New Food Industry 2014年 9月号
カリウム施肥によって変化する体内の放射性セシウムとカリウムの動き
小林 奈通子、登 達也
福島第一原子力発電所の事故により,環境中に多くの放射性物質が放出されてから3年半が経過しようとしている。事故当年に500 Bq/kgと定められた食品中の放射性セシウム濃度に対する暫定規制値は,翌2012年には基準値として100 Bq/kgに引き下げられた。福島県の主力農産物である米については2012年度と2013年度には全袋検査が行われ,出荷に先立って100 Bq/kg以下であることの確認がなされた。そして,県のホームページを通じて公表されている測定結果によると,基準値を超えたのは,1千万袋を超える米のうち2012年度では0.0007%,2013年度には0.0003%にとどまっている1)。
ほとんどの水田では基準値を超える米は産出されない状況であることは,現状のままでも稲作の継続が可能であることを示している。しかしながら実際には,米の放射性セシウム含量をゼロに限りなく近づけるための努力が続けられている。そして何より,極めて少ない数ながらも,基準値を超える放射性セシウムを含む米が収穫されるに至った要因を一つ一つ分析することが求められている。要因を特定し,そのメカニズムを解明することは,放射性セシウムの低減に有効な農業施策の推進や,有効性が低い施策の見直し,あるいは,通常効果を有する施策が例外的に効果を示さない条件の特定を通して,安定的かつ効率的な営農の実現につながると期待される。本稿では,放射性セシウムの低減効果が早くから示されていたカリウム施肥の作用機構について,植物生理学的な面から検証した結果を紹介する。
フォトセンサと画像処理技術を活用したエダマメ用高精度選別機械の開発(第2報)
鴻巣 直哉、石川 祥大、高橋 史夫、片平 光彦、夏賀 元康
エダマメは2012年の全国作付面積が12,700 ha,収穫量が71,600 t,出荷量が51,500 tの指定野菜に準ずる特定野菜35品目の1つである。主な産地は新潟県(2012年度作付面積:1,580 ha),山形県(1,480 ha),群馬県(1,160 ha),秋田県(1,060 ha),千葉県(883 ha),北海道(874 ha)となっている。全国の作付面積は前年比99%と減少したが,収穫量と出荷量は前年比108〜109%に増加している。特に本学のある山形県鶴岡市はダダチャマメの産地として有名であり,2010年の経営体が987戸と栽培が盛んである1)。また,山形県全体では10aあたりの収量,収穫量と出荷量が前年比130%と全国平均を大きく超えている2)。
エダマメは収穫量が増加する一方で,収穫後の品質低下が早いため,調製作業の効率化と早期予冷が品質維持の観点から必須になっている。そのため,収穫調製作業では収穫機が38%,粗選別機が62%,予冷庫が約60%の経営体で導入されるなど効率化が進んでいる3)。なお,導入されている粗選別機は良品のエダマメ莢と同じ厚さの幅に設定した複数のガイドレールを振動させ,レールの間隙に未熟な莢を落下して選別する機構である。その粗選別機は選別率が0.1,不良品回収率が16%と作業精度が低い。そのため,生産現地では手作業での精選別作業(作業能率:10 kg/時間,42時間/10 a,選別率:0.6〜0.7)を追加しており,栽培面積拡大に伴う収穫量の増加に対応できない現状にある。そこで,選別作業を改善して生産規模を拡大するには,高能率で高精度な選別機の導入が不可欠である。
米粉パン特有のテクスチャーの数値化と老化度の多面的評価
佐々木 朋子
米を米粉としてパン,麺等の食品に活用する取り組みが近年注目され,それに伴い米粉食品の品質の向上が求められている。米粉を配合したパン(米粉パン)の大きな特徴のひとつは,従来の小麦粉100%のパンとは異なる独特なテクスチャーをもつことであり,その食感は「しっとりしてもちもちとした」等の表現が一般的に使われている。米粉パンの品質向上には,この独特のテクスチャーを的確に評価する評価手法の確立と評価基準の選定が不可欠である。しかし,「もちもち」というテクスチャー用語は複合的な要素を合わせ持ち,嗜好性要素も含まれるため,機器測定によって客観的な数値として示すことは困難である。そこで,米粉をパンに配合することによって生じるユニークなテクスチャーの構成要素を多面的な機器測定によって明らかにし,客観的なパラメータとして提示することができれば,米粉パンの品質制御・改良の指標として利用されることが期待できる。
さらに,一般的に米粉パンは小麦粉100%のパンよりも品質劣化が早いことが知られており1, 2),米粉パンの特徴的なテクスチャーは老化によって急速に変化する。米粉パンの大量流通に向けた品質向上のためには,米粉パンの老化度を的確に評価し,その制御要因を明らかにする必要がある。従来,機器測定によるパンのテクスチャー評価法としては硬さの測定が中心であり3),硬さの経時変化が老化の指標として最も用いられているパラメータであるが,硬さ・柔らかさという単純な指標だけでは米粉パン特有のテクスチャーを十分に表すことはできない。本稿では,米粉パンのテクスチャーを多面的に評価することによって,米粉パン特有の食感に関与しており,さらに老化の指標として使用できるパラメータを探索したので,その結果をご紹介する。また,澱粉中のアミロース含量が異なる数種類の米粉を配合したパンのテクスチャーを解析することによって,米澱粉中のアミロース含量が米粉パンのテクスチャーに及ぼす影響についても検討した。
