New Food Industry 2015年 1月号

巻頭言
「機能性成分の時間栄養学」と「機能性おやつ」開発

矢澤 一良

 平成25年6月の閣議決定による規制改革が行われており,食品・機能性食品の分野でも,食品の機能性表示に関する環境が非常に大きく変わりつつある時代になりました。即ち平成27年度には「機能性表示食品」という新しいジャンルも出来上がる予定です。我々が今までずっと提唱してきた「食による予防医学=健康寿命の延伸」という図式が,国民の健康・福祉と国の健全性(医療費抑制など)を助ける事になるということが,食品の機能性表示の拡大という方針にピッタリ合ったのです。こういうチャンスはそう来るものではない,二度とないかもしれないような,食品の機能性を多くの方に知っていただく時代が来る。このような世の中の流れに勇気づけられ,ヘルスフード科学の研究と啓発活動を継続しております。

全身に影響する歯周病菌Porphyromonas gingivalisに対する
バイオイオナース®の抗菌作用について

窪田 倭、高塚 正、和田 雅年、松澤 皓三郎、森 勲、松下 行利、山地 信幸

 我が国の平成23年歯科疾患実態調査によると調査対象者(5歳-85歳以上)の約34%に何らかの歯周病の症状があることが認められている1)。50歳以上の年代層ではほとんどが歯肉炎から重症の歯周炎にいたるまでの病態の歯周病に罹患し,さらに若年層に至るまで拡大している1)。歯周病が口腔内局所の疾患のみならず心臓・血管系疾患2-6)や糖尿病7-10)などの生活習慣病,さらに早期低体重出産11-13)などに関与していることが明らかにされている。
 歯周病は歯芽と歯肉の境目である歯肉溝に付着する歯垢(プラーク)中の細菌Porphyromonas gingivalis, Tannerella forsythensis, Treponema denticola, Prevotella intermedia などのグラム陰性嫌気性菌である歯周病菌やその代謝産物と生体との炎症反応および免疫反応により引き起こされる。
 著者らは生体に無害で環境に易しい除菌消臭剤バイオイオナース®を開発し広範囲の細菌に対する抗菌作用を,さらにノロウイルスや高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N3)に対しても不活化作用があることを報告してきた14-18)。今回,著者らはバイオイオナース®が心臓・血管系疾患や糖尿病などに関与する歯周病菌の一つであるPorphyromonas gingivalisP. gingivalis) に対して抗菌作用を有するかどうか検討し若干の知見を得たので報告する。

ホルモンと食品成分による時計遺伝子 SHARPs の発現調節機構

高木 勝広、浅野 公介、羽石 歩美、山田 一哉

要旨
 肥満の増加は,生活習慣病の急増という現象を引き起こしている。生活習慣病は,遺伝的な素因に加えて,環境要因(生活習慣)による負担が継続的に重なり,発症・進行する疾病である。糖尿病患者およびその予備軍は約2,050万人と推計されており,実に日本国民の約6人に1人の割合で現在または将来糖尿病に罹患することになる。糖尿病の95%以上は2型糖尿病で,その成因は肥満から生じるインスリン抵抗性と考えられている。したがって,インスリン作用を示す食品由来の低分子化合物を見出すことができれば,糖尿病および予備軍の治療や発症予防に有用であると思われる。
 私どもは,インスリンにより誘導される転写因子として SHARP-1および SHARP-2(SHARPs)を同定し,それらがインスリンによる血糖低下に関与することを明らかにした。また, SHARPs遺伝子の発現誘導をインスリン作用の指標にし,インスリン様作用を示す食品成分をスクリーニングしてきた。本稿では,SHARPsについて紹介するとともに,インスリン様作用を示す食品成分について, SHARPs遺伝子に対する発現誘導とそのメカニズムについて論述する。さらに,近年,2型糖尿病などの生活習慣病の発症に,生物時計の機能障害が密接に関連することが指摘されているが,SHARPsは時計遺伝子としても知られているので,その点についても紹介する。

