New Food Industry 2013年 10月号

コーヒー飲用による疾患予防の薬理学

岡 希太郎

 コーヒー飲用による疾患リスクの軽減について,メタ解析論文を表1に示す。疾患リスクの変動は,コーヒーを飲む量が最も多い群と最も少ない群を比較して,相対リスクまたはオッズ比で示してある。リスクが1より小さければ,コーヒーがリスクを軽減したことになる。同一疾患の複数のメタ解析で結果が異なる理由は,解析対象に選んだ原著論文の差に基づいている。膵臓癌,膀胱癌,冠動脈性心疾患がこれに当たる。
 表1を見ると,メタ解析の対象疾患には臓器癌が多い。一方,癌以外の疾患は少ないが,2型糖尿病のように罹患人口が圧倒的に多い疾患と,心臓病や脳卒中など,死亡率の高い疾患が含まれている。このような疾患でコーヒーのリスク軽減が認められるということから,コーヒーを飲んでいる人の寿命は,飲まない人よりも長いのではないかと想像できる。実際に米国癌研究所が調査した結果,1日4-5杯のコーヒーを飲む男性で12%,女性では16%の寿命延長が確認されている1)。

バナナの継続摂取がヒトの肌の水分および弾力におよぼす影響
− ABAデザインを用いたヒト臨床試験での検討 − 

河崎 祐樹、鈴木 直子、和泉 達也

本試験では,バナナがヒトの肌におよぼす影響を,単一事例研究のABAデザインを用いて評価した。肌の衰えを自覚する36名の健常女性から,肌の水分量が少ない者21名をスクリーニングした。観察期間は8週間であり,来院検査を4回実施した。試験開始時に検査1を行い,検査1から2,6,8週後に検査2,3,4を実施した。摂取期間は検査2と検査3の間の4週間であり,試験参加者は1日あたり2本のバナナを摂取した。検査1と検査2の間,および検査3と検査4の間,試験参加者はバナナの摂取を禁じられた他は,通常通りの生活を送った。Primary Endpointsは肌の客観的指標であり,Secondary Endpointsは自覚症状であった。検査1と検査2との間で肌の状態が安定していた14名を分析対象者とした。検査1と検査3を比較すると,バナナを4週間摂取した後の検査3において,肌の水分量 (p < 0.001),油分量 (p < 0.001),および弾力 (p=0.015) が有意に改善した。これらの改善傾向は,検査4において消失した。また,肌の水分の改善に併せて,いくつかの自覚症状が改善した。以上より,バナナの継続摂取が,ヒトの肌の水分や弾力を改善することが示唆された。

タイショウガについて

堀田 幸子、小谷 明司、有水 育穂

 生姜は,日本料理は言うにおよばず,世界中で香辛料として利用される。それだけにとどまらず,生姜はハーブとして,また生薬として民間療法や漢方で薬品原料としても用いられる。
 生姜はショウガ目ショウガ科ショウガ属に属しZingiber officinaleの学名を有するが,他のショウガ科の植物にも食材として,また薬品原料としても用いられている植物がいくつかある。筆者達はマンゴージンジャー(Curcuma amada Roxb.),ブラックジンジャー(Kaempferia parvifola Wall. Wx Backer)について既に紹介したが1, 2),本稿ではタイショウガを紹介したい。

ベジタリアン栄養学
歴史の潮流と科学的評価(第3節 ベジタリアン食とがんのリスク②)

ジョアン・サバテ(Joan Sabate)、訳:山路 明俊

ベジタリアン食は,単に肉がないというより,色々な面で,非ベジタリアン食と異なっています。あるベジタリアンは植物性タンパク質(例;大豆)を肉代替品としてよく摂取し,また,がんに対して予防効果があると考えられる,多くの微量栄養素が豊富な,果物や野菜,未精製の小麦を多く摂取する傾向があります。このように,非ベジタリアンでがんリスクを増加させるのは,肉そのもの(あるいは,料理肉)なのか,非ベジタリアンに不足する予防物質なのかの問題があります。ここでは,大豆,繊維,未精製穀類,果物や野菜の役割を含め,典型的なベジタリアン食の共通した成分と,がんリスクに関して論じます。

人体への寄生虫感染を警戒すべき食材(10)
豚肉の生食のみが感染源でない有鉤条虫に関する総括的認識(ノート)

