New Food Industry 2019年 5月号

総 説

血管内皮細胞の機能不全と大豆イソフラボンの動脈硬化予防

山形  一雄/Kazuo Ymagata

要旨
 血管内皮細胞は血液と直接,接している細胞で血管弛緩,凝固・線溶系,バリアー機能など多くの重要な血管機能を担う。特に血管内皮細胞から産生される一酸化窒素(NO)は,血管平滑筋細胞に作用して弛緩反応を誘導して健康な血管内皮細胞の指標となる。しかし,血管内皮細胞の障害により健全な機能が失われると動脈硬化が誘導され,さらに死亡率の高い心筋梗塞や脳卒中の発症リスクを高める。一方,大豆の健康がヒトで示され,特に大豆に含まれるイソフラボンは,血管内皮細胞の健全性に貢献し,例えばNO産生の増加を誘導し動脈硬化を予防することが示されている。イソフラボンは,主にマメ科植物に多く含まれるポリフェノールで,大豆にはダイゼインとゲニステインとそれら配糖体が含まれる。これらイソフラボンには共通にエストロゲンと類似した構造を有し生体で多様なエストロゲン様作用を誘発させる。また,イソフラボンは,抗酸化や抗炎症作用を有し血管傷害を守る作用を発揮する。本総説では,大豆イソフラボンの血管内皮細胞に対する作用,特にNO産生作用などの血皮健全性や動脈硬化阻止作用などの心疾患予防に対する役割を記述する。

食後血糖値の上昇抑制効果が期待される玄米加工素材の開発

大木 梓織/Shiori Oki,佐藤 千樺/Chika Sato,秋山 展/Yoshinobu Akiyama

近年,わが国ではライフスタイルの変化や食生活の欧米化・高齢化に伴う糖尿病などの生活習慣病の増加が懸念されている。従来はこれらの予防としてカロリーや糖質の制限を中心に行われてきた。しかしながら,摂取する澱粉種や調理方法により食後血糖値の動態は異なっており(Goniら1)),食後血糖値の変化を示す指標であるグリセミックインデックス(GI)の活用により生活習慣病予防や健康増進が期待されている。このような背景からわれわれは食後血糖値の上昇を抑制することのできる澱粉の開発を目的に研究を行っている。
 現在市場に出回る難消化性澱粉の多くは,難消化性デキストリンや架橋澱粉などといった化学修飾によるものが多い。このような澱粉は,食品の一括表示における食品添加物として扱われ,「加工澱粉」としての記載が不可欠である。澱粉を低水分の状態で高温(120℃など)に加熱する処理を湿熱処理と呼ぶ2)が,湿熱処理といった加熱処理は物理的な加工方法であるため,食品添加物として分類されないため,消費者受容性の高い新規難消化性澱粉の作製に有用な手法になりうると考えられている。
 これまでにわれわれは,澱粉加工食品への利用度が高い馬鈴薯澱粉を澱粉試料として,脂肪酸を添加・加熱するという簡便な食品加工的処理による食後血糖値上昇抑制を可能にする澱粉素材の開発を目指し研究を行ってきた。森らは馬鈴薯澱粉にパルミチン酸やリノール酸を添加することにより,澱粉らせん構造内部に脂肪酸が侵入し,澱粉と脂肪酸が複合体を形成することで馬鈴薯澱粉の酵素分解グリセミックインデックス(EGI)の低下,すなわち脂肪酸を添加・加熱による馬鈴薯澱粉への難消化性付与ができることを報告した3)。中嶋らはパルミチン酸やリノール酸の他,ラウリン酸,ミリスチン酸,ステアリン酸,オレイン酸といった脂肪酸の添加においても,馬鈴薯澱粉に難消化性を付与し,澱粉と複合体を形成し得る脂肪酸である澱粉内部脂肪酸量がEGIの低下に寄与することを報告している4)。

レスター・パッカー教授追悼 代替医療としての抗酸化物質

未病ケア食品としての代謝中間体:スクアレンを例として

小西 徹也/Tetsuya Konishi

Abstract
 Mibyou is the concept originated about three thousand years ago in China, and was defined as a pathological condition that is not ill but is a step leading to diagnosable diseases. Therefore, Mibyou care becomes important target to attain elongation of healthy lifespan in current longevity society. Currently, the mibyou concept was renovated and classified into traditional and modern Mibyou according to the development of diagnostic technology. Based on the current definition of Mibyou, so-called functional foods need to be categorized as Mibyou care foods. Metabolic intermediate like squalene is one of the targets of study as the Mibyou care food because they are different from xenobiotics and micronutrients as food factor. Characteristic features of metabolic intermediate are discussed.

