New Food Industry 2016年5月号

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New Food Industry 2016年 5月号

カロテノイドの酸化開裂/代謝変換と機能

小竹 英一

カロテノイドは微生物や植物により生合成される脂溶性の色素で,天然には700種類以上知られており,その多様な生物活性(抗酸化,抗癌,抗炎症,抗肥満作用等)が注目されている。ヒトは通常の食事下では約40種類ものカロテノイドを摂取しているが,その生体利用性は他の脂溶性成分に比べて低く,カロテノイドの種類によってはヒト組織中にほとんど見出されないものもある。このような特定のカロテノイドのみが血液中に存在する理由についてはよくわかっていないが,消化管内に選択的な吸収機構が存在するのかもしれない。また,カロテノイドの蓄積は,吸収後の酸化開裂や代謝変換機構によっても調節される。代謝の代表例として,哺乳類において プロビタミンAカロテノイド(β-carotene,α-carotene,β-cryptoxanthin)(図1)からのビタミンAへの変換はよく知られているが,その他にも9' -10' 間を切断する酵素や末端水酸基のケト基への酵素的変換が見出されてきている。また,化学的に酸化開裂して生成すると考えられるものもある。このような変換によって生成した代謝産物や分解物こそがカロテノイドの機能を発揮している可能性がある。生体利用性は腸管吸収・蓄積・代謝等に依存するが,これらを正確に把握することは,カロテノイドの機能性発現メカニズムを考える上で重要である(図2)。本稿では腸管吸収・蓄積後の酸化開裂や代謝変換,そしてこのような変換によって発現する機能に関する知見を紹介する。尚,腸管吸収過程の重要性については過去の解説1)を参照いただきたい。

コーヒーのクロロゲン酸とフェルラ酸

鈴木 聡,岡 希太郎

 コーヒーと健康の疫学研究が進んで,毎日コーヒーを飲む習慣ががんと生活習慣病の罹患リスクを軽減することが解ってきた。本稿では,コーヒー・ポリフェノールとも呼ばれるクロロゲン酸(CGAs)について最新の話題を解説する。CGAsはあらゆる食品のなかでコーヒー豆に最も多く含まれている。CGAsはヒトの体内でカフェ酸(CA)とフェルラ酸(FA)に変化して全身に分布し,尿中に排泄される1)。平成21年,文科省の依頼を受けた(財)日本食品分析センターの調査報告書によれば,健康の維持増進に関わるフェニルプロパノイド系食品成分とは,CGAs,CA,FAの3つである2)。CGAsはコーヒー以外にも野菜,香草,果実などに広く分布しているので3),食習慣をほんの少し工夫すれば健康の維持増進にとって好ましい効果を期待できる。

行政OBの大学教員からみた今後のHACCPの対応

豊福 肇

今更ではあるが,なぜ,HACCPが重要かというと,食品の国際規格であるコーデックス規格のなかに,食品衛生の一般原則(General Principle of Food Hygiene,以下,「GPFH」という。) (CAC/RCP 1-1969) および その付属文書: Hazard Analysis and Critical Control Point (HACCP) System and Guidelines for its Application (以下,「HACCP付属文書」という。) があること,コーデックス規格であるということは,世界貿易機構(WTO)加盟国は食品の規格を設定するときにはそれにあわせるか,少なくとも考慮にいれることが求められていること,さらにHACCPは1970年代はじめに米国FDAの低酸性缶詰の規則に取り入れてから, 全世界共通の食品安全管理システムとなり,多くの政府の食品コントロールシステム及び国際的な食品安全基準 (例えば, ISO 22000) のベースとなっているからである。
 EUは一次生産者を除きHACCPを義務付け,アメリカでも水産食品,食肉及び食肉製品はすでに義務つけ,食品安全近代化法(FSMA)により,すべての事業者にHACCPの最も大事な部分であるハザード分析は義務つけられている。これは実は海の外の他人ごとでは済まされない。まず,現在HACCPを義務つけていない日本は,内外無差別の原則により,輸出国の施設に対しHACCPの実施を要求できない。つまり,極端なことをいうとHACCPによる衛生管理をしている事業者の製品はEUと米国に優先的に行って,その次に日本向きになるか,あるいはHACCPを実施していない業者が製造した製品しか,日本には入ってこなくなる可能性が出てくる。つまり,全世界の食品輸出国の施設は,先進国はもちろん,途上国であってもEUとアメリカの市場に参入するため,すでにHACCPの実施は常識なのである。

