New Food Industry 2013年 11月号

機能性食品粉末の作製と粉末の特質

吉井 英文

 高齢化・少子化社会において,健康な生活を維持していく上で機能性食品の役割は非常に重要となってきている。機能性食品とは,動植物や微生物から機能性成分を分離・精製し,これを通常の食品に配合して,その配合率や配合後の食品形態を適正に設計・作製することにより,生体調節機能をより効率的に発現させる食品と定義されている。機能性食品に含まれる機能性成分は熱,光,酸素などに対して非常に不安定であることが多い。また,機能性成分の体内への吸収を高めるために,機能性成分をナノエマルション化した後糖質などを用いて,安定で加工しやすい形に粉末化されることが多い。この機能性食品の粉末化手の約80%強は,噴霧乾燥法が用いられている。噴霧乾燥は液体材料を数十〜数百 μmの微小液滴に噴霧し,これを高温度の熱風で乾燥して粉末製品とする乾燥法である。乾燥時間は5〜30秒であり,他の乾燥法に比較して極めて短い乾燥時間でしかも直接粒粉体製品を得ることができる。このため,液状材料などの粉末化と粉体輸送を兼ねた製造装置として,また最近ではナノ粒子を含有した粉末の作製法として注目を浴びている。本稿では,噴霧乾燥粉末の特質とその特性評価について,賦形剤中の拡散係数を中心に議論する。

大豆麹乳酸菌発酵液で用いられる植物性乳酸菌2種の紹介 

中山 雅晴、前沢 留美子、腰原 菜水

 大豆麹乳酸菌発酵液は,液体大豆麹,黒糖,米糠エキス,炭酸カルシウムより成る培地に6種類の植物性乳酸菌注1)と1種類の酵母を共生培養して作製する発酵系の健康食品基材であり,その詳しい製法に関しては,以前,本誌上にて詳細に報告した1)。大豆麹乳酸菌発酵液の新規性の一つとして,液体大豆麹の使用が挙げられる。大豆麹乳酸菌発酵液に於ける液体大豆麹の使用に関しては平成23年に特許に至り2),液体大豆麹が有する強力な抗酸化機能に関しては,これも以前,本誌上にて二度にわたり報告した3, 4)。その後,大豆麹乳酸菌発酵液で用いられる6種類の乳酸菌のうち,抗高血圧作用を有するLeuconostoc mesenteroides KN34並びに免疫賦活作用を有するLactobacillus curvatus KN40の2種に関して平成23年と25年にそれぞれ特許に至ったので,本稿でこれらの乳酸菌に就いて紹介したい5, 6)。

プーアル茶の保健作用

芳野 恭士

 茶(Camellia sinensis)は世界的に摂取されている飲料であり,日本では殺青処理により茶葉中のポリフェノールオキシダーゼを変性させ,発酵を起こさないように製造した緑茶が一般的である。この不発酵茶である緑茶を使用して,葉中の酵素ではなく微生物で発酵させることで製造された加工茶が黒茶である。黒茶は,後発酵茶あるいは微生物発酵茶とも呼ばれる。黒茶は中国,日本の両国で作られており,原料としては中国産黒茶は大葉種を,日本産黒茶は小葉種をそれぞれ用いている。殺青後の堆積方法により,乾堆積を行うプーアル(普洱)茶,湿堆積を行う六堡茶,湖南黒茶,富山黒茶,漬け込み堆積を行う阿波番茶,湿堆積と漬け込み堆積の両方を行う碁石茶など,様々なものがある1)。