 長寿高齢化により生活習慣や老化に伴うがんやメタボリック症候群などの複合疾患の増加が健康寿命の延伸を妨げる要因となってきた。食は生活習慣病の発症と関係する重要な因子である。特に高カロリー高脂肪の摂取に伴う肥満が動脈硬化やそれに起因する脳,心臓血管系疾患や糖尿病,認知症,がんなど高齢社会における生活の質(QOL)を阻害する疾患の引き金になるために,肥満の予防と肥満に起因する生理状態の異常であるメタボリック症候群の予防と改善が社会的に急務となっている。

◆研究解説◆

部分解繊セルロースの食品素材としての可能性

芳野 恭士/Kyoji Yoshino

 我々が食事の際に野菜や果実を摂取すると,それらに含まれる水溶性と不溶性の食物繊維を一緒に摂ることになる1)。水溶性の食物繊維成分としてはキシログルカンのようなヘミセルロースやペクチン等が,また不溶性の食物繊維成分としてはセルロースやリグニンが知られている2)。このうち,水溶性の食物繊維については様々な保健作用が報告されている。一方で,不溶性の食物繊維,特に木材パルプに含まれる高い不溶性を示すセルロース繊維は,紙産業では大量に利用されてきたが,食品素材としての利用に関する検討は十分ではないと感じられる。

クマザサ抽出液(ササヘルスⓇ)の歯髄細胞へ及ぼす影響について

増田 宜子/Yoshiko Masuda,横瀬 敏志/Satoshi Yokose,坂上 宏/Hiroshi Sakagami

Abstract
The dental pulp is the connective tissue and located in the center of the tooth. The pulp contains odontoblasts that not only form dentin, but also interact with dental epithelium early in tooth development to initiate the formation of enamel. The pulp remains vital throughout life and is able to respond to external stimuli. Both dentin and pulp contain nociceptive nerve fibers. Autonomic nerve fibers occur only in the pulp. When needed for repair, more dentin can be laid down and new odontoblasts differentiated1). Moderat stimuli facilitate the dentin deposition of the pulp and it protects the pulp from the infection of the bacteria for caries. The applications of moderate stimuli of many kinds of medicine were used in the clinic. Calcium hydroxide is considered as the drug of maing choice and mineral trioxide aggregate (MTA) is also introduced. Sasa senanensis Rehder (SE) (“SASA-Health”) has the adequate cytotoxic activity2). This time, we used SE as a stimulus for the pulp and look for the new function of SE in the dental applications. In the pulp cell culture, various concentrations of SE were added in the culture medium, and investigated for its effect on the differentiation of pulp cells.


要約
 歯髄は歯の中央を占める結合組織である。象牙芽細胞を含み外部からの刺激によって象牙質を形成するだけでなく歯の発生初期のエナメル質形成の際に上皮細胞とともに関係している。生涯を通じて生き続け外部からの刺激に対して反応し続ける。歯髄は侵害受容性の神経線維を含んでいる。歯髄には自立神経線維も含まれており修復が必要になると新たに象牙芽細胞に分化してさらに象牙質を添加していく1)。歯髄へ適度な刺激を与えることによって象牙質を添加させ齲蝕などによる感染から歯髄を保護する治療法がある。歯髄への刺激には様々な有効な薬剤が用いられている。水酸化カルシウム製剤が主に用いられるがケイ酸三カルシウム,ケイ酸二カルシウムを主成分とした薬剤(MTAⓇ)もある。ササヘルスⓇは,細胞傷害作用があることが報告されている2)。今回,我々はササヘルスⓇの新しい機能を探索する研究の一環として培養ラット歯髄細胞への影響について様々な濃度での細胞増殖活性とアルカリホスファターゼ活性を比較検討しササヘルスⓇによる歯髄細胞の象牙芽細胞様細胞への分化へ及ぼす影響について調べることにした。

