New Food Industry 2017年 5月号

アンカー型環状イソマルトメガロ糖の生産と用途

舟根 和美,水島 大貴,宮崎 剛亜,儀部 茂八,鏡 朋和,鈴木 志保,北村進一,原 博

 イソマルトオリゴ糖はD-グルコースが2個からおおむね9個α-1,6結合で直鎖状に連なった構造である。食品素材として市販されているイソマルトオリゴ糖は低分子のものが主成分で,主に2糖や3糖から成るイソマルトオリゴ糖から成り,α-1,6結合のほかにα-1,4結合が含まれるパノースなどが含まれているものについてもイソマルトオリゴ糖と呼称されている。対して環状イソマルトオリゴ糖(CI)はD-グルコースが7個からおおむね9個α-1,6結合で環状に連なった構造を持つ1)。その後,グルコース10個から12個から成る高分子のもの2),さらに重合度13から17までのものも発見された3)。これら10個以上のグルコースから成るオリゴ糖よりも大きいサイズのものを環状イソマルトメガロ糖(C-IMS)と名付けた4)。また,微量であるがCIあるいはC-IMSにグルコースがα-1,3結合した分岐型(アンカー型)が存在することが示唆されている5)。CI, C-IMS,α-1,3アンカー型CI(CIb),α-1,3アンカー型C-IMS(C-IMSb)の構造を図1に示す。これらを総称してサイクロデキストランとも呼ばれる。ただし個々の分子についてはCIもC-IMSもCI-n(nはグルコースの数),CIbもC-IMSbもCIb-n(nはグルコースの数)と表記される。
 1993年,デキストランを分解してイソマルトオリゴ糖とは異なるオリゴ糖を生産する菌をスクリーニングすることによってCIを生産する菌株Bacillus circulans T-3040株[FERM BP-4132 (NBRC)] が発見された1)。包接剤として広く利用されているサイクロデキストリン(CD)は,グルコース分子がα-1,4結合で環状に連なった構造であるが,CDでは包接できない巨大分子,あるいは極めて不溶性の機能性分子を包接できる環状糖を取得することがCI探索時の目的であった。しかし残念ながら,CIにはCDを超える顕著な包接能を見出すことができなかった。一方,CIにはCDには見られない優れた機能として,歯垢の生成を阻害する作用が見出された6−8)。近年この性質を利用したCI入りの甘味料,水歯磨き,ペットの口臭予防補助食品などが製造販売された。
 CIの包接機能が再び注目されたのは,2007年にC-IMSが発見されてからである。グルコース10個が重合した環状イソマルトデカオース(CI-10)に,リン酸緩衝液中でのビクトリアブルーBの青色の退色を防ぐ強い包接能が見いだされ2),私たちは,包接剤としてのC-IMSの生産と利用法を開発し,澱粉から高純度のC-IMSを生産,分離回収する方法について2014年の本誌で報告した4)。その後さらに高い包接能を有するサイクロデキストランの開発を続け,今回は,アンカー型環状イソマルトメガロ糖の生産とその用途開発研究において得られた知見を報告する。

キチンナノファイバーの食品としての機能性
Functionality as the food of chitin nanofibers

東 和生

要旨
 カニ・エビなどの主成分であるキチンは,微細繊維(ナノファイバー)が,何重にも重なり,層をなして強固な骨格を形成している。近年,そのナノファイバーを容易に作製することが可能となり,食品への応用が検討されている。筆者らは,これまでに動物モデルを用いて,腸内環境・全身代謝に及ぼす影響をはじめ,大腸炎,小腸潰瘍,肥満および高コレステロール血症抑制効果を証明してきた。本稿では,それらの結果を概説するとともに,今後の応用展開に関しても述べる。

