の約1.8倍であり,焼酎の生産量が急増していることがわかる。焼酎関連産業への波及効果もあり,焼酎は鹿児島県の経済全体の牽引役となっていると言える。
一方で,芋焼酎は,製品1本を作るのに,約2本分の蒸留廃液が製造プロセスの副産物として生じる。焼酎生産量の増加に呼応して,蒸留廃液(焼酎粕)の発生量も急増しており,平成13年酒造年度までは約250千トンだった焼酎粕は,ブーム後の平成17酒造年度には約481千トンと1.9倍にも増加している。
ハイセサミンごま油特許に関わりのない天然素材 セサミン含有食品
花城俊次、天山昂昴
ごま油は古くからアーユルベーダーなどに用いられ,薬効を持つ体によい成分を含んでいると見られてきた。ごま油の製造法や成分の研究が進む中でセサミン,セサモリン,セサモール,セサミノールといったゴマリグナンが多く含まれ,その抗酸化作用や生理機能についての研究が進んでいった。本稿ではその中でもセサミンに注目し,我々が開発を進めているセサミンを通常のごま油の3〜4倍含んでいる“ハイセサミンごま油”を紹介する。
北海道江別市近郊に在住する大学生における冷蔵庫の使用状況
菊地 和美、大江 晴子、小畑 るりこ、一戸 由美
食品安全基本法1)によれば,食品の安全性確保に関する施策を総合的に推進することを目的として,関係者の責務や消費者の役割について規定している。また,食品衛生法1)においても“食品の安全性確保のため公衆衛生の見地から必要な規制その他の措置を講ずることにより,飲食に起因する衛生上の危害発生を防止し,よって国民の健康の保護を図る”と規定されている。これらのことから,最終消費者の食品衛生管理と安全性に留意することが問われ,消費者の食品衛生管理の一つには冷蔵庫などの取り扱いが挙げられる。
スターター乳酸菌における遺伝子組換え技術の応用
佐藤 英一
伝統的な製法が中心のチーズ製造においても,遺伝子組換え技術が導入されるようになった。例えば,仔牛レンネットの代替として遺伝子組換えキモンシンが利用されている。キモシン遺伝子を大腸菌で大量発現させ,仔牛レンネットの不足を解消しようというのが狙いである。さらに高品質のキモシンの生産のために,タンパク質工学によりアミノ酸を置換した改良型キモシンの生産も実現した。これらは遺伝子組換え体により生産された物質の利用例であるが,ここではチーズスターター乳酸菌における遺伝子組換え技術について述べることにする。
熟成型チーズの製造技術
田中 穂積
本稿では,最初に熟成型チーズの製造工程を説明し,次いで,乳処理方法,チーズ製造に使用する微生物と食品添加物,凝乳とカードの形成,攪拌と加温,加塩と熟成について概説し,最後に伝統的な熟成型チーズ8種類を例にその製造技術を説明する。
熟成型チーズ8種の伝統的または基本的製造工程を図1に示した。熟成型チーズの基本的な工程は,脂肪調整,殺菌冷却,乳酸菌添加,乳の前熟,レンネット添加,静置凝固,凝乳切断,攪拌,加温,ホエイ排出,カード堆積,型詰,圧搾,加塩,熟成である。
カッテージチーズの製造技術
久米 仁司
カッテージチーズは,カードの熟成工程を経ないで製造されるフレッシュチーズの代表的チーズで,イギリス,アメリカ,オーストリア,ニュージーランドおよび日本で主に消費されている。わが国におけるカッテージチーズの生産量は,平成17年度で824t,国産ナチュラルチーズの中では2.2%であるが,平成 13年度対比では,160%と生産量は増加している(図1)1)。
コーデックス規格2)で定義されているカッテージチーズは,カッテージチーズ(Cottage Cheese)とクリームドカッテージチーズ(Creamed Cottage Cheese)の2種類あり,前者は,ドライカードカッテージ(Dry curd Cottage)とも別称されている。
新しいタイプの機能性チーズの開発
松尾 光郎
我が国の国民一人当たりの年間チーズ消費量は,昭和62年度の約1.0kgから順調に増加してきていたが,平成12年度に約1.9kgに達した後はほぼ横這いとなっている。チーズには良質なタンパク質やカルシウムが豊富に含まれており,栄養価が高い食品であることは広く消費者に認知されているものの,健康の維持・増進を意識してチーズを食する消費者は未だ多くないのが現状である。近年,チーズおよびチーズ成分がもつ保健機能に関する研究が精力的に行われており,数多くの知見が報告されている1)。チーズの持つ保健機能が消費者に認知され,その機能を利用した新しいタイプの機能性チーズが開発されれば,さらなるチーズの消費拡大に繋がることが期待される。
