New Food Industry 2016年9月号

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New Food Industry 2016年 9月号

果肉まで赤い新品種リンゴ「紅の夢」の健康機能性とその魅力

前多 隼人,吉仲 怜,福田 麻理,石川 春奈,松本 和浩

青森県はリンゴの生産量が全国第一位であり,実に全体の57.3%の46万8千トンを生産している(平成26年)。一方で日本国内のリンゴの消費量は減少してきており,今後TPPなどの兼ね合いからより魅力的な品種の生産が求められている。「紅の夢」(くれないのゆめ)は弘前大学が育種したこれまでにない特徴をもった新品種のリンゴである(図1)1)。最大の特徴は中身の果肉に赤いアントシアニンが蓄積する点である。このようなリンゴは赤肉品種と呼ばれ,ヨーロッパなどでは加工用品種として一部利用されているが,日本での認知度はまだ低い。また赤肉品種は一般的には渋味や酸味が強いものが多いことから,加工用のリンゴでの用途が大半である。一方,「紅の夢」はほどよい酸味であり,生食も可能な点である。弘前大学ではこれまで地域の生産者や企業と連携し,次世代のリンゴ品種として赤肉リンゴの研究と普及を進めてきた。
 本稿では「紅の夢」を中心とした赤肉リンゴの加工特性を含めた特徴と魅力,またこれまで取り組んできた健康機能性に関する研究について紹介する。

エノキタケ菌糸体の純水保存の試み

富樫 巌,石川 捺季,小林 育美

食用菌の菌株保存においては,設備的に恵まれている試験研究施設等であれば温度-80℃以下での凍結保存法が用いられる1-6)が,一般には5~10℃での継代培養保存法が汎用されていると考えられる。一方,エノキタケ菌株を継代培養保存すると発茸温度である5~20℃7)と重なることで,保存培地に子実体が発生しやすい欠点がある8)。
 本誌の55巻1号で著者らは,低コストを目指したエノキタケ菌株の凍結保存の試みとして純水を凍結保護液とした菌体ディスク法を用い,-20℃(一定)および平均温度-18.5℃(-20~-12℃)の家庭用冷凍庫での試みを紹介した。150日間までの凍結保存データではあるが,-80℃凍結と比較すると-20および-18.5℃凍結した場合に菌体ディスクからの菌糸再生は3日程度遅れるものの,子実体生産能には影響がみられないことを報告した8)。
 本検討では,より低コストかつより手軽なエノキタケ菌株の保存方法の確立を目指し,菌糸体と前培養寒天培地からなる菌体ディスク,それらを覆う純水をクライオチューブに投入した後に 7℃,15℃,25℃および室温(変温)での非凍結保存を試み(図1参照),生存状況と子実体生産能に及ぼす影響を観察した。純水を用いる狙いは,エノキタケ菌糸体の乾燥防止と呼吸抑制,すなわち酸素供給を抑えて生理活性低下を図ること,および子実体の形成阻止である。

高付加価値を有するDHA含有リン脂質の製造方法
Microbial Production of Value-added Docosahexaenoic Acid-containing Phospholipids.

永峰 賢,高谷 政宏,深野 透,吉田 磨仁,森田 直樹

要旨
 エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)などのn-3系不飽和脂肪酸は必須脂肪酸であることから,ヒトにおいてこれら脂肪酸を豊富に含む海産の魚介類の日常的な摂取が必要となっている。n-3系不飽和脂肪酸はアラキドン酸カスケードに対する拮抗作用を持ち,その代謝産物には抗炎症性作用が発見されるなど健康促進·維持の観点から注目の脂肪酸である。従来,n-3系不飽和脂肪酸は,魚や魚卵から抽出された油脂から供給されてきたが,真の生産者は海洋性の魚介類ではなく海洋性微生物であることが知られている。このため,n-3系不飽和脂肪酸を産生する微生物を大量培養することによりn-3系不飽和脂肪酸を商業生産できる可能性がある。現在,我々のグループは海洋性微細藻類であるThraustochytrid 12B株を用いてDHAを生産·製品化しようと試みている。本稿では,この取り組みを紹介するとともに,最近注目を集めているEPAやDHAを含有するリン脂質(EPA·DHA含有リン脂質)の話題を紹介する。EPA·DHA含有リン脂質は,魚油に多く含まれるEPA·DHA含有トリアシルグリセロール(TG)よりもヒトに対する生理効果が高いことが判明している。我々のグループは,Thraustochytrid 12B株を用いてDHA含有TGだけでなくDHA含有リン脂質を多く含む脂質を生産する技術を開発した。この方法を紹介するとともに,日本の一般消費者にはあまり馴染みのない微生物による脂肪酸生産の利点についても述べたい。

