New Food Industry 2016年 1月号

ICT(情報通信技術)を用いた肥満に対する減量支援プログラムの有用性の検討
― フォーミュラ食・遺伝子検査・サプリメントを組み合わせた「DHCダイエットアワード2015」報告 ― 

蒲原 聖可,尾西 麻里,今高 優佳,長谷川 宣子

 肥満に対する食事療法の一つとして,良質のタンパク質を含む低エネルギーのフォーミュラ食(置き換え食,代替食)の有用性が確立されている1-4)。また,肥満関連遺伝子変異の検出に基づく生活習慣の見直しにより,個人の体質に応じた肥満治療の可能性が報告されている1, 2, 5)。さらに,機能性食品素材・サプリメントの適正使用による抗肥満作用も注目されるようになった6-8)。近年では,ICT(情報通信技術)を活用した非対面式介入法による減量サポートの効果が散見される9-11)。私共は,非対面式ダイエット支援プログラムを構築し,フォーミュラ食(置き換え食)による食事療法を中心に,肥満関連遺伝子検査およびサプリメントを併用し,ICTを用いた医療有資格者による介入方法の検証を行ってきた12-14)。今回,減量を希望する肥満者を対象に,「美しく健康的にやせる」を開催理念とし,3ヶ月間の非対面式ダイエット支援プログラム「DHCダイエットアワード2015」を実施したので報告する。

油脂と健康 ― 飽和脂肪酸による健康リスクはない ―

藤田 哲

要旨
 油脂摂取と健康維持との関連を解説した。日本での関心は薄いが,油脂は欧米を中心にその栄養効果の研究が進められている。摂取する油脂の種類と量は,健全な成長や健康,脳の働き,生活習慣病などに関連する。植物油脂の部分水素添加(硬化)で発生するトランス脂肪酸は,心臓血管病のリスクを高める。しかし,従来から忌避された飽和脂肪酸には,そのリスクがないことが明白になった。さらに乳脂の優れた栄養効果を紹介した。

植物因子p-ヒドロキシケイ皮酸の生理活性:
骨粗鬆症,糖尿病,脂肪細胞形成およびがん細胞増殖の制御
The botanical factor p-hydroxycinnamic acid:
Antieffects on osteoporois, diabetes, adipogenesis, and cancer cell proliferation

山口 正義

Abstract
p-Hydroxycinnamic acid (HCA) is an intermediate-metabolic substance in plants and fruits, and it is synthesized from tyrosine. Among various fruits, plants and vegetables, a novel osteogenic factor was found to present in the leafstalk of wasabi (Wasabi japanica MATSUM), and its active component was identified to be HCA. Such an effect was not exhibited in other phenolic acids including cinnamic acid, ferulic acid, caffeic acid, and 3,4-dimethoxycinnamic acid. Bone loss is induced with decreasing in osteoblastic bone formation and increasing in osteoclastic bone resorption, thereby leading to osteoporosis that is widely recognized as a major public health problem. HCA was shown to stimulate osteoblastic bone formation and suppresses osteoclastic bone resorption in vitro. Oral administration of HCA was demonstrated to reveal restorative effects on bone loss induced in ovarietomized rats, a model of postmenopausal osteoorosis. HCA may have a role in the prevention and treatment of osteoporosis. Obesity and diabetes are currently a major health problem worldwide with growing in prevalence. Type 1 and obese type 2 diabetes have been associated with increased fracture risk. Obesity and diabetes induce secondary diseases with various pathophysiologic states including cancer and osteoporosis. Osteoblasts and adipocytes differentiate from a common precursor cell in the bone marrow mesenchymal stem cells. HCA was found to improve type 1 diabetic bone loss in vivo. HCA was shown to suppress adipogenesis in bone marrow cells in vitro. Moreover, HCA was demonstrated to suppress cell proliferation and stimulates apoptotic cell death in human breast cancer MDA-MB-231 cells and human pancreatic cancer MIA PaCa-2 cells in vitro. Interestingly, HCA was demonstrated to prevent MDA-MB-231 cells-induced suppression of osteoblastic mineralization and stimulation of osteoclastogenesis in bone marrow cells in vitro. Anticancer effects of HCA were revealed at lower concentration than gemcitabine, a potent cancer drug. HCA may be a useful tool in the therapy of human cancer in vivo. Thus, botanical factor HCA has been demonstrated to prevent osteoporosis, diabetes, obesity and cancer that lead to bone loss.

