New Food Industry 2015年 4月号
テアデノール含有茶がヒトの肥満改善におよぼす影響
鈴木 直子,山本 和雄,河村 傳兵衛,髙良 毅,池谷 翼,渡邉 知佳子,宮崎 均
要旨
本試験では,ロゼ茶から抽出したテアデノールのヒトにおける肥満改善効果をパイロット試験にて評価した。BMI 25 kg/m2以上で健康状態に問題のない者10名を募集した。摂取前に検査1を,摂取開始6週後に検査2を,12週後に検査3を実施した。摂取期間は12週間であり,試験参加者は,1日あたり1本500 mLのテアデノール含有茶を2本摂取した。検査1と検査3の間,試験参加者はテアデノール含有茶を摂取する他は,それまでの食生活および生活習慣から逸脱しないよう通常通りの生活を送らせた。主要アウトカムはアディポネクチンであり,副次的アウトカムは臍部横断面の脂肪面積,血中脂質,体重,BMI,体脂肪率であった。検査1と検査3の間に,アディポネクチンは有意に増加し (p = 0.047),臍部横断面の全体脂肪面積は有意に減少した (p = 0.041)。本試験の結果よりテアデノール含有茶の継続摂取がアディポネクチンを増加させ,脂肪量を減少させる可能性があると考えられ,ヒトの肥満を改善することが示唆された。
キチンナノファイバーの機能性食品への応用
Applications of chitin nanofibers for functional foods
東 和生,大﨑 智弘,岡本 芳晴,斎本 博之,伊福 伸介
要旨
近年,キチンの繊維径を細く(10-20nm)した,キチンナノファイバー(キチンNF)の作製が容易に可能となった。キチンNF経口摂取によって,実験的潰瘍性大腸炎の発症抑制が可能であることが明らかとなった。キチンNF経口摂取は大腸でのNuckear factor-κBの活性化を抑制させた。また,キチンNFの表面を脱アセチル化(キトサン化)させた表面脱アセチル化キチンNF経口摂取は,抗肥満効果を有することが実験的肥満モデルにて明らかとなった。特に,表面脱アセチル化キチンNFは体重増加,血中レプチン濃度の上昇並びに肝臓への脂肪滴沈着を抑制させた。これらの結果は,キチンNFあるいは表面脱アセチル化キチンNFが機能性食品として有用である可能性を示している。今後は,ヒトでの臨床試験や作用機序の解明が求められる。
スペクトルイメージングの食品検査への応用
蔦 瑞樹
食品原料や最終製品に混入する異物は特定の部位,ロット,個体等に局在している場合が多く,「何が」のみならず「どこに」存在するかを検査する必要がある。また,出荷する商品を検査する場合は非破壊で検査を行わなければならず,X線検査装置や金属探知機が多用される。近年,消費者の食品品質に対する要求が高まるにつれ,従来は異物や異常とみなされなかった対象,例えば果実由来の微小な萼・果梗等についてもクレームが来るようになってきた。これらの新たな「異物」,特に生体由来の異物についてはX線検査装置や金属探知機では検知が困難である。
食品や青果物の検査に用いられている手法の一つに,近赤外分光法や蛍光測定法等のいわゆる「光センシング」手法がある1, 2)。これらの手法は物質固有の光吸収に基づいているため,同じ生体物質でもタンパク質と糖分,水分と油分等を識別することが可能であり,例えば果実の糖度を非破壊かつ高速に推定することが可能である。しかしながら,これらの手法は通常対象の一点のみを計測対象にしており,局在している異物を検出するのは困難である。
そのため,近赤外分光法や蛍光測定法を画像計測に拡張する「スペクトルイメージング」により,食品中の成分分布を可視化する研究が,近年行われるようになってきた3-6)。本稿では,スペクトルイメージングの概要について述べると共に,筆者らが取り組んできた食品検査への応用事例について紹介する。
ハナビラタケBIO MH-3のがん患者のリンパ球に対する作用
前原 賢一、中島 三博
要旨
ハナビラタケMH-3(Sparassis crispa)は東京薬科大学の宿前名誉教授,大野教授らによって,動物実験で強力な抗がん作用が確認されている。我々は臨床においても免疫能の維持にハナビラタケMH-3が有効であるかどうかを確認するために,ハナビラタケMH-3摂取におけるリンパ球数の変化,及びNL比(好中球数とリンパ球数との比)の推移を計測した。
その結果,ハナビラタケMH-3はがん患者の低下しているリンパ球数の増加作用やNL比のバランスを改善することが確認された。また実際にがん細胞の成長を抑制していることが確認された。更にがん患者の腫瘍マーカーに顕著な改善がみられた。
ポリエチレングリコール(PEG)鎖を有する多成分系高分子化合物の有用性
Functionalities of multicomponent polymers with Poly(ethylene glycol) chains for medical and industrial materials.
