New Food Industry 2015年3月号

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New Food Industry 2015年 3月号

リン酸カルシウムの物質吸着能を食品分野で活用する

近藤 徹弥,石原 那美

リン酸カルシウム (CAP)はリン酸あるいはピロリン酸のカルシウム塩の総称であり,リン酸二水素カルシウム(Ca(H2PO4)2・H2O ),リン酸水素カルシウム(CaHPO4・2H2O,CaHPO4 ),リン酸三カルシウム(Ca3(PO4)2),ハイドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)などがよく知られている。CAPはボーンチャイナのような陶磁器材料,人工骨や人工歯の医療材料,歯磨用基材,飼料,微生物固定化担体などとして広範囲な分野で利用されている。食品分野では,カルシウム強化剤,パンやケーキの品質改良剤 (膨張剤,イーストフード助剤),醸造用の発酵助剤,固結防止剤などに使われている。
 CAPの結晶構造中には,正に荷電しているカルシウムイオン (Cサイト)と負に荷電しているリン酸イオン (Pサイト)が存在している。CAPは,これらのサイト上でのイオン交換反応などにより,電荷を持つ様々な成分を吸着することができる 1, 2)。1956年にTiseliusらがCAPのタンパク質吸着特性を明らかにして以来3),CAPはカラムクロマトグラフィー担体としてタンパク質や核酸などの生体関連物質の分離に広く用いられてきた。さらに,重金属イオン,ウィルス,細菌など,様々な成分の吸着剤としての利用も研究されてきた4-7)。
 前稿では,清酒の潜在的な品質劣化要因であるタンパク質 (滓の原因タンパク質やグルコアミラーゼなどの酵素タンパク質)をCAPにより効果的に除去できることを報告した8)。今回は,溶液中のタンパク質の除去・回収や細菌の除去へのCAPの活用例を紹介する。

スペクトルイメージングの食品検査への応用

蔦 瑞樹

食品原料や最終製品に混入する異物は特定の部位,ロット,個体等に局在している場合が多く,「何が」のみならず「どこに」存在するかを検査する必要がある。また,出荷する商品を検査する場合は非破壊で検査を行わなければならず,X線検査装置や金属探知機が多用される。近年,消費者の食品品質に対する要求が高まるにつれ,従来は異物や異常とみなされなかった対象,例えば果実由来の微小な萼・果梗等についてもクレームが来るようになってきた。これらの新たな「異物」,特に生体由来の異物についてはX線検査装置や金属探知機では検知が困難である。
 食品や青果物の検査に用いられている手法の一つに,近赤外分光法や蛍光測定法等のいわゆる「光センシング」手法がある1, 2)。これらの手法は物質固有の光吸収に基づいているため,同じ生体物質でもタンパク質と糖分,水分と油分等を識別することが可能であり,例えば果実の糖度を非破壊かつ高速に推定することが可能である。しかしながら,これらの手法は通常対象の一点のみを計測対象にしており,局在している異物を検出するのは困難である。
 そのため,近赤外分光法や蛍光測定法を画像計測に拡張する「スペクトルイメージング」により,食品中の成分分布を可視化する研究が,近年行われるようになってきた3-6)。本稿では,スペクトルイメージングの概要について述べると共に,筆者らが取り組んできた食品検査への応用事例について紹介する。

トレハロースによる乳牛の酸化ストレス低減と高品質乳生産技術

佐藤 幹,青木 直人

要旨
 二糖類であるトレハロースは抗酸化活性を持つ物質として知られ,鶏や代用乳などの家畜用飼料添加物としての研究が進められているが,乳牛では摂取した飼料がルーメン内における微生物分解を受けることから,トレハロースの抗酸化活性が生産物である乳に届くことは難しいと考えられていた。本研究では,飼料へのトレハロース添加がルーメン発酵を促進し,乳量を増加させるばかりか,牛乳中の過酸化脂質濃度の低下と抗酸化活性の上昇を示すことを明らかにした。さらに,これらの作用はルーメン内の微生物を介した,これまでにない作用機作によるものと推測された。この結果は,乳牛へのトレハロース給与が付加価値を持つ抗酸化乳の生産に有効であるだけでなく,微生物を介した生体制御などの応用技術としての可能性をも提示するものである。