イサダ由来の8−ヒドロキシエイコサペンタエン酸(8-HEPE)による脂肪燃焼促進作用
山田 秀俊
日本人のおよそ6人に1人がメタボリックシンドローム,またはその予備軍に該当すると見込まれている。特に,40〜74歳の男性では2人に1人と深刻な状況である。メタボリックシンドロームとは肥満を要因として高血糖,脂質異常,高血圧が引き起こされる状態のことで,肥満が大きな要因となる。
肥満を考える上で重要なのは,食事で摂取するエネルギーと基礎代謝,運動・生活活動,体温調節で消費されるエネルギーのバランスである。摂取エネルギー量が消費エネルギー量を慢性的に上回ると過剰な脂肪が蓄積され肥満になる。いかに消費エネルギー量を増加させるかが,肥満の予防・改善の鍵となる。
社会システムにおける安全・安心・信頼(1)
−中国の食を巡る問題の複雑性とルーマンのリスク概念による分析−
三好 恵真子
世界経済の牽引役として,その存在感を確たるものとする中国における食の安全性やそれを取り巻く諸問題は,現在,世界的に注視され,社会的・政治的波及効果も伴いかねない重要な課題の一つとして捉えられている。中国の食品工業は,ここ10年の間,年平均15%以上の高度成長を保つ一方で,それに連動する事故も頻発し,中国国内においても食の安全性の問題は,社会的関心事としての高まりを見せている。こうした状況を受け,2009年の「食品安全法」の制定以来,中国食品安全ハイレベルフォーラムが毎年開催され,中国食品の安全強化は,監督管理体制の完備,関連法体系の整備,食品安全基準の制定などにおいて著しい進展を遂げている1-3)。特に,海外輸出に関するCHINAGAP(中国有料農業規範)制度や,HACCP(Hazard Analysis Critical Control Point)制度等,国際基準に追従する食品安全制度の導入の革新的な動きも見られる4)。さらにグローバル・イシューとして中国の食の安全性を注視する国際的潮流が急速に形成されつつある中,2010年より国際食品科学工学連合(IUFoST)と中国食品科学技術学会(CIFST)の共同主催による「食の安全に関する国際フォーラム(International Forum of Food Safety)」が,北京で毎年開催されている。このフォーラムでは,「リスク管理:理論と実践」,「グローバルサプライチェーンとリスクコミュニケーションのための食の安全管理」,「食の安全強化に向けたグローバルチェレンジ」という毎回世界トップレベルのテーマを掲げながら,国内外の企業,学術機関,行政関係など300名を超える参加者が一堂に会し,いずれも成功裏に評価されている。
玄米抽出液及び玄米人工消化液に含まれる
フィチン酸(IP6)は,β-セクレターゼ 1 (BACE1) 活性を阻害する
谷口 正之、阿部 貴子、山中 崇、築野 卓夫
アルツハイマー型認知症(AD)は,我が国では65歳以上の20人に1人が発症する深刻な脳疾患である。認知機能の低下だけでなく,暴力や徘徊などの問題行動を伴うこともある。発症から死亡までの全経過期間が5〜9年と長いため,長期的な介護を要することが大きな社会問題となっている1)。AD治療の現状は,病状の進行を遅延させる対症療法的な手段に限られており,根本的な予防・治療法は世界的にも未だ開発されていない。
AD発症の主な原因は,脳内でのアミロイドベータペプチド(Aβ)の過剰産生と蓄積であると考えられている2)。Aβの蓄積は発症の約15年前から既に始まっている3)。また,AD発症後に抗Aβ抗体を投与して脳内Aβ凝集量を低下させても,一端失われた認知機能は改善しない4)。従って,ADをコントロールするためには,治療のみならず,Aβの蓄積を長期的に予防することがより重要である。
Aβは,Aβ前駆体タンパク質(APP)からアスパラギン酸プロテアーゼであるβ-セクレターゼ1(BACE1)及びγ-セクレターゼにより順次切り出される2, 5)(図1)。従って,これらのセクレターゼ活性の抑制が,AD予防の有力な手段となる。しかし,これまでに開発されたセクレターゼ阻害剤は,臨床試験において副作用を引き起こし,承認には至っていない6-8)。いずれのセクレターゼもAPP以外の基質にも作用することが知られており,従来の阻害剤の多くはAPP以外の基質の切断も阻害し,副作用を引き起こしたと考えられている。Aβの蓄積を長期的に予防するためには,副作用のリスクのない,安全な阻害剤の探索が急務である。
新発見ビタミンK含有の意味するもの
伊東 芳則
最近,海外において,従来の製法で精製した魚油から製造されたDHAサプリメントの有効性を疑問視する研究が相次いで発表されている1-4)。
しかしながら,魚食の有効性は世界各地で疫学的調査が進み5, 6),積極的な魚食が望まれている。この魚食と通常のDHAサプリメントの効果の違いは研究者にとって謎であった。筆者は,この謎を明確に解き明かしたと確信している。
ハイブリッド抽出法と命名した酸化し難い魚油の抽出法の特許を取得したが,この方法で抽出したマグロ油のサプリメントの機能性が漸く市場で受け入れられてきて,製造に追われる日々となっている。この製法により,従来からの“魚油は非常に酸化し易い,二重結合の多いDHAやEPAは特に酸化し易い”という学界や業界の常識を覆した。更に今回のビタミンKの発見により,魚食による魚油の摂取と同質若しくはもっと濃縮された世界唯一のマグロ魚油サプリメントを供給することに成功した。