食品の栄養表示のための分析方法

大脇 進治

 平成27年4月に食品表示法が施行されてから,1年が経過した。新制度への移行の経過措置期間はまだ残されているものの,健康増進法の栄養表示基準では任意であった栄養成分の表示が義務化され,食品関連事業者の皆様におかれては,その対応に取り組まれた方も多いのではないだろうか。一方で,各所で開催された食品表示法をテーマにしたセミナーがいずれも盛況であり,新制度が施行された以降も引き続き多くの方々が情報を求めていることがわかる。
 当所は,食品表示に係わる栄養成分の分析を行っているが,食品表示法の施行後,多くの栄養成分の分析依頼をいただいている。依頼主は食品関連事業者すなわち製造者あるいは販売者であり,その目的は分析値を表示に使用するだけでなく,品質管理,研究開発など多岐にわたる。さらに,その先の消費者にとっても,栄養成分表示は商品選択の重要な情報源であり,当所のような食品分析の第三者機関が果たす役割は大きい。本稿では,食品分析の専門機関として,分析化学的に定義される栄養成分とそれぞれの成分の分析における注意点について解説する。

トランスポゾンの歴史と食品への利用 History of the transposon and use to a food

奥平 准之

要 約
本稿では,ヒトゲノム解析以降に注目を浴びている研究分野「トランスポゾン」に焦点をあて,トランスポゾンに関するこれまでの知見と食品との関連性についてまとめた。トランスポゾンは,胎児の発生段階において重要な役割を持ち,特に神経幹細胞の分化を統制していることが知られている。一方で,様々な有害因子(発がん物質や環境汚染物質)によってトランスポゾンは活性化し,疾病発症の誘因になっていることも知られている。遺伝子組換え技術の手法としても,注目されるトランスポゾンの将来性について本稿ではまとめた。

分岐型ポリエチレングリコール誘導体の有用性
Functionalities of branched poly(ethylene glycol) derivatives

河田 麻衣子,佐藤 憂菜,飯島 道弘

Abstract
Water soluble polymers are very important polymer for various applications, such as medical and industrial applications, because of the advantage for the environment. PEG, one of amphiphilic polymers, has become attractive in various fields. Recently, the branched PEG derivatives have been developed for surface modifier and gelation material. These branched-PEGs may be able to form high-performance materials. To create these materials, functional groups at each ends and precise control of polymer length may become important factor.
In this article, introduction of the branched-PEGs and their applications were reported. These branched-PEG derivatives are promising for biomedical and environmental materials.

 近年,材料や製品の高機能化に伴い,機能性高分子材料が注目を集めている。高分子材料とは,小さな分子(モノマー)がたくさん連結して大きな分子(ポリマー)になり,分子量が大きくなったもので,低分子化合物とは全く異なった性質を示すものである。また,それらの長さや並び,形状などにより,性質が変化させられるだけでなく,生成したポリマーどうしも混合し新しい素材とできる「多様性」が最大の特徴であり,プラスチック,ゴム,繊維だけでなく,化粧品や医薬品などの素材にも使用されている。
 このようなポリマーの設計で重要となるのが,分子内に複数のポリマー鎖を有する多成分系高分子などの利用であり,ブロックポリマーやグラフトポリマーなどが代表的なものであるが,精密な分子設計は容易ではないことが知られている。これら高分子の機能性や合成方法に密接に関与するものとして,末端または側鎖官能基の反応性がある。これは,官能基は異なるポリマー鎖との結合や他のモノマーの重合を可能にし,特定の物質とも結合するなど機能性発現のために活用できるからである。
 このように,高分子化合物の機能を左右するものとしては,ポリマー鎖の組み合わせと長さ(分子量),末端および側鎖官能基などの反応性が挙げられるが,最近ではその形状によっても特異な性質を発現できることも分かりつつある。たとえば,簡単な枝分かれ構造やくし型ポリマー,星形高分子だけでなく,樹枝状のデンドリマーや球状の高分子ミセルなどさらに特殊で精密な形状を有するものが注目され,様々な用途へ展開されている。
 このような高分子の形状として,主に直鎖型と分岐型(枝分かれ型)のものがあり,汎用として用いられるもののほとんどは直鎖型である。その理由としては,直鎖型のほうが合成しやすいうえに,分子鎖長や末端基など各種機能性が制御しやすく,また分析機器などでも分子量などが把握しやすいところにある。

