New Food Industry 2016年 12月号

機能性食品研究の現状と今後の動向

大澤 俊彦

1984年に世界に先駆けて日本で誕生した「食の機能性研究」をきっかけに,アメリカでは「フィトケミカルによるがん予防」に焦点を当てた「デザイナーフーズ」計画,さらには,日本で産声をあげた「食品因子(フードファクター)」の概念は世界的にも広まり,認知されるようになってきた。しかしながら,日本では,国の規制により「機能性」の概念は取り入れることができず,限られた健康表示しかできない「特定保健用食品」としてしか認められなかった。一方,欧米では,このようなビタミン,ミネラル,ハーブなどのもつ栄養性や生理機能に対する補助的な作用が着目されてきましたが,これらの栄養補助食品に対する考え方は必ずしも世界共通ではないのが現状であり,規格基準化と表示の国際的な統一の必要性が討議されてきた。このような背景で,2015年4月にアベノミクスの経済振興策の一環として,「機能性表示食品」制度がスタートした。ここでは,機能性食品研究の現状,特に,「機能性表示食品」制度を紹介し,ゴマなどの抗酸化機能食品の健康に及ぼす役割に関する最新の研究について紹介してみたい。

新しい機能性表示制度と機能性農林水産物

山本(前田)万里

食品は健康の維持・増進や疾病予防に大きな役割を果たしている。農産物や食品の機能性研究においては,機能性成分の探索,同定,分析,エビデンス獲得,作用メカニズムの解析や機能性成分を多く含む農産物開発などを経て機能性食品が生み出されてきた。機能性を持った食品成分としては,食物繊維,ポリフェノール類,カロテノイド類が主要なものとされている。機能性食品関連のトピックとしては,2015年4月1日から,事業者が責任を持って自主的な機能性表示が可能とした新しい制度1)がスタートした。この「機能性表示食品」1)は,事業者の責任で,科学的根拠を基に商品パッケージに機能性を表示できる届け出食品であり,健常人や未病者の健康維持・増進に係る部位表現も範囲となった。農林水産物や低次加工食品の機能性表示も認められているので,現在,農研機構で実施している機能性農産物開発を含めて,今後開発されるであろう機能性表示食品などを紹介したい。

リグナン腸内細菌代謝産物エンテロラクトンの機能性

矢ヶ崎 一三



 リグナンはポリフェノールの範疇に含まれ,アマ,ゴマ,ライムギなどに,野菜ではケール,ブロッコリー,キャベツなどに,果物ではアンズやイチゴに多く含まれる1)。植物体中でピノレシノール,ラリシレシノールを経てセコイソラリシレシノール,さらにマタイレシノールへと変換し,これらを食すると腸内細菌によってママリアンリグナン(エンテロリグナン)と称されるエンテロジオールそして最終的にエンテロラクトン(Enterolactone, ENL)となり1)(図1),腸管から体内へ移行して多様な機能性ないし薬理作用を発揮すると考えられている1, 2)。なお,「リグニン」をラットへ経口投与してもENLへと変換されて尿中へ排泄されることが報告されている3)。 
 近年,食-腸内細菌(叢)-健康との関係に多様な観点から高い関心が寄せられている2, 4-7)。例えば,リグナンの腸内細菌によるENLへの変換能に関しては,抗生物質の使用により,血漿中のENL濃度の低下がヒト研究で示されている2)。ヨーロッパとくに北欧ではライムギパンや夏イチゴの消費が多いためか,リグナンの研究が日本と比較して活発に展開されている感がある。例えば,リグナン含量のわかっているイチゴ食を摂取したヒトにおいて,ENLの血漿中濃度の上昇と尿への排泄量増加が認められる,というフィンランドの研究成果が報告されている8)。リグナンの一種ハイドロキシマタイレシノール(Hydroxymatairesinol, HMR)は,通常食されない植物たとえば針葉樹の枝の付け根(knot)に多量に含まれ,ラットに経口投与するとENLに変換されること9),乳がん誘発モデルラットにおいてその発症が抑制されること9, 10)が,フィンランドのSaarinenらによって報告されている。そこで本稿では,リグナンとその腸内細菌代謝産物ENLの肝がんに対する作用,さらにはENLの2型糖尿病に対する作用について,筆者らの実験的研究例を中心に述べてみたい。

