New Food Industry 2015年 2月号
食品ロス削減に向けた賞味期限設定とその延長の技術
朝田 仁
農林水産省の「食品ロスの現状とその削減に向けた対応方向について(食品ロスの削減に向けた検討会報告)」1)によると,食品関連事業者と一般家庭から年間1,900万トンの食品廃棄物が排出されている。このうち,規格外品,返品,売れ残り,食べ残しなどの可食部分と考えられる食品ロスは約500〜800万トンとみられており,再生利用できるものは約400万トンあるのが現状である2)。そのため,こうした食品ロスの発生要因とその削減への取組みが農林水産省,食品業界において行われてきている。特に,食品業界では食品製造業,卸業,小売業の各代表企業が食品ロスの発生要因ともなる商慣習の検討に対してワーキングチームを発足させてフードチェーン全体で取組んできた。
先の「食品ロスの削減に向けた検討会報告」では食品製造者が取り組むべき課題として,科学的・合理的根拠に基づいた適切な販売期間の設定があげられており,消費期限及び賞味期限について期間等の見直しすることが徹底されている。このことは,賞味期限の見直し,すなわち延長を意図したものであり,この数年各食品業界においては賞味期限の延長,賞味期限表示の変更が行われてきている。本稿では,こうした最近の賞味期限に関するニュースも紹介しつつ,賞味期限の見直しにおける科学的根拠のあり方を示してみたい。
トランス脂肪酸問題のその後,部分水素添加油脂の代替
藤田 哲
要旨
トランス脂肪酸は心臓血管病のリスク因子として,多くの国で食品中の含有量の表示義務化や使用の制限がなされた。トランス脂肪酸発生の主要原因は,部分水素添加油脂(食用硬化油)であり,過去10数年間にその低減策が進められた。この小文は種々の特徴をもつトランス脂肪の代替経過,新技術の利用,代替が困難な分野,含有量表示の必要性などについて述べた。
ポリアミンの生物活性 ― 生活習慣病予防と寿命延長に関して ―
早田 邦康
要旨
健康長寿に寄与していると考えられている豆,きのこ,シーフードや野菜のような食品,および地中海食および日本食のような食習慣はポリアミン(スペルミンとスペルミジン)を多く含んでいる。高ポリアミン食を持続的に摂取するとヒトとマウスで血中ポリアミン濃度が上昇し,マウス(Jc1:ICR,オス)の老化が抑制され寿命が延長する。加齢はDNA methyltrasferases (メチルトランスフェラーゼ)の活性の低下や遺伝子の異常メチル化(脱メチル化およびメチル化の亢進)を伴うことが知られている。培養細胞を用いてNot-1という制限酵素で切断される部分の遺伝子のメチル化の状態を検討したところ,ポリアミン不足に陥ると遺伝子の異常メチル化が誘発され,ポリアミンの添加で異常メチル化が改善されることがわかった。同様に,加齢は炎症の誘発と関連のある免疫細胞の細胞膜タンパクであるleukocyte function associate antigen 1 (LFA-1)の発現の増加を伴い,生活習慣病促進の原因の一つと考えられている。ポリアミンはLFA-1タンパクの量を減少させるが,その機序の一つとしてLFA-1遺伝子のメチル化を変化させることもわかった。これらのことは,加齢に伴って生じる生活習慣病の発症に関与する様々な遺伝子の異常メチル化がポリアミンで抑制される可能性を示している。哺乳類は,寿命研究によく用いられる酵母や線虫などの下位の生物より,はるかに高度な神経・内分泌代謝・免疫機能を有し,これらの機能が相互に関連している。よって,単一もしくは少数の遺伝子の作用によって哺乳類の寿命が左右されるとは考え難く,さまざまな遺伝子が老化や寿命に関与していると思われる。この総説では,糖尿病や高脂血症,動脈硬化などの生活習慣病の発症に密接な関連のある代謝におよぼすポリアミンの機能を検討した研究結果も紹介した。とくに,高ポリアミン食による体内ポリアミン濃度の上昇によって生じる影響に焦点をあてた。
外国産チーズに含まれるアミン類
須見 洋行、永田 祥平、瀬良田 充、大杉 忠則、内藤 佐和、矢田貝 智恵子
腸内での老化物質の産生により寿命はある程度決まっていると考えられているが,無菌状態で動物を飼育すると約1.5倍も長生きすること等,腸内フローラと老化の関係は興味深い。また,最近注目すべきは腸内細菌により合成されるポリアミン(プトレシン,スペルミン,スペルミジン)であろう1)(図1)。ポリアミン合成量は加齢とともに減少するが,ポリアミンが入った餌を食べたマウスは食べなかったものと比べ著しく長生きすることが明らかにされている。
ヒト腸内細菌により産生される物質には,アンモニア,カダベリン,アグマチン,ヒスタミン(図2),チラミン,硫化水素等がある。これらは,他の物質と反応するとニトロソアミンのような発がん物質までも形成してしまうが,血圧上昇あるいは降下,食欲抑制,記憶学習能力の向上などの生理作用もあり,その量によっては,毒とも機能性成分ともなりうる。