沖縄の伝統大豆発酵食品「とうふよう」もろみのアンジオテンシンI変換酵素阻害活性

屋良 瞳、手島 寛子、安田 正昭、橘 信二郎

 高血圧症は生活習慣病のひとつであり,世界保健機関(WHO)では収縮期血圧が140 mmHg以上または拡張期血圧が90 mmHg以上に保持された状態と定義している1)。厚生労働省の「平成22年国民健康・栄養調査」によると,わが国における高血圧症有病者の割合は男性60.0%,女性44.6%であり,平成12年の調査結果と比べて男性において7.9%の増加が認められている2)。血圧水準が高いほど,脳卒中,心筋梗塞,心疾患および慢性腎臓病などの罹患率および死亡率が高くなる。このような中にあって,依然として高血圧症未治療者の割合が高いことが懸念されており,生活習慣の改善による血圧低下を図る必要があると提言されている。厚生労働省が掲げる「健康日本21」においても,高血圧症改善に関する提言が盛り込まれている3)。
 血圧調節には,交感神経などいくつもの要素が関与しているが,近年,特にレニン―アンジオテンシン系による体液性の血圧調節機構が注目されている。この系において,強力な血圧上昇ペプチドであるアンジオテンシンIIはアンジオテンシンI変換酵素(ACE, EC 3.4.15.1)の働きによってアンジオテンシンIより生成する4)。一方,ACEは降圧系のカリクレイン―キニン系において降圧ペプチドのブラジキニンの分解にも働く5)。よって,ACE阻害物質は昇圧ペプチドの生成抑制とともに降圧ペプチドの分解抑制にも働き,血圧降下に有効とされている。

知っておきたい日本の食文化 その三 日本人の主食,お米の歴史

橋本 直樹

 今から二千数百年前,縄文時代の末期,狩猟採取に頼っていては食料が不足し始めたころ,タイミングよく中国大陸から稲作の技術を携えて,多数の渡来人が移住してきた。稲は高温で雨の多い日本の気候に適した作物であったから,水田稲作は数百年のうちに全国に広がり,多量に収穫できる米が日本人の主食になったのである。伝来した稲の原生地は中国大陸,長江の中,下流域であり,そこでは早くも七千年前から水田稲作が行われていた。この水田稲作の技術が山東半島から朝鮮半島西海岸を経て,あるいは山東半島から遼東半島,朝鮮半島を経由して,我が国の九州に伝えられたと考えられている。
 日本で最も古い灌漑水田跡は紀元前5世紀,約2500年前の福岡市板付遺跡,野多目遺跡であり,鋤,鍬などの木製農具,穂摘みをする石包丁などが出土する。そこには4アール規模の長方形の水田がいくつも広がっていて,田植えをしていたらしい形跡も残っている。九州北部で始まった灌漑稲作はその後どのように東北にまで伝えられたのであろうか。二,三百年後の弥生前期には中国,近畿地方に広大な水田が作られるようになるが,台地が多くて灌漑しにくい関東,東北地方で稲作が行われるのは,紀元1世紀,弥生中期から後期であったと考えられる。この頃の水田跡が青森県の砂沢遺跡や垂柳遺跡で発見されているので,水田稲作が九州から本州北端にまで伝わるには約500年を要したと考えられる。

二枚貝用飼料-6

酒本 秀一、山元 憲一

 著者らは前報1)でエグレートパウダー(全卵を酵素処理してタンパク質を低分子化した後乾燥した原料)を数段階の濃度で添加した飼料を用いてアサリ幼貝の飼育試験を行い,飼料の水溶性タンパク質含量が飼育成績に及ぼす影響を説明した。本報告ではタウリン,ベタイン,珪藻土および牛乳の飼料への添加効果について説明する。更に,配合飼料と二枚貝の餌として最も優れていると云われる珪藻との比較を行い,配合飼料の現状についても触れる。
 今回報告する全ての試験は前報の試験-1と同時に行ったのであるが,一緒に説明するとゴチャゴチャして分かり難いと思うので,三つの試験に分けて報告する。

