New Food Industry 2013年6月号

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New Food Industry 2013年 6月号

高病原性鳥インフルエンザウイルスに対する粉末化バイオイオナースの効果について
− 養鶏場に於ける感染予防としての噴霧消毒剤の基礎的検討 − 

窪田 倭、松沢 皓三郎、和田 雅年、森 勲、山地 信幸

鳥インフルエンザの病原体であるウイルスのHA抗原が5と7は鶏を含む家禽類に高い致死率と強い感染力を有し,家畜伝染病予防法では法定伝染病に指定されている1)。この高病原性鳥インフルエンザウイルスは鴨など水禽類の渡り鳥によりウイルスが持ち込まれ鶏に感染する。養鶏場に於いて一端感染すると数千羽から数万羽大量死し,生残鶏も殺処分され,有効な対策はない。また,H5型の鳥インフルエンザウイルスが人から人への偶発的な感染を引き起こし,人から人へと感染するウイルスに変異し世界的流行(パンデミック)となる可能性は時間の問題とされている2)。
 ウイルスは自己増殖能がないため人を始めとした動物の細胞や細菌に寄生し,寄生した細胞の増殖機能を利用することにより増殖する。従って,細菌などに対する抗生物質のような抗ウイルス不活化剤として有効な薬剤が少なく,消毒剤などによる感染予防策が必要である。しかし,現状ではアルコール系や塩素系製剤が抗ウイルス不活化剤として使用されているが,いずれも人や動物への害が強いため感染予防剤としての噴霧消毒は出来ない。
 著者らは幅広い抗菌スペクトルを持ちかつ人体に無害で環境に易しいクエン酸を基体とした消毒剤バイオイオナースⓇを開発し3-4),さらにその錠剤化や粉末化に成功した5)。バイオイオナースⓇは室内噴霧消毒剤としても良好な殺菌効果を示したこと4)により,養鶏場に於ける噴霧消毒による鳥インフルエンザの感染予防として期待できる。そこで今回,京都産業大学大槻教授らが強毒化に成功したH5N3型鳥インフルエンザウイル

β-クリプトキサンチンは骨粗しょう症の予防に有効か
−最近の栄養疫学研究から明らかになったこと− 

杉浦 実

果物・野菜類はビタミンやミネラル,食物繊維等の重要な供給源となるが,これらの栄養素以外にも近年その生体調節機能が注目されているカロテノイド類が豊富に含まれている。これらカロテノイド類は何れも強力な抗酸化作用を有するものが多く,近年の疫学研究から,がんや循環器系疾患,糖尿病などの生活習慣病リスクとの関連が数多く報告されている。がんや循環器系疾患,糖尿病等の発症には酸化ストレスが大きく関与していることが近年明らかになっているが,カロテノイドは何れも強力な抗酸化作用を有することから,これら生活習慣病の予防に有効ではないかと考えられている。また最近では,果物を豊富に摂取することが健康な骨の維持・形成に重要であることも明らかになりつつあるが,カロテノイドが骨代謝に影響するのではないかとする幾つかの研究が報告されるようになってきた。
 我々果樹研究所では,ウンシュウミカン(以下,ミカン)の摂取がどのような生活習慣病の予防に役立つかを明らかにするため,国内有数のミカン産地である静岡県浜松市北区三ヶ日町の住民を対象にした栄養疫学調査(三ヶ日町研究)を平成15年度から行っている。この調査ではミカンに特徴的に多く含まれているカンキツ成分であるβ-クリプトキサンチンに着目し,血中β-クリプトキサンチン濃度をミカン摂取のバイオマーカーとして様々な健康指標との関連について解析を行っているが,骨密度調査についても平成17年度から開始しており,ミカンが骨粗しょう症の予防に有効かについての検討を行っている。
 本稿では果物と骨の健康について最近報告されている国内外の研究成果を紹介するとともに,三ヶ日町研究から明らかになったβ-クリプトキサンチンと骨粗しょう症との関連について紹介する。

桜花抽出物の抗糖化作用および美肌作用

下田 博司

バラ科 (Rosaceae) のサクラはサクラ属 (Prunus) に分類され,世界に約200種, 日本においても約25種が自生している。また,果樹, 花木で多様な種が栽培されている。サクラの樹皮 (桜皮) は解毒,鎮咳薬として用いられるが,一部の栽培品種の花や葉は加工食品として利用されている。近年,タンパク質のアミノ基と還元糖のアルデヒド基との非酵素的反応で生成する最終糖化生成物 (AGEs: Advanced Glycation End Products) が皮膚の老化に深く関与していることが明らかになり,アンチエイジングを志向したスキンケア材料の開発が盛んである。
 著者らは,京都薬科大学生薬学分野(吉川雅之教授)とサクラ [神奈川県産八重桜(関山), P. lannesiana Wils. cv. sekiyama] の成分研究を行い,ケイヒ酸グルコシド誘導体やフラボノールグルコシドを見出している。また,in vitroでの抗糖化作用成分の評価,線維芽細胞やマウスでの作用特性,さらにはヒトにおける作用評価も行った。本稿では,これら桜花エキスの抗糖化作用やアンチエイジング作用について,ヒトにおける評価結果も含めて紹介する。

