New Food Industry 2017年 8月号
椎茸菌糸体培養培地抽出物の脳保護効果
Cerebroprotective effects of a water-soluble extract from the culture medium of Lentinus edodes mycelia
玄 美燕,岩田 直洋,岡﨑 真理,神内 伸也,飯塚 博,日比野 康英
Abstract.
Acute brain infarction is usually managed with treatment strategies that correct cerebral blood flow and provide neuroprotection. In contrast to the former therapy, where the first drugs of choice are limited due to a narrow therapeutic window, the latter is gaining attention for treatment of acute cerebral infarction as a strategy that focuses on protection of brain cells and cerebrovascular endothelial cells. Oxidative stress plays an important role in the acute phase of a cerebral infarction and therefore, controlling oxidative stress has been recognized as the most critical component of acute management. Consequently, various drugs have been developed but these pharmacological therapies face the utmost difficulty in achieving a complete cure. With this background, primary prevention is particularly important to avoid acute cerebral infarction.
Cerebral neuroprotection using antioxidants is an attractive field of research as a targeted strategy for reducing of oxidative stress that has a significant influence on nerve cell death in the penumbra around an ischemic area. This paper reviews the protective effects against hypoxic ischemic brain damage mediated by an antioxidative water-soluble extract from culture medium of Lentinus edodes mycelia (LEM).
要旨
脳梗塞急性期治療の戦略には,血流改善療法と脳保護療法の二つがある。前者は,適用時期の制限などから選択薬が限られている一方で,後者は,脳細胞の保護と脳血管内皮細胞保護の両面に焦点を当てた治療法として注目されている。急性期の病態において酸化ストレスは重要な役割を演じ,この制御は急性期治療において最も重要なものとして,これまでに様々な薬剤が開発されてきたが,上記のいずれの治療法とも薬物による根治は困難を極めている。このため,一次予防の重要性がクローズアップしている。
虚血周辺部のペナンブラ領域における神経細胞死は,酸化ストレスによる影響が大きいことから,その軽減をターゲットとした抗酸化物質による脳保護療法が注目されており,本総説では,抗酸化作用を有する椎茸菌糸体培養培地抽出物(LEM)の低酸素脳虚血障害に対する保護効果について概説する。
家庭内常在菌
−セラチア菌,モラクセラ菌,カンジダ菌− に対するバイオイオナース®の除菌効果について
窪田 倭,高塚 正,和田 雅年,松澤 晧三郎,山地 信行