“地域密着でキラリと光る企業”
昔ながらのハム製法にこだわる『明宝特産物加工株式会社』

田形 睆作

 『明宝特産物加工株式会社』は『明宝ハム』の名称で親しまれている。以後,『明宝ハム』と称する。『明宝ハム』は昭和28年に農山村の食生活改善運動と村の畜産振興が目的で製造を開始した。美しい山々,長良川の支流,文字通りの山紫水明の地・郡上明宝村で30余年の歳月をかけ明宝ハムのおいしさは育まれてきた。良質な国産の豚肉だけを原料とし,食品添加物の使用を極力おさえ,安心して召し上がっていただける商品に仕上げた。一度食べて頂ければその風味,豊潤さに満足され「もういっぺん食べたい」と県内外の多くの人々から絶賛されている。どう料理しても変わらぬ美味しさの「明宝ハム」は,岐阜の純粋な山村の人たちの優しさを込めた心の味といえる。

ベジタリアン栄養学
歴史の潮流と科学的評価(第2節 ベジタリアン食と慢性疾患予防)

ジョアン・サバテ(Joan Sabate)、訳:山路 明俊

 肥満は,急激な勢いで,近代社会の悩みとなっています。現在,米国人口の少なくても34%が肥満(理想体重の20%以上)で,理想体重以上の人は,55%以上にのぼります1, 2)。これは,米国の過去最高の記録を示しています3)。また,米国人にとって,特別なものでもありません。世界では,多くの過体重を含め,2億5,000万の肥満成人がいると推定されます。(総人口の7%)4)1998年の国際肥満学会で,WHOは肥満は世界的な流行と判定しました。先進国でも,似たような発展途上国でも,肥満は健康問題の上位5つの一つとランクされています6)。
 もっと深刻なことの一つは,肥満は,急速に児童や若者の間に増加していることです。子供時代の肥満と成人になった時の肥満には強い相関があります。Serdulaらの分析7)では,就学前の児童の肥満の1/3が成人の肥満になり,就学児童の約半数が成人の肥満になることを示しています。成人の肥満のリスクは,児童や若者やそれ以上の年齢の人にとって,さらに大きくなります。

“薬膳”の知恵(80)

荒 勝俊

 高齢化が進んでいる日本において“痴呆症”は非常に深刻な社会問題となっている。“痴呆症”は“脳血管性痴呆症(MID)”と“アルツハイマー型痴呆症(AD)”の二種類に分類される。脳血管性痴呆症は何回かの脳梗塞による発作(多発性脳梗塞)や脳出血の発作後に現れてくる痴呆である。具体的な症状として,物忘れや感情失調が認められる。一方“アルツハイマー型痴呆”は,ドイツの精神医学者アルツハイマー博士によって1907年発表されたもので,精神細胞の蛋白質が変性することが原因で発症する事が判ってきている。しかし,痴呆症は医学的に解明されていない部分が多く,治療が難しい病気の一つとなっている。
 中医学において,痴呆症は精神,意識,情緒などを司る中枢部分へ通じる穴(竅)が塞がってしまった状態を指し,穴を塞ぐ原因となるものが“痰”(水分代謝の悪化により生じた水分)と“淤”(微小循環の悪化による水の停滞)である。中医学では人体を一つの有機的統一体と考え,人体の構成要素である気・血・津液のバランスを改善させる事でその人が本来もっている臓器の機能を回復させ,身体の内部を整え,新陳代謝を改善し,食生活を正常化する事で改善できると考えており,痴呆症予防にもつながる考え方である。
 中医学の基礎概念である陰陽五行学説に基づき,健康管理や病気治療のために食材の持つ様々な機能を組み合わせて作った“薬膳”により,人が本来もっている臓器の機能を回復させ,身体の内部を整える事で痴呆症に対する予防ができると考えている。

築地市場魚貝辞典(シログチ)

山田 和彦

 秋の日はつるべ落とし,とはよく言ったものである。それまで帰宅時間になっても,まだ西の空が明るかったのが,急に暗くなったような気がしてしまう。築地市場に周辺の高層ビルの影を落とす夕日も,目に見えて足早に沈んでいくような気がする。晴海通りでも僅かに聞こえていた鳴く虫の声も小さくなり,なんとなく感傷的な気分にさせられる季節である。感傷的とは裏腹に,食欲はますます旺盛なのであるが。
 今回も秋の魚,シログチを紹介する。