知っておきたい日本の食文化
その五 和食はどのように発達してきたのか

橋本 直樹

世界に誇ることができる日本の伝統的な食文化,「和食」が世界無形文化遺産としてユネスコに登録された。和食とは明治時代まで日本人が日常に食べていた民族伝統の食事であり,今日,料亭で食べる会席料理はその代表的なものである。町の食堂の刺身定食や焼魚定食,あるいは家庭で作る和風惣菜など,ご飯に,お刺身か焼き魚,人参,牛蒡,里芋などの煮物,ほうれん草や小松菜のお浸し,それに味噌汁とお新香が付く一汁三菜の料理は一般的な和食である。握り鮨,てんぷら,鰻の蒲焼,おでん,そばなどはすべて日本独自の料理であるから和食である。
 和食は日本料理と呼ばれることもある。多くの場合,和食と日本料理は同義語として使われているが,料理人が作る会席料理などは日本料理と呼ばれることが多い。そもそも,和食とか,日本料理という名称を使うようになったのは第二次大戦後のことである。それまで日本人が日常的に食べていた料理を戦後,急速に普及した欧米料理や中華料理と区別するために使われ始めたのである。

体色が異なる3種ニジマスの魚体内カロチノイド分布

酒本 秀一

ニジマスには普通のニジマスとは全く体色の異なるアルビノやコバルトと云われる突然変異体が存在する。
 アルビノは所謂白子で,メラニン色素が欠如した魚である。1956年に長野県で見出され,優性遺伝することが確認されている。養殖場ではそれ程珍しくない頻度で出現する。メラニンを欠くため目は赤く,体表は全体が薄いオレンジ色で,ニジマスの特徴である体側の虹の部分は濃いオレンジ色を呈し,目立つ色をしている。綺麗なのでアルビノを集めて飼育して観光の目玉にしたり,釣り場では特別のニジマスとして取り扱っていたりする。
 コバルトは脳下垂体の異常によってパーマーク(サケ科魚類の体側に見られる楕円状の斑点模様で,幼魚の時のみに存在するもの,成魚になっても存在するものと魚種によって色々である。ニジマスは幼魚の時のみに認められる。)や黒点が出現せず,体色がコバルトブルーを呈する変異体である。出現頻度はアルビノ程高くない。この魚も綺麗であるが,成長が遅くて病気にかかり易いとされているためか,数100gの大きさにまで育つのは稀である。また,生殖腺が発達しないので性成熟はしないと云われている。
 この様に体色が全く違うニジマスのカロチノイド分布は如何なっているのかに興味を持っていたところ,今回アルビノとコバルトの大型個体を調べる機会を得た。両者が普通のニジマスと如何違うかについて魚体内のカロチノイド分布を中心に報告する。

管理栄養士 てるこ先生の家庭の食文化 第2回 きれいな身体づくり

中村 照子

そろそろ春を感じる季節になってきました。私は毎年この時期になると,桜色のスカーフやブラウスで少し早めに季節を先取りして楽しみます。気持が華やいで女性に生まれてよかったなと感じる瞬間です。ビジネス街では男性の颯爽としたスーツ姿も目にする季節です。男性のさりげないシャツ姿も私は大好きです。でも重い上着を脱ぐと・・そう,やっぱり体型が気になってしまいますよね。
 最近は男性,女性にかかわらず多数の人から痩せたいけれど長続きしないと相談されます。話を聞いてみると,無理して極端なダイエット法を試みている人が意外と多いのです。また,リバウンドをしてしまう悩みも良く聞きます。みなさんダイエットに関する知識はたくさんあるはずなのですが,情報が多すぎて混乱しているのかもしれませんね。
 そこで,今回はきれいな身体づくりのために,無理のない私の簡単な実践ダイエット方法をいくつかご紹介しましょう。

人の心理状態を可視化する試み
− 脈波におけるカオス解析から判別する精神疾患患者の特徴と実践における新たな展望 −

三好 恵真子,胡 毓瑜,林 娟,雄山 真弓

心理学は,人の心的過程や行動の予測と制御を目的とする学問であるが,中でも,「生理心理学」は,生体信号に表出される生理的変化から,人の生理・心理状態の推定を行うものである。従来の生理心理学おいて,種々の生体信号(脳波,心電図,心拍間隔,血圧,呼吸,指尖容積脈波など)に関し,様々な手法を用いて解析され,多くの知見が得られてきたが,その大半は,線形理論に基づく解析手法が主流であった。しかしながら,生体信号には非線形的性質が含まれており,これらはカオス(chaos)と呼ばれる非線形的性質により変動することが知られている。