水耕栽培ラディッシュの主根に対するLED照射の影響

小林 晶子

要 約
 湛液型にエアレーションを導入し,LEDを光源として,ラディッシュ(Raphanus sativus L var.sativus)を水耕栽培した.湛液型水耕栽培では,ラディッシュの主根は大気中に形成される.LED光の主根への影響を検証するために,主根部分にLEDを照射する株 (I株)と主根部分を遮光する株(S株)に分けて栽培を行った.その結果,播種から24〜38日で根径約2 cmに生育した.また,I株とS株を比較したところ,主根径,主根の長さ,水中根長,葉数,最大葉長,糖度には差は認められなかった.また,主根の最大表皮厚,最小表皮厚,主根表皮の乾燥重量においても,有意差はみられなかった.主根の表皮色はI株の方がS株よりも濃色を示した.そして,主根表皮の総アントシアニン量は,I株の方がS株よりも約2倍,有意に増加していた。

豆乳を利用した新規グルテンフリー米粉パンの開発

新井 映子,伊藤 聖子

 セリアック病1)に代表される小麦アレルギー疾患の増加が,世界的な問題となっている。小麦アレルギー疾患の原因物質のひとつとして,グルテン構成タンパク質の一種であるωグリアジンの関与が明らかにされている2, 3)。そのため,小麦アレルギーの人は,グルテンの特性を活かしたパンや麺類などの小麦粉加工品を摂取することができない。
 近年,日本では米を小麦粉に近い粒度に製粉する技術が開発され,小麦粉の代替に米粉を使用したパンが製造されるようになった。しかし, 米粉を膨化させるために小麦粉から抽出したグルテンを添加したものが多く,小麦アレルギー疾患の人が摂取できるグルテンフリーの米粉パンは少ない。
 米粉でグルテンフリーパンを製造する際,困難なのは膨化である。小麦粉では,水を加えて捏ねるとグリアジンとグルテニンが会合してグルテンネットワークを形成し,イーストが発生する二酸化炭素をドウ内に閉じ込めるため,ドウは大きく膨張する4)。一方,米に含まれる主要タンパク質のオリゼニン5)は, グルテンのようなネットワークを形成できないため,米粉に水を加えて捏ねても小麦粉のようにドウにはならず,流動性のあるバッターとなる。米粉のバッターは気泡を十分に保持することができず,気泡は徐々に浮上して液面から散逸する。その結果,発酵後のバッターはわずかしか膨張せず,これを焼成しても良好に膨化したパンにはならない。
 そこで,米粉を使用したグルテンフリーパンには,キサンタンガム,グアガム,ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの増粘剤が添加されることが多い6, 7)。ただし,日本ではこれらの増粘剤は食品添加物に指定されているため,食品素材のみで米粉を良好に膨化させる技術が開発されれば,より消費者ニーズの高い製品となる。