わが国の高齢化社会に伴い65歳以上の高齢者が平成26年に在宅医療を受けた推計患者数は137万1千人で,総数の約88%を占めている1)。一方,医療の進歩とともにがん患者,臓器移植患者,そして中心静脈カテーテル挿入や埋め込み型人工臓器を装着した患者などが自宅にて日常生活が送れるようになってきた。これら高齢者,がん患者,移植患者,埋め込み人工臓器装着患者などは抵抗力・免疫力低下を引き起こしているのが常である。その結果易感染性状態にあり,日和見感染症の家庭内での罹患の危険性が危惧される。
家庭内の空気中や湿潤性の台所,ふろ場,トイレなどに付着した細菌や真菌(カビ)などの家庭内常在菌が日和見感染源となることが考えられる。さらに空気調整設備は快適な温度と湿度の維持および保持を行い快適な生活を営むための設備であるが,適正な管理を怠ると呼吸器感染症やアレルギー疾患などを引き起こすことが指摘されている。家庭内常在菌種としてセラチア菌,モラクセラ菌,レジオネラ菌,カンジダ菌などが知られており,いずれも日和見細菌感染症や日和見真菌症の主要な感染源である。
著者らは生体に無害であり環境に易しいクエン酸を基体とした除菌・消臭剤バイオイオナース® を開発し,病原菌に対して抗菌作用を2),ノロウイルスや高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N3)などのウイルスに対しては不活化作用3, 4)を,そして真菌(白癬菌)に対しては抗真菌作用を有すること5)などを報告してきた。今回,著者らは家庭内常在菌で日和見感染源となるセラチア菌,モラクセラ菌,カンジダ菌に対してバイオイオナース® が除菌効果を有するかどうかを検討し若干の知見を得たので報告する。
グルテンフリ—食品のマーケットと消費者
瀬口 正晴
要約
本論文「グルテンフリ—食品のマーケットと消費者」は,アメリカのグルテンフリー食品のマーケット現状について解説したものである。具体的には,米国の穀物研究者,Jeff CasperとBill Atwellによって書かれた本(“Gluten-Free Baked Products” 2014 by AACC International, Inc. 3340 Pilot Knob Road St. Paul, Minnesota 55121, U.S.A.)の一部(”The Gluten-Free Market and Consumer”)を翻訳し紹介するものである。
マメ類の知的選別機の開発
古木 三裕,田邊 大,高橋 史夫,片平 光彦
マメ類の中でもエダマメは2015年の全国作付面積が12,500ha,収穫量が65,900t,出荷量が49,100tの指定野菜に準ずる特定野菜35品目の1つである。主な産地は新潟県(2015年度作付面積:1,560ha),山形県(1,430ha),秋田県(1,150ha),群馬県(1,120ha),北海道(887ha)千葉県(829ha)となっている。全国の作付面積は前年比100%,収穫量と出荷量が前年比98〜99%とほぼ横ばいである7)。また,本学のある山形県鶴岡市はダダチャマメの産地として有名であり,2012年の作付面積が783ha,出荷量が4,488tと山形県内でも栽培が盛んな地域である6)。
エダマメは収穫量が増加する一方で,収穫後の品質低下が早いため,調製作業の効率化と早期予冷が品質維持の観点から必須になっている。そのため,収穫調製作業では収穫機が38%,粗選別機が62%,予冷庫が約60%の経営体で導入されるなど,効率化が進んでいる1)。なお,導入されている粗選別機は良品のエダマメ莢と同じ厚さの幅に設定した複数のガイドレールを振動させ,レールの間隙に未熟な莢を落下して選別する機構である。その粗選別機は選別率が0.1,不良品回収率が16%と作業精度が低い。そのため,生産現地では手作業での精選別作業(作業能率:10kg/時間,42時間/10a,選別率:0.6〜0.7)を追加しており,栽培面積拡大に伴う収穫量の増加に対応できない現状にある。そこで,選別作業を効率化して生産規模を拡大するには,高能率で高精度な選別機の導入が不可欠である。
食品物性研究における質量基準と体積基準に関する一考察
西津 貴久
日本食品標準成分表は食品の品目別に,可食部100 gあたりの水分,タンパク質,脂質,炭水化物,灰分などの質量を整理したデータベースである。はんぺんやパンのような多孔質な食品では,空隙の中に空気が入っているが,この成分表には「空気」の項目はない。空気は食品を構成する実質的な成分ではなく,食品の栄養機能や健康にかかわる機能への貢献がないため「成分」と認識されていないことが大きな理由であるが,そもそも空気は質量がほぼゼロであるため,質量基準でまとめられている食品成分表には載ってこないのである。