ササヘルスの卓越した抗ウイルス活性
Prominent antiviral activity of Sasahealth

福地 邦彦,坂上 宏,安井  利一,金本 大成,寺久保 繁美,中島 秀喜,
勝呂まどか,名取 威德,大泉 浩史,大泉 高明

要約
 クマザサ葉アルカリ抽出液(ササヘルス®)は,ポリメトキシフラボノイド類,低分子性ポリフェノール類や茶葉抽出物と比較して,高い抗ウイルス活性を示した。ササヘルス®はアジドチミジン,ジオキシシチジン,デキストラン硫酸,カードラン硫酸の抗ヒト免疫不全ウイルス活性や,アシクロビルの抗単純ヘルペスウイルス活性を相乗的に促進した。ササヘルスの卓越した抗ウイルス活性は,ウイルスが関与する様々な口腔疾患に有効である可能性が示唆された。

SUMMARY
 Alkaline extract of the leaves of Sasa senanensis Rehder (Sasahealth®) (SE) showed higher antiviral activity as compared with polymethoxyflavonoids, lower molecular weight polyphenols and various tea leaf extracts. SE synergistically enhanced the anti-HIV activity of azidothymidine, 2’,3’-dideoxycytidine, dextran sulfate and curdlan sulfate, and anti-HSV activity of acyclovir. Prominent antiviral activity of SE suggests its possible application to virally induced oral diseases.

ブラジル産グリーンプロポリスの特性とその生理活性(第二部)
−ブラジル産グリーンプロポリスの生理活性−

生田 直子,松郷 誠一

 プロポリスの抗がん作用についてはこれまで多くの研究がなされてきたが,Chanらは(Chanら,2013年)プロポリスの抗がん作用について次の6つのメカニズムに分類してまとめている26)。
(1)免疫調節作用を介したがん細胞あるいは前がん細胞の増殖抑制。
(2)がん幹細胞の細胞数を減少させる。
(3)発がんのシグナル伝達を特異的に阻害する。
(4)血管新生抑制。
(5)腫瘍の微小環境を調節する。
(6)がん治療の補助的,補足的な役割を果たす。
 各メカニズムについての報告例はChanらの総説に,アルテピリンCとCAPEに主眼を置き,まとめられているのでそちらを参考にされたい。ブラジル産グリーンプロポリスの抗がん,抗腫瘍に関する研究は比較的多く,動物 27-31)(Kimotoら,2000年:Kimotoら,2001年:Shimizuら,2006年:Messerliら2009年:Limaら,2014年)あるいは細胞 32-41)でその作用について報告されている。in vitroの系では,研究対象となる化合物の生物学的利用能が実験結果に反映されにくい。また,生体内では肝臓を通過する際に酵素によって様々な物質に代謝されるため,摂取した化合物がそのままの構造を保ったまま生理活性を発揮しているとは限らない。本稿では主にin vivoの実験に着目して紹介したい。Kimotoらは,鉄ニトリロ三酢酸をマウスに投与して腎臓がんを誘発させた実験を行った結果(Kimotoら,2000年),ブラジル産プロポリスとアルテピリンCが腎臓の酸化ダメージを軽減し,腎臓がんの進行を抑制した 27)。同じく鉄ニトリロ三酢酸をマウスに投与して肺がんを誘発させた実験では(Kimotoら,2001年),ブラジル産プロポリスもしくはアルテピリンCを投与することによって脂質過酸化が抑制され,肺がんの進行が抑制された28)。

野山の花 — 身近な山野草の食効・薬効 —

ビワ Eriobotrya japonica(Thunb.)Lindl.
(バラ科 Rosaceae)

