New Food Industry 2018年 6月号

原著論文

ラットにおけるピーナッツ渋皮エキスの血糖値上昇抑制効果

曽川 美佐子 (SOGAWA Misako),中澤 彩 (NAKAZAWA Aya),吉田 健一 (YOSHIDA Kenichi),上前 健太朗(KAMIMAE Kentaro),山本正次(YAMAMOTO Masatsugu)

要旨
 ピーナッツ渋皮を熱水抽出して得られたピーナッツ渋皮エキス(PSE)は,たくさんのポリフェノール類を含み,抗酸化作用,抗アレルギー作用などの効能があることが知られている。そこで我々は,PSEの血糖値上昇抑制作用について検討した。
 in vitroの試験として,α-グルコシダーゼ活性の阻害率を調べた。in vivoの試験として,正常ラットへの糖負荷試験と,ストレプトゾトシン(STZ)投与糖尿病ラットへのPSE連続投与試験を行った。その結果,PSEはマルターゼおよびスクラーゼ活性ともに阻害した。また,正常ラットを用いた糖負荷試験において,糖とともにPSEを投与することにより,糖負荷後15及び30分の血糖値が有意に低下した。STZ投与糖尿病ラットへのPSE連続投与試験では,PSE投与2〜4週目において,PSE投与群で血糖値の有意な低下が認められた。
 以上のことから,PSEには血糖値上昇抑制効果があり,糖尿病予防に有効であることが示唆された。

総 説

チーズ用乳酸菌LH-BO2の添加が発酵ソーセージの品質に与える影響

小澤 知加 (OZAWA Chika),小林 幸光 (KOBAYASHI Yukimutsu),佐藤 理紗子 (SATO Risako),栃原 孝志 (TOCHIHARA Takashi),竹田 保之 (TAKEDA Yasuyuki),舩津 保浩 (FUNATSU Yasuhiro)

 ソーセージのルーツを調べると,かなり古く,既に原始人により作られていた。ソーセージの語源は「塩漬け」を意味するラテン語「salsus」やsow(雌豚)とsage(セージ,香辛料)に由来するとも言われている1)。 紀元前7世紀に書かれたホメロスの叙事詩オデッセイアにはブラッドソーセージの記述があり,これがソーセージ最古の文献と言われている。古代ギリシャ・ローマ人はハム・ソーセージ作りを奨励したが,ローマ帝国滅亡後,ヨーロッパ各地に伝わった。11世紀頃にはドイツ人はローマ人から学んだ技術によって既にこれらを製造しており,フランス人はその豊かな創造力で何年もかかってその種類と範囲を発展させた。フランスに次いでソーセージ作りで最も種類を多くしたという貢献ではドイツやイタリアであり,他のヨーロッパ諸国も大きな役割を果した。ルネサンスの頃は既に今日の原型ができあがり,その発祥の地にちなんだ製品が次々と誕生した。文書による根拠はないが,サラミの語源はエーゲ海の「サラミス」という都市(今から約3千年前に存在した都市)の名前に由来すると推測されており,以降これらが洗練され完成していった。近代になるとヨーロッパの技術が移民とともにアメリカに伝わった。例えば,イタリアからはボロニア,サラミである。また,スペイン・ポルトガルからはラテンアメリカにチョリソーが伝わった。

国産農林水産物が持つ健康機能性

山下 慎一郎 (YAMASHITA Shin-ichiro)

 日本の農林水産物・食品の輸出額は年々増加しており1),国外でも日本の食べ物が食される機会が確実に増えている。健康意識が高まる世界では,食の安全と美味しさが求められることはもちろん,健康面での生活の質を高める機能性も求められている。そこで,農林水産省では世界に誇る食の安全と美味しさを実現する技術を生かし,日本の農林水産・食品産業の成長産業化を通じて,国民が真に豊かさを実感できる社会を構築することを目的とした取り組みを行っている2)。現在,この農林水産省の取り組みのなかで,農林水産物の生産効率の向上や新規農林水産物の開発,農林水産物の健康に関与する機能性成分に関するエビデンス取得などの研究が盛んに行われている。このような研究を通して,日本の農林水産・食品産業の成長を促している。株式会社オルトメディコでも,日本の農林水産物の普及活動として「日本農業元気化プロジェクト」を実施している。このプロジェクトでは日本の農林水産物を対象に機能性成分をヒト臨床試験にて評価し,農林水産物に新たな付加価値の創出を援助している。「日本農業元気化プロジェクト」は,日本の農林水産物の素晴らしさを国内に留まらず海外へも広められるよう,科学的エビデンスの取得をサポートしている。そこで得られた成果を地域活性化の一環に利用していただく取り組みであり,これまでに多くの農林水産物の機能性を評価し,学術大会や学術誌で報告してきた。本稿ではその一部を紹介する。

食を通じた健康管理
~脳科学メニューの紹介および腸内細菌の食材への応用について
Health care through eating
~ introduction of brain science menu and application of enterobacteria to food ingredients

坂上 徹 (SAKAGAMI Toru)

要旨
 我々の会社の食堂は,従業員の健康増進のため,シダックスにより開発され,脳の疲労予防,回復,精神安定作用が期待される脳科学メニューを提供した。疾患を制御する腸内細菌の食品産業への応用は健康増進のための新しい知見を与えてくれるだろう。

Abstract
 The cafeteria in our company provided a brain science menu that was developed by SHIDAX and expected to prevent, restore and tranquilize the brain fatigue, in order to promote the health of employees. The application of enterobacteria which controls some diseases, to the food industry will provide new insights into health promotion.