飯島 道弘
Abstract.
Multicomponent polymers with poly(ethylene glycol)(PEG) chains are very important polymer for various applications, such as medical and industrial applications. PEG has unique properties such as solubility, flexibility of the chains, and high biocompatibility.
Especially, block copolymers and graft copolymers with PEG have become very interested materials for medical and chemical materials, because they can combine different segments within one polymer chain. These amphiphilic polymers form aggregates, micelles, gels and they can modify various surfaces. They can find applications in various fields, especially in biomedical field. The properties of these polymers are affected the length and shapes of polymers, reactivity of functional groups, etc.
In this article, development and utility of these multicomponent polymers with PEG were reported. These PEG derivatives are promising for biomedical materials.
現在の私たちの生活において,多種多様なニーズを実現するために,更なる材料の高機能化が要求され,精密な構造制御が重要視されている。特に,三大材料である無機,金属,有機材料の他に,複合材料のような他材料との境界領域で使われるものも注目され,用途もこれまでの医療,食品,繊維などのような特定の狭い分野に限らず,他用途に幅広く横断的に関連できる可能性の高いものが重要視されてきている。
このような素材開発において,目覚ましい発展を遂げている一因に高分子化合物の利用がある。本稿では,機能性材料の開発のカギを握る多成分系高分子化合物,特に医療,製薬,化粧品分野などで注目を集めるポリエチレングリコール(PEG)を有する多成分系高分子化合物の詳細と有用性について述べる。
反社会的行動と脳の栄養
藤田 哲
要旨
過去15年ほどの研究で,抑鬱,攻撃性,衝動性など反社会的行動が,脳での栄養不足の結果であることが示唆された。わけても油脂に関しては,魚油に多いDHAなどのオメガ-3(n-3)脂肪酸の摂取量が,犯罪などの反社会行動の防止に関わることが,米国の国立健康研究所をはじめ多くの研究結果から示された。魚食の多い日本は殺人その他の犯罪率が世界で最も少ない國である。
"You are what you ate" 「あなたはあなたが食べたものだ」との真理は,古代インドの賢人の言葉であるとされる。人の一生は受精後の母体からの恩恵に始まり,他の生物を食べることでなり立ち,人生は何をどのように食べたかに大きく影響されるはずである。また「健全な精神は健康な身体に宿る」とも言う。そして人生を通じて,無意識下と意識下の肉体と精神の働きの全てを脳が支配している。しかし,脳の非常に高度な作用に,日頃の栄養が影響するとはあまり考えられなかった。
脳の重量は人の体重の2%強で1.2〜1.4 kgであるが,人が使うエネルギーの約20%を消費している。そこで脳機能の維持には,エネルギー源としての糖分が重要である。しかし脳の正常な機能には,単にエネルギーだけでなく,脳のための種々な栄養素が必要で,栄養素と脳機能との関連が重要であることが分かってきた。つまり「健全な精神はあなたが食べたものの結果」であると言えよう。
最近のFood Technology誌に,種々の反社会的行為と脳の栄養状態との関連について,興味深い論文が掲載された1)。その概要を紹介するとともに,世界の国々と日本での犯罪,殺人などの不祥事との関連について考察してみた
低水温飼育下でのシロザケ飼料への魚油添加効果
大橋 勝彦,酒本 秀一
著者らはシロザケ稚魚を用いた一連の研究1-7)で淡水での飼育試験,絶食試験,絶食からの回復試験および海水馴致試験と海中飼育試験等を行い,以下の事を明らかにした。
飼料:同じシロザケ用飼料であってもメーカーの違いによって飼育された魚の体型,飼育成績および体成分組成等が可也異なる。これらの違いは飼料の原材料や栄養バランスの違いによって生じているものと思われる。夫々のシロザケ稚魚生産場に適した飼料を選択して使用すべきであろう。
