New Food Industry 2019年 12月号

NOTE 

菌糸体と寒天の複合ディスクを用いた
ヒラタケ菌株とシイタケ菌株の純水保存

富樫 巌/Iwao Togashi,高田 皐平/Kouhei Takada,野村 朋史/Tomofumi Nomura,梅村 清/KIyoshi Umemura


Preservation of hiratake (Pleurotus ostreatus) and shiitake (Lentinula edodes) mushroom strains using mycelium-agar disks in water

Authors: Iwao Togashi*, Kouhei Takada, Tomofumi Nomura, Kiyoshi Umemura
*Corresponding author.

Affiliated institutions: National Institute of Technology (KOSEN)
Asahikawa College, Syunkodai 2-2-1-6, Asahikawa City, Hokkaido, 071-8142, Japan

Key Words: Edible mushroom, Mycelium, Preservation, Strain, Water

Abstract
 The preservation of hiratake (Pleurotus ostreatus) and shiitake (Lentinula edodes) mushroom strains using mycelium-agar disks soaked in water at 2°C and 25°C was investigated. Survival rates and characteristic changes after preservation were observed. All four strains of hiratake tested had survival rates of 100% at 20 or 30 weeks following preservation. However, mycelial reproduction of the disks of two strains (ANCT-15001 and NBRC 8444) was 1–2 days late compared with controls (subcultures) when preserved for >16 weeks at 25°C. Furthermore, the mycelial growth rates of NBRC 8444 on PDA media at 25°C decreased to about half of the control (19.5 mm/4 days) when preserved for 30 weeks at 25°C. The strain ANCT-15001, which was preserved for 16 weeks at 2°C and 25°C, produced fruiting bodies the same as control, and storage did not change the fruiting ability of the strain. In all four strains of shiitake tested (ANCT-05072, ANCT-05152, NBRC 30877, and NBRC 31864), the survival rates were 100% following preservation for 20 weeks. Mycelial reproduction of the mycelium-agar disks of three strains, except ANCT-05152, was 1–2 days late compared with the control when preserved for 20 weeks at 25°C. Mycelial growth rates of ANCT-05072 and ANCT-05152 on PDA media at 25°C were similar to control (21–22 mm/5 days) when preserved for 20 weeks, and the secondary growth rates in storage of the two strains were greater than the controls. In contrast, the secondary growth rates of NBRC 30877 and NBRC 31864 when preserved for 20 weeks were less than their controls.


 食用菌の菌株保存においては, 設備的に恵まれている研究機関等であれば-80℃~-196℃の超低温凍結保存法1-7)が用いられるが, 一般的には10℃以下での継代培養保存法8)が汎用されていると考えられる。一方,著者らは作業・操作の簡便さと設備・維持コストに優れる微生物の菌株保存方法として報告された酵母菌体の純水保存9)に注目し,エノキタケ(Flammulina velutipes (Curt.:Fr.) Sing)の菌体ディスクを純水と共にクライオチューブに投入する非凍結保存を行い10),菌糸体の純水保存の可能性を得た。本研究ではヒラタケ(Pleurotus ostreatus (Jacquin.:Fries) Kummer)とシイタケ(Lentinula edodes (Berkeley) Pegler)を供試し,冷蔵庫レベルと室温レベルで菌体ディスクの純水保存を試みた。具体的には20~30週間保存後の生存率(菌糸再生能),および保存菌株の特性変化の有無(菌糸伸長能,ヒラタケでは子実体形成能)を観察・測定した。

研究解説

ストレス克服のための至適水溶性ビタミン量

柴田 克己/Katsumi Shibata


Optimal amount of water-soluble vitamins to overcome stress

Corresponding author: Katsumi Shibata

Affiliated institutions: Department of Clinical Nutrition and Dietetics Faculty of Clinical Nutrition and Dietetics Konan Women's University
6-2-23 Morikita-machi Higashinada-ku Kobe, Hyogo 658-0001, Japan

Key Words: overcoming stress, optimum vitamin amount, function of vitamin, coenzyme, conversion ratio of tryptophan-nicotinamide

Abstract
 Around the age of 20 years when growth is complete, beauty, physical fitness, and the ability to live vigorously (= life ability or surplus ability) reach the highest point. We are eager that it continues to the end of our lifetime. In reality, when we reach the highest point, it is going downhill. One factor that increases the speed of downhill is stress. The essence of maintaining health is the homeostasis of the body environment. 2020 is the 100th anniversary which is the year that Drummond proposed to name the trace organic essential nutrient group "vitamin". The primary function of vitamin is catalytic function, namely coenzyme function. The synthesis of enzyme protein needs a lot of time, but the binding of enzyme-coenzyme is very quick reaction. The amount of coenzyme is the key to maintaining homeostasis. Mammals do not have de novo biosynthetic pathway for vitamin. But, there is one exception. We can synthesize nicotinamide from tryptophan. The ability of nicotinamide synthesis from tryptophan is changeable by various factors such as stress. To overcome stress, it is necessary to saturate the amount of water-soluble vitamins in the body at all times. I showed the optimum amounts of water-soluble vitamins to overcome stress.