クチナシ黄色素と健康-クロセチンの生理機能について-

海貝 尚史

食品製造において着色は重要な意味を持つ。美しい色彩は,目を楽しませ食欲を刺激し,消費者の購買意欲を引き出す。また,多くの加工食品製造において,原料における色のばらつきの補正,製造加工段階での退色・変色による色調変化の補正など,品質を一定に保つことを目的に着色料が使用されている。食品に使用される着色料には,化学的に合成された色素を用いた合成着色料や植物等から抽出された色素を用いた天然の着色料がある。天然着色料は,植物等を原料としていることから消費者の印象が良く,合成着色料よりも好まれる傾向がある。
 一方,天然由来の色素成分であるカロテノイドやアントシアニンには,様々な薬理作用があることが明らかとなっており,健康に寄与する機能性色素としても注目を集めている。そのため,天然色素は単なる着色目的として使用されるだけでなく,健康の維持・増進を目的にサプリメントなどの健康食品分野に,その用途を拡大してきている。クチナシ黄色素も健康分野へと用途を広げてきた天然色素の一つである。本稿では,これまでに報告されたクチナシ黄色素の主成分であるクロセチンの健康機能を中心に紹介する。

血管内皮細胞の健全性に対するポリフェノールの作用特性

山形 一雄、田上 幹樹

要 旨
 血管内皮細胞の機能不全は,心疾患や脳血管疾患を強く誘発させる要因の一つである。一方,ポリフェノールが血管内皮障害に関連した心血管疾患を予防する可能性が示されている。これまでの疫学研究,臨床研究および動物モデルを用いた研究において,ポリフェノールの体内動態や心血管疾患に対する予防作用の一部が示されてきた。また,培養細胞を使用した実験などから,ポリフェノールが血管内皮細胞の一酸化窒素(NO)やエンドセリンなどの発現を調節して,心血管疾患の発症を予防したり,内皮細胞の健全性維持に貢献する可能性が分子レベルで示されている。ポリフェノールの作用の発現は,ポリフェノール自身の持つ抗酸化作用に加えて細胞に直接働きかけて機能を発揮するように思われる。しかし,野菜や果物などを摂取した時の生体内のポリフェノールの挙動や有効性の程度は必ずしも一致せず,生体内での作用の実際や作用機構については不明な点が多く残されている。本稿では,ポリフェノールを含む野菜や果物の心血管疾患に対する疫学調査研究,血管内皮細胞の機能不全と食品成分,血管内皮細胞に対するポリフェノールの作用などについて一部我々の結果を含め概説する。

使用済携帯電話からレアメタル回収技術開発と実践への展望−先人の知恵の結晶を未来へ活かす挑戦−

三好 恵真子、姉崎 正治

我が国では,2000年に循環型社会関連六法が成立し,循環型社会形成を目指して,廃棄物管理政策の法体系が順調に整えられてきた。しかし,これらが想定していたのは「国内」における循環であり,経済のグローバル化の進展にともなって,循環資源(再生資源・中古品)の貿易による越境移動が拡大しており1),また既報2)によって紹介してきたように,移動先の現地社会では不適切な処理による環境・人体汚染も浮上している。すなわち,日本では,使用済み家電製品4品目(ブラウン管型テレビ,エアコン,冷蔵庫・冷凍庫,洗濯機)を対象とした「家電リサイクル法」が2001年に施行されたが,この法ルートに乗らず,現行では把握できないとされる過半数ほどにものぼる廃家電は,不適切な処理を施されている「見えないフロー」の中に存在すると言われている3, 4)。
 他方,リーマンショックによる打撃,さらには2010年の尖閣諸島沖での中国漁船衝突も強い追い風となったレアメタルを取り巻く供給障害と不安定な国際情勢等に鑑み,特に我が国の強みである技術力を最大限に活かして「資源大国を目指した資源エネルギー供給革命」を実現することが国家的戦略として目論まれている5)。中でも「都市鉱山」注1)から安価で効率よくリユース・リサイクルを実施する重要性が急速に高まり,特に潜在的回収可能台数が年間5,000万台に達する使用済・廃棄携帯電話6)からのレアメタルの回収の実践は,日本の金属元素戦略上の重要な課題として位置づけられるであろう。しかしながら,携帯電話を含む小型廃家電の法制度におけるリサイクルシステムはこれまで未整備であった上に,種々の理由(セキュリティー,高機能化等)により,退蔵品の形も含めて未回収のまま停留している場合が多く6),全リサイクル過程(回収工程,破砕工程,金属抽出工程)を通じても,その回収率が低いことが問題となっている。