大豆に含まれるトリテルペノイドの新規機能性:
マクロファージ活性化制御を介した抗腫瘍作用

藤原 章雄,白石 大偉輔,池田 剛,竹屋 元裕,菰原 義弘

 マクロファージは体内の老廃物の処理や,病原菌に対する防御機能を担っている。その一方で,過剰なマクロファージの活性化は,逆に多くの疾患の発症に関わることも知られている。近年,マクロファージの活性化機構には,古典的活性化経路とオルタナティブ活性化経路が存在することが知られている1, 2)。すなわちTh1タイプのサイトカインでの刺激により炎症惹起性に機能する古典活性化マクロファージ(M1マクロファージ)と,Th2タイプのサイトカイン刺激により抗炎症性,組織修復性に機能するオルタナティブ活性化マクロファージ(M2マクロファージ)の2種類に大別されている1, 2)。
 このようなマクロファージの活性化の違いは,様々な病態形成と深く関連するため,マクロファージの活性化制御が疾病の予防や治療に有効であると考えられている。腫瘍組織においては,M2マクロファージが腫瘍血管の形成促進やIL-10,PGE2等の免疫抑制分子を産生することで抗腫瘍免疫の抑制に関与している3)。一方,M1マクロファージは,抗腫瘍免疫を活性化することで腫瘍の増殖を抑制することが知られている。例えば,IL-4,IL-13,STAT3/6を欠損したマウスでは,腫瘍組織でのM2マクロファージへの分化が抑制され,M1マクロファージの割合が増えるため,結果的に癌の発育・転移が抑制されると報告されている4)。つまり,M2マクロファージは抗腫瘍免疫を抑制することで腫瘍増殖に関与しており,一方,M1マクロファージは抗腫瘍免疫を活性化することで,腫瘍の増殖を抑制することが知られている。ゆえに,腫瘍内浸潤マクロファージの活性化状態をM2からM1に変換することができれば癌の予防や治療につながると考えられている。
 そこで,我々はマクロファージの活性化制御を癌に対する予防・治療戦略として位置づけ,マクロファージの活性化を制御する天然物のスクリーニングを行ったところ大豆エキス中にマクロファージの活性化を制御する成分が含まれていることを発見し,その活性本体がソヤサポゲノールであることを発見した。ソヤサポゲノールは,大豆に含まれるトリテルペノイド配糖体であるソヤサポニンのアグリコンである。本稿では,このソヤサポゲノールのマクロファージ活性化制御を介した抗腫瘍作用について紹介する8)。

サラシア属植物の保健機能と安全性

芳野 恭士,芳野 文香

 サラシア属植物は,東南アジアや南米,アフリカなどの熱帯から亜熱帯地域に分布するHippocrateaceae科のつる性の植物であり,インドやスリランカの伝統医学であるアーユルヴェーダに記載のあるハーブの一つである。その根あるいは幹が,古くから主に糖尿病の初期治療等に利用されてきた1, 2)。また,その一種であるSalacia reticulataの根皮などが,これらの地域や中国で民間薬として淋病や皮膚病,リューマチ等に用いられてきた3, 4)。S. reticulataは,スリランカではシンハラ語でコタラヒムブツと呼ばれる。その他の地域でも,サラシア属植物は民間薬として用いられている(表1)。近年,サラシア属植物の保健作用について科学的に検討されるようになり,種々の効果が明らかになってきた。著者らが共同で行ってきた研究成果の一部はこれまでに本誌でも紹介してきたが9, 10),今回は,サラシア属植物の保健作用について最新の知見を含む報告を紹介したい。

解説 血糖値上昇を抑制する甘味料「ファイバーシュガー」の開発

松尾 昌,大城 恵,安井 裕之,糸井 亜弥,寺尾 啓二,吉川 豊

 食生活の欧米化,過酷な労働による身体的疲労や精神的ストレス,保有自動車の増加など,生活習慣に起因する疾患が激増している。特に糖尿病の患者数の増加は著しく,2003年の厚生労働省統計によると,日本における糖尿病患者数は予備軍も含めて1620万人であり,いまなお増加し続けている1)。
 糖尿病は成因から1型と2型糖尿病に別けられる。1型糖尿病は,自己免疫機序の異常による膵β細胞破壊が原因で発症し,2型糖尿病は,肥満や運動不足,ストレスなどによるインスリンの分泌障害やインスリン抵抗性が原因で発症する2)。糖尿病治療の目的は,血糖値,体重,血圧,および血清脂質をコントロールすることにより,糖尿病細小血管合併症(網膜症,腎症,神経障害) ,動脈硬化性疾患などの発症・進展を遅延することにある。そのために厳しい食事制限,運動療法が最初に取り入れられ,結果として患者の生活の質(QOL)が低下しているのも現実である。

随 感 米由来グルコシルセラミド分画に共存するβ-シトステロール- 3 - O -グルコシドの表皮セラミド合成関連酵素発現に及ぼす影響
Effect of β-sitosterol 3-O-glucoside included in rice-derived glucosylceramide fraction on expression of ceramide synthesizing enzymes

竹田 翔伍,下田 博司

 肌のきれいな状態,いわゆる美肌は女性に限らず誰もが手に入れたいものであり,保湿は美しい肌の条件の中でも特に重要なファクターである。今日の機能性食品市場においても,肌に潤いをもたらす作用を謳った製品が多数見受けられる。このような市場の中,十数年前よりセラミドという言葉が新聞やテレビで報じられるようになり,セラミドを配合した機能性食品が数多く市場で販売されている。セラミドは正式にはスフィンゴ脂質と呼ばれる脂質の一種であるが,グルコシルセラミドなど部分的にセラミド構造を有する化合物も包括する広義の言葉として使われている。一般的なセラミドは,細胞膜組織の生体膜成分として普遍的に存在しており,とりわけ皮膚の角層の主要な脂質成分として,バリアー機能や水分の保持に関わっている。また,植物由来のグルコシルセラミドの摂取が表皮角質の水分保持やバリアー機能を改善することが証明され,米をはじめとする植物性セラミドの利用が広がっている1,2)。