アミン類は,発酵食品中に多く存在するが,ポリアミンに関しては,日本の納豆に多く含まれていることが報告されており,これを1日50〜100 g摂取すれば若返るといわれている2)。今回,世界的に食される発酵食品のチーズ,特に消費量が増加している外国産チーズを中心にアミン量を測定した。また,ヤギ乳チーズの作製過程におけるポリアミン量の測定を行う機会を得ることができたので,発酵日数によるポリアミン含量の変化について併せて報告する。
低コストGABA含有液の製造法と食品への利用
遠藤 千絵、鈴木 達郎、瀧川 重信、野田 高弘
GABA(γ-アミノ酪酸,ギャバ)はグルタミン酸が脱炭酸してできる非タンパク質性アミノ酸(図1)で,発芽玄米等に多く含まれる。ヒトが摂取した場合に血圧を下げる効果やリラックス効果があるとされ1, 2),近年注目の機能性成分のひとつである。このためトクホ取得の飲料,チョコレート等の菓子,しょうゆなど多くの食品にGABAが添加され,GABA含有食品として市場流通している。これらの原料となるGABAは,微生物による発酵法で製造されたものがほとんどであり,価格はGABA1kgあたり4〜11万円程度と非常に高価である。GABAを幅広い食品に応用するため,筆者らは小麦胚芽に含まれるGABA合成酵素を用いて,グルタミン酸からGABAを低コストに製造する方法を新たに開発した3, 4)。本稿ではこれら製造法と食品への利用について簡単に解説する。
かび毒産生調節機構の解明デオキシニバレノールの低減化に向けて
岩橋 由美子、鈴木 忠宏
日本では,麦類の生育期の後半が梅雨に差し掛かり,年によっては大雨が降る事もある。赤かび病は水分が多い所では簡単に広がる麦類に多い病態であり,フザリウムに代表される病原菌群がさまざまなトリコテセン系かび毒を産生することで問題になる1, 2)。トリコテセン系かび毒とはトリコテセン骨格を共通骨格とするかび毒であり,トリコテセンはC-12,13にエポキシ環,C-9,10に二重結合を有する特徴的な4環構造をもつ化合物である。側鎖の違いにより現在100種類以上が知られている。トリコテセン系かび毒は,その構造によりタイプA〜Dに分類されているが,本稿ではタイプBに分類され,C-8にカルボニル基を有するデオキシニバレノール(DON)を取り上げる。同じBグループには,他にニバレノール(NIV)やフザレノン-X(FX)などが含まれる。トリコテセン系かび毒の毒性はおおむね共通しており,主として消化器系や免疫機能に与える影響が大きいとされている。穀物の汚染は,人や経済動物が摂取した際に下痢,嘔吐,胃腸炎,骨髄及びリンパ組織の壊死など広範な毒性作用を現し,大きな問題となる。DONの毒性はたんぱく質合成やDNA,RNA合成及びミトコンドリア機能の阻害,細胞膜への影響等であるとされている3)。
梅雨時の降雨の他,冬期においても土壌や作物残さ中に残存出来る気候条件がそろうと,翌年に被害が拡大する事があり,次の生育期間のDON汚染被害予測パラメーターに冬期の残存量が使われる4)。一般に欧米での感染の報告が多いF.graminearumの他にF.asiaticumの大半は,年間平均気温が15℃以上のアジアの温帯地域で見つかっており5),日本ではより問題となる可能性がある。赤かび病の感染及びかび毒の産生の有無に加えてその絶対量は様々な要因の影響を受け,具体的には罹患植物の種類や栄養状態,湿度や温度,競合微生物等に影響され変動する。しかしながら,その産生調節機構の全容は未だ明らかになってはいない。トリコテセン系かび毒は熱によって分解されにくいため,健康被害を出さない為には穀物類へのかび毒の混入を出来る限り少なくする必要がある。本研究ではDONの産生調節機構の解明を行い,かび毒の低減化を目的とする。
食肉類による食中毒はいつ,どこで,なにによって起こるのか
髙橋 正弘
「O157患者数,今年2倍ペース,馬刺し要因が4割」,これは2014年5月20日付け日本経済新聞電子版の見出しである。
国立感染症研究所の集計で腸管出血性大腸菌O157の感染患者数が4月20日までに延べ126人と,昨年同時期(同67人)の約2倍となり例年を上回る増加ペ-スで死者も出ている。約4割が馬刺しを食べたことなどによる感染で,O157の夏の流行期を前に厚生労働省は食肉の十分な加熱処理などの予防を呼びかけた,という記事である。
病原体O157による感染症への予防を喚起する内容であるが,「馬刺し」など原因食品が特定された場合,行政的には食中毒として取り扱われる。
