New Food Industry 2019年 6月号

◆総 説

パン焼成時にともなうメイラード反応と脂質過酸化反応との関係

豊﨑 俊幸/Toshiyuki Toyosaki

Relationship between the Maillard reaction and lipid peroxidation in adding various fatty acids on bread baking

Toshiyuki Toyosaki *

1Department of Foods and Nutrition, Koran Women’s Junior College

Key Words: Maillard reaction, Lipid peroxidation, Saturated fatty acids, Unsaturated Fatty acids, Bread baking

Abstract
 The Maillard reaction accompanying the baking of bread largely affects the quality of finished bread and the degree of taste. Particularly, the difference of lipids as a secondary material can be considered as one of the major factors. We examined how the differences in constituent fatty acids of lipids in secondary materials are related to Maillard reaction. Chemical differences in added fatty acids were identified to be a major factor in the induction of the Maillard reaction and lipid peroxidation in bread baking. With saturated fatty acids, a higher carbon number tended to promote the Maillard reaction induction and suppress lipid peroxidation induction. Conversely, with unsaturated fatty acids, a greater degree of unsaturation tended to suppress the Maillard reaction induction and promote lipid peroxidation induction. The present findings clarified the involvement of fatty acid carbon number and degree of unsaturation in the Maillard reaction and lipid peroxidation inductions in bread baking. This phenomenon is a novel finding for the food science field.

要約
 パン焼成時におけるメイラード反応および脂質過酸化反応の誘導は,添加された脂肪酸の化学的差異が大きな要因の一つとして関与していることが明らかとなった。すなわち飽和脂肪酸の場合,炭素数が多いほどメイラード反応の誘導は促進される傾向を示したが,脂質過酸化反応の誘導は抑制される傾向を示した。いっぽう,不飽和脂肪酸の場合,不飽和度が高いほどメイラード反応の誘導は抑制される傾向を示したが,脂質過酸化反応の誘導は促進される傾向を示した。本研究結果から,パン焼成時に伴うメイラード反応および脂質過酸化反応の誘導に,脂肪酸の炭素数および不飽和度が関与している事実を明らかとした。この現象は,食品科学分野に新たな知見を提起できるものと考えられる。

視覚を制限した暗闇での飲料味覚の現れ方 

小林 茂雄/Shigeo Kobayashi,近藤 奈々美/Nanami Kondo大嶋 絵理奈/Erina Oshima

Taste sensation of beverages in a darkness with restricted vision

Shigeo Kobayashi1, *, Nanami Kondo1, Erina Oshima2

1Tokyo City University, Department of Architecture, 2Minamoca Lab.

Key Words: beverage, scotopic vision, darkness, deliciousness, content information, uncertainty

Abstract
 This research focused on how taste appeared at drinking in darkness under scotopic vision. An experiments was conducted to drink 13 kinds of beverages by combining the two conditions of restricting vision and notice of contents. As a result, it was found that it was difficult to hit the contents properly in a dark and unknown state, the correct answer rate was almost less than 25%. The high percentage of correct answers was high lightness and low lightness beverages. Due to the addition of visual information and contents information, sense of resistance was released and there was a tendency to feel delicious and feel the taste intensely. However, the opposite reactions tended to occur in beverages that were not good for subjects.

 日常生活で食事をするとき,食品が見えてかつ中身が何かを知っている状態で食べたり飲んだりすることが普通である。しかしときには,就寝前の暗い部屋でものを口にしたり,見た目だけで成分を確認せずに食品を選んで食べたりすることがある。そういう場合でも口に入れる前に事前知識や経験によって中身を想像していることが多いだろう。想像と違った味がする場合は,飲食に戸惑ったり味覚に変化が生じたりしやすいと思われる。実際に,視覚情報から抱く食品に対する味の期待に対して現実の味の差が大きい場合には,嫌悪反応を示しやすいことが知られている1)。本研究では視覚情報と中身に関する情報が制限された場面での飲食行為に着目する。飲料を対象として,空間がほとんど見えない暗闇と内容物を知らされていない状態の二つの条件を組み合わせて,中身をどの程度正しく想像できたり,味をどのように感じたりするのかについて把握しようとする。また,視覚や内容物の情報が制限された状態から与えられた状態に変わったときに,味覚がどのように変化するかについても把握することを目的とする。

