New Food Industry 2007年11月号

玉葱皮に含まれる新規な抗菌・抗酸化化合物

高石 喜久,Freddy A. Ramos,田所 哲雄,竹内 稔

玉葱(タマネギ,Allium cepa L.)は,ユリ科,ネギ属の野菜でペルシアが原産である。その後メソポタミア,エジプトに広がり,地中海地方全域に分布するようになった。ギリシャのオリンピック競技では,タマネギとニンニクを競技者が食べていたと言われている。ローマ人はタマネギを好み,cepaまたは,cepullaと呼んでいたそうで,これが学名の種小名cepaの由来だと考えられる。英語のオニオン(onion)はローマの農学者コリュメラがタマネギをunio(特別に大きな真珠)と名付け,これがフランス語のoignon(オニオン),そして英語になったと言われている。ヨーロッパでは馬の血液凝固に対しタマネギを使用していた,この民間伝承は血液循環を改善するためと解釈される。

大豆β-コングリシニンによるメタボリックシンドローム予防・改善効果

河野 光登,廣塚 元彦

植物たん白質が有する興味深い生理作用について報告されたのは,1975年のCarollの論文である(J.Food Sci.40 18-23(1975))。この研究では,各種たん白質をその起源によって動物性と植物性に大別し,各々を栄養成分上のたん白質源としてウサギに対して投与する試験がおこなわれた。その結果,用いるたん白質の種類と血清中のコレステロール値との関係,特に飼料中のたん白質が動物由来か植物由来かによって一定の傾向が認められることが示された。すなわち,動物起源のたん白質を餌に用いた場合に比較し,植物起源のたん白質を用いた場合はコレステロール値が低くなる傾向が認められた。この研究の結果,摂取するたん白質の種類が血清脂質に大きく影響することが示唆された。

無農薬で病害を防いで植物をすくすく栽培できる有機肥料

中崎 清彦

糸状菌によって誘発される多くの植物病害が知られている。また,それらの病害を防除するために,一般には薬剤(化学農薬)が散布されるが,近年食の安心・安全に関心が高まり,減農薬,できれば無農薬で生産した農作物を食べたいと考える人々が増えてきている。コンポスト(有機肥料)に植物病害を防除できるバイオ農薬としての機能を持たせることができれば,コンポストを肥料,土壌改良材とともに化学農薬の代わりに使用することができる。ここではバイオ農薬の機能を持ったコンポストのことを機能性コンポストと呼ぶ。機能性コンポストは植物病原菌に対して拮抗作用を持つ微生物(拮抗微生物)をコンポスト中で増殖させて作ることができる。しかしながら,機能性コンポストは拮抗微生物をコンポスト原料に接種するだけでは再現性良く製造することはできず,接種した微生物の増殖に適するコンポスト化プロセスの制御が不可欠である。

輸入食品の安全性,正義なき中国食品たたき

藤田 哲

輸入食品の安全性監視の検査で,発見される主な食品衛生法違反は,原料としての穀物,野菜などの生鮮食品と,加工食品とでは内容が異なる。また,検査の重点の置き方で,検査結果に差異が起こる。2004年の場合,全違反件数に対する割合が最も多い違反は,水産動物加工品の12%,野菜調整品の9%,魚類加工品の8%,穀類調整品の5%であった。また,2003年の検疫所によるモニタリング検査の結果では,水産加工品の違反が最多で,違反件数全体の40%もあった。2005年度には,冷凍食品などの微生物規格(細菌汚染)の違反が最も多く全体の32%,食品添加物に関する違反が30%,カビ毒など有害・有毒物の違反が17%,残留農薬と動物用医薬品の残留の違反が,それぞれ5%であった。

近未来のチーズ製造技術

市橋 信夫

世界には代々受け継がれた伝統的な製法で独特のチーズの味を守り続けている小さな酪農家が存在する一方で,それらの何千,何万倍もの規模で製造工程を合理化し,効率化している大規模チーズメーカーも存在する。この製造工程の合理化は,ここ数十年の間に飛躍的に進歩したチーズ製造技術に因っている。ここでは,近年特に注目されているチーズ製造技術とその将来的な可能性について述べる。

現代チーズ学「三 次 機 能」

堂迫 俊一

日本人の消費者がチーズについて一般的に抱いているイメージを調査すると,おいしくて,カルシウムが豊富で吸収がよく,栄養豊富で良質なタンパク質が摂れるという回答が多い。高齢者ではさらに「骨粗鬆症にいい」という回答も高かった。一方で,塩分が多そう,たくさん食べると太りそうという悪いイメージも抱いている。そのせいか,平成15年度における日本人の年間一人当たりのチーズ消費量はわずか1.9kgでしかない。国民一人あたりのチーズ消費量が高いギリシャやフランスに比べると1/10以下であり,ヨーロッパでも比較的チーズ消費量が少ない東欧諸国に比べても1/5程度である。

