New Food Industry 2013年 3月号

アミノ酸分析のための固相抽出法
Solid phase extraction for amino acid analysis 

渡部 保夫、石橋 智毅、松井 都、渡辺 誠也

いろいろなサンプルに含まれる物質を計測する分析技術は,多種多様であるが,高額な測定装置を必要とせず,また,危険な化学物質を使用することなく,感度よく迅速に測定できる技法の一つとして,酵素の特異性を利用する方法がある。酵素的定量法と呼ばれる技術であるが,臨床分野で広く利用されているばかりでなく,学術的にも多方面で利用されている。
 また,化学成分を直接分離定量する各種クロマトグラフィー法とは異なり,酵素的測定技術は,目的成分(基質)が酵素により特異的に認識されて他の類似成分と明瞭に区別され,酵素と反応し,目的成分は別の物質(生成物)に変化する。生成物の測定が容易な場合,例えば,特異的な波長の光を吸収する生成物である場合,特に,酵素反応がNAD+/NADH(340 nm)などの補酵素の変化と共役している酸化還元酵素を利用する場合など,簡単な分光高度計を用いて,目的成分を簡便に迅速に定量することができる。食品分析では,F-kitと呼ばれる製品がしばしば利用される1)。このキットを使うことにより,「装置のコスト削減」「有害物質を排出しない」「訓練された分析技術が不要」「標準物質が無くても定量可能」の特徴をもって実験できるとしている。
 しかしながら,酵素的定量法を精度よく実施するためには,添加するサンプルの純度を高く保つことが必須であると考えられる。酵素活性阻害剤が混在する不純なサンプルを加えることにより,想定していない酵素活性の低下を引き起こし,結果的に目的成分量を正確に測定できない危険性が常につきまとっている。

生体アミン含有飼料を用いた有用・有害昆虫の行動操作

佐々木 謙

昆虫は我々の生活で身近な存在である。昆虫の中にはミツバチのようにその生産物(ハチミツやローヤルジェリーなど)や花粉媒介の行動が人間にとって有益になるものもいれば,スズメバチのようにその攻撃行動が人間に危害や恐怖心を与えるものもいる。後者は有害昆虫であるのだから農薬や殺虫剤を用いて駆除・撲滅してしまえばよい,という乱暴な意見も聞かれることがある。しかし,これらの昆虫も自然界の中では生態系を維持している重要な存在であり,それらを駆除・撲滅してしまえば,それ以外の害虫がはびこることになるであろう。このような有用昆虫や有害昆虫の行動を操作し,有用昆虫をより効率的に働かせる,あるいは有害昆虫を殺さずにその攻撃性を抑制させることができたら,“自然にやさしい”昆虫と人との共生が実現するかもしれない。
 昆虫を含む動物の行動は脳や神経系の活動の結果である。したがって,昆虫の脳活動を人為的に操作できれば,前述のような行動操作も可能になる。昆虫の脳では神経ホルモンや神経修飾物質と呼ばれる生理活性物質が特定の行動の動機付けを調節している。つまり,これらの物質は脳内のある特定の神経回路の活性化・不活性化,あるいは特定の行動に関わるニューロンの閾値を変化させることにより,行動の発現を調節する。そこで,餌を介して昆虫の脳内物質量を人為的に調節できれば,行動の操作が実現できるかもしれない。このようなことをヒトに当てはめてみると,なんとも恐ろしい技術のように思えるが,鬱病などの気分障害の治療・改善に用いられる向精神薬などの利用がそれに相当する。
 脳内物質の供給は餌の種類や摂取量による影響を受ける。私たちのグループでは,餌からの栄養摂取と脳内物質の生産,および行動への影響について研究しており,餌を介した脳内物質量の調節によって昆虫の有用な行動を引き出せると考えている。本稿では餌による有用・有害昆虫の行動操作について,具体例を挙げながら紹介したい。

卵を食べると心臓に悪い?

城内 文吾、菅野 道廣

多くの消費者の間で,「コレステロール(Chol)を食べると血液のChol濃度が上昇し,動脈硬化そして心疾患のリスクが高まる」と言う風が吹けば桶屋が儲かる的な筋書きが固着しており,Cholを含む食品は直感的に忌避されている。極端な場合には,Cholの存在そのものが拒否されることさえある。鶏卵,とくに卵黄は通常の食品中では最も多くCholを含んでおり(卵1個当たり約200 mg強),最も危険な食品として,その摂取に二の足を踏む人は相当に多い。
 一方,鶏卵は栄養的に極めて優れていて,健康な食事の献立に無くてはならない食品であることを,ほとんどの人が理解している。卵1個当たりのエネルギー量は70 kcal程度に過ぎないが,高栄養価のタンパク質を多く含み,種々のビタミンとミネラルに富み,しかも十分な量の抗酸化成分を含んでいる。卵は満腹感,体重調節,目の健康,健全な妊娠などの面で優れた効果を有している極めて安価で安全な食品である。そして,健康な人にとっては少なくとも1日1個の摂取は循環器系疾患のリスクを高めることはないことが,これまでの疫学調査や介入試験で確かめられている。そのような状況にある中で,「卵黄は喫煙と同等に動脈硬化を引き起こす可能性がある」との刺激的な研究論文が発表された。
 この小文では,「卵黄危険説」の真相と,それにどう対応すればよいのかについて解説し,Cholを巡る健康な食生活の基本概念に触れてみたい。

