New Food Industry 2019年 11月号
解説
麹によるパンの品質向上の可能性
桑原 真市/Shin-ichi Kuwahara,倉田 佳苗/Kanae Kurata,今泉 鉄平/Teppei Imaizumi,濱田 和広/Kazuhiro Hamada,岩橋 均/Hitoshi Iwahashi
Application of Japanese traditional koji mold for bread production
Authors: Shin-ichi Kuwahara, Kanae Kurata, Teppei Imaizumi, Kazuhiro Hamada, Hitoshi Iwahashi*
*Corresponding author.
Affiliated institutions: Gifu university, Laboratory of Applied Microbiology
Key Words: koji , bread, amylolysis, proteolysis
Abstract
Koji is a product of growing a mold on a grain. It is widely used in traditional Japanese foods such as sake, shochu, miso, and soy sauce. On the other hand, in bread production, a new method of yudane process for producing bread by partially breaking wheat starch and wheat protein has attracted attention. Thus, we challenged the production of koji bread using ability of starch and protein degradation of koji. Using sake koji, starch degradation was significant, but protein degradation was low. In contrast, shochu koji has significant capacity to degraded protein in addition to starch degradation. The use of koji is expected to diversify the bread making process by breaking down wheat starch and wheat protein.
要約
麹とは,穀物に麹カビを生育させたものである。日本酒,焼酎,味噌,醤油などの日本の伝統的な食品に広く利用されており,麹カビは食品素材の高分子を分解する役割を担っている。一方,パン製造において,小麦のデンプンとタンパク質を部分的に分解することによる新しいパンの製法,湯種法が注目されている。そこで,麹のデンプンとタンパク質分解能を利用した麹パンの可能性を検討することにした。清酒麹では,デンプンの分解が顕著であったがタンパク質の分解能が低かった。これに対して焼酎白麹はデンプンの分解に加えてタンパク質分解も顕著であった。麹を利用することで小麦デンプンの分解や小麦タンパク質の分解による製パン法の多様化が期待される。
伊藤園の機能性素材 ~テアフラン®~について
提坂 裕子/Yuko Sagesaka,小林 誠/Makoto Kobayashi
ITO EN’s functional ingredients, THEA-FLANs
Authors: Yuko M. Sagesaka, Ph.D.*1, Makoto Kobayashi, Ph.D.*2
Affiliated institutions:
1: ITO EN Ltd.
2: Central Research Institute, ITO EN Ltd.
Key Words: green tea extract, catechins, antimicrobial, antioxidant, periodontitis, cholesterol, obesity
Abstract
THEA-FLAN is a series of functional ingredients made from green tea extract, and THEA-FLAN 30A with a polyphenol content of 10% or more and THEA-FLAN 90S with its content of more than 90% are available on the market. THEA-FLAN 30A has antimicrobial/antiviral activities, deodorant and antioxidant properties, and taking advantage of these properties it is used as a food additive or used for dyeing fibers. Most of the green tea polyphenols are catechins, and THEA-FLAN 90S is mainly composed of gallate-type catechins which are more active than other catechins. Clinical studies using THEA-FLAN 90S showed that it improved blood antioxidant capacity, reduced blood uric acid levels, reduced blood cholesterol, suppressed postprandial elevation of blood triglyceride levels, reduced visceral fat area, alleviated symptoms of functional dyspepsia, improved renal function in patients with amyloidosis, prevented influenza infection by combination with theanine. Its effects on blood cholesterol and visceral fat have been applied to the development of foods for specified health use. THEA-FLAN 90S, which contains a large amount of gallate-type catechins and almost no caffeine, is expected to have various functionalities for human health.