松の実殻アルカリ抽出液(SPN)の生物活性と今後の展望
Biological activity and future prospect of alkaline extract of pine seed shell

坂上 宏、佐藤 和恵、加藤 崇雄、下山 哲夫、金本 大成、寺久保 繁美、中島 秀喜、須永 克佳、津田 整、牧 純、吉原 正晶

Abstract.
Alkaline extract of pine seed shell (SPN-1 and SPN-2) showed antitumor and antimicrobial activity in mice, and anti-viral and anti-inflammatory activities in vitro, stimulating the iodination of myeloperoxidase-positive cells. On the other hand, they showed weak radical scavenging and anti-UV activities, and potently inhibited CYP3A4 activity. These characteristics of SPN-1/-2 suggest their possible application to virally induced oral diseases and synergistic stimulation of dental drugs.

要 旨
 五葉松の実の殻のアルカリ抽出液(SPN-1及びSPN-2)は,移植マウスにおける抗腫瘍及び抗菌作用,試験管内における抗ウイルス,抗炎症,ミエロペルオキシダーゼ陽性細胞のヨード化の促進作用を示した。しかし,ラジカル消去や紫外線細胞防護効果は弱く,CYP3A4阻害活性は比較的強かった。これらのSPNの特徴は,口腔内ウイルス性疾患の治療,歯科用薬剤との作用増強などへの応用の可能性を示唆する。

新規抗ストレス機能性食品素材「酵素処理アスパラガス熱水抽出物“ETAS”」のご紹介

前田 哲宏、高成 準、後藤 一法、佐藤 敦哉、三浦 健人

2014年はアベノミクス効果により国内経済に若干の上向き傾向がみられ,一部大企業では昇給やボーナスの上昇といった景気の良い話題も見受けられた。しかし,一方では人口の減少に歯止めはかからず,また65歳以上の高齢者が人口の4分の1を占めるといういびつな世代構造,いわゆる「超高齢化社会」は改善の見通しが一向に立たず,経済・産業を支える労働人口一人当たりの責任は非常に大きくなってきているのが現状である。それに加え,増税や光熱費の上昇に伴う経済負担はますます増え,労働者にとってはストレスのたまる毎日である。ストレスはうつ病および自殺の大きな要因であり,そこに至らなくとも,食欲不振,不眠,めまい,冷や汗などの身体的症状や人間不信,情緒不安定,イライラ感等の精神的症状といったいわゆる自律神経失調症に繋がる元凶である。これらの症状は,少ない労働人口をさらに減少させ,結果,労働者の負担が更に増えるという負のスパイラルを生んでしまう。この問題は,特に先進国において深刻であり改善すべき大きな課題の一つである。アスパラガス茎熱水抽出物(ETAS)はその課題解決を目指して新たに開発された抗ストレス効果を示す機能性食品素材である。本報では,その開発までの道のり,製法および現在までに明らかにした機能性について紹介する。

変形性膝関節症に対する機能性食品のエビデンス
−グルコサミン・コンドロイチン・CBP(乳清活性たんぱく)含有サプリメントの有用性について−

蒲原 聖可、影山 将克、内藤 健太郎

要旨
 今日,機能性食品・サプリメントは,健康保持や疾病予防だけではなく,特定の病態の改善や疾病の治療を目的としても利用されるようになった。特に,高齢者では,関節機能の改善を訴求したサプリメントの利用率が高いことが知られている。
 現在,政策目標として健康寿命の延伸が掲げられており,ロコモティブ症候群の対策も注目されている。サプリメントも応用が可能であり,変形性膝関節症に対するグルコサミンやコンドロイチンに関するエビデンスが構築されてきた。一方,グルコサミンなどに関するメタ解析の中には,研究デザインやアウトカム設定に問題があるRCT(ランダム化比較試験)によるバイアスが認められる場合がある。
本稿では,変形性膝関節症に対して最も広く用いられる機能性食品成分のグルコサミンについて,現状のエビデンスを概説し,加えて,著者らによる複合サプリメント製品の関節痛軽減効果を報告する。