白瀧 義明

木枯らしが吹き,木の葉舞う師走を迎える頃,里山を歩いていると,この時期には珍しく青々とした葉をつけ,花が咲いている高さ5~6mの木を見かけます。これは,初夏,オレンジ色の実をつけるビワ(枇杷)です。ビワの原産地は中国南西部とされていますが,日本の古書にビワの記載があり,大分県,山口県,福井県には野生のものが確認されていることから,自生かどうかはハッキリしないものの古くから日本にあったと考えられます。現在,多くは果樹として栽培されていますが,たまに野生化して里山に生えている場合があります。本植物は高さ10mほどにもなる常緑高木で,『大薬王樹』といわれ,薬木であることを示しています。

デンマーク通信

デンマークのチーズ

Naoko Ryde Nishioka

 デンマークの食べ物といえば,チーズ,を思い浮かべる人が結構多いのではないでしょうか。それもそのはず,デンマークとチーズを取り合わせた食品は,デンマークチーズ,デンマークのブルーチーズ,デンマークのチーズケーキ,などなど,結構身近に見かけることが多くあります。
 デンマークは酪農が盛んで,酪農先進国として日本の酪農業の参考になることも多くあるようです。牛や羊などがのびのびと放牧されている風景はデンマークの典型的な風景で,北海道によく似ている風景だと言うデンマーク人もいます。デンマークの国土は北海道の半分ほどで,北海道よりもさらに北に位置していますが,暖流の影響で冬でもそんなに寒くはなく,夏は清々しいため,酪農にも適した土地だと言えます。デンマークの乳業企業であるアーラフーズは,小国デンマークの企業でありながら,全世界へビジネスを展開するグローバル企業です。

ILSコラム

「レバーHi」

ILS株式会社

お酒の席に・滋養系・健康維持食品素材 肝臓エキス,レバーペプチド「レバーHi」
レバーは栄養価の高い食品であることが知られており、古くから栄養補給や健康維持に使用されてきました。しかしながら、特有の臭いやテクスチャーが嗜好の上嫌われる要因になることが多く、レバーの栄養は十分に生かされているとは言えません。
 飽食の時代と呼ばれる現代では、肝臓に負担のかかるアルコールや脂肪の摂取が増加しており、それに伴い、肝臓病予備軍も増えつつあります。「レバーHi」は、豚肝臓を酵素分解し、特有な臭気を除去した水溶性ペプチド粉末です。ペプチド粉末のため、吸収性に優れています。
 様々な食品に応用可能で、滋養や健康維持系、お酒を飲む機会の多い方などに対応した天然食品素材です。

消化管上皮を介する食事性リゾリン脂質の病態生理学的作用
―その制御法に関する基礎研究―

徳村 彰

要旨
近年,創薬分野で注目を集めているリゾホスファチジン酸などのリゾリン脂質メディエーターは,野菜や穀類などの食物に含まれている。また,二本鎖リン脂質の消化管での分解の過程でも生成し,消化管粘膜に作用し生理学的および病態生理学的役割を果たすと考えられている。本総説では,食事性リゾリン脂質が,直接,管腔側から小腸上皮細胞に及ぼす作用,並びに小腸上皮細胞による吸収・細胞内移行・基底膜側への分泌を介する作用に分け,近年の研究成果を概説する。また,apoA1遺伝子組み換えトマト果実を用いリゾリン脂質メディエーターを標的分子とする最新の実用化研究を解説する。

