New Food Industry 2015年11月号

SF025_L.jpg

New Food Industry 2015年 11月号

特集◆大麦若葉

大麦若葉エキスのストレスおよび免疫機能に及ぼす影響について

青塚 康幸

要旨
健康食品素材として使われている大麦若葉エキスは,大麦の若葉の搾汁を粉末化したものであり,栄養学的に優れているのみならず様々な生理機能性を有することが報告されている。ここではそれらの報告のうちストレスおよび免疫機能に関する研究を紹介する。大麦若葉エキスの投与により,ラットでは浸水拘束ストレス負荷により発生する胃潰瘍を抑制する効果が,またマウスでは強制水泳ストレス及び拘束ストレス負荷により生じる抑うつ様行動を抑制する効果がみられた。ヒトでは,正常高値血圧者の自律神経活動の長時間測定の結果,大麦若葉エキス摂取により,収縮期血圧及び拡張期血圧の低下,副交感神経活動及び総自律神経活動の亢進がみられた。免疫機能に関しては,大麦若葉エキス投与マウスの腹腔マクロファージでNO産生が増強される効果がみられた。以上のことから,大麦若葉エキスは,抗ストレス効果作用ならびに自然免疫賦活作用を引き起こすことが示唆された。

大麦若葉搾汁粉末含有食品が女子学生の便通に及ぼす影響

海野 知紀,田中 弘之,小原 亜希子

要旨
 不溶性食物繊維をほとんど含まない大麦若葉搾汁粉末(青汁)を用いて,女子学生の便通に及ぼす影響を検討した。あわせて,水溶性食物繊維である難消化性デキストリンを配合した場合の大麦若葉搾汁粉末の便通改善効果に及ぼす影響についても評価を加えた。試験食として,大麦若葉搾汁粉末に難消化性デキストリンを配合した青汁Aと,大麦若葉搾汁粉末に消化性デキストリンを配合した青汁Bの2種類を用いた。試験は二重盲検クロスオーバー方式にて行った。一週間の前観察期の後,被験者には青汁Aまたは青汁Bを2週間摂取させた。ウォッシュアウト期を経た後,続く2週間は青汁Bまたは青汁Aを摂取させた。全被験者67名を,非摂取期1週間当たりの平均排便日数をもとに,5日以下(排便日数が少ない群(29名))と5日よりも多い(排便日数が多い群(38名))に分け,層別解析を行った。その結果,排便日数の少ない群で,非摂取期に比べ青汁A摂取期,青汁B摂取期における排便日数,排便回数が有意に増加した。一方,青汁A摂取期と青汁B摂取期の間には有意差は認められなかった。全被験者並びに排便日数の多い群で解析した場合には,いずれも有意な変化は得られなかった。また,試験食の摂取により,便秘傾向者に多いといわれる「カチカチ状」の便性状の出現頻度が減少した。以上より,大麦若葉搾汁粉末を含む試験食の摂取は,排便日数の少ない被験者の排便状況を改善させる可能性が示唆され,その便通改善効果は難消化性デキストリン配合の青汁Aと消化性デキストリン配合の青汁Bともに得られたことから,大麦若葉搾汁液固形分由来の成分による寄与が高いことが推察された。

大麦若葉末の粒度の違いが整腸,腸管免疫機能および腸内細菌叢に及ぼす影響について

森川 琢海,友澤 寛,北村 整一,鍔田 仁人,山口 和也

要旨
 我々はこれまでに青汁素材の微粉砕製法を確立し,嗜好性に優れる青汁を提供してきたが,今回,大麦若葉末の生理作用として知られている整腸作用,免疫調節作用および腸内細菌叢改善作用に対して,大麦若葉末の粒度の違いに着目し比較評価を行った。粒度の異なる2種類の大麦若葉末をマウスに2週間摂取させたところ,糞便重量や盲腸内容物pHにはほとんど違いはみられなかったものの,粒度の細かい大麦若葉末を摂取することで,腸管免疫賦活化の指標の1つである糞便中IgA量が増加した。また大麦若葉末の摂取により,腸内細菌叢にも変化がみられ,粒度の細かい大麦若葉末を摂取したマウスは粒度の粗いものを摂取したマウスと比較して糞便中のPrevotella属の増加が認められた。本研究により,大麦若葉末の粒度が,腸管免疫機能を亢進させ,腸内細菌叢にも影響を与えることが示唆された。