これだけは知っておきたい豆知識

アフラトキシンM1について

一般財団法人 食品分析開発センター SUNATEC

 カビ毒はカビが産生する化学物質のうち,人や家畜に対して有害な影響を及ぼす物質であり,マイコトキシン(Mycotoxin)と呼ばれている。カビ毒の毒性は発がん性,肝毒性,腎毒性など,様々な毒性が報告されており,食品のカビ毒による汚染を防ぐことは食品衛生上の重要な課題である。国内においては一部のカビ毒に対して規制値が設定されている。アフラトキシンは平成23年10月1日より,総アフラトキシン(アフラトキシンB1,B2,G1,及びG2の総和)として,全食品に対して10 μg/kgの規制値が設定された。また,平成28年1月23日より,アフラトキシンM1は乳に対して0.5 μg/kgの規制値が設定された。(乳とは,乳及び乳製品の成分規格等に関する省令第2条第1項に規定するものをいう。)
今回の豆知識は,新たに規制値が設定されたアフラトキシンM1について紹介する。

野山の花 −身近な山野草の食効・薬効−

トチノキ Aesculus turbinata Blume(トチノキ科 Hippocastanaceae)

白瀧 義明

 初夏,山歩きの途中,ふと空を見上げると,天狗のうちわのような大きな葉の茂みから白色の大きな円錐花序が顔をのぞかせていることがあります。これがトチノキです。トチノキは北海道南部から九州にかけて分布する日本固有の落葉高木で,高さ25m,直径1mになるものもあります。葉も非常に大きく,長さは50cmにもなり,長い葉柄の先に倒卵形の小葉5〜7枚を掌状(掌状複葉)につける温帯の落葉広葉樹林の重要な構成種の一つです。本植物は,水気を好み,適度に湿気のある肥沃な土壌で育ち,5〜6月に葉の茂みの上に雄花と両性花が混じった長さ数十cmの円錐花序をつけ,個々の花と花びらはさほど大きくはありませんが,雄しべが長く伸び,花は白〜薄い紅色を帯びています。

管理栄養士てるこ先生の家庭の食文化 第9回 大和路の五月と愛犬モモ

中村 照子

 新緑の五月,大和路には花が咲き誇ります。大和と伊勢を結ぶ初瀬山の中腹に建つ長谷寺,別名 花の御寺(みてら)とよばれ,牡丹の名所でもあり,その牡丹は150種以上,7000株が毎年,咲き乱れます。宇陀の里,室生寺にはシャクナゲ,日本一小さな五重塔の傍らで楚々と咲き「女人高野」といわれるこの寺にふさわしい光景です。そして大和郡山市にある矢田寺は梅雨に紫陽花が矢田丘陵を紫色に染めます。また,我が家から遠くないあやめ池のほとりの遊歩道には少し淋しげな菖蒲の花が紫色に染まり可憐に咲きだすのです。