要旨
 成長が終わった20歳ごろに美と体力・活き活きと生きる能力(=生活能力あるいは余剰能力)が最高点,頂上に達する。その頂上が寿命の限界まで平たく続いていることを,ヒトは望む。現実には,頂上に達した時点で余剰能力は下り坂となる。下り坂の速度を高める一因がストレスである。健康維持の極意は体内環境の恒常性の維持である。2020年は,微量有機必須栄養素群を「ビタミン」と呼ぼうというドラモンドの提案,100周年である。ビタミンの第一義機能は補酵素,触媒機能である。酵素タンパク質の合成には時間がかかるが,酵素-補酵素の合体は一瞬である。補酵素の量が恒常性維持の鍵となる。ほ乳動物は,ビタミンのde novo生合成経路を持たない。例外がある。ヒトでも,トリプトファンからニコチンアミドを合成できる。ニコチンアミド合成量はストレス時に変動する。ストレス克服には,体内水溶性ビタミン量を常に飽和させておくことが必要である。ストレス克服に必要な水溶性ビタミン量を考えてみた。


納豆による血液サラサラ(血小板凝集阻害)効果
発酵により生じるアスピリン様物質

須見 洋行/Hiroyuki Sumi,矢田貝 智恵子/Chieko Yatagai,満尾 正/Tdashi Mitsuo


我々はこれまで日本の糸引き納豆の生理活性物質について報告してきた1-3)。
 納豆は表1に示すように血栓溶解酵素であるナットウキナーゼや,骨の健康に役立つビタミンK2,アンチエイジング効果が期待できるポリアミンなどを多く含む4-5)。
 ナットウキナーゼは血栓溶解だけではなく,実は血小板凝集阻害活性も認められており,本稿ではこれまで明らかにされている納豆中の血小板凝集阻害活性物質についてまとめた。

Food Loss and Waste in Japan

Ryusuke Oishi


Associate Professor, Faculty of Economics, Meikai University

Abstract
 In Japan and many other developed countries, a large amount of food is discarded without being consumed every year. Such losses not only waste food, they also cause local governments, other governments, and related organizations to spend a large amount of money on its disposal. Moreover, these disposals harm the environment (i.e., air pollution by incinerations, soil pollution by landfills, and water pollution by ocean dumping). Therefore, food losses and wastes have significant economic costs. These problems, which primarily are caused by an oversupply of food, are supposed to be adjusted through market mechanisms. However, for this to occur, markets need to function properly. In other words, food losses and wastes can be considered an outcome of malfunctioning markets, which in economic terms is called a “market failure.” From an economic perspective, this paper explores the causes of food losses and wastes by investigating the data and suggesting possible improvement measures.

製品解説

健康診断における小型LDLの重要性と
α-オリゴ糖(α-シクロデキストリン)の小型LDL低減作用

古根  隆広/Takahiro Furune,岡本 陽菜子/Hinako Okamoto,近本 啓太/Keita Chikamoto,
 采美/Ayami Mori,佐藤 慶太/Keita Sato,石田 善行/Yoshiyuki Ishida,寺尾 啓二/Keiji Terao


 LDL-コレステロール(LDL-C)が高い状態が続くと冠動脈疾患(CHD)などの動脈硬化リスクが高まることから重要なリスクマーカーとして広く認知され,現在,LDL-Cを下げる作用を持つ特定保健用食品や機能性食品がいくつも上市されている。
 小型LDL1)はLDL粒子の中でサイズが小さなものを言うが,CHD患者の中にLDL-Cが正常域でも小型LDLが多い人がいることが発見されてから,小型LDLは真のリスクマーカーとして年々注目されてきている。なお,小型LDLという名称については,他にも小粒子LDLsmall LDLsLDL),small dense LDLsdLDL),small, dense LDLなどがあるが,筆者らは一般の人がよりイメージしやすいという理由で小型LDLを採用した。
 α-オリゴ糖(物質名:α-シクロデキストリン)は難消化性,且つ,発酵性を有する6糖の環状オリゴ糖で,摂取時に食後血糖値や血中中性脂肪値の上昇抑制作用,腸内環境の改善作用などを有する多機能性の食品素材である。最近,このα-オリゴ糖は小型LDLの低減作用を有することが報告された。そこで,本稿では,健康診断における小型LDLの重要性,α-オリゴ糖の特徴や小型LDL低減作用について概説する。