連 載

これだけは知っておきたい 豆知識・テアニン

(一財)食品分析開発センター SUNATEC

 2015年4月1日,食品表示法が施行され,あらたに機能性表示食品制度が導入されました。これまでは,食品に含有されている栄養成分の生理機能を表示できる制度は,国が個別に許可した特定保健用食品(トクホ)と,国の規格基準に適合した栄養機能食品に限られていましたが,今回新制度ができたことにより,事業者の責任において,科学的根拠に基づいた機能をもつ栄養成分(機能性成分)について,表示することが可能になりました。
 現在,様々な機能性成分が市場に出回り注目されていますが,今回は機能性成分の一つである「テアニン」についてご紹介します。

健康食品のエビデンス 第7回 ノコギリヤシ

濱舘 直史

私が初めてノコギリヤシと聞いて思い浮かべたのは「葉っぱがギザギザしたヤシかな」といったところでした。実際,この連想は正しく,ノコギリヤシの葉は1m前後にもなる大きくノコギリのようにギザギザしています。古くはこのノコギリヤシの葉を茅葺屋根として用いていたそうです。ノコギリヤシは,英語でも「ソウパルメット(Saw palmetto)」と呼ばれており,ソウはノコギリを意味し,パルメットは扇形の葉を持つ丈の低いヤシの総称ですので,和名も英名も同じ発想で名付けられています。生育地域は北米南部の海岸沿いを中心に,内陸部にも見られます。花は淡黄色で,赤黒い果実を付けます。ヤシの実は一般的に油が良く取れることで知られていますが,ノコギリヤシも油分を多く含み,その油は燃料や食用,薬用などの広い用途で使用されています。

野山の花 リンドウ Gentiana scabra Bunge var. buergeri (Miq.) Maxim.
(リンドウ科 Gentianaceae)

白瀧 義明

 秋,奥武蔵の山々を歩くと,日当たりの良い山の斜面などに薄紫色の可憐な花をつけたリンドウを見かけます。リンドウは本州,四国,九州に分布し,山地や丘陵地に生える多年草です。茎は中空で直立または斜めに立ち,草丈20~90㎝,葉は対生し,披針形で先はとがり,全縁,基部は茎を抱き,花は9~11月に咲き,茎の頂きまたは上部の葉腋に紫色,稀に白色の花をつけます。根と根茎はとても苦く,竜の胆のように苦いことから,生薬名を竜胆(リュウタン)と言い,昔から,民間で食欲不振,消化不良,胃酸過多,腹痛などにセンブリと同様,苦味健胃薬として使われてきました。

中国の食材 食効・薬効  秋の養生 百合根

生 宏

 8月末ですが,仙台は急に肌寒い感じで,秋になったようですが,夏の暑さと冬の寒さより,過ごしやすくなります。「食欲の秋」も「養生の秋」ですね。
 筆者(生宏)は中国・甘粛省蘭州市で育ちました。甘粛省は中国の西部に位置し,敦煌の莫高窟など世界遺産もあります。気候はかなり乾燥しております。そのような乾燥地域でゆり根が名産です。祖父は漢方医学に非常に興味を持っているので,小さい頃「黄帝内経(こうていだいけい)」による春に養肝,夏に養心,長夏に養脾,秋に養肺,冬に養腎という四季の養生の言葉をよく耳にしていました。ゆり根は肺を潤す効果があること今も覚えています。晩秋から冬にかけて蘭州の旬のものはゆり根です。とても甘くて,苦味は全然ありません。

論 説

ポリフェノールによる食肉色素ミオグロビンの新鮮色の制御

本田沙理,増田 晃子,増田 俊哉

 食肉は,その多くが生鮮食品として流通し消費される。食肉の赤色は脂肪の色とともに,製造流通過程で食肉の品質評価の対象とされ,また,消費者にとっても食肉の赤色は新鮮度の重要な判断材料となっている1)。従って食肉の新鮮さをイメージさせる赤色を維持することは,流通ならびに加工上,生鮮食品としての食肉の価値を保つための重要な要素といえよう。
 ところで,食肉の赤色は,主に筋肉中に存在する色素タンパク質ミオグロビンの色に由来するとされている。ミオグロビンは,ヘムと呼ばれる2価の鉄イオンがキレートしたポルフィリン物質とグロビンタンパク質の複合体である。鉄イオンは通常6配座を有するが,ミオグロビンの場合,そのうち4配座はポルフィリン窒素が,1配座はグロビンのヒスチジン残基のイミダゾール窒素が占めており,残りの一カ所には様々な物質の配座が可能となっている2)。

