New Food Industry 2019年3月号

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New Food Industry 2019年 3月号

論 文

静水圧処理の葉物野菜への利用
~ほうれん草のみずみずしさ回復と短時間での一夜漬け作り~
High hydrostatic pressure treatment for recovery of spinach freshness and shortening of pickle preparation

川底 瑠華/Ruka Kawasoko,清水 昭夫/Akio Shimizu

High hydrostatic pressure treatment for recovery of spinach freshness and shortening of pickle preparation

Ruka Kawasoko, Akio Shimizu*

*Department of Science and Engineering for Sustainable Innovation,
Faculty of Science and Engineering, Soka University

Key Words: hydrostatic pressure,recovery of freshness,leafy vegetable, change of nutrient content, food processing

Abstract
 Hydrostatic pressure processing was used to recover the freshness of a leafy vegetable. The freshness of shriveled spinach was recovered at low hydrostatic pressure (+0.04 ~ +0.2 MPa) within a short period of time (1 ~ 5 min) at room temperature. During this process, the spinach nutrient content, such as potassium, did not change. Interestingly, the strongly shriveled spinach, which could not be restored to freshness using the conventional 50°C washing, could be restored by the hydrostatic pressure processing. In addition, spinach damage caused by the hydrostatic pressure was investigated based on appearance and potassium concentration. The results showed that 10 - min hydrostatic pressure processing did not damage spinach at pressures up to +150 MPa, which is the pressure at which enzymes are inactivated and the tertiary structure of proteins is denatured. As another application of low hydrostatic pressure, the possibility of shortening the preparation time of overnight pickles was investigated. The same effect of salt penetration from dip treatment for 18 h under atmospheric pressure was achieved by +1.0 MPa hydrostatic pressure processing for 0.5 h. These results demonstrate the potential of low hydrostatic pressure treatment for use in restoring leafy vegetable freshness and shortening pickling time in general households.

 近年,人口の増加にともない食料の生産・消費・廃棄量が急増している。世界では生産されている食料の3分の1,量にして年間約13億トンが廃棄されており,日本ではそれにともなう廃棄物の処理に年間約2兆円もの経費を投入しているという報告もある1)。そのため,食料の廃棄量をいかに減らすかということが一つの課題である。中でも葉物野菜は萎びやすく,食べられる状態であっても廃棄してしまうことがある。そこで,家庭レベルで簡単にみずみずしさを回復する方法として50℃洗い2)がよく知られている。この方法は温度を48~52℃程度のお湯に野菜を数分漬けることでみずみずしさが回復するというものである。我々は様々な分野への静水圧処理の利用を研究している。1987年に林が高圧力の食品加工への応用を提唱したことをはじめとして,これまで国内外問わず様々なグループが静水圧処理の食品への応用研究をしている3~6)。そして,それらの研究は主に殺菌や付加価値という目的で数百MPaの適用が試みられており,すでに利用された商品が販売されているものもある7)。一方,我々は+0.1 MPa程度の家庭でも利用できる可能性がある圧力領域でレタスのみずみずしさが回復することを確認している8, 9)。しかし,他の葉物野菜も同様にみずみずしさが回復するか,あるいは成分は処理により変わるのかといった詳しいことは分かっていない。
 そこで,本研究ではほうれん草を用い,みずみずしさが回復する静水圧を決定するとともに,50℃洗いとの比較を行う。次に,成分変化の指標としてほうれん草中に多く含まれ検出が容易で短時間で検出可能なカリウムを用い,みずみずしさの回復と成分変化の関係を調べることを目的とする。さらに,タンパク質は加熱と同様に加圧でも変性することが知られているので広範囲で温度および圧力を変化させ,ほうれん草がどのような温度あるいは圧力までダメージを受けていない状態を保つことができるのかを調べ,葉物野菜への静水圧の影響の基礎的知見を得ることを目的とする。また,浸漬水を純水ではなく塩を加えた水を用いて,静水圧処理により常圧に比べ塩がどの程度効果的に入っていくか,“一夜漬け”づくりの時間短縮の可能性についても調べた。