食行動記録システムによる農産物消費の実態把握

大浦 裕二、山本 淳子、小野 史、磯島 昭代

 農産物をはじめとする食品の製造,販売にあたっては,消費の実態やニーズを的確に把握しておくことが不可欠である。しかし,消費者のライフスタイルや価値観が多様化する中で,食品の消費行動は複雑化し,その実態を捉えることが難しくなってきている。
 そこで本稿では,食品の消費実態を詳細に把握するためのWebアプリケーション「食行動記録システム」注1)を紹介するとともに,この「食行動記録システム」を用いた分析例をもとに,複雑な農産物消費の一端を述べる。

ベジタリアン栄養学 歴史の潮流と科学的評価
(第3節 ライフサイクルと特定の集団から見た,ベジタリアン食の適正度)
12章 アスリートに対するベジタリアン食の有用性

ジョアン・サバテ、訳;山路 明俊

古代ギリシャ以来,アスリートやコーチは良い結果を出すためと,競争相手より優勢に成るために特別処方の食事を実践してきました1-4)。伝説的なギリシャのレスラー,Milo of Croton は途方もない肉を食べ,5回のオリンピックで屈服することはありませんでした。(532〜516 B.C.)ローマのグラデュエイターは,肉は彼らをさらに良い戦士にすると信じていて,現在でも,多くのフットボール,バスケットボール,野球の選手には根強い信念があります。1800年代の中期から後期にかけて,ベジタリアンのアスリートは,練習に耐えることを美徳とし,筋肉運動へのエネルギーはたんぱく質の酸化によって生まれるとという当時の普及した考え方とは反対に,植物性食品の優位性を証明しようとしていました3)。ベジタリアン社会はアスリートやサイクリングクラブを作り,メンバーはしばしば長い耐久レースで,肉食の対戦相手より優れていました3)。今日では,トライアスロンのDave Scott, ボディビルダーのBill Pearl, 長距離ランナーのPaavo Numi, テニスプレーヤーのMartina Navratiova, Billy Jean King, オリンピックレスラーのChris Cammpbell, オリンピックフィギャースケーターのSurya Bonalyらのエリートのアスリートは,ベジタリアン食はアスリートが練習を継続するのに適していることを表明し続けています。

“地域密着でキラリと光る企業”
漬物市場にブランドマーケティングを最初に導入した『東海漬物株式会社』

田形 睆作

東海漬物株式会社は昭和16年(1941年)9月に設立,愛知県豊橋市に本社を置き,包装漬物を主体とした製造・販売を営んでいる食品メーカーである。代表的なブランドは最初に経営の柱になった『きゅりのキューちゃん』である。昭和37年(1962年)に発売を開始したが,そのマーケティング手法は当時の漬物業界としては驚くべき手法であった。その方法とは漬物市場に初めてブランドを導入し,かつ,個別の包装をした画期的な商品であった。さらに,広告手法としてはテレビ宣伝を積極的に放映した。
 テレビ宣伝の内容も熟慮され,人気上昇中の坂本九をCMキャラクターに起用し,爆発的に売れた。今年で発売開始から52年になる。まさしくロングヒット商品である。第二の経営の柱になった商品は平成16年に発売された『こくうま』キムチである。『こくうま』の包装は透明プラスティックの箱に入れ,店頭では良く目立ち,商品の内容も分かりやすい。漬物業界でプラスティック箱型容器に入れた草分け的商品である。東海漬物株式会社は常に漬物業界に新風を吹き込み業界をリードする会社としての責任を果たしていると感じる。

伝える心・伝えたいもの
— 雪に晒す 天然角寒天を訪ねて —

宮尾 茂雄

 2013年の春から夏にかけて田子節の故郷,西伊豆の田子や安良里を訪ねた。港の駐車場や浜辺の空き地一面に広げられた天草の天日干しは海の豊かさを感じる光景だった。江戸時代から伊豆は紀伊と並ぶ良質な天草の産地として知られていた。幕末には遠く信州諏訪地方に運ばれ1),農家の冬の副業として始められた寒天作りに使われた。盛夏の太陽に晒される天草を目にして,冬の厳しい寒さを利用した伝統的な凍乾式角寒天製造法を継承している茅野を一度訪れたいと思った。