New Food Industry 2016年 11月号
脂質代謝改善作用並びに糖質代謝改善作用から見たホップ成分「キサントフモール」の抗肥満作用
斉藤 絵里
先進国での死亡の主な原因は,癌を除いては脳梗塞,心筋梗塞等の循環器疾患によるものである。これら疾患の要因は,高脂血症,糖尿病,動脈硬化,高血圧等が挙げられ,肥満は,これらの疾病の発病に大きく関与している。2015年12月に厚生労働省が発表した「平成26年度健康・栄養調査」によると日本でBMI値が25を超える人の割合は,男性で28.7%,女性で21.3%に上り,肥満に悩む人の多さが伺える。
近年,ホップに含まれるキサントフモール ( 以下XNと略す) の持つ抗肥満作用が欧米を中心に注目されてきており,XNを高濃度に摂取可能とした栄養機能性食品が注目を浴びている。これを裏付けるように,この数年XNの抗肥満作用に関する論文が数多く報告されている。
XNはビール原料のホップの雌花に含まれる代表的なプレニルフラボノイドであり,ホップにとっては必須の成分である。分子量354の黄色,無味,無臭の物質である。ホップ中のXN含有量は乾燥重量で0.1〜0.7%である1) 。ホップには数多くのプレニルフラボノイドが含まれているが,その含有量はXNの1/10 〜1/100であり極めて少ない。図1にXN並びにその他のホップに含まれる主要なプレニルフララボノイドの構造を示す。
XNは多彩な生物活性を有しており,中でも抗菌・抗カビ活性に関しては古くから研究されてきた2, 3)。弊社のホップ抽出物の製法に関する研究は古く,XNを含有する食品添加物製剤「アサマホップイン」が日持ち向上剤として食品製造分野で広く使用されている4)。また,高純度の天然XNとして,生物化学分野の研究材料としても用いられている。XNの持つ多彩な生物活性に関しては鋭意研究が進められてきており,この数年間の研究動向を見ても,抗菌 ・抗カビ作用以外にも,抗増殖 ・抗腫瘍活性5, 6),抗酸化作用7),抗炎症作用8),前立腺がん予防作用9),閉経後の骨粗鬆症予防作用10),抗アルツハイマー作用11),血小板凝集抑制作用12),チロシナーゼ阻害作用13)等多岐にわたっている。
ここでは,この数年に報告されたXNの抗肥満作用に言及した主たる論文を1.肥満モデル動物における作用,2.脂肪細胞における作用の順で触れ,肥満に関連した脂質代謝・糖質代謝についてXNの効果を説明させて頂く。なお,2008年以前のXNの機能性に関する動向に関しては,2009年報告の拙著14)をご参照頂きたい。
ブラジル産グリーンプロポリスの特性とその生理活性(第一部)
−ブラジル産グリーンプロポリス中の成分の特性−
生田 直子,松郷 誠一
プロポリスはミツバチが植物の樹脂などを集めて巣に持ち帰ったものを,人が集めて加工したものであり,含まれる成分はミツバチが採取してくる起源植物により特徴づけられる。ロシアやヨーロッパ,北アメリカ,ニュージーランド,アジアの一部の温帯を産地とするプロポリスは一般的にはポプラや樺の木を起源植物としており,温帯の植物に含まれる成分と温帯を産地とするプロポリスに含まれるフラボノイドなどの成分が一致していることが化学分析により示されている1)。一方,熱帯にはポプラや樺の木は生息していないため,温帯のプロポリスと起源植物は大きく異なる。熱帯のベネズエラを産地とするプロポリスはクルシア属の植物を起源とし,オーストラリアの一部の熱帯を産地とするプロポリスは,Xanthorrhoea spp.(ススキノキ科)を起源植物としていることが成分分析から示されている1)。
熱帯産のプロポリスの中でもブラジル産グリーンプロポリスはブラジルのごく一部の地域(標高700m〜1000mの山地)の天然の原野でしか採集できない植物を起源とした緑色を呈するプロポリスで,古くから抗菌活性や免疫力を高める効果があるとして民間療法などに利用されてきた2)。グリーンプロポリスに含まれる生理活性物質のうち主なものは,アルテピリンCと言われており,その他,テルペン類,ジテルペン類,フラボノイド類なども含まれている3)。
ヨーロッパ産のプロポリスの主な生理活性物質はフラボノイド類と言われているが,ニュージーランド産プロポリスにはコーヒー酸やコーヒー酸フェネチルエステル(CAPE)などの特徴的な生理活性物質が多く含まれていることが知られている4)。その他には,中国産や日本産のプロポリスも生産されており,広く健康食品などに利用されている。
ヒト試験を実施するとき,押さえておきたい倫理指針
~人を対象とする医学系研究に関する倫理指針~
河崎 祐樹