Cytoprotective Effects of Opuntia Ficus-Indica Extract
ALEJANDRO MENA ACRA, HIROSHI SAKAGAMI, TOMOHIKO MATSUTA, KAZUNORI ADACHI, SUMIKO OTSUKI, HIROSHI NAKAJIMA, KAZUE SATOH, TAISEI KANAMOTO, SHIGEMI TERAKUBO, HIDEKI NAKASHIMA, ANGEL VISOSO ALGADO and NORMA MONTIEL BASTIDA
Abstract.
Background: Hundreds of previous studies have suggested the beneficial effects of nopal extract on human body. We investigated here whether nopal extract shows cytoprotective activity against viral infection, ultraviolet (UV) irradiation and chemotherapeutic drug treatment used in the dentistry.
Materials and methods: The water and ethanol extract of Opuntia ficus-indica (WEO and EEO, respectively) were prepared. The viability of the mock-infected, HIV-infected, UV-irradiated, drug-treated cells without or with the extract was determined by MTT method. Radical scavenging activity was determined colorimetrically and by ESR spectroscopy.
Results: Both extracts did not show anti-HIV activity, but protected the cells from cell injury induced by UV-irradiation, possibly due to the slight inhibition of caspase-3 activation. WEO dose-dependently scavenged the superoxide anion, hydroxyl and DPPH radicals. WEO also significantly inhibited cytotoxicity of methotrexate, doxorubicin and 5-FU.
Conclusion. The present study suggests that the cytoprotective activity of nopal extracts against UV and anti-tumor agents may be partly due to its radical scavenging activity.
ベジタリアン栄養学 歴史の潮流と科学的評価
(第3節 ライフサイクルと特定の集団から見た,ベジタリアン食の適正度)
ジョアン・サバテ(Joan Sabate) 訳:山路 明俊
この章の目的は,女性の生涯にわたる正常な生殖機能を保持できるベジタリアン食の適切さを述べることにあります。最初は,この話題は簡単に見えます。ベジタリアンの女性は,雑食者の女性のように,思春期を経験し,子供を持ち,閉経期を経験します。それでも,栄養に関連する因子は,生殖能力に微妙かあるいは深く影響を及ぼし,ベジタリアンと雑食者の女性間に違いがあるかどうかの系統的研究はごくわずかです。
女性の生殖生活(思春期への変化,初潮から閉経までの年数,閉経期への変化)のそれぞれに対して,通常の生理学と内分泌学が分かりやすく説明します。それから,様々な食事因子の潜在的な因子が述べられ,ベジタリアンと雑食者の人とを比べたデータを討議することになります。生殖ホルモンへの影響は,この本の他の章で掲載されている,生殖ホルモン量と慢性病(肺がん,心疾患,骨粗鬆症)間への潜在的影響よりも,生殖機能それ自体に関与するということに注目すべきです。
“地域密着でキラリと光る企業”
仙台銘菓「萩の月」を創造した『株式会社 菓匠三全』
田形 睆作
菓匠三全は1947年(昭和22年)10月,現在の宮城県蔵王町で,飴の製造・販売を開始した。アワやサツマイモを原料とし,遠刈田温泉に行商することから始めた。終戦後の食糧難で,特に甘い物が不足していた。創業者の田中實氏は川口高等女学校の先生をしていた時,実用理科であめの作り方を教えた経験があった。大麦の芽の中のジアスターゼ(酵素)に澱粉を糖に変える働きがあり,これを用いて飴ができる。米は統制されていたので,材料はアワやサツマイモ。良く売れた。ところが,1950年(昭和25年)頃になると澱粉が統制から外れ,多くの飴の製造販売業者が色々な飴を売り始めた。