確かに空気の質量は他成分に比べて無視できるほど小さいが,食品の成分構成を体積基準で考えると空気は量的に無視できない成分となる。空隙の存在により,やわらかくなるなど物性に大きく関わっていることも知られている。このように考えると,空気は食品の2次機能に影響を与える重要な「成分」因子であると言うこともできる。食品物性は食品の成分と構造に影響を受けるが故に,食品物性と成分の関係を検討する場合,空気に限らず,その物性を質量ベースで考えるべきか,それとも体積ベースで考えるべきなのかを意識しておく必要がありそうである。
本稿では,食品物性について考える際に,あまり意識することのない質量基準の物性と体積基準の物性の違いについて述べることとする。
ヒメマスの肉色改善
酒本 秀一,佐藤 達朗
前報1)で天然ヒメマスと養殖ヒメマスの違いを調べ,大きな違いの一つに肉の色が有ることを明らかにした。また,天然ヒメマスの赤い色はカロチノイド色素である事も分かった。微生物や植物は体内でカロチノイドを生合成出来るが,魚は出来ず,餌から取り込んだカロチノイドをそのまま体に蓄積するか,体内で別の色素に転換して蓄積するかである2)。天然ヒメマスの肉が赤いのは湖で増殖した植物プランクトンを動物プランクトンが食べ,その動物プランクトンを小魚が食べ,動物プランクトンや小魚をヒメマスが食べる事によっている。つまり,植物プランクトンが生合成したカロチノイドが食物連鎖を通じてヒメマスの肉に濃縮,蓄積されているのである。
上記の結果から,養殖ヒメマスの肉を赤くするには与える飼料にカロチノイドを添加すれば良いであろう事は誰でもすぐに思いつく。ところが天然魚と同様な肉の色にするにはどの様な色素をどれ位の量添加すべきなのかが分かっていない。よって本試験では,最初に天然ヒメマスの肉色の特徴,例えば色素の種類と量,部位による色素量の違い,成長に伴う色素量の変化等を調べた。次いで,養殖ヒメマスの肉色を天然魚に近付けるにはどの様な色素をどの位の量飼料に添加すれば良いかを調べた。最後に最も需要の多い体重150〜200gの魚の肉色を良くするには如何したら良いかを調べた。
酒たちの来た道 酒造りの文明史⑨
古賀 邦正
歴史の変遷と共に“果物の酒”ワインと“穀物の酒”ビールの来歴をたどって来たが,ワインとビールの章はこれで終りとしたい。今回は,第一次世界大戦終了以降,今日までということになるけれども現代史ほど扱いにくいものはない。ゆれ動く出来事について個人のレベルでも国のレベルでも刹那の利害と好き嫌いの感情が伴い,何が歴史に残るほどの普遍性を持つのかを選び出すのはきわめて難しい。高度な専門性と客観性が必要であり,私の手に負えるわけはない。ワイン造り,ビール造りについても同様なことが言える。それぞれ,長年にわたってその道をきわめ,一家言を持つ専門家の諸先生が同時代におられるので,その方々に教えを乞うことが適当だろう。ここでは,第一次世界大戦から第二次世界大戦までの世界の動きとワイン・ビールの変遷について概観するが,同時代のよしみということで大目に見ていただきたいというのが正直な気持ちである。
野山の花 — 身近な山野草の食効・薬効 —
キキョウ Platycodon grandiflorus (Jacq.) A. DC.
(= P. grandiflorum (Jacq.) A. DC.)(キキョウ科 Campanulaceae)
白瀧 義明
梅雨が終わり,暑い夏の訪れる頃,山麓の山道を歩いていると茂みの中から紫色の花が顔を出しているのに出会うことがあります。最近では観賞用に庭などに植えられ,園芸植物として定着していますが,これがキキョウです。
キキョウは日本,朝鮮,中国北部,ウスリー地方などに分布し,日当りのよい草原などに自生する多年草で,根は肥厚して太く白色の直根。茎は直立して高さ40〜100cmになり,茎の切り口から乳液が出ます。葉は互生しほとんど無柄で長卵形,ふちには鋭きょ歯があり,質はやや厚く,下面は白色を帯びています。7〜9月ごろ茎頂および枝先の葉腋に美しい青紫色または白色のやや浅い鐘状の花を開きます。
デンマーク通信
デンマークは茶色の主食が主流
Naoko Ryde Nishioka
今回はデンマークの主食,つまりお米やパン,パスタなどが「茶色い」話を紹介したいと思います。
デンマークの食卓では,お肉料理に,脂肪分の高いブラウンソースを,茹でたジャガイモにかけて食べる,というのを伝統的な料理としてよく見かけられますが,それらの典型的なデンマーク料理の他にも,様々な国際的な料理が日常的に普及しています。主食もジャガイモだけでなく,パンやパスタ,米や麺類なども人気で,パスタやお米は学校の給食などにもよく登場する主食です。今回はそれらの主食,パンやパスタ,お米の茶色いものがよく普及していることについて紹介したいと思います。