アーティチョークの機能性と健康食品への応用
~皮膚の老化とNF-κBの関係から~

田中 清隆/Kiyotaka Tanaka,今井 健一/Kenichi tanaka


近年,食品に対する認識が変わりつつある。従来までの身体を維持するための栄養という認識から,ある目的を成すために必要な「要素」として積極的に摂取するという新しい概念が形成されつつある。いわゆる健康食品である。
 健康食品は広く健康を増進させる目的で販売,利用される食品全般を指し,法律上の定義はなかった。1991年に健康増進法により特定保健用食品が定義され,国の定めた規格や基準を満たす食品については保健機能の表示が可能となった。2015年には機能性表示食品制度が制定され,一般食品とは異なる保健機能食品が強化された。最近では,一般消費者が食品成分の機能性について目にする機会が増えるとともに関心を持つようになってきた。
 富士経済調査によると,健康志向食品や機能志向食品,保健機能食品などに分類される,いわゆる「健康および美容に関わる食品」は近年おおきく市場拡大している。健康・美容に関する食品市場は,2013年に2兆円を突破し,以降も拡大傾向にある1)。特に,スポーツ関連分野,認知機能サポート分野および睡眠サポート分野が急激に需要を伸ばしているが,以前より高い関心をもたれている分野が美容である。現在,米由来グルコシルセラミドやアスタキサンチンなどを成分とする機能性表示食品が発売されており肌の保湿機能向上を期待する消費者も多い。
 美容の分野では皮膚老化が訴求点とされることが多い。皮膚の光老化を引き起こす有害な環境要因のひとつに紫外線がある2)。光老化は慢性的な紫外線照射によって皮膚が早期に老化した状態で,習慣的に太陽光を浴びた老人の皮膚は衣服で覆われた部分と露出した部分を比較した場合,露出部分の方がより老化して見える3)。一般に年を重ねるごとに年相応の顔立ちになってくるが,無意識にこの判断基準となっているのが,シワ,たるみ,シミである。この変化の特徴は,人種ごとに異なる。例えば,メラニン色素の多い黒人は紫外線耐性が高く,シワなどが形成されにくい。一方,メラニン色素の少ない白人は比較的真皮へのダメージが高くなることで,シワやたるみがおきやすい。その中間である黄色人種は,適度に紫外線を防御するためシワやたるみは白人に比べて少ないが,メラニン色素の異常産生によるシミがより目立ちやすい傾向がある。
 本稿では,健康への応用の期待が高まっている食品素材のうち,我々が研究開発を行っているアーティチョークの主に皮膚の老化に対する作用を紹介する。


新解説 グルテンフリー製品への酵素の利用(2

瀬口 正晴/Masaharu Seguchi,竹内 美貴/Miki Takeuchi,中村 智英子/Chieko Nakamura


 本論文「新解説 グルテンフリー製品への酵素の利用(1)」は“Gluten-Free Cereal Products and Beverages” (Edited by E. K. Arendt and F. D. Bello) 2008 by Academic Press (ELSEVIER) の第 11 Use of enzymes in the production of cereal-based functional foods and food ingredients by H. Goesaert, C, M, Courtin, and J. A. Delcourの一部を翻訳紹介するものである。


 デンプンは穀物の中に最も多く含まれる成分であり,最も重要な必要多糖類である。その大部分の成分は,分子のレベルではグルコースポリマーのアミロースとアミロペクチンである。アミロースは本質的には直線分子であリ約500−6000α-(1,4)-結合-D-グルコースユニットである。アミロペクチンは対照として非常に大きく,高度に分枝化した多糖類でありそれは300万グルコース単位まであり,直線鎖の10−100 α-(1,4)-結合D-グルコースユニットからなり,それはα(1,6)-結合で結ばれている(Manners,1979; Zobel,1988)。一般にアミロペクチンはクラスターモデルの言葉で定義され(Robin et al., 1974;French 1984),多モード鎖長分布して(Hizukuri 1986),そして枝は非還元的性質を持つ(Thompson,2000a)。クラスターモデル中,短鎖,例えば未分枝外側A鎖と最も枝の短い内側分子鎖(B1)は,二重らせん構造を作り一本のクラスターになり,一方より長い分子鎖(B2−B4)は各々の2−4クラスターに伸びる。
 アミロース/アミロペクチン比はデンプンの植物起源によって異なり,典型的レベルは各々アミロース20−30%とアミロペクチン70−80%である。1つかそれ以上デンプン生合性酵素,例えばデンプン合成酵素,分枝,脱分枝酵素の欠損(不足)により,いくつかの変異型ゲノタイプ,例えばとうもろこし,大麦,コメにはいずれもアミロース含量増加(例えば70%までアミロースの高アミロースあるいはアミロペクチン),あるいはアミロペクチン含量増加(例えば99−100%アミロペクチンのワキシデンプン),および他のデンプンパラメーター,例えばアミロペクチン鎖長分布が同様に変化したものである。