飼育成績:魚油を添加した飼料で飼育した方が生残率,成長,飼料効率(増重量×100/給餌量),タンパク質効率(増重量×100/給与タンパク質量)等の飼育成績が良い。更に絶食耐性,絶食からの回復能力,海水への馴致能力も魚油添加区の方が高い。
餌付け:餌付け時から魚油を添加した飼料を与えると摂餌性が悪く,飼育成績に可也長期間悪影響を及ぼす。餌付け時には魚油無添加の飼料を用いるべきである。3-4日間魚油無添加飼料で餌付けを行った後魚油添加飼料に切り替えれば摂餌不良による悪影響は認められない。能勢ら8)の報告に有る様に餌付け時の魚のエネルギー源は主としてタンパク質であることと関係しているのであろう。シロザケ稚魚では未だ十分に卵黄が吸収,消費されない時期から給餌を開始するのが一般的である。卵黄には高濃度に脂質が含まれている。餌付け時にはまだ魚体の脂質量に余裕が有るので,卵黄脂質の利用を優先させる為に魚油を添加した飼料の摂取を抑制している可能性も考えられる。
立効散の歯科領域への応用について
堀江 憲夫
現在実践されている東洋医学には,中国伝統医学と西洋医学の両者を融合させようとしている中医学とともに漢方医学が含まれる。漢方医学は中国より伝来した中国の古典医学が,江戸時代より日本で独自の発展をとげたものである。したがって中国古典医学や中医学と同一のものではない。東洋医学と西洋医学の違いは,西洋医学では疾患の個々の症状を解剖学,病理学,生理学を用い分析的にとらえ病名を決定するのに対し,東洋医学では臨床経験をもとに疾患を総合的にとらえ,証を決定し治療方針を定めている。証をみるにあたり,漢方医学では陰陽,虚実,表裏,寒熱,気血水等の概念を基本理論としている1)。明治以降の日本の近代医学は西洋医学を中心に発展してきたため,その基本理論が明らかに異なる漢方医学は片隅に追いやられてきた。西洋薬で求められているエビデンスを漢方薬が提供できなかったことも漢方医学の発展を閉ざしてきたことと言える。
しかしながら西洋医学の理論では治療できなかった患者が漢方医学の理論により投与された漢方薬で治療に奏功した症例は枚挙にいとまがないこと,また西洋薬だけでは治療に難渋していた疾患の中に漢方薬が目覚ましい効果を発揮するものがあり,漢方薬は再び注目を浴びることとなった。近年製薬会社が特に販売に力を入れている漢方薬は腸管運動亢進作用を有する「大建中湯」,消化管の運動機能を改善する「六君子湯」,認知症における神経の興奮を和らげる「抑肝散」である。最近はがん化学療法に伴って出現する口内炎に効果を発揮している「半夏瀉心湯」もその販売に力が入れられ,口腔疾患を扱うわれわれにも大変興味深い。これらの薬剤ではまた,漢方薬が西洋薬と対峙する上でいつも問われるエビデンスについても蓄積が進んでいる。
酒たちの来た道
酒造りの文明史①
古賀 邦正
酒はいつの時代に誕生したのか,そしてどのように育ってきたのかを考えながら酒を飲むのはなかなか楽しい。この愛すべき飲みものの誕生はけして華やかなものではなかっただろう。ひっそりと生まれたに違いない。しかし,ひとたび誕生した後の足取りは着実であり,しっかりしたものであった。その結果,いつの時代にも絶えることなく存在し続けて今も世界のいたるところで様々な酒が造られ,様々なかたちで人々を楽しませてくれている。時代時代の種々の状況を反映させながら,脈々といろいろな酒が造り続けられてきたのだ。種々の状況とは科学的状況であり,経済的状況であり,環境的状況であり,地政学的状況であり,“なんとしても飲みたい”という人たちの状況だ。こんなことを考えながら飲んでいたら,「そうだ,酒の来た道について学んでみよう」という思いに至った。もとより学びながらの執筆であり,どこまでまとめられるか甚だ心もとないところもあるが,しばらくお付き合いをお願いする次第です。
組織の活性化と人材の育成
Improving the working environment and nurturing human resources :
新たなスタートを迎えるにあたって
At the time of welcoming the new academic year
坂上 宏
Abstract
At the time of welcoming the new academic year, it is very important for us to reconsider why we were born in this world and what we should do for the society. In order to win the competition, we have to cultivate the individuality of ourselves, activate our organization by cooperating with other groups and perform anything that are beneficial to our society.
桜の開花するこの季節は、新しい何かが始まろうとする期待に燃えていることでしょう。この世に生を受けたことは大変尊い。我々は人生に真剣に取り組まなければない。どのようにしたら、自己の能力を最大限に伸ばし、社会に貢献でき、そして、満足の行く人生を送ることができるだろうか?