解 説

成熟がニジマスの臓器や体成分に及ぼす影響-1.成熟開始時

酒本 秀一/Shuichi Sakamoto

 前報1)において数段階濃度でカンタキサンチンを添加した飼料で大きさの異なるニジマスを約3カ月間飼育し,その間定期的に魚をサンプリングして飼料へのカンタキサンチン添加が飼育成績や各臓器の状態,体成分等に及ぼす影響を調べた。結果は以下の通りであった。
・カンタキサンチン添加量が10mg/100g飼料以下であれば,何れの大きさのニジマスにおいても飼育成績(増重量,飼料効率,タンパク質効率),各臓器の状態や体重比,背肉・肝臓および血漿の色素量以外の成分に影響を及ぼさない。
・色彩色差計による背肉の測色値(a,b)の間にはy=Ax+B,x:a値,y:b値の直線関係が認められ,直線の傾きは使用する色素の種類によって異なると考えられる。なお,a値は値が大きい程赤色が強く,小さい程緑色が強いことを示し,b値は同様に黄色と青色の指標である。
・魚1尾当りの投与色素量と色彩色差計による測色値(a,b,a+b)との間にはy=Aln(x)+B,x:投与色素量(mg/尾),y:a,b,a+bの対数関係が,a,b,a+b値と背肉色素量との間にはy=Ae^(Bx),x:a,b,a+b,y:背肉色素量(mg/100g)の指数関係が認められた。
・背肉の色彩色差計による測色値と色素量との相関はa値が最も強く,色彩色差計による測色値から背肉の色素量を推測するにはa値が最も適している。
・魚1尾当りの投与色素量および魚体重100g当りの投与色素量と背肉色素量との間にはy=Ax+B,x:投与色素量(mg/尾,mg/100g体重),y:背肉色素量(mg/100g)の直線関係が認められた。
・魚1尾当り投与色素量と背肉色素量との間に得られる直線の傾きは魚が大きくなるに従って小さくなっていたが,100g以下の魚ではそれ以上の大きさの魚より反って小さくなっていた。
・血漿の色素量は長期間に渡って投与された色素の総量ではなく,調査日直前に食べた飼料の量や色素量,採血条件の違い等の影響を強く受けていた。血漿の色素含量から背肉の色素量を推測するのは危険である。
・成熟開始前の雌個体では卵巣単位重量当りの色素量は投与色素量に従って高くなるが,成熟が開始されると一定量以上には増加しない。卵巣が大きくなり始めてからは,卵が大きくなることによって卵巣全体に含まれる色素の量を増やしている可能性が高い。

グルテンフリー穀物食品と飲料新解説グルテンフリーパンについて−2

瀬口 正晴/Masaharu Seguchi,竹内 美貴/Miki Takeuchi,中村 智英子/Chieko Nakamura

 水はドウ形成に不可欠な成分である;他成分を溶かし,タンパク質,炭水化物を水和し,さらにグルテンネットワーク形成にとって必要である(Maache-Rezzoug et al., 1998)。水は複雑な機能をもち,生化学的ポリマーの立体構造を決め,仕込み中のいろいろな成分間の相互作用の性質に影響を与え,ドウの構造形成に寄与する(Eliasso and Larsson, 1993)。フラワードウのレオロジー的性質には不可欠のものである(Bloksma and Bushuk,1988)。粉に水を加えると粘度は低下し,ドウの伸展性は増加する。一方,もし水の比率があまりに低いと,ドウはぼろぼろになり,連続性はなく,はっきりと表面の素早い脱水による“クラスト”効果を示す。一般にドウのかたさの変化は5-15%の間で起こり,そのときの水分含量は粉の体積の1%で変化する(Bloksma and Bushuk, 1988)。いろいろな成分がドウ中で吸水する間,変化ないデンプンだけはドウ中で水分含量を正確に測定できる。
 水で平衡化した時,天然デンプンはほぼ乾物重量kg 当たり約0.45kg の水を吸収する(Bloksma and Bushuk, 1988)。水分含量とその分布は,クラムのソフト感,クラストのかたさ,シェルフライフと言ったテクスチュアの性質を支配する(Wagner et al., 2007)。水分は製パン時生じる大きな変化(例えばデンプンの糊化)とその焼かれたパンの構造と食感に対しても重要な役割を演じる。粉に水を加えると,粉粒の外側の層は吸水し,ネバネバした塊が見られる。撹拌を続けると水和した外側表面層に代わり,新しい粉粒子層があらわれ,水にさらされ,そして水和される。この連続で全ての粒子が水和され消える(Hoseny and Rogers, 1990)。幾つかの物理的,化学的変化が粉と水のミキシング,ニーデングの間に起こる(Damodaran, 1996)。使われた引裂,押しのばしの力でグルテンタンパク質は水を吸収し,グルテンの一部はほどける。一部ほどけないタンパク質分子は,疎水相互作用とSH-SS 交換反応を容易にすすめ,糸のようなポリマーを形成する。これらの直線ポリマーは次々と,簡単に他のものと互いに相互作用すると思われ,多分それは水素結合,疎水結合w,S-S 結合,ガスをトラップ出来るようなシート状のフィルムを作る。