本論文は投稿時の所属である「慶應義塾大学 学術研究支援課(研究倫理担当)」となっていますが、現在は、退職されているため所属は「前職・慶應義塾大学 学術研究支援課(研究倫理担当)」であることを、ここに訂正をさせていただきます。
要旨
機能性表示食品制度が開始し,1年余りが経過した。機能性表示食品として届出るために必要な有効性のエビデンスはヒト試験に関する査読付き論文または系統的レビューであり,ヒトレベルでのエビデンスが求められている。機能性表示食品に限らず,今後,ヒト試験の需要および実施件数は増大する一方だろう。ヒト試験を実施するためには,細胞レベルや動物レベルとは異なった倫理的配慮が必要となる。それを示した日本国内の指針が「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」である。この倫理指針には,研究責任者や研究者の責務,倫理審査委員会の役割,インフォームド・コンセントについて,など,ヒト試験を行うために遵守すべき事項が記載されている。医学系研究にかぎらず,栄養学なども対象とされている。今後,食品企業がCRO等へヒト試験を委託する際には,食品企業自身もヒト試験を行う上で守らなければいけないことを知っておく必要があるだろう。本稿では,倫理指針について,特に食品企業がCRO等へ委託するときに注意すべき点に着目して,解説する。
大腸がんから肝臓2か所に転移したステージ3の症例で大腸がん摘出後抗がん剤治療とβグルカンEX併用により肝臓転移がんが劇的に消滅,完治した症例
飯沼 一茂
Case report :
A patient was completely recovered from stage 3 of colorectal cancer and 2 sites of liver metastatic cancer by anti-cancer agents and β-glucan EX after resection of colorectal cancer.
Abstract
A 76 years old male patient was diagnosed to be stage 3 of colorectal cancer and 2 sites of liver metastatic cancer (1cm x 2). First of all, 25 cm of colorectal cancer was resected and then 2 sites of liver metastatic cancer were treated with anti-cancer agents and β-glucan EX (immune modulator). Patient took only β-glucan EX (6 pouches (90g) per day) for a month just before colorectal cancer resection and 2 sites of liver metastatic cancer had just started to shrink, surprisingly. After resection of colorectal cancer, it was started to treat 8 times of anti-cancer treatment. During anti-cancer agent treatment, patient continued to take β-glucan EX (6 pouches (90g) per day). After 5 times treatment, 2 sites of liver metastatic cancer were completely disappeared. After approximately 4 years elapsed, non-abnormal data of this patient were found by CT, MRI and tumor markers. These data indicate that combination use of anti-cancer agents with β-glucan EX may be more useful for cancer patients, although it needs more study to make clear the effect of β-glucan EX on cancer patients.