筆者は,高齢人口の増大に伴って社会的関心を集めている骨粗鬆症,肥満,糖尿病およびがんの疾患に着目し,その予防に役立つ食因子とその素材の開発を目標にした研究をおこなってきた。興味あることに,骨粗鬆症は,炎症,肥満,糖尿病によっても引き起こされ,さらに,がん細胞の骨転移による骨破壊なども含めると,これらの骨疾患は臨床医学領域において古くて新しい重要な課題になっている。

アンチエイジングをめざす ― 新しい食品機能性評価系の提案 ―
Biological activity and future prospect of alkaline extract of pine seed shell

田﨑 英祐,井内 良仁

 近年,先進国を中心に飽食の時代が進んでおり,医学の発展によって長期化した寿命とは相容れない,生活習慣病などに伴う健康寿命の低下が懸念されている。こうした背景から,人々は食品に対して生命維持に関わる栄養素だけでなく,生体調節機能をも求めるようになった。生体調節を行う食品は機能性食品と呼ばれ,その中でも科学的根拠を必要とする特定保健用食品(トクホ)などは老若男女問わず高いニーズがあり,その市場価値は非常に高いと言えるだろう。一方で,これらの機能性食品は,食品への機能性物質の添加(増量)によって加工生産されているものが多い。この機能性物質は摂取量次第で我々の体に負の影響を与えるものも少なくないため,その安全性の評価には高い正確性が求められている。このような理由から,現在,食品の機能性評価を行う研究の質の向上が問われており,より正確な評価が課題となっている。本稿では,抗酸化作用に注目したアンチエイジング(抗老化)効果を概説し,さらに,現在,我々の研究室で取り組んでいる,遺伝子改変マウスを用いた新しい機能性評価系を紹介する。

イ草アロマ成分はt-PA発現を亢進し,血小板凝集能を阻害する

須見 洋行,溝手 久弥,今井 雅敏,丸山 眞杉

要旨
 イ草のアロマ成分をヒト細胞に働かせるとt-PA(組織プラスミノーゲンアクチベーター)発現を亢進することが分かった。t-PAとは,現在最も強力な脳梗塞急性治療薬として高い評価を受けている薬剤である。
 また,イ草のアロマ成分はヒト血液に対して血小板凝集反応を阻害,すなわち,ADPあるいはコラーゲンによる血小板凝集反応に対して強い阻害活性を持つことが分かった。
ヒト血液において凝固―線溶系とは生体が有する防御機構の1つであり,ここでPA(プラスミノーゲンアクチベーター)とはプラスミノーゲンを活性型のプラスミンに変換させる酵素である。生じたプラスミンは選択的に血管の損傷部などに生じた血栓(フィブリン塊)を溶解する。プラスミノーゲンは分子量93,000,N末端にGluを有する糖たんぱく質である(Glu-Plg)が,2種のPA(かつてはurokinase,現在はu-PAと呼ばれたものとt-PAがある)によりプラスミノーゲン分子中のArg560-Val561の結合が切断され,トリプシン様のセリン酵素であるプラスミンに変換される。

アレルギー物質を含む食品の検査方法について

一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC

検査キットの改良に伴い,平成26年3月26日付け にて,消食表第36号「アレルギー物質を含む食品の検査方法について」が最終改正されています。
 今回は,アレルギー物質を含む食品についての表示制度および検査について紹介します。

穀類に含まれる生理機能性成分
― 活性酸素消去能を有する成分とその相乗的消去能増大効果 ―

秋山 美展

 植物は外界からのあらゆるストレス(動物や昆虫による摂食,微生物やウィルスによる感染,紫外線暴露など)から自身を守るためにいくつかの防御システムを発達させてきた。穀類をはじめ豆類や果実の種子などは植物の繁殖上きわめて重要な器官である。このため種子には外界からのストレスに対する防御システムが特別に発達している例が多い。種子の活性酸素消去能を部位別に見てみると外皮や内皮周辺が中心部よりも高いものが多く,活性酸素消去成分が外皮や内皮周辺に局在している可能性を示唆している。人類は太古より穀物を重要な食糧として生活してきた。穀物に含まれる活性酸素消去成分がヒトの健常性を高め,寿命を伸ばし,どれだけ人類の生物的繁栄に貢献してきたことであろうか。近年は特に食の持つ三次機能が注目されており,更に積極的に医療手段として食品およびその原料に含まれる生理活性成分を利用しようとする試みがなされている。