卵焼きロスを利用した新規発酵調味料の開発Ⅱ
特に醤油様調味料製造時の主原料や麹の基質としての再利用について

山崎 聡子/Akiko Yamazaki,近藤 奈々美/Nanami Kondo大嶋 絵理奈/Erina Oshima,舩津 保浩/Yasuhiro Funatsu

 近年,日本における食用に仕向けられている食品の量は年間約8,400万トンあり,その利用主体は大きく食品関係事業者と一般家庭に分けられる。食品関係事業者から出る廃棄物の一部は有価取引される製造副産物として肥飼料化されているが,それ以外の廃棄物と家庭から出る廃棄物を合わせ,年間約1,700万トンの食品廃棄物が排出されている1)。これらのうち約380万トンは飼料化,肥料化およびエネルギーなどとして再生利用されているが,残りの約1,300万トンは焼却や埋め立てなどにより処分されている。また,約1,700万トンある廃棄物のうち,本来食べることができるのに廃棄されているもの,いわゆる「食品ロス」が年間約500〜800万トン含まれると推計される。
 また,日本の総合食料自給率は約39%と先進国の中では最も低く,米やサツマイモを除きほとんどの食材を諸外国からの輸入に頼っている。また,世界の人口は現在約66億人から今世紀中に100億人を突破するといわれ,慢性的な食料不足が懸念されている。このような背景から,食品ロスの削減は日本だけでなく世界的に急務な課題である2)。
 日本の食品関連事業者から食品ロスが出る理由としては,「欠品を防止するために保有するうち,期限切れなどで販売できなくなった」,「新商品販売や規格変更に合わせた店頭からの撤去(定番カット食品)」,「製造過程での印刷ミス,流通過程での汚損・破損などによる規格外品の発生」があげられる1)。
 食品ロスは様々な種類があるが,卵焼き製造工程でも焼き加減等の相違によりロスが発生している。しかし,その再利用に関する研究例は少ない。これまでに山崎ら3)は卵焼き製造ロス麹を用いて味噌を開発し,その品質を市販白こし味噌と米麹を用いて製造した試料と比較した。その結果,製品の品質は麹の基質に影響され,卵焼きロス麹の方が後2者に比べて色調が薄いが,脂質や遊離アミノ酸などが多く,官能的な風味が良好であると報じた。
 本研究では卵焼き製造工程で発生した規格外品:卵焼き製造ロス(以下,卵焼きロスと略す)を発酵調味料の原料として捉え,麹を用いて発酵させ,調味料に変換させる試みを行った。すなわち,発酵法の相違による醤油様発酵調味料の品質の違いについて調査した。

山伏茸子実体(Hericium erinaceum fruit body)における
記憶力向上および認知機能改善に関する研究

具 然和/Yeunhwa Gu

Improvement of memory and cognitive function in Hericium erinaceum fruit body

Yeunhwa Gu*

*Chairperson International Affairs Department of Radiological Science,
Graduate School of Health Science, Faculty of Health Science Junshin Gakuen University

Key Words: Dementia, Hericium erinaceum fruit body, Senescence promoting model mouse, Morris water maze test, Antioxidant effects