健康長寿社会を実現するための次世代型健康機能性米の開発

赤間 一仁/Kazuhito Akama,西川 彰男/Akio Nishikawa,二川 健/Takkeshi Nikawa

 日本は超高齢化社会である。2015年の高齢化率(65歳以上の人口比率)は26.6%と世界第1位であり,第2位のイタリア(22.4%)を4%以上も引き離している1)。国民の平均寿命は男性が80.2歳,女性が86.6歳と毎年伸びてはいるが,健康寿命は男性では9年,女性では12年も短い1)。この差は過去10年以上ほとんど縮まってはいない。これは高齢者の多くが長期間介護を受けながら最晩年を迎えていることを意味する。要介護の老人数は2006年には320万人であり,2015年には435万人と10年余りの間に100万人以上も増加している2)。介護に至る要因として,脳卒中,認知症,老衰,関節疾患,骨折などが上げられる。言うまでもなく,医療・介護費は毎年増加しており,国の財政悪化に拍車を掛けている。これからは限られた予算の中で予防医学を中心とした対策を推進することが強く求められており,食を通して健康の維持を計る「医食同源」の考えが大きなヒントになる。要介護の要因を食生活から予防・低減する機能性食材が開発できれば,高齢者の健康寿命を延ばせるだけでなく,QOL(生活の質)の改善や医療介護費の大幅な削減もまた期待できる。
 コメの消費はピーク時に118 kg/年(1962年)であったが,現在は54 kg/年(2016年)と半分以下に落ち込んでいる3)。しかし,平均すると国民1人当たり1日約150 g(1合)は摂取しており,依然として重要な食材であることには変わりがない。もしコメ1合に健康機能性成分を十分に富化できれば,持続的な摂取により安定した効果が期待できる。日本では健康機能性成分やワクチン成分をコメに富化させた遺伝子組換えイネの開発が活発に進められてきており4),技術的な問題は克服されている。コメは室温での保存性,輸送性に優れており,栽培技術が高度に確立されているために安価に供給できる。長期間保存しても成分が大きく分解・低下することはない。
 それではどのような機能性成分が対象となるであろうか?非タンパク質態のアミノ酸の一種であるγ-アミノ酪酸(GABA)は生活習慣病の予防,ストレス緩和,学習機能・認知症の改善など優れた効能を持つことから,健康機能性成分として広く認知されている5)。また,'Cblin'は宇宙生物学の研究から生まれた新しい機能性ペプチドである。筋力の低下を回復するにはリハビリ以外に有効な治療法は知られていないが,Cblinの摂取は寝たきりなどによって生じる廃用性筋萎縮が原因の筋力低下を防止する効果があることがマウスを用いた試験により確かめられている6)。
 本稿ではこれらの機能性成分を含有するコメの開発の現状と二つの成分を併せ持つ新しいコメの開発の可能性について解説したい。

胚芽納豆の血栓およびガン予防への期待

須見 洋行/HiroyukiSumi,内藤 佐和/Sawa Naito,矢田貝 智恵子/Chieko Yatagai,丸山 眞杉Masugi Maruyama

要旨
 乳ガン,前立腺ガンの予防に大豆のイソフラボンが関与することはよく知られている。大豆イソフラボンのほとんどが胚芽に含まれており,胚芽で作られた胚芽納豆には,若返りに関係するとされるポリアミン類が一般の納豆の10倍以上多く,血栓溶解に関係するナットウキナーゼ活性,さらにはビタミンK2の含有量もはるかに優れていることが分かった。

 大豆はイソフラボンを多く含む食品である1)(表1)。イソフラボンは,大豆の成長過程で作られ,そのほとんどは胚芽に含まれている。イソフラボンのうちダイゼインやゲニステインは,特にエストロゲン作用を有しており,ダイゼインは体内で腸内細菌によりガン予防に働くエクオールに代謝される2)。しかしながら,エクオールが体内で産生されるか否かは,近年,個人の代謝能によるものであり,日本ではエクオールを生産できる人は約50%であることが報告されている2)。
 このような現状において,エクオールを腸内で産生させる食品や直接摂取するエクオールの商品開発などが進んでいる。我々は,イソフラボンを多く含む胚芽に着目し,納豆菌で発酵させることで,イソフラボンだけではなく,ポリアミンやビタミンK2などを高含量含み,さらにはナットウキナーゼ活性の高い新規納豆の開発を試みた。

味覚受容体の機能解析で見えてくる生体における味覚の役割

日下部 裕子/Yuko Kusakabe

 2000年に世界で初めて味覚受容体が発見されてから,もうすぐ20年の時間が経とうとしている。かなりの時間が経ったと思う一方で,味覚受容体がわかっても解決されない事象もたくさん存在しており,発表されている知見は一見ばらばらなようにも見える。そこで,本稿では,2000年以降に味覚受容体を利用して示された知見について紹介し,嗅覚との比較や全身の生理機能における味覚の位置づけを通して,味覚が生体にとってどのような役割を持つのか,どうして味覚という感覚を私たちが持っているのかについて考えてみたい。

