New Food Industry 2017年 10月号

刻みのりによるノロウイルス食中毒と提起された衛生管理

西尾 治

 食中毒とは無縁と考えられていた乾物である「のり」の加工品である「刻みのり」によるノロウイルス食中毒が起きた。乾物の加工も衛生管理が必要である。「刻みのり」は業務用で,広域に販売され,主に学校給食で使用していたために,大規模な食中毒が発生した。従業員がノロウィルス感染を疑われて2ヶ月経過後にノロウイルス食中毒が発生した。食品がノロウイルスに一旦汚染されると長期間健康被害を起こすことが示された。この食中毒を契機として,厚生労働省大量調理施設衛生管理マニュアル(大量調理マニュアル)改正では調理従事者の喫食の原則禁止,和歌山県教育委員会ではサラダ等の生野菜の提供禁止などが決定された。厚生労働省の食中毒発生施設の調査では手洗い,手袋の使用,トイレ等の不備が指摘されたので,それらについて解説を行った。

食品害虫管理における画像解析技術の利用 

曲山 幸生

 著者が所属する研究室(食品害虫ユニット:主に貯穀害虫の防除法の研究開発を実施)の歴史は古く,農林省米穀利用研究所の時代(昭和9年から昭和19年)にすでに害虫防除の研究を開始しており1),その後も現在に至るまで途切れることなく存続している。その間,解決すべき重点課題は,食糧の損失,残留殺虫剤の影響,薬剤抵抗性昆虫の発生,使用禁止薬剤の代替,異物として食品への混入というように時代とともに変化してきており,研究テーマもそれらの課題を解決するために変わってきた。しかし,現在でも食品害虫に関する問題の重要性は高く,大局的な社会的な要請も害虫を防除したいということでは変わっていない。

食物繊維ペクチンによる腸絨毛伸長作用

矢部 富雄

 食物繊維といえば,今や健康を維持するために毎日の食生活には欠かせない食品成分の一つとして,広く一般に浸透しているばかりか,健康食品に含まれる成分の定番として定着している。しかし,食物繊維が人々からもてはやされるようになったのは,ここ50年にも満たない期間である。それまでは「食物繊維」といえば人類に嫌われ,厄介者とされてきたのである。
すなわち,およそ1万年前に農耕を始めて以来の人類は,おいしさを妨げる原因となっている食物繊維を,いかに取り除くかということに苦心惨憺してきた。また,近代栄養学の観点からも,不消化成分としての食物繊維を,非栄養素たる「不要物」として,食品からいかにして徹底的に取り除くことができるかを追求することによって,食品の栄養価を上げようとしてきた。そのために,長い年月をかけて食物繊維を取り除くための技術や道具を次々に開発する努力を惜しまず,それを文化にまで昇華させて人類は発展してきたといっても過言ではない。そして,ほぼ完全なまでに食品から食物繊維を取り除くことができる技術を手にした現代になって,皮肉なことに人類は,いかにして毎日の食事の中で食物繊維を摂取するかという難問を抱えて頭を悩ませる事態に直面している。

ゆでめんのゆで後の理化学的特性値の経時変化

平田 健

要約
 ゆでめんはゆで後急速にテクスチャーが変化し,食味が低下する。ゆでめんのゆで後のテクスチャー,水分分布,X線回折および澱粉の老化度の経時変化を調べ,食味が低下する原因を解明し,その低下防止の方策を検討した。その一策として,冷凍温度など冷凍条件とゆでめんのテクスチャーとの関係について検討した。
(1)ゆでめんのテクスチャーは,ゆで後4時間まで漸次変化し,それ以後24時間までほぼ一定であった。
(2)ゆでめんは,ゆで直後は水分分布が不均一で,食味が良好であるが,貯蔵時間が長くなるにつれ水分分布が均一になり,食味が低下したと考えられる。
(3)ゆでめんの老化は,貯蔵90時間まであまり進行しなかった。ゆで直後の食味を維持するには,ゆで直後は,水分分布の均一化,長時間貯蔵には澱粉の老化を抑制することが重要であることがわかった。
(4)ゆでめんを冷凍し,再度ゆでたもののテクスチャーはゆで直後のそれらと類似していた。冷凍温度によりゆでめんのテクスチャーの変化は多少異なるが,いずれもゆでめんを冷蔵貯蔵したものより,格段にゆで直後のテクスチャーを保持することができた。これらのことは,冷凍めんの消費が進展していることを裏付ける理由であると考えられる。