Abstract
 Recently in Japan, Japanese has more than 2 million people with dementia, and measures to treat dementia patients are becoming urgent modern social problems for Japan, which is aging. Dementia is roughly divided into cerebrovascular dementia (VD) and Alzheimer type dementia (AD). VD develops as a result of secondary nerve cell damage due to cerebral infarction, cerebral hemorrhage and the like. Therefore, there is a possibility that the onset can be prevented by controlling hypertension, drinking alcohol, smoking, etc., which are risk factors. On the other hand, AD is a progressive neurodegenerative disease, a decrease in acetylcholine content accompanying a decrease in choline acetyltransferase activity is recognized, and only a drug approved as a therapeutic agent is donepezil hydrochloride. It is the Hericium erinaceum fruit body used this research. In this study, we examined the influence of Hericium erinaceum fruit body substance on the brain and its effectiveness on dementia using senescence promoting model mouse (SAM mouse).
 In the Morris water maze test, the arrival time to the platform was significantly delayed in the Sham control group compared to the Control group. In addition, the Hericium erinaceum fruit body subgroup showed a tendency to shorten the arrival time as a whole compared to the Sham control group. In the SOD-like activity measurement, the inhibition rate of the Yamabushi mushida substantive group showed a tendency to increase as compared with the Sham control group, and the luminance measurement showed a tendency to decrease the luminescence intensity. In the lipid peroxidation measurement, there was no influence in the Hericium erinaceum fruit body. In the serotonin concentration measurement, the serotonin concentration tended to increase in the Hericium erinaceum fruit body in comparison with the Sham control group.
 From this study, it was recognized that ingestion of Hericium erinaceum fruit body entity resulted in an increase in SOD - like activity and elimination of peroxy radicals. In addition, by promoting serotonin secretion, spatial cognitive dysfunction was suppressed and learning and memory ability was improved.From the above, it is considered that the Hericium erinaceum fruit body entity suppresses the aging of the brain and is effective for prevention and treatment of dementia.


要旨
 現在日本では200万人以上の認知症患者を抱えており,高齢化の進むわが国にとって認知症患者対策は緊急を要する現代の社会問題となっている。認知症は,脳血管性認知症(VD)とアルツハイマー型認知症(AD)に大別される。VDは脳梗塞,脳出血などにより二次的に神経細胞が障害を受けた結果発症する。そのため,危険因子となる高血圧や飲酒,喫煙などのコントロールにより発症を予防できる可能性がある。一方ADは進行性神経変性疾患で,コリンアセチルトランスフェラーゼ活性の低下に伴うアセチルコリン含量の減少が認められ,治療薬として認可されている薬剤は塩酸ドネペジルのみである。
今回用いた山伏茸子実体(Hericium erinaceum fruit body)である。本研究では,老化促進モデルマウス(SAMマウス)を用いて,山伏茸子実体の脳に与える影響および認知症に対する有効性について検討した。

【研究方法】
 SAMR1マウスをControl群,SAMP8マウスをSham control群,山伏茸子実体群の計3群とし,Control群およびSham control群は蒸留水を,山伏茸子実体群は山伏茸子実体を経口投与とした。摂取開始30日後に眼底採血を行い,得られた血清により抗酸化測定を行った。また,摂取開始31日後からMorris水迷路試験を7日間行った。さらに,Morris水迷路試験後のSAMマウス脳におけるセロトニン濃度および過酸化脂質濃度を測定した。

【研究結果】
 Morris水迷路試験では,Sham control群はControl群と比較して,プラットフォームへの到達時間が有意に遅延した。また,山伏茸子実体群はSham control群と比較して全体的に到達時間の短縮傾向を示した。SOD様活性測定では山伏茸子実体群はSham control群と比較して阻害率の上昇傾向を示し,ルミノール測定では発光強度の減少傾向を示した。過酸化脂質測定では,山伏茸子実体による影響はみられなかった。セロトニン濃度測定では,山伏茸子実体群はSham control群と比較してセロトニン濃度の増加傾向を示した。

【結論】
 本研究より,山伏茸子実体を摂取することで,SOD様活性の上昇およびペルオキシラジカルが消去されることが認められた。また,セロトニン分泌が促進されたことにより,空間認知機能障害が抑制され,学習・記憶能力の向上が認められた。
 以上のことから,山伏茸子実体は脳の老化を抑制し,認知症の予防および治療に対して有効であると考えられる。