機能性表示食品制度業界動向と三生医薬の取組み

建穂 一樹

 安倍政権の規制改革の一つとして食品の機能性表示の解禁が発表され,2015年4月より「機能性表示食品制度」が開始した1)。機能性を表示した商品の選択肢を増やし,国民の商品選択をサポートすることでセルフメディケーションを活性化させるのが目的であり,消費者庁に届出をすることで機能性を表示した食品を販売することができる。届出制のため中小企業でも取り組むことが可能であり,制度開始1年で300品目以上の届出が消費者庁に受理され,多くの商品が販売されている。また,特定保健用食品よりも短期間,低コストで開発できるため,中小企業を含めた多くの企業が本制度に取り組み,これまでイメージで製品の特徴を伝えていた,いわゆる健康食品などを機能性表示食品に切り替えることで製品の効果を直接消費者にアピールする動きもある。
 このように,本制度は食品業界にとって,期待されている制度であり,今後の市場拡大も予測されている。当社は,健康食品の受託製造会社として,多くの販売会社の機能性表示食品の届出に係り,受託製造会社の立場から届出をサポートしてきた。本稿では基本的な制度の説明から始まり,市場の状況や届出をする上で見えてきた課題,そして,当社の届出サポート内容を紹介する。

ワムシへの抗酸化剤強化がヒラメ種苗の成長,変態速度,体型異常を改善する

酒本 秀一,澤山 英太郎

 海産魚の種苗生産時に与える餌は魚の成長に伴ってシオミズツボワムシ(以下ワムシと略記)→アルテミア孵化幼生→配合飼料へと変化するのが一般的である。著者らはこれまでにワムシを培養する植物プランクトンやワムシに与える栄養強化剤がヒラメに及ぼす影響を2回の試験で調べてきた。
 最初の試験1, 2)では,クロレラで一次培養したワムシに海産魚の必須脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)を強化する為,培養直後の新鮮なナンノ(新鮮ナンノ),4℃で冷蔵保存したナンノ(冷蔵ナンノ)および-20℃で冷凍保存したナンノ(冷凍ナンノ)を二次培養の餌として与えた。同時にドコサヘキサエン酸(DHA)強化の為にバイオクロミス(特異的にDHAを高濃度に含む植物プランクトンであるシゾキトリウムが主成分である市販のDHA強化剤)を与え,一定時間後にワムシを回収してヒラメに与えた。50日間の飼育試験の結果,ワムシに与えるナンノの違いによってヒラメの成長,変態の進み方,体型異常の出現率が大きく異なり,特に冷凍ナンノ投与区のヒラメの成長と変態速度が遅く,体型異常の出現率も高いことが分かった。次いで冷蔵ナンノ投与区であった。

酒たちの来た道

酒造りの文明史⑦

古賀 邦正

 前回は,近世ヨーロッパ(15世紀中頃~18世紀中頃)の動きをみた。ルネサンス・大航海時代・宗教改革という大きな潮流の中でヨーロッパ各国は中央集権化を進め,国主導の重商主義を強める事で富国強兵をはかり,この動きの中でワインもビールも変遷することとなった。
 日々の様相を「近世的」とは表現しなくても,「近代的」と表現する場合は多々ある。「近代」は「現代」に色濃く繋がっており,通常,産業革命が始まった18世紀中頃から第一次世界大戦前の20世紀初頭までを指す。政治近代化の動きは立憲君主政に移行したイギリスに続いてフランスで起こったが,共和政・帝政を繰り返しながらの激しい動きは西欧社会に大きな影響を及ぼした。とくに1848年の二月革命はフランスに第二共和制を成立させ,西欧諸国に自由主義革命を勃発させ,激動の時代への契機となった。今回は,18世紀中頃から19世紀後半までの間,ヨーロッパ,とくにフランス・イギリスがどのように動き,ヨーロパのワイン・ビールはどのような変遷をたどったかについて見る事にします。宜しくお付き合い下さい。

チーズ市場に全く新しいチーズを創造した驚くべきヒット食品

−『さけるチーズ』雪印メグミルク株式会社− 

田形 睆作

 夏から秋にかけて野山を歩いていると,紫~紫紅色の蝶形花をつけた大型のつる性草本を見かけます。全株に粗毛があり,茎は長くのびて他物にまきつき10m以上にもなります。本植物が漢方薬「葛根湯」の構成生薬である「葛根」の基原植物となるクズです。
 クズは日本各地,朝鮮半島,中国の山野に普通に見られるつる性の多年生草本で北米にも帰化しています。葉は互生し長柄があり,3出複葉で小葉は長さ10~17cmのひし形ないしだ円形で,時に浅く3裂しています。夏の暑い日中,良く,葉が反り返っていますが,「クズの裏見返し」といわれ,強烈な太陽の光を避けているようです。