茶樹の水耕栽培による根の有効利用

斎藤 貴江子

茶は日本を代表する農産物であり嗜好品として国内外で広く飲用されている。
葉に含まれる成分の有効性に関しては多くの研究報告があり,その主要な成分であるカテキン類の作用は,抗酸化,抗突然変異,抗がん,抗高血圧,抗動脈硬化,抗炎症,抗肥満,抗メタボリックシンドローム,抗菌,抗ウイルスなど,きわめて広範囲に及んでいる。そのため,茶葉を利用した製品やカテキンを含んだサプリメントなどが数多く市場に出回っている1)。
 茶葉中に最も多く含まれているアミノ酸は,グルタミン酸の誘導体であるテアニン(γ-glutamylethylamide)である。テアニンは緑茶のうま味成分として知られているが,その中枢神経系に及ぼす効果についても近年注目が集まっている。ラットなどの動物を用いた研究では,テアニンは腸管から吸収され,血液・脳関門を介して脳に取り込まれること,また,ドーパミンなどの脳内神経伝達物質の変動や記憶・学習能への影響などが明らかになっている2)。一方ヒトを対象とした研究からも,自律神経活動やリラクゼーションなどの情動にも影響することがわかってきた3)。
 テアニンは根で生合成された後に茎や葉に輸送され蓄積されるが,テアニン生合成部位である茶根に関する研究やその有効利用についてはあまり報告がない。茶樹は土壌栽培が一般的であるので,根の特性や生理機能についての研究に適していなかったためである。著者はここ数年にわたり茶樹の水耕栽培を行い,根の生育に良好な生育環境条件を確立した4, 5)。これにより,茶根を用いて茶葉よりも多量のテアニンを抽出できる可能性が示された。
 本稿では,水耕栽培を用いた茶樹の根の特性について著者が得た若干の知見を紹介するとともに,水耕栽培による茶根の有効利用について提案する。

ビタミンCの食品品質改良機構には活性酸素が関与している I
−かまぼこを対象として
Superoxide Anion Radicals Contribute to the Beneficial Effects of Ascorbic Acid in Food I
− For Kamaboko (heat-induced fish gel) −

西村 公雄,宮本 有香,池内 沙耶香

Abstract.
 The beneficial effects of vitamin C (ascorbic acid) on Kamaboko (heat-induced fish gel) were investigated. It was established that these beneficial effects are brought about through the ascorbic acid-induced polymerization of the myosin heavy chain. The polymerization proceeded via a radical-radical reaction between the thiyl radicals of Cys residues generated by superoxide anion radicals, which are yielded during the oxidation of ascorbic acid.


 1939年にJorgensen1)が,パン生地に還元剤であるビタミンC(アスコルビン酸,以下AsA)を加えると,酸化剤を添加したときと同じような品質改良効果がもたらされることを発見して以来,製パン業界では,幅広くAsAを品質改良剤として用いてきた。後に,この効果は,魚のすり身においても認められ,今では,かまぼこ業界でもAsAを使用している。パンにおけるAsAの品質改良機構(図1)は,今日では次のように説明されている2)。まず,(1)パン生地に添加されたAsAが酸化酵素や遷移金属の作用により,急速に酸化されデヒドロアスコルビン酸(DHA)となる。(2)するとこのDHAが還元型グルタチオン(GSH)を酸化型グルタチオン(GSSG)に酸化する。(3)その結果,タンパク質上のSH基(Pr-SH)とGSSGとの間でSH-SS交換反応などが起こり,最終的にタンパク質間でのSS結合(PrS-SPr)が増え,構造が密になるという機構である2-9)。一方,かまぼこにおけるAsAの品質改良機構に関する研究は,1972年に吉中ら10)が発表したもの以外なく,漠然とパンの機構と同じであると考えられてきた。著者らは,卵白アルブミン(OVA)を用いて,AsAにより図1の機構に準じなくてもSS結合によるタンパク質の重合化が促されることを認めた11, 12)。そして最終的には,かまぼこに対するAsAの品質改良効果は,AsAより発生する活性酸素の一種であるスーパーオキサイドアニオンラジカル(O2)が関与する系(図2)13)によることを明らかとした13-20)。すなわち,AsAが遷移金属を還元すると遷移金属が酸化される際に,O2をO2に一電子還元する。このO2が筋肉タンパク質であるミオシン重鎖(MHC)上のSH基のH•を引き抜きS•が生成するとラジカル酸化によりMHC間でSS結合ができあがるというものである。以降,この結論に至った経緯について解説する。