牧 純、関谷 洋志、田邊 知孝、舟橋 達也、玉井 栄治、河瀬 雅美、坂上 宏

Summary
Jun Maki1), Hiroshi Sekiya1), Tomotaka Tanabe2), Tatsuya Funahashi2) , Eiji Tamai1), Masami Kawase3) and Hiroshi Sakagami 4)
1)Department of Infectious Diseases, College of Pharmaceutical Sciences, Matsuyama University; 2) Department of Hygienic Chemistry, College of Pharmaceutical Sciences, Matsuyama University; 3) Department of Hygienic Chemistry, College of Pharmaceutical Sciences, Matsuyama University; 4)Division of Pharmacology, Department of Diagnostic and Therapeutic Sciences, Meikai University School of Dentistry:Food that needs precautionary awareness for infection in human body (10)- What are responsible for the infection with the pork tapeworm, Taenia solium and the action to be taken for the prevention(note)
The concept of “forgotten or neglected diseases” is important for our planning to take measures against parasites. This paper describes the infection of man with the beef tapeworm, Taenia solium (Taeniarhynchus saginatus).
When the larvae in the raw pork or related ones are ingested by man, they will grow to the adult stage in the intestine. The adult worms excrete eggs in the body segments in feces. The eggs hatch in pigs and so on to become infective larvae parasitizing in their muscles. The life cycle of this parasite is maintained in the intermediate hosts such as pigs, and the final host (man). Man is infected also with the eggs of this parasites as if man is an intermedicate host. The larvae are found near the body surface or invade into the brain with the severe damage. It is hard to eliminate the larvae in man with chemical agents. Though it is nowadays rare for the life cycle to be maintained in Japan, we have to be watchful and careful not to be infected following eating the pork harbouring the larvae imported from poorly hygienic area. The adult worms are readily expelled with praziquantel while no chemotherapeutic strategy against the larvae has yet been established. The treatment solely relies on the surgical removal of the migrating larvae. However, we should not ingest the eggs given the fact that the treatment trial has been often unsuccessful.
The measures should be taken for the prevention. No raw pork should not be eaten. We have to avoid incorporating the T.solium eggs from fresh vegetables and feces containing the eggs through oral sex. 
[key words: Taenia solium (Taeniarhynchus saginatus), cestodes, parasites]

要約
 形状が真田紐に似ていることが語源の真田虫(サナダムシ)は学問的には「条虫」という。扁平で長いと3mにも及ぶ条虫のひとつである有鉤条虫Taenia soliumは,主として海外で豚肉(ポークpork)の生か不完全調理食材により感染する厄介な寄生虫である。この成虫がヒトの腸管に寄生すると当然消化管障害をもたらす。排便時には切れた虫体の部分が排出される。中間宿主であるブタはその中の虫卵を含む人糞を食するか,それで汚染された食餌を摂取すると,虫卵内幼虫がブタ筋肉内に移行し,被嚢した幼虫(専門用語では囊尾虫,またはシスティセルクスcysticercus)を有するところとなる。ヒトはそのような豚肉の生か熱処理が不十分なものから感染を受け,その腸管に成虫を宿す。ヒトへの感染ルートはこの生活環以外にもある。ヒト糞便中の虫卵は,同一患者の大腸で自分自身に再感染することもありうる。もしくは,非衛生的な生野菜の摂取や性行為などを通して他のヒトに感染する。その結果,皮下や悩などに,成虫でなくて幼虫が寄生して,皮膚表面のいたるところに腫瘍のようなものを作り大きな病害作用をもたらす。その予防には,豚肉,イノシシ等の肉の生食を慎むことが絶対的に重要である。レアのポークステーキも避けるべきである。非衛生的な生野菜も警戒せねばなければならない。性行為で感染性ある虫卵(肛門周囲に存在)を口にすることも危険である。早期発見・早期治療のポイントは,成虫感染の場合はそのような生食歴の有無と肛門より出た体節を持参した上で,出た時の様子を診察医に伝えること,幼虫感染の皮膚疾患であれば,その病状と非衛生的な野菜の摂取や性行為歴を率直に述べることである。駆虫は優れた駆虫剤プラジカンテルの投与により行なわれるのが普通である。成虫が駆出されるが,その際虫体の一部が崩壊してはみ出た虫卵が同一の患者体内で孵化し幼虫の感染が起こることがある。この幼虫は体内,体表の各所へ移行,脳への侵入もある。その結果,豚肉の中の幼虫に相当するものが出来上がる。その予防策としては穏やかで完全な駆虫を心がけて虫体の崩壊を伴わないようにすることが肝要である。皮下や悩などに寄生して大きな病害作用をもたらす幼虫に対する治療はまだ確立されていない。一応プラジカンテルやアルベンダゾールの投与を試みるが,完治は困難である。

開発と特許に携わり

宮部 正明

 縁あって,食品企業である,不二製油(株)にて開発と特許に携わり,開発者として,製品開発,生産技術開発を担当し,特許担当者として,発明の発掘,特許明細書の作成,中間手続,権利化,他社特許への情報提供を行った。そこで体得した知識と経験に基づいた6つの論文を本誌に投稿する機会を得た。
 これらの論文を紹介すると共に,開発者としての想い,特許担当者として思ったことについて随想することにする。
 そこに内在するものは,無から有を生む,即ち,形ないものから,形あるものへと具現化していく創造の喜びと議論していく中での気づきの実感であったと思う。