野山の花 — 身近な山野草の食効・薬効 —

ニワトコ Sambucus rasemosa L. subsp. sieboldiana (Miq.) H. Hara(Sambucus sieboldiana (Miq.) Blume ex Graebn.)(スイカズラ科 Caprifoliaceae)

白瀧 義明

 春〜初夏,そよ風に吹かれながら山道を歩いていると,枝先に白くふんわりした感じの花をびっしり付けたニワトコ(接骨木)に出会うことがあります。ニワトコは本州,四国,九州から朝鮮南部,中国に分布し,湿気があって日当たりのよい山野の林縁によく見られる落葉小高木です。樹皮には厚いコルク質が発達し,葉は長さ8〜30cmの奇数羽状複葉で,小葉は2〜4対あり,長さ3〜10cmの長楕円形から広被針形で縁には鋸歯があります。花は3〜5月頃,長さ3〜10cmの円錐花序に咲き,核果は6〜8月に熟し,丸い赤色の多汁質で中には3個の種子が入っています。ニワトコは漢字で「接骨木」と書きますが,その昔,骨折した時には,ニワトコの枝を黒焼きにし,うどん粉と食酢を入れて練ったものを患部に厚く塗り,副木をあてて固定して治療したことから折れた骨を接ぐ薬草という意味で,接骨木(せっこつぼく)という漢名がついたとされています。

デンマーク通信

デンマークの牛乳

Naoko Ryde Nishioka

 デンマークは酪農産業が盛んな国で,デンマーク郊外の風景は北海道に似ていると言われることもしばしばあります。気候が北海道に似ているためか,のどかさが似ているためかわかりませんが,デンマークを少しドライブすると草原が広がり,都市部とはかなり違う風景を目にすることができます。
 酪農が盛んなデンマークですが,例えば,酪農業界の大企業のひとつでもある,アーラ・フーズはデンマークのオーフスに本社があるグローバル企業で,アジアやヨーロッパに広く進出しています。Arla の緑色のロゴは,デンマーク人にとってはとても親しみのあるマークで,デンマークの高速道路を走る大きなトラックにArlaのロゴを見かけることもしばしばです。

人体への寄生虫感染を警戒すべき食材(15)

虫卵・幼虫の付着した食材からも感染する小形条虫

牧 純,関谷 洋志,畑 晶之,玉井 栄治,坂上 宏

Summary
Jun Maki 1), Hiroshi Sekiya 1), Masayuki Hata 2), Eiji Tamai 1) and Hiroshi Sakagami 3)

1) Department of Infectious Diseases, College of Pharmaceutical Sciences, Matsuyama University;
2) Department of Physical Chemistry, College of Pharmaceutical Sciences, Matsuyama University;
3) Division of Pharmacology, Department of Diagnostic and Therapeutic Sciences, Meikai University School of Dentistry.

Notes on the biohazardous food from the viewpoint of parasite infection (15)-The possible infection of people with Hymenolepis nana , a kind of cestode, through the ingestion of food containing the eggs or larvae

[Key words: Hymenolepis nana, Cestodes, Parasites, Human infection ]

 The authors have studied (1) the infection of people with food-borne parasites that will cause social and economic disadvantages and (2)the preventive actions that protect our body from infection via ingested foods. One of the parasites, Hymenolepis nana is a kind of species of the cestode. The adult worms of this parasite inhabit the intestine, excreting eggs in feces, which are then ingested by various kinds of insects. The insects or the intermediate hosts harbor the larvae called the cysticercoid. When these larvae or mature eggs are ingested incidentally by final hosts (people or many kinds of mammlians), they grow to adult worms in the intestine. Thus, final hosts get infected suffering from headache, dizziness, diarrhea and abdominal pain. Basically, the usual life cycle is repeated and preserved in the nature.
However, we have to pay attention to the infections through other routes, namely two kinds of so-called auto-infection where the laid eggs become directly infective to final hosts (people or mammals). One is called the internal autoinfection, and the other is called the external autoinfection. Anyway, the larvae develop to the adult worm stage, parasitizing in the intestine of final hosts (patients).
When the specimen of feces is microscopically demonstrated to be positive for the infection, praziquantel should be administered without delay and with success. A more successful treatment is now being studied, especially that for the possible elimination of this parasite in the wall of the intestine.