大腸がんから肝臓2か所(約1cmが2か所)に転移したステージ3の症例で大腸がん25cmを切除後,抗がん剤治療とβグルカンEX(βグルカンを含む黒酵母(アウレオバシジウム・プルランス)培養液に,1袋(15g)につき約5,000億個のEF乳酸菌(エンテロコッカス・フェカリス)を配合)の併用により抗がん剤治療8回の予定が5回ですみ,2か所の肝臓転移がんが完全に消滅し,劇的に完治した症例を報告する。また,約3年経過した現在でもすべての検査で異常は見つかっていない。
製品解説・新しいパルプ状食感改良剤C☆PulpTex 12931(シースター・パルプテックス12931)について
東川 浩
加工食品や飲料にパルプ状食感を付与するアルファ化した粗粒の加工澱粉C☆PulpTex 12930(シースター・パルプテックス 12930,リン酸架橋デンプン)を販売してきた。本製品は,大根おろしの一部代替,各種加工食品に不均一なざくざく感を与える目的で使用されている。
しかし,本製品の欠点として,加熱によって,その特徴とするパルプ状食感が低下してしまい,レトルト処理等の高温加熱後には,ほぼパルプ状食感が消失してしまうという事実があった。したがって,本製品の適応可能な製造工程として,非加熱〜緩い加熱に限定されていた。過酷な加熱条件にも対応できる製品を供給してほしいという要望により,C☆PulpTex 12931が,新たに開発された。
ニジマスの肉色改善-3
酒本 秀一
前報1)においてカロチノイド(カンタキサンチン)を添加した飼料で飼育したニジマス肉部の色調を調べ,全体が均一に着色しているのではなく,部位によって見た目の色の濃さと色素量が著しく異なることを明らかにした。これは色調や色素量の測定部位を厳密に規定しておかなければ測定しても意味が無いことを示している。
現場において短時間で多数の魚を処理するには,一目で測定部位が特定出来,カロチノイドを多量に含む腎臓等の内臓に関係無く肉部のみを切り出せ,しかも色素量が安定している部位でなくてはならない。これらの条件を満たす部位として背鰭の後端から脂鰭の前端で,側線より背側を測定部位とすることに決めた。
総カロチノイド含量の測定には多くの人手と時間,更には特殊な分析機が必要で,現場での処理には適していない。一方,小型の色彩色差計は操作が簡単で測定時間も短く,持ち運びも可能である。この様な特性から色彩色差計は現場で多数のサンプルを処理する時に利用価値が高いと思われる。
驚くべきヒット食品 −『キシリトールガム』株式会社ロッテ−
田形 睆作
今回、掲載した内容について、校正の段階で不備がありました関係で、12月号に修正した記事を再掲載することになっております。
野山の花 — 身近な山野草の食効・薬効 —
ヤマトリカブト Aconitum japonicum Thunb. subsp. japonicum
(キンポウゲ科 Ranunculaceae)
白瀧 義明
秋も深まり,山歩きに最適な季節を迎え,野山を歩いていると紫色の烏帽子のような花を付けた植物を見かけます。これは,一般に「トリカブト」と言われる有毒植物です。トリカブトは総称名でその仲間は,我が国に自生しているだけでも約40種あり,関東に自生しているのは,ヤマトリカブトと言われる種類で,関東北部から東北・北海道に分布しているのはオクトリカブトと言われるものです。トリカブト類は分類が非常に難しいのですが,植物の分布域,花序が有限的(花が上から下へ咲く)か,無限的(花が下から上へ咲く)か,茎葉の分裂の仕方が3全裂か3深裂か,花柄に毛があるか否か,毛があるとすれば,どのような毛なのかに注目して分類します。
デンマーク通信
デンマークのHygge
Naoko Ryde Nishioka
今回はデンマークに特有なヒュッゲ(Hygge)文化と,デンマークのヒュグリッ(Hyggeligt)な食文化について紹介したいと思います。
ヒュッゲは,デンマーク人の日常生活によく登場する言葉で,友人や家族と心地よい時を過ごしたり,居心地のいい,なんだか心温まるようなフィーリングを表現するものです。一言では他の言語に訳すことの難しい,デンマークに固有の表現です。ヒュッゲは動詞で,そういった心地のいい時間を過ごす,という意味で,形容詞はヒュグリッといい,心地のいい,という意味になります。具体的には,「友人と日曜の午後に公園を散歩しながら日常会話を楽しむ瞬間」だったり,「ビーチで夕方にビールを飲みながら,ゆっくりと清々しいひと時を過ごす場面」,「冬に家の中で,ろうそくをつけて,ココアを飲むひととき」だったりと,様々な場面をヒュグリッであるといいます。英語に直訳すると,Cozyとなるのですが,Cozyよりも,かなり幅広い場面で使われています。例えば,「昔の同僚が職場に訪ねてきてくれた時」や,「ソファーに寝そべり,暖かい毛布をかけてテレビを見ること」もヒュグリッ。さらには,「長期で留守にして旅行に行く時など,近所の人にポストの郵便物がいっぱいにならないように空けてもらっている場合,隣人同士が助け合っているその状況」をヒュグリッであると表現したりもします。
管理栄養士 てるこ先生の家庭の食文化
