New Food Industry 2018年 5月号

21世紀の食と健康文化会議パネルディスカッション

『第2回 食と健康フォーラム』より開かれた合意の科学と制度化を目指して
(産・学・官・民のコンソーシアム形成に向けて)
ー 機能性表示食品制度導入と私たちの食と健康 ー

『第2回 食と健康フォーラム』より

本編は,2015年10月9日に開催されたシンポジウム『第2回 食と健康フォーラム 食産業と健康長寿社会の発展を目指して(主催:NPO法人21世紀の食と健康文化会議,於:星薬科大学)』内で行われたパネルディスカッションの模様を弊誌で一部編集した内容です。
平成27年4月に施行された機能性表示食品制度を中心として,各方面からの専門家をパネリストとして迎え,制度を取り巻く状況と今後の課題や展望について議論されています。

総 説

霊芝(赤霊芝: Red Ganoderma Lucidum)子実体における疫増強効果および制癌効果に関する研究
Immunopotentiating effect and anticancer effect in Red Ganoderma Lucidum fruiting body

具 然和(GU Yeunhwa)

Abstract
Recentely, people with lifestyle diseases such as cancer are on an increasing trend accompanying rich dietary life and Westernization of food. Among them, cancer is the leading cause of death.
 In present year, immunotherapy based on alternative medicine with natural substances with few side effects has attracted attention. This studies have reported that natural substances used this time have immunopotentiating effect, anticancer action, and   effect. It was aimed to investigate the presence or absence of the effect by actually administering the natural substance considered to have the above effect to mice and to contribute to these scientific data. For the immunopotentiating effect, 5-week old male ICR mouse was used. The treatment group was a control group, a group treated with Red Ganoderma lucidum fruiting body. The effect was examined by measuring the blood count (peripheral blood, lymphocyte) of peripheral blood.

 キノコの場合,菌糸体と子実体に大きく分ける。霊芝(赤芝)においても菌糸体・子実体の区別はとても重要である。通常,キノコの上の部分,つまり傘と太い柄のような部分が子実体である。胞子をつくる器官で,糸状の菌糸が集まってできたものである。菌糸体は,子実体の根元から,土壌の中,あるいは樹木や昆虫の体内など,動植物中に伸びていく白い糸状のものである(キノコは植物ではなく,カビの仲間,菌類に属する)。胞子細胞から伸びた無数の菌糸が固まってできたのが菌糸体で,この菌糸体が土中や動植物中で四方八方に伸び,栄養分を吸収して成長し,これが集団化して,一般にキノコと呼ばれる子実体をつくりだす。一般には,子実体のほうに有効成分が多く含まれるという報告がある1)。霊芝(赤芝)の学名はGanoderma lucidum Fruiting bodyである。有効成分として主に (1-4)β-D-グルカン, (1-3),(1-6)β-D-グルカン等が子実体に多く含まれ,主な薬理作用として,免疫増強効果,抗癌作用などが報告されている2)。

培養系ヒト腸内細菌叢モデルKUHIMMを利用した食物繊維の影響評価

生田 直子(IKUTA Naoko),篠原 涼平(SHINOHARA Ryouhei),
佐々木 大介(SASAKI Daisuke),佐々木 建吾(SASAKI Kengo)