解 説

機能性物質の養魚用飼料への添加効果−5. プロテアーゼ,胆汁酸製剤

酒本 秀一 (SAKAMOTO Shuichi)

 著者はこれまでにブロメライン,グルタチオン1),タウリン2),アスタキサンチン,ヌクレオチド3)等の養魚飼料への添加効果を報告した。今回はプロテアーゼと胆汁酸製剤の添加効果を調べた。

『第2回 食と健康フォーラム』より 基調講演

「食と健康の科学」の課題と展望

清水 誠

本編は,平成26年10月9日に開催されたシンポジウム『第2回 食と健康フォーラム 食産業と健康長寿社会の発展を目指して(主催:NPO法人21世紀の食と健康文化会議,於:星薬科大学)』にて行われた基調講演をご紹介します。

国際的コミュニケーション能力の重要性(6)~

−ストレス社会における健康管理法−
The importance of international communication skills:
―Health management method in stress society―

坂上 宏,戴秋娟,肖黎,郑燕,大石隆介,神崎龍志,土田幸広,中井延美,ガルシア-コントレラス レネ

 深刻化するストレス問題:スマホやラインの登場により,情報伝達機構の飛躍的発展がもたらされた反面,それらを悪用することによる小中学生の苛めや自殺件数の増加という新たな問題が浮上してきた。この根底には,複雑な人間関係によるストレスの発症が潜んでいると思われる。ストレスに負けないようにするためにはどのように対処したらよいだろうか?
 適度なストレスは身体に良い効果をもたらす:薬物,毒物,放射線のみならず1),温度変化などの外界を取り巻く様々なストレス2)は,その強度に応じて,生体に対して2相性の効果を与える(図1)。すなわち,適度なストレスは有益な効果(ホルメシス)を,逆に,過度なストレスは,有害な効果を引き起こす。有益な効果が現れる範囲をホルメシスゾーンという。ホルメシスゾーンでは,脳下垂体からオキシトシンが放出され,心臓に運ばれて受容体に結合して細胞を保護する3)。視床下部のミクログリアにおける酸素ストレスを弱めると老化を遅らすという報告もある4)。適度な食物の摂取も身体によいことは容易に理解できる。

連 載
デンマーク通信

デンマークの春の祭日

Naoko Ryde Nishioka

 今回はデンマークの春の祭日にまつわる食べ物について紹介したいと思います。

 デンマークの祭日は年間に11日間あります。新年やクリスマスは祭日となりますが,その他の祭日は,ほとんどが春から夏に集中しています。寒くて暗い冬が明けて,春になると,祭日も多くなるので,デンマーク人は,やはり春や夏の明るくて暖かい季節が大好きです。

野山の花 — 身近な山野草の食効・薬効 —

クララ Sophora flavescens Aiton
(マメ科 Leguminosae)

白瀧 義明(SHIRATAKI Yoshiaki)

 梅雨の晴れ間,野山を歩いていると,日当たりのよい野原で茎の先に薄黄色の蝶形花を長さ10〜15cmの総状花序につけ,小葉のついた奇数羽状複葉を10〜15cmの長さにつけた草本を見かけることがあります。これがクララです。本植物は,本州,四国,九州,中国大陸に分布し,高さ80〜150cmの多年生草本で,10本の雄しべは,すべて離生しマメ科マメ亜科の中でも原始的な形質を残しているものと考えられます。花期は6〜7月,秋には所々がくびれ,中に数個の種子がおさまった莢(さや)をつけ,根を噛むととても苦い味がします。クララの名は,眩草(クララクサ)が省略されたもので根汁をなめると,あまりにも苦くて目が眩むほどであることによります。古名をマトリグサ(末止利久佐)といい,オオルリシジミ(蝶)の食草としても知られ,根を乾燥したものは,クジン(苦参,Sophorae Radix)といい,抗炎症,抗潰瘍,苦味健胃,解熱,利尿,駆虫などを目的として,苦参湯,三物黄芩湯,消風散などの漢方処方に用いられます。また,全草の煎汁は,農作物の害虫駆除薬や牛馬など家畜の皮膚寄生虫駆除に用いられ,かつて,便壺に入れ,うじ虫駆除に用いられたことから「ウジコロシ」の別名もあります。成分についてはマトリン系アルカロイドの(+)-matrine,(+)-oxymatrine, (+)-sophoranol, anagyrineなど,フラボノイドのkuraridin, kurarinol, kushenol Hなど,サポニンのsophoraflavosidesⅠ〜Ⅳなどが報告されています。薬理活性についても(+)-matrineのストレス胃潰瘍発生予防効果,フラボノイドの抗菌作用,酢酸エチルエキスの動脈収縮抑制作用などが報告されています。

解 説

グルテンフリ−ベーカリー食品,グルテンフリーベストの実施,調整,ラベル

瀬口 正晴(SEGUCHI Masaharu),木村 万里子(KIMURA Mariko)

要約
 本論文「グルテンフリ−ベーカリー食品,グルテンフリーベストの実施,調整,ラベル」は, “Gluten-Free Baked Products” 2014 by AACC International, Inc. 3340 Pilot Knob Road St. Paul, Minnesota 55121, U.S.A.の一部を翻訳し紹介するものである。