野山の花 — 身近な山野草の食効・薬効 —

ゲンノショウコ Geranium thunbergii Siebold et Zuccarini(フウロソウ科 Geraniaceae)

白瀧 義明

7~9月ごろ,山歩きの途中,道端で梅に似た花をつけ,地を這うようにして生えている植物を見かけることがあります。健胃・整腸薬として有名なゲンノショウコです。「現の証拠」という植物名は下痢止めに服用するとすぐに効果が現れることに由来します。本植物は日本では北海道の草地や本州〜九州の山野に自生し,白色または紅色の花(白花は東日本,紅花は西日本に多い)を枝先と葉の脇から長い花軸を出して数個付け,花弁は5枚で赤い筋が走り,がく片5枚,雄しべは10本あります。全体に下向きの毛が生え,葉は3~5裂の掌状,巾は3~7㎝,長い柄を持ち対生,裂片は先でさらに3つに分裂し倒卵形,葉は柔らかな紙質で縁は鋸歯型をしています。

ILS コラム「ヘム鉄」

大学生(男子)競泳短距離選手の高地トレーニングでのヘム鉄摂取試験

ILS株式会社

 「ヘム鉄」は,非ヘム鉄(無機鉄)より吸収性が良く,副作用が少ないことで鉄の補給に適していると言われております。「ヘム鉄」はポルフィリン環が鉄イオンの周りに存在しているため酸化還元反応が起こりにくく,お茶やコーヒーなどに含まれるタンニンや一般食材に含まれる食物繊維,カルシウム,リン酸などの成分と共存しても吸収阻害を受けません。また,非ヘム鉄はビタミンC や動物性たんぱく質などと共に摂取する事で吸収効率の向上を促す事がありますが,「ヘム鉄」は単独で高い吸収率が得られます。本試験では,大学生(男子)競泳短距離選手の高地トレーニングにおいて「ヘム鉄」を摂取することによる鉄欠乏改善効果を検証しました。

デンマーク通信

デンマークの夏のデザート

Naoko Ryde Nishioka

今回はデンマークの夏のデザートについて紹介します。デンマークの夏は,日本の夏に比べると,ずいぶん涼しく,すがすがしく,夏の最高気温の平均は20度前後,日常生活をしていて汗をダラダラかくことはあまりないのが通常です。30度になることもたまにありますが,そんな日には,人々はこぞってビーチや湖に行って,日光浴や海水浴を楽しみます。またデンマークの夏は日が長く,夜は10時くらいまで明るいため,夜遅くまで楽しめるのもデンマークの夏ならではのことです。夏は,デンマーク人にとってみれば,一年で一番暑く,明るい,いい季節なのです。ちなみに日本では,学校の夏休みや会社のお盆休みが8月のため,夏の月といえば8月ですが,デンマークは,7月が夏休みの月です。学校は6月下旬に終わり,仕事をしている人は,7月になると,一斉に休みを取り始めます。デンマーク人は通常3週間から4週間ほど夏休みを取るので,7月は多くの人が休んでいる月となります。

管理栄養士 てるこ先生の家庭の食文化

第11回 高畑町界隈の秋

中村 照子

撫子の花が咲き,まだ残暑は厳しい日もありますが少しずつ夏の空気から秋の空気へと変わってゆく九月は私の誕生月でもあります。仲秋の名月が詠われ,天上の星も,地上の花も美しく感じられてきます。いくつになっても誕生月というのは特別な思いがこみ上げてくるものです。そして今でも懐かしく思い出す秋の風景があります。今回,ご紹介するのはそんな懐かしい遠い記憶のお話しです。