緑茶は,チャノキ(Camellia sinensis)の葉を摘採後,速やかに加熱して酸化酵素による褐変を防ぎ,乾燥し,整形して製造される。緑茶は長年にわたり嗜好飲料として愛飲されてきたが,最近では緑茶のもつ健康増進効果や様々な有用作用についても,広く関心が寄せられている。
緑茶の可溶成分で最も多いのはフラバン-3-オール骨格をもつカテキン類で(葉の乾燥重量の10-15%),緑茶の有用な作用の大半は,カテキン類の効果と言える。
緑茶に含まれるカテキン類は主に,(-)-エピガロカテキンガレート,(-)-エピカテキンガレート,(-)-エピガロカテキン,(-)-エピカテキンの4種からなる。さらに,緑茶抽出液を加熱殺菌すると,約半分が熱異性化し,(-)-ガロカテキンガレート,(-)-カテキンガレート,(-)-ガロカテキン,(-)-カテキンに変化する1, 2)。
弊社は,緑茶から当社独自の技術でカテキン類を分離した緑茶抽出物(商品名テアフラン®)を開発し,カテキン含有量の異なる2つの製品,テアフラン®30Aおよびテアフラン®90Sを上市している(2019年8月現在)。カテキンの分離精製技術については,過去に本誌で紹介している3)。本報では,これまでに得られたテアフラン®の機能性に関するデータを紹介したい。
新解説 グルテンフリー製品への酵素の利用(1)
瀬口 正晴/Masaharu Seguchi,竹内 美貴/Miki Takeuchi,中村 智英子/Chieko Nakamura
本論文「新解説 グルテンフリー製品への酵素の利用(1)」は“Gluten-Free Cereal Products and Beverages” (Edited by E. K. Arendt and F. D. Bello) 2008 by Academic Press (ELSEVIER) の第 11 章 Use of enzymes in the production of cereal-based functional foods and food ingredients by H. Goesaert, C, M, Courtin, and J. A. Delcourの一部を翻訳紹介するものである。
穀物ベースの機能食品と食品成分生産における酵素利用
健康な生活に毎日の食事が重要であることが次第に認識されてきた。消費者は味と栄養価のみで食品を判断するのではなく,健康と安全性を基準に食品を判断する。機能性食品および機能性食品成分は,健全かつ健康な身体となるように働き,クローン病等のリスクを減らし,体内機能にとって価値ある影響を及ぼすものであるが,消費するときには期待される正常な食事レベルで摂ることが望ましく(Ashwell, 2002),そこで消費者の新しい要求に応えることができる。科学的および商業的見地から機能食品の成分について関心は驚くほど高い。実際,機能性食品は健康促進成分を含有させて作られ,危険な成分を除去することによって生産される。また,天然成分の性質や特異的成分の改良により生産をすることができる(Ashwell, 2002)。
この章では,機能性食品および健康促進成分生産のため,穀物利用の可能性に焦点を絞った。特に主な部分では,我々は酵素の利用によって,いろいろな穀物炭水化物をいかに改良できるか,その食品成分の機能に結果を出せるかを検討する。この目的のため,主な酵素作用同様,各穀物炭水化物の全体を調査し,いかに酵素技術がその成分を改良して健康に関わる成分となるかも討論する。穀物炭水化物関連の機能食品成分のコンセプトの中で,我々は高分子量可溶性食物繊維,プレバイオティクスの非消化性オリゴ糖,および抵抗性デンプンを考察する。
『食と健康フォーラム』より 基調講演
「レギュラトリーサイエンス」の普及に向けて
笠貫 宏/Hiroshi Kasanuki
レギュラトリーサイエンスの考え方
最近,レギュラトリーサイエンス(RS)という言葉が流行語のように汎用されていますが,その使い方は必ずしも統一されておらず,学問体系は未だなされていません。本日は,医療RSの考え方についてお話をし,時間の許す範囲で食品のRSに触れたいと思います。
私は循環器内科医として,多くの医薬品・医療機器の治験や医師主導多施設共同臨床試験の責任者,厚生労働省の薬事食品衛生審議会委員,医療機器・体外診断薬部会長などを経験し,その後,早稲田大学でRSの研究や人材育成に当ってきました。
製品紹介
次世代のスーパーフード「カロブ」
株式会社タイショーテクノス 開発部
近年,食生活の欧米化に伴い,生活習慣病の増加が懸念されている。2015年4月には機能性表示食品制度がスタートし,「中性脂肪」や「血圧」「コレステロール」などを対象とした食品が数多く販売されていることからもわかるように,肥満や生活習慣病予防に対する消費者の意識は高まりを見せている。また,健康志向の向上の表れとして“スーパーフード”など新たな健康食品素材が登場し話題を呼んでいる。スーパーフードはココナッツオイル,アサイー,チアシードを筆頭に,瞬く間に市場を席捲し,今では400億円近い市場規模となった。なお,スーパーフードは,以下のように定義されている「1.栄養バランスに優れ,一般的な食品より栄養価が高い食品であること。あるいは,ある一部の栄養・健康成分が突出して多く含まれる食品であること。」,「2.一般的な食品とサプリメントの中間にくるような存在で,料理の食材としての用途と健康食品としての用途をあわせもつ。」1)。
本稿で紹介するカロブ(キャロブ)も次世代を担うスーパーフードとして期待されている食品の一つである。本稿では,そのカロブの歴史や,産業利用,生理学的機能性について述べたい。
コラム 組織の活性化と人材の育成~
―部活を通じて学んだリーダーシップの精神―
Improving the working environment and nurturing human resources:
―Spirit of leadership learned through sports club.―
田川 裕也/Yuya Tagawa,原 八重子/Yaeko Hara,坂上 宏/Hiroshi Sakagami,坂下 英明/Hideaki Sakashita
日本人はリーダーシップが苦手,向いていないという話をよく耳にする。リーダーシップについての考えは様々である。カリスマ的な才能があり自分の力で変革を起こせる能力,人々をまとめ上げ誘導する能力などと言われる事がある。私は大学で軟式テニス部の部長を勤めリーダーシップについて学んだ。
I often hear that Japanese are not good at taking a leadership. People’s thinking about leadership is quite different from one person to another. Leadership is often said to be an ability to make change with their own charismatic power and to pull a team together. I have learned about the leadership after becoming a captain of soft tennis club in the first year of University life.