α-マンゴスチンの健康効果

秋田 佳小里,山形 一雄

要旨
 α-マンゴスチンの多様な生理作用が注目されている。α-マンゴスチンは,東南アジアを原産とするマンゴスチンの果実に含まれる成分キサントン類の一種で,体内へ吸収される過程で一部,変換されて血中に移行して生理作用を発揮する。α-マンゴスチンの健康効果として,これまで抗酸化作用を基盤に,抗ガン作用,抗炎症作用など多様な作用が示されている。特に,抗ガン作用が注目され,作用の特徴や機構が多く報告されている。近年ではα-マンゴスチンが,脂肪細胞に働き,脂肪酸合成を阻止することで肥満阻止に働く可能性が示されている。また,α-マンゴスチンが脂肪細胞の異常に伴い分泌する悪玉アディポサイトカインを減少させ,逆に善玉アディポサイトカインのアディポネクチンの減少を阻止し増加させる作用も報告されている。これら作用は,α-マンゴスチンが肥満に関連する生活習慣病の予防に深く関与する可能性を示す。本稿では,近年多様な作用が注目されているα-マンゴスチンを中心に,吸収や抗ガン作用などについて述べ,さらにマンゴスチンの新たな作用として生活習慣病を取り上げ,特に脂肪細胞に対する作用について概説する。

中国の食材 黄河文明の粟

生 宏

黄河流域は中国古代文明の発祥の地で,寒冷・乾燥の華北農業は粟や麦などの畑作が中心で,畑作灌漑である。それに対して,南の温暖・湿潤の長江流域は稲作農業が発展,水田灌漑である。米を主穀として栽培する。

本文はこちら

活性型ビタミンB6と安価な食材ヒエを用いた簡便な測定技術の開発
Active form of vitamin B6 and its quantitative technology using polished Japanese millet grain

渡部 保夫,前田 明莉,松井 都

ヒトは,自分では合成できない化学物質を生存のために食品から摂取して利用している。ビタミン,必須アミノ酸,必須脂肪酸などであり,これらの機能性成分については,欠乏症が生じないよう食生活に注意すべきである。食品に含まれる前駆体物質が摂取された後,生体内で化学修飾されて活性型となるビタミンがある。例えば,ビタミンB6以外にも,ビタミンB12,ビタミンB2,ビタミンDなどが上げられる。本稿では,この活性型ビタミンB6(PLP)について概説したのち,安価な食材である精白ヒエを用いて開発したPLPの簡便な測定技術をご紹介する。

山形大学農学部での食料生産と食品機械に関する最近の研究について

片平 光彦

山形県鶴岡市は,総面積が1,311 km2,人口が133,831人で山形県西北部に位置する庄内地域の中核都市である。鶴岡市は北部に広がる庄内平野(530 km2)を中心に水稲の生産が盛んであり,平成25年の収穫量が163,600 tと国内有数の生産地である。鶴岡市の平野から山間部,海岸線の砂丘地では庄内柿(出荷量:5,059 t),メロン(同:4,583 t),だだちゃ豆(同:4,488 t)などの園芸作目の栽培も盛んである。なお,鶴岡市の農家数は,平成22年度で5,651戸,その内販売農家が4,538戸(専業農家数:577戸)と全体の80.3%を占めている。しかし,65歳以上の基幹的農業従事者は3,186人と全体の51.8%となっており,全国と同様に高齢化が進んでいる。そのため,農業生産の現場では機械化による作業の効率化が必要な現状にある。
 その鶴岡市にある山形大学農学部は1学科6コースで構成されており,平成27年度6月の時点で学部学生が664名,大学院学生が73名の合計737名である。筆者は6コース中の農業生産に関する研究・教育を行っている安全農産物生産学コースに所属し,水稲や園芸などの生産に係わる各種機械について研究を行っている。主な研究テーマは,前記したとおり,高齢化に対応した農業生産現場での省力的な作業体系の確立,各種調製作業用機械の開発である。具体的には水稲の代かき同時散播機の開発,長ネギの省力機械化作業技術,水田転換ほ場での露地野菜の機械化作業技術,ほ場機械の燃料消費量と効率的運用に関する研究,エダマメ選別機の開発,フキや洋なしの皮むき技術等である。
 本稿では前記した研究内容の概要を報告し,農業生産現場での課題と機械開発の状況について情報提供する。

藻味噌 !?