グルテンフリー食品用の各種素材(2)

瀬口 正晴

要約
本論文「グルテンフリー食品用の各種素材(2)」は,海外のグルテンフリー食品のための素材の現状について解説したものである。具体的には,米国の穀物科学者,Jeff CasperとBill Atwellによって書かれた本(“Gluten-Free Baked Products” 2014 by AACC International, Inc. 3340 Pilot Knob Road St. Paul, Minnesota 55121, U.S.A.)の一部(”The Gluten-Free Ingredients”)を翻訳し紹介するものである。ここでは,前報「グルテンフリー食品用の各種素材(1)」につづいて述べる。

解 説 ポテトプロテインを原料とした醤油風味調味料の製品化

輿水 誠

 馬鈴薯は主に北海道で生産され,食品としての用途として「生食用」「でん粉用」「加工食品用」の3つに分けられる。その中で,「でん粉用」の馬鈴薯がでん粉に加工される際に,副産物として搾汁液(ポテトジュース)を得られるが,通常,使用されることはなく廃棄されている。しかし,この搾汁液の中にはタンパク質が少なからず含まれており,資源としての利用が考えられる。
 当社では,「未利用資源の有効活用」という経営理念のもと,この搾汁液を乾燥させたポテトプロテインを原料に,植物蛋白加水分解物(HVP)系調味料を各種製造しているが,その中でも新しく開発を行った,醤油風味調味料について述べたい。

解 説 次世代の健康食品素材PQQ

池本 一人

 ピロロキノリンキノン二ナトリウム塩(PQQ)は微生物の酵素に含まれる補酵素ピロロキノリンキノンを精製し,水溶性塩として単離したものである。酵素の活性部位として働き,酸化還元を行う分子として重要な役割を果たしている。ピロロキノリンキノンは自然界では微生物が一次生産していると考えられており,ピーマン,パセリ,キーウイ,納豆,お茶,母乳に含まれている。日常的にヒトはPQQおよびその誘導体を0.1-1.0mg/day摂取していると考えられている。三菱ガス化学株式会社は発酵法によって世界に先駆けてピロロキノリンキノン二ナトリウム塩(PQQ)を製品化(BioPQQ)した。
 現在,BioPQQは米国FDAよりNew Dietary Supplementsに認められ,日本では厚生労働省の個別照会によりサプリメント原料として使用可能である。この製品に関して基礎研究,臨床試験が行われ,多くの機能が報告されている。今回。最近のトピックを含め,基礎,臨床研究の主だったものを紹介する。

デンマーク通信

デンマークのアイス

Naoko Ryde Nishioka

 今回は夏の食べ物,アイスにまつわる話を紹介したいと思います。
 日本でも夏の暑い日には,アイスクリームやジェラート,かき氷などがよく売れますが,ここデンマークでも,気温は決して日本レベルには達しないものの(暑くても気温が30度を超えることはあまりなく,湿度も低いのでとても清々しい夏),夏の晴れた日には,街のアイスクリーム屋さんに,子供達や家族連れ,若者たちが列をなしている光景をよく見かけます。デンマークは,酪農が主要な産業の一つなので,アイスクリームもさぞかし美味しいのでは,と思われる方も多いのではないでしょうか。

野山の花 — 身近な山野草の食効・薬効 —

ナツメZizyphus jujuba Miller var. inermis (Bunge) Rehder
(クロウメモドキ科Rhamnaceae)