食成分であるポリアミンによる健康長寿の背景(2)
ー ポリアミン代謝と遺伝子メチル化,およびOne carbon metabolismについて ー

早田 邦康/Kuniyasu Soda

6.DNAメチル化に関与する栄養素とその代謝物質,および関連する酵素活性
 DNAのメチル化とは,DNMT(数種類のDNMTの中で,特にDNMT1,DNMT3aおよびDNMT3b)が,SAMから供給されるメチル基をDNAの4つの塩基の一つであるシトシンに付与して5-メチルシトシン(Methylcytosine)にすることである。ポリアミン合成に必須の物質であるSAMはメチオニンとATPからメチオニンアデノシルトランスフェラーゼ(Methionine adenosyltranferase)の作用で作られる。メチオニンは必須アミノ酸の一つで,蛋白質の生合成に使用される。SAMは,DNAメチル化を含む多くのメチルトランスフェラーゼ反応におけるメチル基の供与体であり,メチル基が供与された後はS-アデノシルホモシステイン(S-adenosyl-l-homocysteine (SAH))になる。SAHは,DNMT,特にDNMT1の酵素活性を抑制するが190-192),Adenosylhomocysteinaseの作用で素早く加水分解されてホモシステインとアデノシンに変換される。ホモシステインはメチオニンへ再利用されるか,システインに変換される。ホモシステインはメチオニンシンターゼ(Methionine synthaseもしくは5-Methyltetrahydrofolate-homocysteine methyltransferase)あるいはベタイン・ホモシステイン・メチルトランスフェラーゼ(Betaine-homocysteine methyltransferase)193)によってメチオニンに変換される。メチオニンシンターゼはビタミンB12とともにMethyltetrahydrofolateから供給されるメチル基をホモシステインに付与してSメチオニンに変換する。同様に,ベタイン・ホモシステイン・メチルトランスフェラーゼはベタインからメチル基をホモシステインに付与してSメチオニンを形成する。また,ホモシステインとシステインは,中間産物のシスタチオニンを介して相互に変換され,これはTranssulfuration pathwayと呼ばれる。シスタチオニンβ-シンターゼ(Cystathionine β-synthase)は,ホモシステインに作用してシスタチオニンとH2Oへ変換する。シスタチオニンはシスタチオニンγリアーゼ(Cystathionine γ-lyase)の作用を受けて,システインに変換される。シスタチオニンβ-シンターゼとシスタチオニンγリアーゼが酵素活性を発揮する際には,ビタミンB6を必要とする。

漢方の効能

(5)七味唐辛子について
Shichimi togarashi (Mixed-Cayenne-Pepper)

北村 雅史 / Masashi Kitamura

 読者の皆さんは「薬味」というと何を思い浮かべるでしょうか?マグロにはワサビ,カツオにはショウガ,サンマには大根おろし,うどんにはネギ・・・食べ物を思い浮かべるだけで付け合わせる薬味が想像できるのではないでしょうか。このように,薬味は風味を良くし,食欲を増進させるために日本の食文化と密接に関わってきました。薬味は料理に加える香辛料や野菜を指しますが,単に料理を美味しくいただくという目的だけでなく,抗酸化作用,抗菌作用,消化促進作用,整腸作用,発汗作用などそれぞれ特徴的な作用を有していることが「薬」を冠する理由ではないかと考えられます。今回,たくさんの薬味の中から「七味唐辛子」に注目し,紹介したいと思います。

解 説

ニジマス用飼料の炭水化物源−5

酒本 秀一 /Shuichi Sakamoto

 特定の企業や個人が大量の水を使用して汚し,そのまま排水するのが許される時代ではない。給餌養殖は水を汚す事業として周りから厳しい目で見られている。給餌養殖で水を汚す主な原因は残餌と糞であった。残餌は食べ残しを出さない給餌法を採れば解決出来る。残餌が無くなれば製品の生産コストも下がって利益が増えるので,周りから色々いわれなくても事業者自らが積極的に取り組んで来ており,ほぼ問題無いレベルに達しているのではないかと思われる。もう一つの原因である糞を減らすには如何すれば良いのであろう。糞に含まれる主な物は飼料原料由来の骨質や不消化の炭水化物などである。骨質は養魚飼料の主原料である魚粉に由来するので,灰分含量の少ない魚粉を使用するのが最も簡単な方法である。ところが魚粉の品質は年々低下しており,灰分含量が次第に高くなっているのが現状である。何らかの処理によって骨質の消化吸収率を他成分並みに高くするのは難しいと思われるので,骨質を減らすためには他原料との大きさや重さの違いを利用して篩別や分級等によって取り除くしか方法が無いのではないかと思われる。これはコストの点で実用的でない。そこで魚粉の使用量を減らすための研究が進められ,養魚飼料に合成タウリンが利用出来るようになって魚粉の使用量もかなり減らせるようになって来た。近い将来魚粉を使用しなくても十分な飼育成績が得られる飼料が開発出来れば,骨質の問題は解決出来るであろう。これで全て解決かというと,そうは行かない。魚粉の使用量は減らせても養魚飼料にタンパク質は一定量必要なので,他のタンパク質源,主として脱脂大豆粕などの植物性タンパク質源の使用量が増えざるを得ない。植物性タンパク質源には相当量の不消化炭水化物も含まれているのが一般的なので,魚粉由来の骨質を減らせても,今度は不消化炭水化物の量が増える事が問題になる。