チーズ製造技術の変遷と進歩

相澤 茂

哺乳動物(牛,水牛,羊,山羊,馬,ラクダ等)を家畜として飼育して,その乳を食用としていた文化圏において,チーズの製造法は自然発生的にできたものである。古代において,乳製品としてはチーズよりも発酵乳が先に作られていたと考えられる。搾乳環境から入った乳酸菌の働きで,室温に放置されることでごく自然の成り行きにより発酵乳ができていた。その発酵乳を籠等に入れることで水分(ホエイ)が排出され,チーズが得られたのであろう。一方,アラビアの商人が家畜の胃袋に乳を入れて持ち運んだときに,塊り=チーズができたという民話があるが,哺乳動物の胃袋由来の凝乳酵素を使用するチーズ製造法の発祥を示唆している。このようなチーズの発祥は,紀元前6000年頃,地域は牧畜が発達したチグリス川,ユーフラテス川流域あたりといわれている。

随 想「折り紙スキルによる容器類の体積減容化方法の提案」

有尾 一郎

この提案は,平成15年度日本学術振興会(JSPS)による英国の大学に派遣研究者として、円筒構造系の座屈現象に関する研究がきっかけです。その当時,対称な構造物がある臨界点で崩壊する「対称性の自発的破れ」の座屈現象の構造モデルを追い求めていました。ある日、ホストの教授より、ある数学者の「origamiの数学」の話題と,オリガミ作家クレスリングの円筒ねじりパターンの記事を紹介されました1)。しかしながら,両者とも力学的な観点が述べられておらず,この日本伝統文化である折り紙の「折り」現象を,対称性が壊れる「座屈モデル」として理解するために,その日から,連日研究室でオリガミの供試体を作っては,ねじって,そのつぶれ方を観察していました。しばらくして,円筒構造体の座屈研究の世界では,ある著名な研究者の中に日本人研究者が過去にかかわった歴史的な実験研究と,このオリガミによる力学的挙動を検証することになりました。

連載エッセイ 楊枝の歴史と文化(5) -角楊枝を丸くする機械の開発-

稲葉 修

広栄社の前身である東洋妻楊枝会社は大正13年アメリカより製造機械の一部を導入した。「フルセットで購入すれば小さな銀行の資本金に匹敵したのでとても全部揃えられなかった」と稲葉由太郎は当時のことを話している。零細企業には二台の機械の購入すら大変な決断だったのである。そのため,この時の機械の輸入に関する書類一式が全て「重要書類」として自宅の蔵に保存してある。その中にはフルセットの機械の写真・製造の説明書・送り状・通関書類・掲載紙・陳情書などがある。その新聞は大正13年11月12日の大阪毎日新聞・三重号である。見出しに「妻楊枝 米国などに負けるものか! 新式機械を買って大活躍する東洋妻楊枝会社の奮発」と出ており,三重県地方の産地の輸入製品による打撃の深刻さと新型機械に対する期待の大きさが窺える。

連載 薬膳の知恵 (18)

荒 勝俊

気・血・津液はこれまでに述べてきた様に,生命活動の基本的な物質であり,絶えず体内を巡っている。こうした気・血・津液が不足あるいは過剰になればその運行に障害が起こり,最終的に臓器に影響を与える事になる。
 今回紹介する気血津液弁証(きけつしんえきべんしょう)は,中医学における気・血・津液の関係の理論から病変を分析し症候を弁証する方法である。本弁証法は,大きく“気病弁証” ,“血病弁証”,“津液弁証”の三つに大別され,今回はその中で“気病弁証”に関して述べる。

築地市場の魚たち(5)

山田和彦

近年,魚離れがいわれて久しい。調理に手間がかかる,価格が高いなどさまざまな理由が挙げられているが,魚食が嫌われているのではないように思う。親子が自分でサバの干物を作るというイベントがあった。新鮮なサバを使い,できたての干物をその場で焼いたところ,普段魚を食べない子供たちが「おいしい!」と言って食べたという。寿司やウナギなどは,子供にも人気がある。魚には特徴的な旨味成分があり,魚でしか味わえない美味しさがある。日本人は古くからさかなを食べてきたが,同時に食べるための工夫もしてきた。それは,日本人の多くが魚の美味しさを認識していたからかもしれない。今回は,そんな魚の美味しさにまつわることを考えてみたい。

中国食品通信

馬 桂 華

中国食品日報によると日本の中国に対するプラスチック加工機械の輸出額が急速に増加していることを報告している。1999年,62億円だったものが,2000年には102億円に急増し,その後,2001年は131億円,2002年は306億円,2005年には460億円と急激に増加している。 460億円の内容は,以下のとおりで,プラスチック成形機械が378億円,押し出し機械が69億円,吹き出し機械が13億円となっている。2番目の相手国は,中国香港205億円,タイ147億円,韓国104億円,中国台湾73億円,インドネシア51億円,マレーシア38億円,ハンガリー33億円,ベトナム 31億円となっている。一方,日本が中国から輸入したプラスチック加工機械は,2005年で2823台であった。その内容は,成形機械2689台,押し出し機械116台,吹き出し機械18台で輸入金額は35億円(成形機械29.9億円,押し出し機械3.1億円で,吹き出し機械1.9億円)となっている。また,日本はドイツからもプラスチック加工機械を輸入しており,その金額は,2005年で46億円に達している。