◆研究解説

乳酸菌が醸す発酵食品の世界
−製造過程における乳酸菌の役割と機能−

中川 智行/Tomoyuki Nakagawa

 私たちは毎日,知ってか知らでか,様々な発酵食品を口にしている。朝食の場合,和食では大概,一杯のみそ汁から始まり,漬物を頬張りながら,納豆に醤油を垂らしてご飯を掻き込む。一方,洋食では,焼きたてのパンをかじりながら,ヨーグルトを食べる。このありふれた朝食のうち,和食では少なくとも「味噌」,「漬物」,「納豆」,「醤油」が,洋食でも「パン」,「ヨーグルト」は共に微生物の恵みである発酵食品である。また,夜が更けて晩酌を楽しむのが日課の方も多いだろう。もちろん,ビール,ワイン,日本酒などの「酒類」も発酵食品の一つであり,その肴として食する「チーズ」や「発酵サラミ」,通が好む「くさや」や「鮒寿司」などもまた発酵食品である。このように,世の中には様々な発酵食品が存在し,それを醸している微生物も多種多様である。つまり,私たちの食卓は朝から晩まで微生物の恩恵なしでは語ることができない「微生物ワールド」なのである。
 もちろんこれら発酵食品は,昨日,今日のうちに,突然現れたものではなく,太古の昔から私たちの祖先が試行錯誤を繰り返すことで身につけてきた術であり,現在まで伝承してきた先人たちの英知の結晶といっても過言ではない。しかし,私たちの先祖は微生物の存在を知る由もなく,それぞれの土地の気候風土に応じて経験的に腐敗菌の増殖を抑え,特定の有用微生物を優先的に生育させる方法を身につけてきたといえる。つまり食品の発酵とは,その発酵過程で能力を発揮させたい有用微生物たちに,いかに心地よく働いてもらうか,また発酵過程で不必要な微生物をいかに排除するか,その仕組みを構築することである。
 一方,発酵食品と切ってもきれない関係にある最もポピュラーな微生物群は,現在,巷を賑わせている「乳酸菌」である。乳酸菌は「ヨーグルト」,「チーズ」だけでなく,「味噌」,「漬物」,「醤油」,ときには「パン」や「酒類」の発酵にも関与するなど,ほとんどの発酵食品の製造過程に顔を見せる発酵界のリーダー的存在ともいえよう。本稿では,この「乳酸菌」について解説し,それぞれの発酵食品の製造過程における役割と,最後に筆者らの「紀州なれずし」の発酵過程における菌叢解析の研究を紹介したい。

◆連 載

デンマーク通信 デンマークのアルコール

Naoko Ryde Nishioka

 以前,デンマークのビールにまつわる話を紹介したことがありますが,今回はアルコール全般を含めた話を紹介したいと思います。
 デンマークは北欧の寒い国で,きっとアルコール消費も多そうだ。というのが一般的な見方だと思います。しかしデンマークではアルコールといってもロシアでウォッカを飲むイメージや,フランスで水より安いワインを飲むイメージとは違う,アルコール文化があります。
 まず,アルコールは何歳になると飲み始めるか?についてですが,日本のようにはっきりとした年齢への認識はなく,アルコールを購入できる年齢が,アルコール解禁年齢として人々に認識されています。アルコール度数の弱いビールなどは,16歳から購入が可能で,度数の高いハードリカー類は,18歳から可能です。スーパーなど,アルコールを購入できる場所に行くと,度数16.5%以下は16歳,それ以上は18歳と書かれているのを目にします。デンマークで16歳というと,通常は中学3年生なので,中学時代からビールなどのお酒はオッケーとされる国なのです。しかし,その年齢よりも早く飲み始める青少年も多く,若年層のアルコール問題は,中学校の保護者会などでもよく議論される話題です。

野山の花 — 身近な山野草の食効・薬効 —
ウツボグサPrunella vulgaris L. var. linalacia Nakai
(=P. vulgaris L. subsp. asiatica (Nakai) H.Hara)
(シソ科 Labiatae APG : Lamiaceae)

白瀧 義明/Yoshiaki Shirataki

しとしと雨の降る6月,梅雨の晴れ間に野山を歩いていると道端などで紫色の小さな花を穂状に付けた草本を見かけます。これがウツボグサです。本植物は高さ約20〜30cmの多年生草本で,東アジア温帯地域に分布し,日本各地の低山,野原や丘陵の道端など,日当たりのよい山野の草地に群生します。匍匐性で,高さ10〜30 cm,茎は4月頃に地表を這うように伸ばし,直立またはやや斜めに立ち,茎の断面は四角形,葉は披針形で対生し,全体に細かい毛が密生していますが,シソ科植物特有の芳香はありません。花期は5〜7月,茎の先端に3〜8 cmの角ばった花穂をつけ,紫色の唇形花を穂の下から上へ順に咲かせます。