榊 節子,津谷 裕子,山口 裕司,木方 庸一朗,木方 慶一,竹中 裕行

味噌は1300年もの長い間,日本人の食生活を支えてきた伝統発酵食品である。代表的な味噌は,米味噌,麦味噌,豆味噌,調合味噌であり,その中でも約8割が米味噌である(表1)。味噌は,日本食に欠かせない食材である。日本食と言えば白飯と味噌汁が基本であり,他の料理の調味料として,味噌は日本独特の風味を醸し出している。

カニカマ草創見聞記

小谷 明司

遺跡や遺物による場合もあるが,歴史は主として文献に基づいて記述される。史実が過去に遠くなればなるほど目撃者,あるいは伝聞を語る人は少なくなり,主観,憶測,場合によっては自己正当化の意図で歪曲される余地が広がる。余談ながら,筆者は水産練り製品メーカー在職時に「蒲鉾五十年」と題する立派に装幀された私家本を譲られた1)。大阪の老舗の蒲鉾メーカー社長の小谷 権六氏の昭和前半期の回想録で,自身で見聞された以西底引き原料,全国蒲鉾加工業共同組合連合会の設立経緯,冷凍擂り身の実用化他,戦時統制経済下の経営実態を伺える貴重な資料と判断された。散逸する危険を考え国立国会図書館に寄贈を申し出たところ快く受け入れられ,広く向学の士の便宜に供されることを期待している。ちなみに,小谷 権六氏は筆者と同姓だが類縁関係はない。
 記憶の一部に混乱はあるかも知れないが,筆者の蒲鉾業界在籍時のカニカマ草創期の見聞を書き留めておきたい。カニカマの開発・市場導入について不明瞭な伝聞が広がりつつあるようで懸念している2)。拙著が真実の継承に少しでも役立てばと願っている。

てるこ先生の家庭の食文化 第7回万葉のチーズ「蘇」

中村 照子

 「月日は百代の過客にして,行かふ年も又旅人也」芭蕉の句にもありますように,月日は行きかい時が流れ必ず新年がやってきます。昨年は豪雨などによる災害が多く大変な年でもありました。災害に遭われた方々の地域が一日も早く蘇ってほしいと祈ります。
 今年最初の食文化のテーマは,奈良に古くから伝わる「蘇」という新年にふさわしい上品で贅沢な食品についてお話しをいたします。お正月には屠蘇酒をいただき無病息災を祈りますが,屠蘇は中国より伝来し,屠(邪を屠り)蘇(蘇生させる)という意味があります。奈良県の大神神社ではお正月に先立ち,秋に屠蘇調合献上祭が神事として行われその屠蘇散を社頭で参拝者に授与されます。大晦日の夜,屠蘇器に酒と本みりんを混合したものに屠蘇散を浸し,元旦の朝,家族でおせちをいただく前に年少者から年長者へと杯を進めます(杯の順序は地方によって様々です)。

野山の花 身近な山野草の食効・薬効ー
オウレン Coptis japonica(Thunb.)Makino(キンポウゲ科 Ranunculaceae)

白瀧 義明

「良薬,口に苦し」と昔から言われています。その言葉どおり本植物の根茎はとても苦く,古くから苦味健胃薬として使われてきました。それもそのはず,根茎には殺菌作用や抗炎症作用のあるベルベリン berberineをはじめpalmatine, coptisineなどのベンジルテトラヒドロイソキノリンアルロイドが含まれていて,それらの成分がとても苦く,下痢,腹痛,消化不良などに良く効くそうです。ベルベリンはその他,オウバク(黄柏:キハダの樹皮)やメギ科植物にも含まれ,百草丸,陀羅尼助のような健胃整腸薬にはオウバクが使用されています。漢方ではオウレン(黄連)は実証タイプの人の高血圧症などによく使われる黄連解毒湯(構成生薬:オウレン,オウバク,オウゴン,サンシシ)などに配合され,のぼせ症状の治療薬として鼻血,赤面,動悸,情緒不安などに用います(清熱・燥湿・解毒)。

健康食品のエビデンス 第9回 ウコン

濱舘 直史

 沖縄に行かれたことがある方は,緑茶,紅茶,さんぴん茶(ジャスミン茶)に並んでウコンを煎じたうっちん茶(ウコン茶)を自動販売機やコンビニエンスストアなどで目にされたのではないでしょうか。ウコンの利用はうっちん茶の他にも身近なところにあります。ウコンには黄色い色素であるクルクミンを含むことから,からしやたくあんなどの着色料として用いられています。また,ウコンはショウガ科ウコン属の多年草で学名Curcuma longaと呼びますが,英語名ではターメリックです。ターメリックと聞いてお気づきの方も多いかと思いますが,ウコンはカレーに入れる香辛料としても広く利用されています。健康食品として粉末や打錠,ボトル飲料などでも販売されています。ひとことでウコンと言っても,春ウコンや秋ウコン,紫ウコンなどのウコンと名の付くものが販売されています。これらの違いについて疑問に感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。私も何が違い,どれを購入したら良いか迷って,販売している方に聞いたことがあります。しかしながら,その回答は分かりづらく,結局どれを選べばよいか分からず何種類か購入した経験があります。ですので,これらの違いについても少しお伝えしたいと思います。