漢方の効能
漢方薬を用いた歯周病,インプラタイテスに対する治療方法(鶏血藤配合剤)
Therapeutic Method for Periodontal Disease and Peri-implantitis using Traditional Chinese Medicine (Jixueteng-formulated TCM)
鈴木 光雄/Mitsuo Suzuki,渡辺 秀司/Shuji Watanabe,遠山 歳三/Toshizo Toyama,両角 旦/Akira Morozumi,坂上 宏/Hiroshi Sakagami,佐々木 悠/Haruka Sasaki,浜田 信城/Nobushiro Hamada
う蝕と歯周病は,歯科領域の2大疾患である。これらの疾患は,口腔内に存在する細菌が原因で発症する内因感染症である。日本は,世界に例を見ない高齢化を迎え,益々口腔ケアの重要性が認識されてきている。口腔は,食物を摂取する大切な器官であり,口腔の機能を正常に保つことは全身の健康維持に不可欠な器官である。そこで,天然物質を口腔ケアに利用することを考え,生薬や漢方薬の有効性について検討してきた。天然物質である鶏血藤,ハスの葉抽出液,グレープフルーツシードエッセンス,マスティック樹脂の歯科応用について報告する。
◆連 載
デンマーク通信 デンマークのキッチンウェアやテーブルウェア
Naoko Ryde Nishioka
今回はスタイリッシュなデンマークのキッチンウェア(台所用品)やテーブルウェアを紹介したいと思います。デンマークのダイニングルームやキッチンには,センスのいいおしゃれなものがたくさんあります。北欧の雑貨や家具は世界中の多くの人に愛用されていますが,キッチンウェアやテーブルウェアも,北欧発の多くの製品が世界市場に進出しています。デンマーク人の間でも,デンマークデザインのキッチンウェアやテーブルウェアは人気で,デンマーク人のお宅に行くと,どこかで見たことのあるデザイナーもののお皿やおわん,グラスなどを見かける機会が多くあります。キッチンやダイニングルームは一番頻繁に家族が使う場所だけに,デザイナーものの高価なものでも,さりげなく日用使いされていることも少なくありません。
野山の花 — 身近な山野草の食効・薬効 —
ハトムギCoix lacryma-jobi L. var. ma-yuen (Roman.) Stapf
(イネ科 Gramineae APG:Poaceae)
白瀧 義明/Yoshiaki Shirataki
秋も深まり,山々が紅葉に染まる頃,野山を歩いていると,田畑の空き地などで褐色を帯びた粒々の果実をつけた背丈くらいの草を見かけます。ハトムギ(鳩麦)は,インドからインドシナ半島にかけての地域を原産とする1年草で日本へは,古く渡来し,主に西南部の暖地で栽培されています。名前のとおり,ハトがよくこの実を食べているのを見かけます。花期は8~10月,果実(穎果)を9~10月に採取し,果皮と種皮を取り除き日干しします。種皮を除いた種子をヨクイニン(薏苡仁,Coicis Semen)といい,漢方の古典『神農本草経』では上薬とされ,尿を利し,水腫を除き,下痢を止める。さらに,瘀血を除き,いぼをとり,肌を潤す,肺の気を整え,咳嗽を治すとされ,解熱,鎮痛,消炎,利尿,排膿などを目的に薏苡仁湯,麻杏薏甘湯などに配剤され,民間では滋養,強壮,いぼとりなどに使用されます。苞葉の鞘(苞鞘)に包まれた果実はハトムギといい,日本薬局方外生薬規格(局外生規)に収載され,茶剤として飲まれています。その他,ハトムギエキスには,保湿,美白作用があることから,基礎化粧品に配合されることもあります。成分としてはデンプン(主としてamylopectin),タンパク質,脂肪(palmitic acid, stearic acidなど),ステロール,多糖類などが報告されています。