タマネギ外皮の有効利用の可能性について

堀田 幸子、小谷 明司、有水 育穂

タマネギはユリ科ネギ属の野菜でAllium cepaの学名が与えられている1)。なお,最近の分類ではヒガンバナ科を新設しネギ亜科ネギ属に含めている2)。
 タマネギの原産地は西南アジア3),一説にはペルシャ4)と伝えられている。日本にはかなり遅く江戸時代に長崎経由で鑑賞植物して伝えられた。食材としての利用はその強烈な刺激臭のために抵抗が強かったようだが,明治4年(1871年)に札幌で西洋種のタマネギの栽培が本格的に始まり,明治政府の欧化政策に伴う西洋料理の普及につれて急速に認知が進んだ。現在では和食食材としても一般的になっている2)。
 今日,タマネギは世界で2010年に7800万トンの生産が記録され5),最も多量に消費される野菜のひとつである。我が国でも2013年には年間約110万トン生産され6),蔬菜類では大根,キャベツに続いて3番目の生産量を誇る。輸入量は約34万トンであった7)。

赤血球キサントフィルの生理的意義:
アルツハイマー病の早期発見と食品成分による予防を目指して

喜古 健敬、仲川 清隆、宮澤 陽夫

 わが国はかつてない高齢化社会を迎え,アルツハイマー病患者が増加し続け,その数は10年前の2倍近くに達し,大きな社会問題となっている。アルツハイマー病の有効な治療法は未だ開発されておらず,アルツハイマー病の発症機構を解明して,治療を可能にすることが待望されている。アルツハイマー病のメカニズムとしては,発症や病状の進行への酸化ストレスの関与が古くから示唆されてきたものの,明確な証拠は得られていないのが現状であった。
 そこで,筆者らは,生体膜のリン脂質の過酸化物を高感度かつ選択的に定量できる化学発光検出-HPLC法を開発した1)。これを用いてアルツハイマー病患者の血液を測定し,アルツハイマー病患者の赤血球膜には健常者の約2.8倍の過酸化リン脂質(図1)が蓄積していることを見出した2, 3)。過酸化リン脂質を多く含む老化赤血球の増加は,血液レオロジーの悪化や脳への慢性的な酸素供給量の低下を引き起こし,アルツハイマー病の発症や進行に繋がると考えられる4, 5)。従って,赤血球の過酸化を阻害し,老化赤血球の蓄積を抑制する食品成分を明らかにすれば,栄養指導などにより食品機能を利用して,アルツハイマー病の発症を遅らせ,また進行を抑えることが可能であると予想された。そこで,筆者らは赤血球膜脂質の過酸化を抑制できる食品成分を探索し,動物実験で中性カロテノイドのβ-カロテンや極性カロテノイド(キサントフィル)の一種であるカプサンチン摂取の有効性を確認した6, 7)。

管理栄養士 てるこ先生の家庭の食文化 第1回 おせち料理

中村 照子

新しい年を迎え、皆様はどんなお正月を過ごされましたでしょうか?
お正月といえばおせち料理です。おせち料理は、もともと節日(節句)に作られる料理のことでした。節句の一番目が正月であることから正月料理を指すようになったといわれています。
 地方により多少の違いはありますが、祝い肴、煮しめ、酢の物、焼き物など多種にわたる食材が使われています。そしてそれぞれの材料に願いを込めた楽しい由緒・いわれがあり日本の食・行事・しきたりの奥深さを感じずにはいられません。