要約
 小形条虫成虫は終宿主(ヒト・哺乳類)の腸管に寄生し,糞便中に虫卵を排出する。この虫卵(卵内に感染幼虫を含む)が昆虫に取り込まれるとシスティセルコイドとなる。このような昆虫が食材の表面に付いているとヒト・哺乳類の口から入ることがあり,それが小腸で成虫へと発育する。ただし虫卵がサラダなどの食材の表面に付いた状態でも経口感染性を有するので要注意である。
 下痢・腹痛が主症状であるが,終宿主の腸管内で産み出された虫卵から排便前に孵化した幼虫が直接腸管内で成虫となることにより多数の成虫が寄生することもあり重症化が懸念される。検便により虫卵を見出すことで,この寄生虫の成虫感染が診断される。成虫はプラジカンテルで駆虫できるが,腸管壁内に寄生している可能性のある幼虫には効き難い。それらの幼虫が成虫になってから再度の投薬が必要となる。

パン焼成時にともなうメイラード反応に対する脂肪酸組成の影響

豊﨑 俊幸

 中鎖脂肪酸のみで構成されている中鎖脂肪酸含有油脂(以下MCTと略す)に関しては1950年に最初に,迅速な吸収で引き起こされた吸収不良症候群の食事療法で使用されたのがきっかけで,それ以来,臨床栄養学分野を中心に,医学,生化学分野での研究が盛んに行われた結果,多くの優れた報告がなされた1−22)。
 ところで,MCTにかかわらず食物はすべて最終的には摂食する。摂食する食物の生体に対する効果がin vitro系で優れた結果が得られても,in vivo系で優れた効果が証明されなければ全く意味をもたないものになってしまう。さらに,基本的に摂食するためにはその食物が美味しくなくてはならない。このような要因をすべてクリアーして,初めてその食品の優れた機能特性が利用できることになる。この課題を解決するために,著者はここ数年MCTの食品学的機能特性を明らかにすることを主目的として,研究を遂行してきた結果,色々な機能特性を明らかとしてきた24−27)。
 新たな食品機能特性として,著者はパン焼成時に起こるメイラード反応を抑制することを見いだした24)。しかし,MCTが焼成段階でどのような機構でメイラード反応に関与しているのかは現時点においては明らかとしていない。そこで,今回は,パン焼成時に誘導されるメイラード反応に,添加される脂質の性状(本著では脂肪酸組成)の違いが,どのような影響を及ぼしているものかを追跡した結果を紹介する。

高齢者の栄養状況と今後の課題:管理栄養士の力

臼井 純一,伊藤 智,池田 小夜子,池田 清和

 我が国は,少子高齢化社会に突入している。若い世代が減少し,一方で高齢者の総数・割合が急増している。平成28年版「高齢社会白書」1)では,2015年10月1日現在日本の総人口1億2,711万人であり,その内65歳以上人口は3,392万人で,総人口に占める65歳以上人口(高齢化率)は26.7%となっている。高齢化率が7%以上で高齢化社会,14%以上で高齢社会,21%以上で超高齢社会とよばれるが,まさに我が国は超高齢社会に入っている。高齢者の割合は今後ますます増加していくと予想され,超高齢社会の中で高齢者の健康保持・増進を図る重要性が極めて重要となってくる。中でも,食生活のあり方について発信することが重要となっている。本稿では,わが国の高齢者の栄養状況と今後の課題,特に食生活と関連して論述する。
 

ヒメマスの天然親魚と養成親魚の違い

酒本 秀一,佐藤 達朗

 ヒメマスはベニザケの陸封型で姿形が美しいだけでなく味も良い。従ってヒメマスが棲息する湖では釣りの一番の目的魚になっている。また,湖の周辺地域ではヒメマス料理の原料として大事な魚である。
 湖に生息するヒメマスの親魚漁獲量は年によって大きく変動する事が知られている1)。中禅寺湖も例外でなく,豊漁年と不漁年との差が非常に大きい。中禅寺湖漁業協同組合(以下中禅寺湖漁協と略記)では中禅寺湖のヒメマス資源を安定させるため,毎年一定数の稚魚の放流を行っている。稚魚の生産に必要な親魚の数は豊漁年には天然親魚のみで足りるが,不漁年には天然親魚のみでは不足する事が有り得る。よって,中禅寺湖漁協では昭和53年から同所の養殖池で飼育して親にした養成親魚を用いた種苗生産も行っている。昭和53年から10数年間の記録を調べると,天然親魚を用いた場合には受精卵の発眼率(発眼卵数×100/受精卵数)は80〜95%で,大部分が90%以上の高い値を示していたのに対し,養成親魚を用いた場合には50〜90%と年によるバラツキが大きく,多くの場合70〜80%と天然親魚より可也低い値であった。
 この種苗生産結果の違いは親魚の質の違いに起因する精子と卵の質の違いによるのではないかと推測し,本試験では天然親魚と養成親魚の背肉,肝臓および生殖腺等の成分の違いを調べた。