ベジタリアン栄養学 歴史の潮流と科学的評価 (第1節 背景)2回 

ジョアン・サバテ(Joan Sabate)、訳:山路 明俊

ここ10年間の科学の進歩は,人の健康と病気に対するベジタリアン食の役割についての考え方を顕著に変えました。飢饉や,感染症,不慮の事故や戦争により,人の平均寿命は,20世紀初頭までは非常に低いものでした。しかし,20世紀に入り,先進国の人々は,公衆衛生の実践的成功により,寿命の飛躍的増加を体験しました。病気の様相は栄養不足や感染症から,慢性的で退行性疾患へと移行したので,栄養政策や研究もまた重点が変化しました。
 人の成長や誕生にとっての最適な食事の基準は,十分な栄養とエネルギーを供給することで栄養不足を防ぐことにあります。さらに,最適な食事は健康と寿命を促進し,食事由来の慢性疾患のリスクを減らすことが特徴です。最適な食事の正確な組み合わせは完全には知られていませんが,巾広い植物性食品を基礎にした食品は,食事由来の慢性疾患に加え,栄養不足を最も良く予防することが出来るということは科学的な共通認識です。
 この章は,ベジタリアン食の健康リスクについての見解を紹介した後,ベジタリアン食と肉食系の人達の,予期されるリスクとベネフィットに言及した,3つのモデルを示します。これらのモデルは,ある意味で,人の健康についてのこれらの食事様式の総合的な効果が,科学的理解の革命を起こすことを包含しています。

多糖類水溶液のゲル形成能に影響を与える分子量,側鎖基,糖,
アルカリ金属塩および有機溶媒などの影響<後編> 

渡瀬 峰男

ゲルを形成する食品ハイドロコロイドは,その微量の添加によって食品のテクスチャーを変えることができる。これらに適するゲル形成能をもつ多糖類は,寒天,カラギーナンやジェランガムなどが挙げられる。これらの多糖類の共通したゲル化機構は高温ではランダムコイル状であるが,冷却していくと2重らせん分子をつくり,さらに水素結合によって二重らせん分子の凝集あるいは会合が生じ,この部分を架橋領域として三次元網目構造のゲルが形成される。これらの多糖類は微量の添加で食品のテクスチャーを変えられるので,例えば,海藻の採取時期や場所,抽出方法などにより分子量や側鎖基含量や配位の仕方などを調製でき,これらの多糖類に糖,カチオンなどを添加してもゲル形成能が変えられる。また添加量が微量のため口どけやフレーバーリリースがよいゲルを調製できる。さらに,弾性率が103Pa以上のゲルを容易に調製できる。従って,これらのゲルは口腔内で最初に咀嚼する過程で,分泌される唾液量が調整される。食品のテクスチャーは人間の皮膚または筋肉感覚で知覚される性質であるため,その評価は人を通じて行われる。人の感覚は種々の条件で変わる。従って,官能評価の煩わしさや再現性に対する疑問点が問題である。そこで測定値に再現性が得られる物理的な機器測定が必要であると考えられる。

二枚貝用飼料-2

酒本 秀一、大橋 勝彦、仙石 義昭

荒木の方法1)によって調製したスサビノリのスフェロプラストは二枚貝用飼料の原料として優れていること,スフェロプラストに粉末魚油を5%添加するとホタテ稚貝とアサリ成貝の飼育成績が著しく改善されること等を前報2)で説明した。しかしながら,スサビノリのスフェロプラストを主原料として利用していたのでは飼料の原料コストが高くなり過ぎ3),二枚貝用飼料の実用化を考えた場合に現実的でない。スフェロプラストの使用量は必要最小限とするか,全く用いない飼料を開発しなければならない。それにはスフェロプラストに代わる原料を探さなければならない。
 本報告では試験-1で炭水化物源を,試験-2でタンパク質源を探索した結果を報告する。

“地域密着でキラリと光る企業”煮貝を製造販売する『株式会社信玄食品』

田形 睆作(TAGATA食品企画・開発 代表)

甲斐の虎と呼ばれた武田信玄公が好んだ料理が,あわびを醤油で煮た「煮貝」である。信玄公はあわびの栄養価に目を付け,この煮貝を戦場での保存食として用いたと伝えられている。風林火山の軍旗を掲げ,戦国時代最強とも評された武田騎馬隊の栄養源になったようである。海に面しない内陸地の甲斐国(現在の山梨県)とあわびは,いっけん結びつかないかもしれないが,実は当時,武田は甲斐の国とは別に,伊豆半島にも領地を保有していた。この飛び領地を利用し,あわびを水揚げし,醤油で煮て居城のある甲斐国へ運び込んだと言われている。そしていざ出陣となると,武将たちはにぎりめしとあわびの煮貝を腰兵糧に戦地に赴いたのである。