連載エッセイ 楊枝の歴史と文化(6) -日本で初めての機械化生産-
稲葉 修
最初は、もの珍しく、安い輸入品の「平ようじ」に飛びついたが、それまで使われていた「黒文字ようじ」や「卯木ようじ」に慣れていた人々には、とても粗末に見えたようである。これは使用中に無理をすればすぐに折れるが、折れることによりそれ以上は歯に負担がかからないようになっている。ちなみに、この「平ようじ」を受け入れないのは世界中で我が国だけである。機能そのものより外観重視の日本人の性格の一端が窺える。そこで昭和の初期よりこの「平ようじ」の海外市場の開拓に努め、昭和の終りまで世界各地に輸出していた。そして日本市場に合う商品作りのため白樺を使い「黒文字ようじ」に似せた「角ようじ」を作り、その角をとって丸いようじにしようと試みた。昭和の初めより15年頃迄盛んに活躍したのが「角楊枝を丸くする機械」である。楊枝の太さに加工した上下のロ−ル機に角楊枝を入れ、角を圧縮して丸みをだそうとしたのである。
伝える心・伝えられたもの -胡麻油-
宮尾 茂雄
昨年11月,奈良公園が紅葉に染まり始める頃,第58回正倉院展を訪れた。天平勝宝8年(756年)5月に聖武天皇が崩御され,その四十九日に光明皇太后が東大寺に献納された天皇御遺愛の品々が,正倉院御物の始まりと言われている1)。平成18年はそれから1250年を経た節目に当たる。やや肌寒さの感じられる金曜日の夕方にもかかわらず,会場の外には長い行列ができていた。聖武天皇が愛用された袈裟の一つ「七条刺納樹皮色袈裟(しちじょうしのうじゅひしょくのけさ)」や,「長斑錦御軾(ちょうはんきんのおんしょく,錦貼りのひじかけ)」などの色鮮やかな御物と並んで正倉院御物のルーツを示す貴重な文書「東大寺献物帳 国家珍宝帳(こっかちんぽうちょう)」が展示されていた。奉献に際しての光明皇太后の願文と600点余りの目録からなり,巻末にはこの大事業に関わった5人の署名が残されていた。
築地市場の魚たち(6)
山田和彦
日本は四季の変化がはっきりした国の一つである。その国に住んだ人々は,古来より生活の中で四季を感じ,風習や文化にも反映されてきた。四季を感じるのは人間だけではなく,むしろ野生の動植物の方が敏感かもしれない。それは,生物がその環境の中で適応し,進化してきたからにほかならない。気温や日照時間は,生物が生きていくうえでの重要な要因となる。人間は1度ぐらいの温度差は,さほど気にしないが(最近は室内の温度設定で,敏感になっているところもあるが),とくに水中にすむ生物にとっては1度の差は,大きな差となる。それは,成長や産卵の時期にもかかわる大問題である。海の中にも四季があって,三浦半島あたりの海中を眺めていると,陸上同様,四季折々の情景を堪能することができる。
中国食品通信
馬 桂 華
中国食品日報によると,四川省は34億元を投資し5年計画で緑色農業水産模範区を作る予定であることを報じている。この模範区は中国において第一級のものである。現在,全国には50カ所の模範区があるが,水産関係で許可されたものは四川省のものが1つあるだけである。四川省は国家からの政策援助を国家農業部,財政部,発展改革委員会および中国緑色食品発展センターなど,様々なルートを通じて申請しており,その他の資金としては建設単位,銀行貸し付けおよび農民による自己資産を利用するなどの方法をとっている。四川省で最大の水産企業グループである「通威集団」は8億人民元以上の投資を予定しており,成都,攀枝花,凉山,广元,眉山,綿陽,資陽,宜賓などの市や州とともに9カ所の緑色水産模範基地と30に及ぶ項目を実施する予定になっている。総面積は 11.1万ヘクタールで基地毎に5〜10万畝(ムー:中国の面積の単位で,1畝=6.67a(アール))以上の水産養殖水域を有している。緑色水産品の年生産能力は2〜5万トンに達する。現在,四川省の水産養殖水域に対して許可された無公害認証は16.6%を占めているに過ぎない。その生産量は中国における水産総生産量の20%以下で,さらに緑色と有機認証を受けているものはもっと少ない。
薬膳の知恵 (19)
荒 勝俊
気・血・津液はこれまでに述べてきた様に,生命活動の基本的な物質であり,絶えず体内をめぐっている。こうした気・血・津液が不足あるいは過剰になればその運行に障害が起こり,最終的に臓器に影響を与える事になる。今回紹介する気血津液弁証法は,中医学における気・血・津液の関係の理論から病変を分析し症候を弁証する方法である。本弁証法は,大きく“気病弁証” ,“血病弁証”,“津液弁証”の三つに大別され,今回はその中で“血病弁証”に関して述べる。