グルテンフリー穀物食品と飲料
新解説グルテンフリーパンについて−1

瀬口 正晴/Masaharu Seguchi, 竹内 美貴/Miki Takeuchi, 中村 智英子/Chieko Nkamura

本論文「グルテンフリ−穀物 食品と飲料,新解説グルテンフリーパン−1」は,“Gluten-Free Cereal Foods and Beverages” (Editted by E. K.Arendt and F.D.Bello) 2008 by Academic Press (ELSEVIER),の第13章 Gluten-free breads by E. K. Arentの一部を翻訳し紹介するものである。

セリアック病の効果的治療法は食生活からグルテンを除くことであり,そうすれば健常な生活を送ることが出来る。しかしながらパンを作る際に,グルテン除去をすると,製パン調製前段階でドウの組織は液状のバッターになる。その結果,パンはぼろぼろに崩れてしまうテクスチャーとなり,色も品質も貧弱で美味しくないパンとなる(Gallagher et al., 2004a)。グルテンは小麦粉に存在するタンパク質の主構造形成タンパク質であり,製パンにおける小麦粉の性質に重要な役割をしており,ドウに粘弾性を与え,良好なガス保持能と良好なクラム構造を多くのベーカリー食品に与える(Gallagher et al., 2004a, Moore et al., 2004)。最近,グルテンフリーベーカリー食品をマーケットで多く見かけるが,低品質で貧弱な食感とフレーバーが特徴である。(Arendt et al., 2002)。これらの問題は製粉,製パン技術者両者に大きな技術的問題を与え,グルテンフリー焼き物の生産にグルテンに変わるものを探すことを要求した。グルテンフリーパンは,グルテンの粘弾性を真似る重合化物質を製パンドウに要求した(Toufeili et al., 1994)。グルテンフリーパンの生産には,主にデンプン,牛乳タンパク質のようなタンパク質をベースとする成分が含まれるものである。

連 載

デンマーク通信 デンマークの生クリーム

Naoko Ryde Nishioka

 デンマークは酪農産業が盛んな国ですが、酪農製品の中でも、今回は生クリームにまつわる食文化を紹介したいと思います。
 デンマークのチーズなどは日本のスーパーでもよく見かけますが、デンマークは酪農が盛んな国で、世界市場へ輸出をしている製品も少なくありません。デンマーク国内市場を見てみても、バターやチーズなどは、毎日の生活に欠かせない商品で、スーパーなどでは、品数豊富に取り揃えられています。

野山の花 — 身近な山野草の食効・薬効 —
アミガサユリFritillaria thunbergii Miq.
(=F. verticillata Willd. ver. thunbergii (Miq.) Baker)
(ユリ科 Liliaceae)

白瀧 義明/Yoshiaki Shirataki

 ようやく,寒さも緩み,春の気配が漂う弥生,早々と土中から顔を出すのがアミガサユリ(編笠百合)です。本植物は中国を原産とし,今ではいくつもの種が観賞用として栽培される高さ30〜80cmの多年草で,葉は長さ約10cm,3〜5枚輪生し,線状披針形で無柄,上部の葉は先端が鍵型に曲がり,花は数個を茎頂に下向きにつけ,花被片は淡黄緑色で6個,花径約3cmの鐘状花で,内側に黒紫色の網目状斑紋があり,夏には茎葉とも枯れてしまいます。和名は花の形を,虚無僧のかぶる「深編笠」や,お姫様やお遍路さんがかぶる「編み笠」にたとえたもので,埼玉県小川町には,「笠山」(標高837m)とよばれる編み笠にとてもよく似た山容の山があり,登山者にとても人気です。地下にある鱗茎は2枚が貝状に相対していて,鱗片が割れて中から球根が出てくる様子を,母が子供を抱く姿にたとえてバイモ(貝母)とよばれます。また,2個の鱗片は,クリに似ていることから,古くは「ハハクリ」とよばれていました。