白瀧 義明

 10月,秋の気配が深まった山里を歩いていると,民家の庭などに茶色を帯びた小さな赤色の実をつけた木を見かけます。ナツメは中国中・北部原産とされる高さ10mになる落葉高木で,長枝には托葉が変形した長さ3cmほどのとげがあり,葉は小枝に互生し葉柄が短く,平面的に並ぶので羽状複葉のように見え,長さ2〜4cmの卵形または長卵形で先端は鈍形または鋭形。基部は鈍形でやや左右不対称で,辺には鈍きょ歯があり,質はやや硬く上面には光沢があります。葉脈は3主脈が明りょうです。初夏には淡黄色の小花が葉腋に集まってつき,果実は核果でだ円形,緑色から暗赤色に熟し,熟すると甘く美味です。

ニジマスの親魚用飼料-2

酒本 秀一,佐藤 達朗

 水産試験場の方の情報に基づき前報1)でハードペレット(以下HPと略記)とエクストルーダーペレット(EX)のニジマス親魚用飼料としての適性を比較したところ,以下の結果を得た。
・増重量,飼料効率(増重量×100/給餌量),タンパク質効率(増重量×100/給与タンパク質量)等の飼育成績はEXの方が優れていた。
・体成分,卵と精液の性状や成分はHPとEXで大きな違いは無かった。
・成熟親魚より採卵・採精を行って人工授精した結果,受精卵の孵化率や孵化仔魚の奇形率などでHPの方がEXより優れていた。
・採卵・採精後の親魚の生残率はHPの方が高かった。但し,これには飼料の違いのみでなく魚体の大きさも関与していた可能性が有った。
 以上の様に再生産を主目的とする親魚用飼料にはEXよりHPの方が適しているのではないかと思える結果であった。

ベジタリアンの健康・栄養学

第2章 冠動脈心疾患率のアドベンチストと他人との比較

ゲーリー E. フレーザー (Gary E.Fraser),訳:山路 明俊

 冠動脈心疾患で死亡する人は,米国では過去30年間で半分以下に減少した。(Gillum,1993)しかし,米国や殆どの西欧諸国では,まだ,主要な死亡原因であり,罹患率の先頭でもある。この病気には,心筋梗塞,突然死,うっ血性心不全,重篤な不整脈や狭心症がある。
 冠動脈心疾患(CHD)は,アテローム性動脈硬化の進んだ結果であり,冠動脈に影響し,心臓筋肉への血液と酸素の供給を消失させてしまう。アテローム性動脈硬化症は,動脈内壁で起こる,コレステロール,コレステロールエステル,コラーゲンや炎症細胞の蓄積である。(Ross,1993)このプロセスは,高いLDLコレステロール値と酸化ストレス下の環境で起こることが知られている。(Witztum,1994)酸化LDLコレステロールは,動脈壁から浸透し,そこに留まる傾向があり,動脈の空隙(内腔)にはみ出て,プラークを形成する。
 コレステロールの堆積物は,脂肪塊の維持を弱めるような炎症応答を刺激し,破壊して血流を止めてしまう。そこで血栓を生じ,動脈を完全に閉塞し,心筋の死(心筋梗塞)を生じさせる。心疾患の傷跡や心筋の再生をする酸素の供給不足から生じる心臓の電気的働きの崩壊は,重篤な不整脈や突然死の引き金になるかも知れない。

地域密着でキラリと光る企業 −『三百余年の伝統を誇る稲庭饂飩の無限堂』−

田形 睆作

 秋田を訪れたときに,ある店で秋田の名物だという饂飩をいただいた。喉をツルッと通るそのなめらかな喉ごしと特有のコシの強さに魅了された。その驚きはいまでも忘れられない。店の人に「この饂飩はどこの饂飩?」と尋ねたところ,稲庭饂飩であると教えていただいた。
 その後,食品展示会に参加した際に,稲庭饂飩の無限堂さんがブースを出しておられた。そのときに試食させてもらいあの味わいを再び楽しませていただき感激した。このご縁があって,無限堂さんを訪問することとなり,社長さんから稲庭饂飩と無限堂の話をお聞きし,工場長さんから生産現場を案内していただいた。こうして稲庭饂飩のなめらかな喉ごしとコシの強さの秘密を少しだけ理解した気になった。
 本稿では稲庭饂飩と三百余年の伝統を誇る無限堂を紹介したい。