漢方の効能

(7)インフルエンザ,漢方薬と腸内細菌叢

肖 黎 / Xiao Li

 インフルエンザ(Influenza)は,インフルエンザウイルスを病原体とする急性の呼吸器感染症で,毎年世界中で流行がみられている1)。今年も,A型インフルエンザウイルスが日本と中国で猛威を振るい,“流行警報”が発令され,重症化した患者も数多く見られた。インフルエンザは東洋医学の感冒,喘症に属する。症状に応じて,東洋医学のいくつかの証に分類され,下記の通りに漢方薬を処方できる。

伝える心・伝えられたもの

—「すんき」の里との再会—

宮尾 茂雄 / Shigeo Miyao

 1983年(昭和58年)11月,恩師である当時の東京都農業試験場長の小川敏男先生とともに,長野県木曽郡王滝村を訪ねた。王滝村はJR中央線の木曽福島駅から車で40分以上離れた山間地にあり,御嶽山への信仰登山の登り口として昔から賑わっていた。宿泊した「たかの湯旅館」にも白衣姿の信者の方が多数宿泊されていた1)。
 「すんき」は木曽御岳山の山麓,王滝,開田,三岳村などで,数百年も前から代々受け継がれている全く食塩を使わずに製造される漬物である。寒さに向かうこの時期が漬け込みの最盛期であり,その作業の見学がその時の目的であった。翌日は朝から厨房で地元の方に実際に漬け込みを見せていただいた。当時は「すんき種」という漬種を使用する方法が一般的であった。前年に製造したすんきを乾燥させたもので,「すんき干し」ともいわれ,これを水に戻し,王滝蕪(おおたきかぶ)の茎葉をさっと湯通ししたものと一緒に漬け込む。漬け込みを終えたすんきは,一晩暖かい家の中に置いた後,戸外と同じ冷え込みの厳しい小屋で,発酵熟成させる。
 初めて出会った時,すんきは食塩を使わない無塩の漬物であり,乳酸菌の低温発酵により作られること,冬季の保存食で前年度のすんき干を漬種に使うこと,蕪の部分ではなく,葉と茎,蕪菜を利用することなど私の常識とは異なる世界に驚かされた。ご一緒させていただいた小川先生は「貴重な塩を何とか節約して,しかもつけ物をうまくつけようと,山国で考えたとしても,何も不思議はない。それで考え出されたのが「すんき」である。」と山国の暮らしの知恵を賞賛されていた2)。
「すんき」の柔らかい酸味は,かつお節を軽くふりかけた一品,かけそばにすんきを刻んで入れた「すんきそば」も美味しかった。小川先生にはあちらこちらと漬物紀行にお供をさせていただき,漬物の薀蓄を教えていただいた。王滝村でのすんきとの出会いも懐かしい想い出の一つである。

連 載

野山の花 — 身近な山野草の食効・薬効 —
シャクヤクPaeonia lactiflora Pall.
(=P. lactiflora Pall. var. trichocarpa (Bunge) Stearn)
(ボタン科 Paeoniaceae)

白瀧 義明/Yoshiaki Shirataki

 風薫る5月,山裾の農家の庭などでシャクヤク(芍薬)の立派な花を見かけます。シャクヤクは高さ約60cmの多年草で,5月中旬,大形の白〜紅色のボタン(牡丹)に似た花を咲かせます。本植物は中国東北部,朝鮮半島原産で,古く日本に渡来し,庭園,公園等に広く植えられ,園芸用の品種が数多くあります。茎は直立して数本そう生し,葉は互生,下部のものは2回3出複葉で,小葉は皮針形またはだ円形で,上部の葉は次第に単葉となり,葉脈,葉柄,および茎は赤味を帯び,根はやや数多く,紡錐状で肥厚しています。よく似た花をつけるボタンは,木本で「百花の王:花王」とよばれるに対し,シャクヤクは草本で「花の宰相:花相」とよばれます。

デンマーク通信 デンマークのチョコレート

Naoko Ryde Nishioka

 今回はデンマークのチョコレートにまつわる話を紹介したいと思います。
 チョコレートといえば,日本ではアメリカのメーカーのものや,スイスのメーカーのものが主流かもしれませんが,ここデンマークでのチョコレート事情はちょっと違います。チョコレートといっても,ディスカウントスーパーで買える,安さを売りにしたチョコレートから,オーガニック(有機)とクオリティを訴求したチョコレート屋さんまで様々です。