複合化する中国の重金属汚染土壌と今後の展望

三好 恵真子、姉崎 正治

21世紀に突入して,世界市場をめぐる競争環境に新たな構造変化が生じており,もはや「グローバリゼーション(Globalization)」を超えた「グローバリティ(Globality)」注1)への時代の到来が叫ばれている。すなわち,グローバリゼーションでは,先進国の企業が世界市場に進出し,活動範囲を拡大するという文脈で語られることが多かったが,そこに世界中の新興国が参入するグローバル規模の競争へと進展し,「あらゆる人びと,あらゆる場所から,あらゆるものを競い合ってゆく( “We will all be competing with everyone, from everywhere, for everything”)」という新たな現実に直面しているといえよう。
 中でも劇的に躍進する中国経済は,2008年のリーマンショックによる打撃を受けたものの,そこからいち早く回復した国であり,2009年には「米中戦略・経済対話」も開催され,中国のGDPは日本を抜いて世界第2位に台頭し,世界経済の牽引役としてその存在感が急勾配で高まりつつある。一方で中国の外交戦略は調整期にある中,領土や資源問題等を巡り極めて緊張関係が強まる空間において,今後中国は,高度成長期の対外戦略の方向性をいかに正当に位置づけてゆくか,また中国の周辺に多数存在する構造的問題をいかに系統的に整理しつつ,国家の戦略的方向性に基づいてこれらの軽重と緩急を見定めてゆくかが求められるであろう。

コンビニ弁当の調査

堀口 恵子

コンビニエンスストア(以下コンビニ)の米飯弁当について学生の研究部活動で15年間調査してきた。コンビニの歴史,栄養素摂取量比率 (14年間),食品添加物調査 (15年間) について報告する。最初に歴史について,次に調査研究を紹介する。

養魚飼料原料としての食品廃棄物やバイプロ-2.再生大豆油、ラーメン屑、ビール粕

酒本 秀一

前報1)の菓子粉,出汁粕,パン屑に続いて本報では再生大豆油,ラーメン屑,ビール粕の養魚飼料原料としての可能性を紹介する。

食品企画・開発の事例研究
“企業”を立ち上げた驚くべきヒット商品
−『N-アセチルグルコサミン』UMIウェルネス株式会社−

田形 睆作

UMIウェルネス株式会社は2004年(平成16年)10月14日に焼津水産化学工業株式会社(以後YSKと略す)のグループ会社として資本金5000万円で設立された。会社の目的は健康食品,健康飲料およびビタミン・ミネラル等の栄養素を補給した栄養補助食品の販売ならびに輸出入である。また,事業内容は親会社であるYSKが研究開発したオリジナル素材を生かして,人々の健康的な生活をサポートする商品の提供を行っている。YSKは主力である天然調味料や医療食事業のほか,医薬品メーカー,健康食品メーカー,化粧品メーカーなどに向けて自社で研究・開発・製造した機能性食品素材の原料供給を行っており,消費者向けの最終商品は販売していない。
 UMIウェルネス(株)の事業内容は,通信販売を通じて,年々拡大する健康・美容機能性食品市場に消費者の皆様に喜んでいただける商品を企画・開発し,販売していくことである。

“薬膳”の知恵(74)

荒 勝俊

風邪は,中医学において六気(風,寒,暑,湿,燥,火)の邪の侵入,あるいは季節の毒邪を感受して,邪が肺衛や肌表を犯す外感疾病と考えている。疾病因子としては,それぞれ風邪,寒邪,暑邪,湿邪,燥邪,火邪と呼ばれる。風は春に良く吹くので春の主気といわれるが,四季を通して現れる。風と寒,風と湿,風と燥,風と火は合併して病邪となる。風邪は寒と結びついた「風寒」,熱や燥と結びついた「風熱」,湿と結びついた「風湿」のパターンが多い。
 中医学において人体は一つの有機的統一体と考えており,人体の構成要素である気・血・津液のバランスを改善させる事でその人が本来もっている臓器の機能を回復させ,身体の内部を整え,新陳代謝を改善し,食生活を正常化する事で体質を改善できると考えており,感冒予防にもつながる考え方である。
 中医学の基礎概念である陰陽五行学説に基づき,健康管理や病気治療のために食材の持つ様々な機能を組み合わせて作った“薬膳茶”を飲む事で,人が本来もっている臓器の機能を回復させ,身体の内部を整え,感冒に対する予防ができると考えている。

築地市場魚貝辞典(アマダイ類)

山田 和彦

日一日と日がのびてきて,仲卸店舗に魚が並ぶ頃には明るくなってきた。もう春の足音も聞こえてきそうであるが,空気は冷たく魚を扱う手もかじかむ。築地市場の正門を入ったところに,3階建てのアパートのような建物が6棟並んでいる。関連事業者棟と呼ばれる建物で,事務所のほか,診療所や,秤,包丁,梱包材,衣料品から書籍を扱う店舗,そして食堂などが入っている。魚料理が売りの食堂では,旬の魚が看板料理になっている。買出しのついでに旬の魚が味わえるというのも,築地の良さの一つであろう。今回も冬の魚,アマダイ類を紹介する。