微粉砕された米粉の流れやすさ

五月女 格

 普段の食生活においてはあまり意識することはないかもしれないが,私たちの食べ物の多くは様々な粉から作られている。例えば,パン,麺類,ケーキや団子等の菓子類のように,その原料の大部分が粉末であるものもあれば,インスタントスープやインスタントコーヒー,茶のように造粒された粉末を湯や水に溶かして飲むものもある。また調味料や添加剤等は粉末状のものが多く,スーパーマーケット等で販売されている加工食品を見渡すと,粉末が一切使われていない商品のほうが少数かもしれない。
 これほどまでに私たちの食生活に粉が入り込んでいる理由としては,粉末化により食品素材の利用方法が広がり利便性が向上するという点が挙げられる。代表的な例として穀粉が挙げられるが,パンや麺は小麦を製粉することによって,加工が可能になる製品である。また,粉末化により素材の混合や溶解が容易になる,素材からの成分抽出の効率が向上する等の利点も挙げられる。
 しかしながら一方で食品素材の微粒化は,これまでは無かった問題を引き起こす恐れもある。粉体は粒子が小さくなるにしたがい流動性が悪くなり,また粉立ちしやすく取扱いが難しくなるとされている。食品素材の粉体の物理的特性は非常に複雑であり,粒子径と流動性の関係は食品の成分によって変化するとされるが1),食品素材等においてもこの傾向が見られることが報告されている2-5)。流動性が悪い食品粉末を使用した場合,加工ラインのホッパー,フィーダ,輸送パイプあるいは撹拌機等の装置内部で粉詰まりが起こり,加工ラインを停止させる可能性が高い。また粉立ちしやすい粉末は粉塵爆発や人体への悪影響も懸念されることから,食品素材も微粒化する場合は,前述のような問題に注意しながら粉砕・製粉する必要がある。

トマト・ナスの加熱に伴うグアニル酸生成
― 加熱調理を考慮した品質特性評価 ―

安藤 聡

要旨
 グアニル酸等の呈味性ヌクレオチドは,グルタミン酸との相乗効果により,少量でうま味を増強する。野菜類には呈味性ヌクレオチドはほとんど含まれないとされてきたが,近年,様々な品目にグアニル酸が含まれることが分かってきた。また,野菜中のグアニル酸は,加熱調理によって増加することが明らかになってきている。トマトやナスは,野菜類の中では比較的高濃度のグアニル酸を含むことから,加熱調理したトマト,ナスのおいしさには,グアニル酸が貢献している可能性がある。トマト,ナスの加熱調理を前提とした品質評価において,グアニル酸含量が重要な指標となるかも知れない。

シロザケ種苗を絶食させた時に体型や体成分に影響を及ぼす要因

大橋 勝彦,酒本 秀一

 著者らはシロザケ用飼料への魚油添加効果を調べる一連の試験1-5)を行い,以下の点を明らかにした。
・淡水で飼育するシロザケの飼料に添加すべきは魚油で,至適添加量は外割で約7%(飼料の脂質含量は約12%)である。但し,餌付時には油無添加飼料を与えるべきである。
・魚油添加区の魚は成長が速く,肥満度(体重×1000/尾叉長3)も大きい。また,魚油添加区は飼料効率(増重量×100/給餌量)とタンパク質効率(増重量×100/給与タンパク質量)も高い。
・魚油添加区の魚体には脂質が多い。魚体の脂質含量が多い程絶食耐性が強く,絶食からの回復も早い。
・魚体の脂質含量が少ない程絶食期間中の死魚数が多く,肥満度の大きい魚も死亡する傾向が有る。
・絶食による大量死が起こる時の魚体成分は,脂質が約5%乾物,タンパク質は約90%乾物である。その時の水分含量は約85%である。
・絶食時にはエネルギー源として脂質が優先して利用される。脂質が限界まで消費されると主としてタンパク質がエネルギー源として消費されるようになり,大量死が起こる。
 上記の結果に基づき,本報告ではシロザケ種苗を絶食させた時に体型や体成分に影響を及ぼす要因を検討することにした。以下に詳細を説明する。

再掲載 驚くべきヒット食品 −『キシリトールガム』株式会社ロッテ−

田形 睆作

 現在,国内,海外を含めグローバルな企業グループへと邁進している。本稿では,1997年5月に発売し,2002年に特定保健用食品として認可された『キシリトールガム』のブランドマネージャーを取材したので紹介する。