 腸内細菌叢は宿主への栄養分を提供して健康状態を保ち,腸管内の恒常性や宿主の免疫反応における重要な役割を担っている1)。また,腸内細菌叢のバランスの乱れと肥満や2型糖尿病,大腸炎などの疾病を関連付けた研究が多く報告されており2-5),腸内細菌叢のバランスを保つことが健康の維持・増進に重要であることが広く知られるようになった。食物繊維は,「ヒトの小腸内で消化・吸収されにくく,消化管を介して健康の維持に役立つ生理作用を発現する食物成分」と定義されており6),それ自体が栄養素ではないにも関わらず,健康の維持・増進に重要な機能を有するので,第6の栄養素とも呼ばれている。近年,食物繊維は大腸まで届き腸内細菌叢に様々な影響を及ぼすことが様々な研究から明らかになってきており,生活習慣病の予防や健康増進のためにサプリメントとして食物繊維を利用する人が増えてきている。食物繊維の種類については,水への溶解度や粘性などの物性によって,水溶性と不溶性の2種類に分類されており,その物性の違いが機能性にも影響することが多くの研究によって明らかにされている6)。難消化性デキストリン(DEX)は特定保健用食品(トクホ)素材として認定されている水溶性食物繊維で,トウモロコシでん粉を熱処理し加水分解を行った後,精製を行い,食物繊維画分を分取して得られたものであり,食物繊維を85〜95%含有する。難消化性デキストリンは機能性食品表示制度においても,整腸作用,食後血糖上昇抑制作用,食後中性脂肪上昇抑制作用について研究レビューを利用した機能性表示の届出が受理されている。さらに,難消化性デキストリンは米国食品医薬品局(FDA)より,マルトデキストリンに合致するとされ,GRAS認証(Generally Recognized As Safe)を1990年に得ている。小腸で一部が分解されるが,摂取したうちの半分が大腸で腸内細菌に資化されると言われている。一方,水溶性食物繊維であるα-シクロデキストリン(αCD)はグルコース6個がα-1,4グルコシド結合により連なった環状オリゴ糖で,天然に存在する無味の糖質である。工業的にはトウモロコシなどから取り出されたでん粉にCD生成酵素を作用させて製造されている。αCDは低粘性の水溶性食物繊維であり,摂取時にヒトの生体内の消化酵素では分解されないが,大腸にて腸内細菌に分解される性質を持つ7)。近年,アメリカ国立衛生研究所(NIH)にてαCDの血中コレステロール低下作用に関する臨床研究が開始される8) など,αCDの機能性について,特に抗メタボリックシンドローム素材として大きく注目されている。αCDは中性脂肪低減効果や血糖値上昇抑制効果などの健康効果9-11)や乳化作用などの物性改善効果を有していることから,現在広く食品に配合されている。
 我々の研究では,それらを含めたいくつかのオリゴ糖に着目し,神戸大学で開発された培養系ヒト腸内細菌叢モデルを利用して,食物繊維が腸内細菌叢に及ぼす影響について評価を行った。
 腸管モデルについての研究は1990年代から活発になり,2010年以降になると腸内細菌叢の網羅的な解析技術が飛躍的に向上した背景により腸管モデルや腸内細菌関連の論文数が増加している。近年,腸内細菌叢は健康と関連付けて注目されるようになり,腸内細菌叢を改善する食品素材としての食物繊維は,前述の通り,健康面から注目される第6の栄養素とされている。2016年にOsawa 12)によってまとめられた腸管モデルに関する総説では,食品成分の腸内動態,腸管モデルの構築と使用例について1979年の光岡らの書籍から2016年までの文献を元にまとめられている。本稿では神戸大学で開発された培養系ヒト腸内細菌叢モデル(KUHIMM : Kobe University Human Intestinal Microbiota Model)とそれを利用したin vitro試験と臨床との関連及び腸内細菌叢に及ぼす種々の食物繊維の影響について,我々の研究例を中心にまとめ,さらに食品開発への応用技術などについて紹介する。

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機能性物質の養魚用飼料への添加効果−4. トーアラーゼ,β-1,3/1,6-グルカン

酒本 秀一 (SAKAMOTO Shuichi),佐藤 達朗 (SATO Tatsuro)

 トーアラーゼとは東亜薬品工業(株)より市販されている水産用混合飼料で,同社の製品パンフレットによると3種類の活性生菌(乳酸菌:Streptococcus faecalis,酪酸菌:Clostridium butyricum,糖化菌:Bacillus mesentericus)と2種類の消化酵素(アルカリ性プロテアーゼ,リパーゼ)を主成分とし,小麦粉,ビール酵母,デンプンで希釈した飼料である。それぞれの含量は飼料kg当たり乳酸菌6×109個,酪酸菌2×108個,糖化菌2×108個,アルカリ性プロテアーゼ1×106IU,リパーゼ4×104IUである。期待される効果は,生菌の共生および消化酵素の相乗作用によって飼料の消化吸収を活発にし,摂餌促進と飼料の有効利用を図ると共に悪玉菌の抑制等による魚の健康維持とのことである。
 酒本は前報1)で養魚飼料の原料としてブロメライン(パイナップル由来のタンパク質分解酵素)を添加してモイストペレット(MP)を製造すると,ブロメラインの添加量に従って飼料の水溶性N量が増加すること,無胃魚であるコイの幼魚は飼料の水溶性Nの増加に従って飼育成績が改善されること等を報告した。
 コイ同様和金も無胃魚なのでペプシンと塩酸の分泌が無く,摂取された飼料が強酸性下に曝されることが無い。もしトーアラーゼの効果でアルカリ性プロテアーゼが重要な役割を果たしているのなら,トーアラーゼの飼料添加によって和金でも著しく飼育成績が改善される可能性が有る。よって本試験では和金を用いてトーアラーゼの飼料への添加効果を調べることにした。

解 説

小・中学生時に食育を受けた大学生の食べる力の現状

小林 麻貴(KOBAYASHI Maki),三俣 夏弥(MITSUMATA Natsumi)
池田 小夜子(IKEDA Sayoko),池田 清和(IKEDA Kiyokazu)

食育は,生きる上での基本であって,知育,徳育,体育の基礎となるものであり,様々な経験を通じて「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し,健全な食生活を実現することができる人間を育てることである。わが国では平成17年7月に食育基本法が施行され1),同年より栄養教諭制度2)が始まり,小・中学校で食育が推進されている。平成28年3月に公表された国の食育政策の指針となる「第3次食育推進計画」3) では,①若い世代を中心とした食育の推進,②多様な暮らしに対応した食育の推進,③健康寿命の延伸につながる食育の推進,④食の循環や環境を意識した食育の推進,⑤食文化の伝承に向けた食育の推進の5項目が重点課題とされている。そのうち①若い世代を中心とした食育の推進は,他の重点課題である「多様な暮らしに対応した食生活」,「健康寿命延伸」,「食の循環や環境への配慮」,「食文化の伝承」を達成するためにも非常に大切である。
 現在の20歳代及び30歳代の若い世代は,食に関する知識に乏しかったり,意識が低かったり,実践状況の面で他の世代よりも多く課題があると言われている3)。健康であるが故にその大切さや,必要性を感じていない可能性も高い。さらに,20歳代~30歳代はこれから親になる世代でもあるため,健全な食生活の実践力を身につけていくことは,次世代につなげるためにも重要である3)。