◆解 説

成熟がニジマスの臓器や体成分に及ぼす影響-2.発達,完熟,過熟

酒本 秀一/Shuichi Sakamoto

 初期体重約700gのニジマスを6月14日から9月6日まで約3カ月間4段階のカンタキサンチンを含む飼料で飼育し,その間定期的に各区から5尾ずつ魚をサンプリングして成熟初期の生殖腺発達程度が臓器の状態や体成分に及ぼす影響を調べた結果を前報1)で説明した。
 結果は以下の通りであった。
・精巣体重比が9%以下,卵巣体重比が7%以下の成熟初期には未だ肥満度(体重×100/尾叉長3)に影響は及ばない。
・雄では精巣体重比が大きくなるに従って肝臓体重比が小さくなる傾向が認められるが,個体差が大きい。雌では卵巣体重比と肝臓体重比の間に相関は認められない。
・生殖腺の大きさに拘らず雌の方が肝臓体重比と腹腔内脂肪蓄積組織体重比が大きい。
・背肉の色素量(総カロチノイド含量)と色彩色差計による測色値との関係は雌雄でやや違っている。背肉の脂質含量の違いが測色値に影響を及ぼしている可能性が有る。
・精巣体重比が5%,卵巣体重比が3%以下であれば,体重100g当りの投与色素量と背肉の色素量との間に雌雄共Y=AX+B,X:投与色素量,Y:背肉色素量の強い正の相関が認められる。それ以上に生殖腺が発達すると雌雄共個体差が大きくなり,相関は弱くなる。
・体重100g当りの投与色素量と背肉色素量との関係式Y=AX+Bの傾きAは雄の方がやや大きい。これは雌雄の体重差による摂餌量の違いに起因するものと思われる。
・飼料から供給される色素量に拘らず一定量の色素が優先的に卵に送られている。これは卵における色素の重要性を示すものと思われる。
 本報告では前報1)の成熟初期の影響に引き続き,生殖腺がさらに発達して完熟,過熟へと進行した場合に臓器や体成分にどの様な影響を及ぼすのかを調べた。また,組成の異なる2種類の飼料を与え,生殖腺が急速に発達する時期以降に与えた飼料がどの様な効果を有するかも同時に調べた。

新解説 グルテンフリー穀物による麦芽とビール醸造(1)

瀬口 正晴/Masaharu Seguchi,竹内 美貴/Miki Takeuchi,中村 智英子/Chieko Nakamura

 本論文「グルテンフリ−穀物 食品と飲料,新解説グルテンフリー穀物による麦芽とビール醸造(1)」は,“Gluten-Free Cereal Products and Beverages” (Editted by E. K.Arendt and F.D.Bello) 2008 by Academic Press (ELSEVIER),の第15章 Malting and brewing with gluten-free cereals by B. P. N. Phiarais and E. K. Aren’t 等の一部を翻訳し紹介するものである。

 ビール製造の技術と工夫は約 5000年に遡ることができ,世界の多くの地域の発掘によって証明されている。古代の醸造法の描写は古代エジプトの墓に書かれた中に見出される。ビールの記述は 2000BCのメソポタミア遺跡の記述に含まれている(Arnold, 1911)。ビールはパンとともに古代文明の食事で最も重要な食品である。さらに,食品であるとともに,ビールは宗教的信仰,儀式の中で中心的役割を担う(Corran, 1975)。Scythians(スキタイ), Celts(ケルト), Germanic(ゲルマン)民族により好まれた飲料で,そこでは毎日の家庭の食事の仕事として女性により発酵の仕事が行われ,すべての文明の中でベーキング,醸造は女性の仕事であった。醸造産業への変化はキリスト教の宗教的場所の醸造所で起こり,ビールは彼ら自身のためだけであったが他のものへの報酬ともされた(Arnold, 1911; Kunze, 1996a)。ひきつづいてそれは男性のための職業となり今日に至る(Bamforth, 2003)。