二枚貝用飼料-5

酒本 秀一、山元 憲一

現在二枚貝用飼料は数社から市販されている様であるが,これらの飼料は価格,飼育成績,水槽の汚れ他に解決しなければならない点が多く,未だ現場には殆ど普及していないのが実情であろう。安価で良質な配合飼料が開発出来れば二枚貝の陸上養殖あるいは蓄養事業が発展する可能性が有ると考え,著者らは二枚貝用飼料の開発を進めると共に配合飼料を用いた陸上での二枚貝飼育法についても検討してきた。
 二枚貝用飼料の評価を行う為には試験に供する貝の活力が高いことや,適切な飼育システムを用いて試験を行うことが必要である。ところが貝の活力を簡単に測定する方法や飼育システムについては未だ殆ど報告されていない。
 配合飼料については既に幾つか報告されており,著者らも前報1)でスサビノリのスフェロプラストに代わるタンパク質源としてオキアミミールやエグレートパウダーが優れていることを説明した。また,飼料の粒径が二枚貝の飼育成績に大きな影響を及ぼす可能性が高いことも明らかにした2,3)。オキアミミールはエグレートパウダーより安価であるものの粒径が大きく,微粉砕に必要な手間や経費を考えるとエグレートパウダーの方が二枚貝用飼料の原料として適しているのではないかと思われる。
 よって本報告は二枚貝の飼育システムについて簡単に説明すること,二枚貝用飼料へのエグレートパウダーの適切な添加量を明らかにすること,飼料の栄養成分と飼育成績の関係を調べること等を目的とした。

“地域密着でキラリと光る企業”
「若狭もの」の魚を活かす『小浜海産物株式会社』

田形 睆作

 未會有の鯖漁で殷賑を極めた鯖巾着網漁業の小浜港は,戦後の昭和23年連日数千トンの漁獲に沸いた。その近く,先代が確保していた土地建物で小浜海産物加工協同組合が発足,昭和25年3月,物統令解除とともに,小浜海産物株式会社が設立された。創業者の上野 清は,魚商上野屋を継ぐため,小浜水産学校を卒業後,大阪の食品会社に就職していたが, 戦時における応召のため,軍人の道を歩んだ。戦後,郷里の鯖の豊漁を知り,有志と共に鯖の加工を実業につなげるため,加工組合を設置した。復興需要の下,積極的な戦略的着眼と果敢な実行力,豊かな人間関係による情報力と信頼で商売は殊の外スケールの大きい方へ進んでいった。高度成長に伴う企業の発展軌跡は次の会社の歴史に示されている。

築地市場魚貝辞典(マハゼ)

山田 和彦

 築地市場へ足を踏み入れると,行き先は仲卸店舗が主な場所となる。狭い通路の両側に店が並ぶ光景がおなじみである。このところ買出しに来る人が減っていて,混雑で通路を行き来するのもたいへんということはあまりなくなった。それでも人々は足早だし,目は魚に行っているので,周囲をゆっくり気にしている場合があまりないかもしれない。そんなとき,いつも歩いている足元をふと見ると,みごとな石畳になっている。10cm四方ぐらいの正方形に割られた石を,扇状に並べてある。店が開いているときは商品などで隠れて見えないが,側溝もあって,なんだかヨーロッパの街中のようである。築地市場は,関東大震災の被害などで幕を閉じた日本橋の魚市場の移転先として整備されたもので,昭和10年に竣工している。目に付きにくい路面にまで手がかけられているのは,当時の人々の復興に対する期待の表れなのかもしれない。
 今回は秋の魚,マハゼを紹介する。

“薬膳”の知恵(79)

荒 勝俊

 人間の体脂肪の多くは横紋筋や肝臓組織内に蓄積され,エネルギーとして蓄えられる。たとえば,飢餓状態において体内に蓄積された脂肪が分解されてカロリー源となる。一方,人間の血液中に存在する脂質は,中性脂肪,コレステロール,リン脂質,遊離脂肪酸,の4種類に分類される。一般に,コレステロールやリン脂質は血脂(中医学では脂膏(しこう))と呼ばれ,血漿中のコレステロールやリン脂質濃度が正常値を超えた状態を“高脂血症(脂質異常症)”と定義されている。
 “高脂血症”は臨床的に四つに分類され,例えば中性脂肪が高い場合は“高中性脂肪血症”,総コレステロールが高い場合は“高コレステロール血症”と呼ぶ。原因としては,先天的な遺伝による場合,あるいは食べ過ぎ,肥満,運動不足,喫煙,飲酒,など生活習慣のバランス悪化によって引き起こされると考えられている。
 中医学では,高脂血症は“痰湿”や“瘀血”の範疇に属する病気とされ,血行を改善し,痰湿を除去する事で予防できると考えている。中医学では人体を一つの有機的統一体と考え,人体の構成要素である気・血・津液のバランスを改善させる事でその人が本来もっている臓器の機能を回復させ,身体の内部を整え,新陳代謝を改善し,食生活を正常化する事で改善できると考えており,高脂血症予防にもつながる考え方である。
 中医学の基礎概念である陰陽五行学説に基づき,健康管理や病気治療のために食材の持つ様々な機能を組み合わせて作った“薬膳”により,人が本来もっている臓器の機能を回復させ,身体の内部を整える事で高脂血に対する予防ができると考えている。