漢方の効能

鶏血藤配合剤による歯肉の炎症に対する改善効果
Improvement Effect on Gingival Inflammation by
Jixueteng-formulated Traditional Chinese Medicine

 

鈴木 光雄/Mitsuo Suzuki,岡部 葉子/Yoko Okabe,渡辺 秀司/Shuji Watanabe,遠山 歳三/Toshizo Toyama,両角 旦/Akira Morozumi,坂上 宏/Hiroshi Sakagami,佐々木 悠/Haruka Sasaki,浜田 信城/Nobushiro Hamada


抄録
 歯周病の治療は、口腔内細菌だけでなく宿主側の因子が深く関わる。症状の悪化した部位の対症療法として化学療法薬による治療や歯周外科手術を行っても完全な治療効果を得られないこともある。宿主側の免疫力や口腔内細菌に対する抵抗力を期待する方策が必要と考えられる。生薬や漢方薬の最大の特徴は、西洋医学の薬物のように一方向性の作用ではなく、生体が本来保有する恒常性・正常化から総合的に作用し調和を取るものである。本報告では、最良と考えて行った治療を施してもなかなか歯肉の炎症が消退しない症例に対して、循環改善、鎮痛、赤血球および白血球の増産等の薬理作用を有する鶏血藤を配合した貼付薬が有効に作用して患部歯肉の改善が認められた症例について報告する。

 前回は鶏血藤を含む貼付薬の短期間による治癒を提示した。今回は長期にわたる歯周病治療の生薬による歯肉の治癒を示したい。慢性に進行した歯周病の治療は難治性であり,進行を止めるには歯周初期治療後,化学療法や歯周外科手術が行われるものの,その効果に疑問が残る症例も少なくはない。今回は長期にわたって症例を観察し,従来の補綴治療,歯周治療を経たのち紆余曲折を経験し,最終的に生薬が有効であった症例の治癒経過を報告する。


◆連 載

デンマーク通信 デンマークのベジタリアン

Naoko Ryde Nishioka


 今回はデンマークのベジタリアンにまつわる話を紹介したいと思います。
 デンマークは,世界でも有数の豚肉の輸出国であるとともに,肉類の消費も多い国だと言われています。しかし近年の環境への配慮や,健康志向の高まりを背景に,ベジタリアンやヴィーガンが一部で増えていると言われています。

野山の花 — 身近な山野草の食効・薬効 —

イチョウGinkgo biloba L.(イチョウ科 Ginkgoaceae

白瀧 義明/Yoshiaki Shirataki


 木枯らしが吹きはじめ,冬の兆しが濃くなる頃,イチョウの黄葉が生えてきます。イチョウ(銀杏,公孫樹,鴨脚樹)は,樹高2030mの雌雄異株の落葉高木で,裸子植物門イチョウ綱イチョウ目イチョウ科イチョウ属に属する中国原産の裸子植物です。葉は扇形で葉脈は原始的な平行脈をもち,二又分枝して付け根から先端まで伸び,通常,葉の中央部は浅く割れていますが,分類的には特殊な針葉樹に分類されます。イチョウ目の植物は,中生代ジュラ紀(21200万年~14300万年前)に最も繁栄し,ヨーロッパから北アメリカにまで分布していましたが(日本では山口県や北海道などで化石が発見されています),中生代の終わりまでに恐竜とともにそのほとんどが絶滅し,新生代第三紀(6500万~170万年前)には,現生のイチョウただ1種になったようです。現生のものは中国に分布するイチョウGinkgo bilobaだけで,中国浙江省の天目山には,自生のイチョウがあるといわれていますが,中国でもイチョウの原産地は不明で,日本へは,室町時代(15世紀)後期以降伝来したと考えられ,現在,イチョウは,生きている化石としてレッドリストの絶滅危惧IB類に指定されています。ヨーロッパへは1692年,ケンペル(E. Kampfer, 16511716)が長崎から持ち帰った種子から栽植が始まり,現在,北半球ではメキシコシティからアンカレッジ,南半球ではプレトリア(南アフリカ)からダニーディン(ニュージーランド)の範囲に分布し,極地方や赤道地帯には栽植されていません。