シロザケ飼料の魚油添加効果−5

大橋 勝彦,酒本 秀一

著者らはシロザケ用飼料への魚油添加効果を調べる一連の研究1-6)を行い,以下を明らかにした。

淡水での試験
 ・餌付けは油無添加飼料で行い,餌付いた段階で魚油添加飼料に切り替える。最初から魚油添加飼料を与えると餌離れを起こす。
 ・飼料に添加すべき油は魚油で,水温が9℃での至適添加量は約7%(飼料の脂質含量は約12%)である。
 ・魚油の添加によって成長,飼料効率,タンパク質効率等の飼育成績が改善される。
 ・魚体の脂質含量と脂肪酸組成は飼料の脂質含量と脂肪酸組成を反映する。
 ・魚体の脂質含量が高い程絶食耐性が強く,絶食からの回復も早い。
 ・魚体の脂質含量が少ない程絶食による死魚数が多く,肥満度が大きい魚も死亡する。
 ・魚体の脂質が限界まで消費され,タンパク質がエネルギー源として消費される様になると大量死が起こる。
 ・魚油添加飼料で飼育された魚は,絶食中魚体の蓄積脂質を主たるエネルギー源として利用し,タンパク質の消耗を防ぐことによって生残率を高くしている。
 ・絶食による大量死が起こる時の体成分組成の目安は乾物で脂質が約5%,タンパク質が約90%である。この時の水分含量は約85%である。
 ・低水温下でも魚油の添加効果が認められる。但し,高水温下程油無添加区との違いは大きくない。

食品衛生の今 最近の動向から衛生管理を考える

衛生管理の基礎(7S)を考える

尾野 一雄

 食品衛生が強く求められる今日,衛生管理を
実施していくのは想像以上に大変なことである。また,微生物汚染防止対策,毛髪混入防止対策など,いろいろな対策を実施しなければならないため,工場の衛生管理活動として実施することは非常に多くなる。
 このような衛生管理の活動すべての基礎になるのが7Sと呼ばれる活動である。しかしながら,基礎とはいえ7Sは簡単には実施できない。今回は基本的な考え方,7Sの難しさと実際のポイントについて著者の経験を元とに記載したい。

Report

ミラノ万国博覧会2015を訪れて(後編)

尾作 浩司

 2015年,万国博覧会史上初めて「食」を主題として開催されたミラノ万博に訪れた筆者の渡航記。後半は万博来場者約2150万人の約10%の方が来館し,最終的にはパビリオンプライズで展示デザイン部門の金賞を受賞した日本館を中心について,本編を進めます。

■日本館
 続いて日本館へ。“日本”はイタリア語で“GIAPPONE”。日本の伝統的木材建築法の一つで法隆寺にも使用されている「めり込み作用」で木材を組まれた外壁は,まるで生きているかのようで,一見の価値ありでした。もちろん,耐震性にもとても優れているそうです。まさに温故知新。そんな外壁から圧倒的な存在感がありました。訪れた9月23日の午後の激しい風雨の中,日本館もまた3時間待ち。話し相手もおらず,雨なので一眼レフカメラをそんなにバッグから出すわけにもいかず,心身ともに風邪をひかなくてよかったと現在でも思います。人気のあった日本館。会期中には10時間待ちの日もあったそうです。行列嫌いで有名なイタリア人がここまで並んだと現地のニュースでも,取り上げられていました。

伝える心・伝えられたもの

— 水車(みずくるま) —

宮尾 茂雄

 私には,心に残る水車(みずぐるま)との出会いがある。京都市の琵琶湖疏水にある「夷川発電所」と三鷹市大沢の「新車」と呼ばれる水車である。それまで水力発電所というと黒部ダムのような山間部に作られた巨大ダムが頭にうかび,水車というとドライブインなどにある観光用水車の記憶しかなかったので,この2つの「働く」水車との出会いは忘れられないものとなった。それがきっかけとなり,水車を尋ね歩くようになった。昭和30年代頃までは,水車はまだ私達の身近にあって活躍していたが,その多くはいつの間にか姿を消していった。

“醤油を変えた”驚くべきヒット商品

−『鮮度の一滴』 ヤマサ醤油株式会社−

田形 睆作

 搾りたての醤油は澄んだ赤色で,さわやかで香ばしい風味をしている。ところが時間がたつと色は黒くなり,風味も重い感じになる。このことは醤油に関心がある消費者は誰でも気づいている。ところが,それが醤油だと思い多くの人は気にしていない。ヤマサ醤油の開発責任者は醤油メーカーの責任として搾りたての醤油の色,風味を容器開封後も保持することが出来ないか日々悶々と考えていた。その思いを世界で初めて画期的な新容器の採用で達成する開発をした。その醤油の商品名は『鮮度の一滴』という。『鮮度の一滴』の開発とマーケティング・販売について開発責任者と広報責任者を取材した。