第12回 お伊勢さん
中村 照子
昨年の新年号から隔月スタートした,このコラムも今回で一区切りとし,最終章となります。最終回として選んだテーマは,一生に一度はお伊勢参りをしたいと憧れを募らせる聖地「伊勢神宮」について書かせていただきます。日本人の心の故郷としてのその思いは時代を経ても変わることはなく,内宮と外宮を合わせると現在では1年間に約800万人の方が参拝に訪れるそうです。関西では「お伊勢さん」として親しまれ,最近では若者のパワースポットとしても人気があります。
国際的コミュニケーション能力の重要性(3)
―日中関係の改善を目指して―
Importance of international communication capability (3)
―how to improve the Japan-China relation―
中国語:跨文化交流能力的重要性(3)−旨在改善日中关系
坂上 宏,儲 慶,戴 秋娟,大石 隆介,神崎 龍志
Abstract
Improvement of Japan-China relation can be achieved by active exchange based on the mutual understanding of differences in language, history and culture, and sense of values.
我们认为充分理解两国在语言,历史,文化,价值观等方面存在的差异,并积极开展跨文化交流,方可推动日中关系的改善
日中関係の改善は,相手国とは言語,歴史と文化,価値観など多くの点で異なることを理解した上で,交流を積極的にすることにより達成されると思われる。
組織の活性化と人材の育成
研究キャリアにおける専門性と人脈構築
名取 威德
Abstract
It is necessary to enhance ones expertise through career formation as a researcher in lab of universities and companies. But when you to specialize in your expertise more and more, you may lose the opportunity to obtain wide interests and knowledges for non-professional fields. On the other hand, spreading personal connection and network based on your own core competence, learning wide non-specific knowledge, and the further feedback to the specialized field, also make it possible to increase profoundness in research activities.
In this short column, I would like to discuss about the distribution of interest of expertise / non-expertize and the direction of the diffusion of the personal connection in the carrier as a researcher based on a knowledge management.
大学や企業のラボで,研究者としてのキャリアを形成していく上で,専門性をより高めていくことは不可欠なことであるが,専門に特化すればするほど非専門分野への興味と知識を身に付ける機会を失っていく危険性をはらんでいる。一方で,自らのコア・コンピタンスとしての専門性を背景に人脈を広げ,それに沿って非専門分野の知識を身に付け,さらに専門分野へフィードバックし,研究に厚みを増していくことも可能な場合がある。自ら,あるいは職場のメンバーに対して,どのように専門と非専門への意識の振り分けを行い,人脈を拡げるべきなのかについて,ナレッジ・マネジメントの観点から考えてみたい。
ILS コラム
「ヘム鉄」女子大学生へのヘム鉄含有チョコ摂取試験 -女性の体調改善や健康維持のための試み-
ILS株式会社
「ヘム鉄」は,非ヘム鉄(無機鉄)より吸収性が良く,副作用が少ないことで鉄の補給に適していると言われております。「ヘム鉄」はポルフィリン環が鉄イオンの周りに存在しているため酸化還元反応が起こりにくく,お茶やコーヒーなどに含まれるタンニンや一般食材に含まれる食物繊維,カルシウム,リン酸などの成分と共存しても吸収阻害を受けません。また,非ヘム鉄はビタミンC や動物性たんぱく質などと共に摂取する事で吸収効率の向上を促す事がありますが,「ヘム鉄」は単独で高い吸収率が得られます。
本試験では,女子大学生において「ヘム鉄含有チョコ」を摂取することによる体調における自覚症状と日常生活の変化を検証しました。