連 載
デンマーク通信

デンマークのクリスプブレッド

Naoko Ryde Nishioka

 デンマークで生活していると,いろいろな場面で,Knækbrød と言われるクラッカーよりも大きめなクリスプブレッドをよく見かけます。Knækbrødは,乾燥させ,カリカリとさせたパンのような味で,水分が少ないため,保存に適しており,スナックやお昼ご飯によく使用されます。ヨーロッパでも特に北欧ではKnækbrødが普及しているらしく,長持ちする便利さからも,一般家庭の台所の食品棚によく入っています。

 このKnækbrød,材料はライ麦を主材料とすることが多いですが,そのバリエーションも様々です。ひまわりの種をまぶしたものや,胡麻やかぼちゃの種を入れたものなど,スーパーに通常陳列される品数も多く,デンマークでKnækbrødが,とても身近な製品であることが伺えます。通常は,クラッカーよりも大きく,どちらかといえば,パンをイメージした大きさになっていますが,スーパーなどに行けば,細長くそのままカリカリ食べやすいような形状になっているものや,クラッカーのように手のひらに収まるサイズのものなどもあり,その種類は様々です。

野山の花 — 身近な山野草の食効・薬効 —

ウスバサイシン Asiasarum sieboldii (Miq.) F. Maekawa
(= Asarum sieboldii Miq.)(ウマノスズクサ科 Aristolochiaceae)

白瀧 義明(SHIRATAKI Yoshiaki)

 桜の季節が過ぎ,木々の青葉が目にしみる頃,山歩きをしながら,ふと足元に目をやるとハート型の葉を2枚,そして葉の根元には隠れるようにして茶褐色の小さな壺型(つぼがた)の花を付けた植物を見かけることがあります。ウスバサイシンです。本植物の仲間は狭い地理的分布域があることからカンアオイAsarum nipponicumをはじめ,とてもたくさんあり,しっかりした鑑別が出来るようになるには,かなりの勉強が必要です。ウスバサイシンは日本から中国にかけて分布し,林床に生える多年生草本で,葉は冬には落葉し,早春に長い柄を出し,薄く光沢の無い深緑色心臓型の葉を多くは2枚生じ,春に葉の間から淡汚紅紫色をした花を1つ咲かせます。花に花弁はなく萼(がく)裂片が花弁状になっています。すなわち3枚の三角形の裂片が萼片です。近縁の植物にフタバアオイAsarum caulescensがありますが,こちらは薬用とはならず,5月に行われる京都の賀茂神社(上賀茂神社・下鴨神社)の葵祭のシンボルとして,また,フタバアオイの葉をアレンジし3枚組み合わせた「三つ葉葵」は徳川家の家紋(葵の御紋)としてよく知られています。ウスバサイシンの花の形は近縁のカンアオイとよく似ていますが,ウスバサイシンの花筒の内部には縦溝だけがあって横溝がない点で区別できます。

Research note:

味噌の神経細胞保護作用
Neuroprotective action of Miso

小島 百代/KOJIMA Momoyo),佐野 愛子(SANO Aiko),鈴木 龍一郎 (SUZUKI Ryuichiro)
白瀧 義明 (SHIRATAKI Yoshiaki),坂上 宏 (SAKAGAMI Hiroshi)

要約
 味噌は長年,私達の食生活を支えてきた伝統的な発酵食品である。味噌は,様々な疾患の予防,美容効果やダイエット効果を示すことが知られている。味噌の新しい薬理作用を探索する過程で,味噌が,細胞前駆細胞の増殖を促進し,アミロイドペプチドによる神経障害を軽減することを見出した。味噌の神経保護作用は,高齢者社会における認知症発症の予防に貢献する可能性が示唆された。

SUMMARY
 Miso is a traditional fermented food that has supported our diet for many years. Miso is known to prevent various diseases, and exerts beauty and diet effect. In the process of searching for a new pharmacological action of miso, we found that miso promotes proliferation of undifferentiated neuronal cells and alleviates neuropathy induced by amyloid peptides. It is suggested that the neuroprotective action of miso may contribute to the prevention of the onset of dementia in the elderly.

解 説

グルテンフリ−ベーカリー食品,グルテンフリーパスタとスナック

瀬口 正晴(SEGUCHI Masaharu),木村 万里子(KIMURA Mariko)

要約
 本論文「グルテンフリ−ベーカリー食品,グルテンフリーパスタとスナック」は, “Gluten-Free Baked Products” 2014 by AACC International, Inc. 3340 Pilot Knob Road St. Paul, Minnesota 55121, U.S.A.の一部を翻訳し紹介するものである。