5基本味の好ましさの分析

柳本 正勝

 食品の味には甘味,うま味,酸味,塩味,苦味の5基本味があるとされている。これらの味の受容のされ方1−3),脳への伝達と脳における情報処理4, 5)については精力的に研究されているが,肝心の味がどの程度好まれているかについては,ほとんど知見が得られていない。実験科学的なアプローチでは得られる結果が限定的であるし6, 7),官能評価では食品自体が対象になってしまう8)。また一般的なアンケート調査では,調査目的の制約から得られる知見が断片的である9−11)。5基本味の好ましさを体系的に取り組んだような例は見当たらない。
 そこで,5基本味の好ましさを数値化しそれを比較することを目的としたアンケート調査を実施した。その結果と,その過程で各基本味が感知されている割合およびその味を強化したらもっとおいしくなるかについての知見も得ることができたので,それらについて紹介する。

歴史の潮流と科学的評価
(第4節 健康的なベジタリアン食への提言)

ジョアン・サバテ(Joan Sabate),訳:山路 明俊

食事習慣が,栄養状態,健康や寿命に大きく影響することは良く知られたことです。理想的な食事組成は正確にはわかっていませんが,科学の面から,健康改善に対する食事が果たす役割への関心が高まり,栄養研究者や行政担当者に対し,定期的な食事指針を国民に示すように促しています。食事への関心は,最初は,飢餓の問題や不適切な栄養に焦点が絞られていて,食事指針は,栄養状態の改善のために,肉や乳製品等の動物性食品が推奨されていました。疾病のパターンが感染や栄養不足によるものから,慢性疾患率の増加に移ってきたので,食事指針もまた,変化しました。現在の世界中の食事指針は,健康効果が高いので,植物性食品に基づく簡素なベジタリアン型食を推進しています。
 植物性を基本にしたり,ベジタリアン食に関心が集まっている理由の一つは,先進国で消費されるこれらの食事が,長期にわたり望ましい効果を示すという明確な研究結果があるからです。数多くの慢性疾患による疾病率と死亡率は,非ベジタリアンよりもベジタリアンの方が低いのです。この章は,慢性疾患の1次予防と2次予防に対する食事指針や推奨に,肉のない食事とベジタリアン食がどのように適合するのかの概要を示すことにあります。事実,様々なガイドラインは,植物性が豊富な食事で,しかもベジタリアン食を取り入れることで最良な状態に到達することができます。

酒たちの来た道  酒造りの文明史④

古賀 邦正

 前回,果実の酒ワインと穀物の酒ビールのヨーロッパへの広がりを概観し,古代ギリシアの歴史的変遷はワインの発展にどう関わったかについて述べた。今回はギリシアに続いて台頭した古代ローマの歴史的変遷とともにワインがどのように発展したか,ビールはどうであったかを見てゆきたい。ワイン・ビールの棲み分け,ワインの基本的な品質や製造法はローマ時代にほぼ定まったと考えられており,今回は,その経緯を理解したいと思う。宜しくおつきあい下さい。

管理栄養士てるこ先生の家庭の食文化

第6回 やまとの柿あれこれ

中村 照子

 大和の里に美しい晩秋の季節を迎える頃となりました。奈良坂にひっそりと佇む般若寺境内にコスモスが咲き乱れると,斑鳩の里,竜田川の川沿いは燃えるような紅葉で辺り一面をいよいよ美しく染めていきます。その竜田川からさらに歩を進めていくと法隆寺へと辿り着きます。飛鳥時代の姿を今に伝える世界最古の木造建築,法隆寺はこの季節には一層の趣を増します。西円堂の石段近くの紅葉はそれは見事。そして八角形の殿堂,夢殿から眺める息をのむような落日。そして茜色に染まった五重塔の遠望は切ないほど美しい秋の色彩です。