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病気を予防するコーヒーの飲み方

岡 希太郎

普通にコーヒーを飲む生活習慣が罹患リスクを軽減する。そういう疫学研究データがシステマティックレビューやメタ解析論文で再評価されている(本誌Vol.53, No.10, 2013を参照)。コーヒーで罹患リスクが軽減する疾患には,喉頭がん,肺がん,食道腺がんを除く各種臓器がんがある他,2型糖尿病,痛風・高尿酸血症,パーキンソン病,アルツハイマー病,心筋梗塞,脳卒中など生活習慣病がある。一方,罹患人口の多い高血圧症や高脂血症とコーヒーの相関関係はほとんどない。しかし,それら疾患の予後となる心筋梗塞や脳卒中では,1日4杯程度のコーヒーはリスクを減らすが,杯数が増えると逆転する。このように,コーヒーの影響は一元的ではない。確かな原因は解らないが,コーヒーには罹患リスクを軽減する成分とは別に,単独でもリスクを高める成分や,リスクを軽減する成分の作用を遮断する成分が含まれている(表1)。そういう好ましくない成分を飲まないように工夫すれば,コーヒーはこれまで以上に高い効率で罹患リスクを軽減するようになるだろう。尚,本稿ではカフェインと5-HMFについては省略する。

はだか麦の隠れ機能の利活用について

渡部 保夫、清水 芽依

隠し味とは「ある調味料を目立たぬ程度にごく少量加え,全体の味を引き立てる調理法。また,その調味料」(広辞苑)とある。本稿でご紹介する「はだか麦(大麦)」は,非常に多くの食物繊維(βグルカン)を含む炭水化物(デンプン)源であり,言い換えれば,炭水化物の摂取を目的に「はだか麦」デンプンをとると,自然に(無意識に)健康に良い機能性物質が摂取できる。機能性が隠れているのであり,「はだか麦の隠れ機能」といえる。本稿では,はだか麦を摂取することで健康寿命を延ばすことができるとの考えから,はだか麦の隠れた機能の利活用についてご紹介する。なお,はだか麦だけを食べればよいということではなく,「はだか麦」を含み,かつ栄養バランスのとれた食事が大切である。

“地域密着でキラリと光る企業”
上勝の棚田米と湧水と負けん気でこっしゃえた純米吟醸原酒と米焼酎『株式会社高鉾建設 酒販事業部』

田形 睆作

徳島県上勝町は,徳島市中心部から車で約一時間程の場所に位置しており,人口は1,840名 863世帯(平成25年10月1日現在),高齢者比率が49.57%という,過疎化と高齢化が進む町である。しかし一方で,全国でも有数の地域活性型農商工連携のモデルとなっている町でもある。昭和56年2月に起きた寒波による主要産業の枯渇という未曾有の危機を乗り越え,葉っぱ(つまもの)を中心にした新しい地域資源を軸に地域ビジネスを展開し,20年近くにわたり農商工連携への取り組みを町ぐるみで行っている。

「漬物塩嘉言」小田原屋主人

宮尾 茂雄

 「漬物塩嘉言」との出会い
 「漬物塩嘉言」は天保7年 (1836年)に出版された漬物の料理本である。瓜,茄子,とうがらし,大根,紫蘇の実,生姜などを醬(ひしお)に漬けた「家多良漬(やたらづけ)」や甘く塩押した茄子に白砂糖を加え辛子醤油で漬けこんだ「初夢漬」など64種類の漬物が載っている1,2)。漬物問屋小田原屋主人の語りを「好食外史」と名のる人物が文章に起こしたと記されている。
 現在,私の手元には二冊の「漬物塩嘉言」がある(写真1)。1冊は,愛知県蟹江で㈱若菜として漬物業を営んでおられた故山田清三氏からいただいたもので,表紙に『漬物早指南 全』と和紙に書かれた張り紙があり,赤い地紙の中表紙に『小田原屋主人著(神田漬物問屋の印) 漬物塩嘉言一名漬物早指南』と記されている(写真2)。明治36年に発行された博文館版である1)。㈱若菜は東京銀座にも店があり,山田氏は上京された折に神田神保町の古書店を見て廻るのが楽しみだったそうだ。リュックサックいっぱいに本を詰め込んで帰られる姿が忘れられないとご家族から伺ったことがある。