近年,食肉類のカンピロバクター,サルモネラ属菌,腸管出血性大腸菌などによる食中毒は,死者の発生や発生件数の増加などが社会的にも問題とっている。これら食中毒の発生は世の中で起こる事柄である。世の中で起こる多くの事柄は,少数の事例で観察すると不規則に起こっているように見える。しかし,長期間にわたって発生状況などを観察すると不規則な現象が平滑化され規則的な挙動を示す,と言われている。このような考え方から,食中毒が「いつ」起こるかの検討は,腸炎ビブリオ食中毒,カンピロバクター食中毒,ノロウイルス食中毒などの発生した「とき」を長期間にわたって観察して行われている1)。
さて,食中毒の発症は宿主としての「ヒト」,O157などの「病因物質」,「食品」,「外部環境」などの発生要因によって支配される。食中毒はこれらの発生要因が相互に絡み合ながら作用して発生する2)。食中毒予防対策はこれら要因へのアプローチとなるが,病因物質の細菌やウイルスはヒトの目,耳,鼻,もちろん手でもその存在を確認できない。これらの病因物質名に由来するO157食中毒,O157感染症はその姿,形をイメージすることができない。また,食品の調理・加工などの日常的な営みは,食材を観て,聴いて,触れて,嗅いで,味わうなどの五感レベルで行われ,時には検査レベルで数値化・可視化して行われている。
食行動記録システムによる農産物消費の実態把握
大浦 裕二、山本 淳子、小野 史、磯島 昭代
農産物をはじめとする食品の製造,販売にあたっては,消費の実態やニーズを的確に把握しておくことが不可欠である。しかし,消費者のライフスタイルや価値観が多様化する中で,食品の消費行動は複雑化し,その実態を捉えることが難しくなってきている。
そこで本稿では,食品の消費実態を詳細に把握するためのWebアプリケーション「食行動記録システム」注1)を紹介するとともに,この「食行動記録システム」を用いた分析例をもとに,複雑な農産物消費の一端を述べる。
ベジタリアン栄養学 歴史の潮流と科学的評価
(第3節 ライフサイクルと特定の集団から見た,ベジタリアン食の適正度)
山路 明俊
合衆国で最も急激に人口が増えているのは,85歳以上の年齢層です1)。 同様に1900年以降,65歳以上の年齢層も顕著に増加しています。この傾向は,1980年から目立っていて,2000年までには,約3,800万人が65歳以上になります。ヒトの寿命を延長させる優れた栄養状態の正確なエビデンスを,最良の状態で証明することは困難です。しかし,栄養改善は最大寿命に到達する人々を増やし,また,集団全体の寿命を進展させるのにも貢献すると思われます。寿命の延長は,20世紀以降,幼児や児童の死亡率の低下に始まり,1歳の誕生日を祝える幼児を2倍にさせ,また,多くの子供の疾病を減少させてきました。さらに,安定した食品供給と医療技術の進歩が多くの人を65歳に到達させてきました。
現代の医療への挑戦は,120歳の潜在寿命に到達する前に塞がる壁に打ち勝つことを目指しています2)。 この章は,多くの因子に由来する死亡率が,ベジタリアン食によって低下することができるという考えを支持するエビデンスを要約します。最大寿命に到達するためには,西欧型の肉食を改善する食事が主要な部分となります。実際,高度な技術にもかかわらず,慢性の退行性疾患はしっかりと私達の社会に根を張り続けています。雑食者は,米国と北ヨーロッパの主要な死亡原因の半数以上と見られます3)。
エコアクション21の導入による組織の活性化と業務の効率化
Activation of organization and improvement of working efficiency by introduction of eco-action 21
北嶋 まどか
Abstract
Our company has introduced the environmental management system so-called "eco-action 21" since July, 2012. Continuing engagement in the eco-action 21 should produce the good circulation of reduced expenses and increased working efficiency, and thus establish the best working atmosphere for human resource development and activation of organization.
21世紀に入り,環境分野では,砂漠化,生物多様性の危機,地球温暖化など,深刻かつ複雑な問題が発生し,社会のあり方が問われている。持続可能な社会を構築するために,事業者は製品・サービスを含む全ての事業活動において,省エネルギー,省資源,廃棄物削減等の取り組みを行うことが求められている。
このような中,環境を守ることに配慮しながら,企業を持続的に発展させるための経営ツールとして注目されているのが「エコアクション21」である。事業者にとって,環境マネジメントシステムの導入は,環境改善のみならず,組織の活性化や仕事の進め方の革新等,経営体質強化にも有効である。