New Food Industry 2013年 1月号
乳酸菌KT-11を利用したペット用アレルギー対策サプリメントの開発
飛田 啓輔、大谷 元
わが国における2011年度のイヌおよびネコの累計飼育頭数は約2,154万頭であり,飼育世帯率はイヌで17.7%,ネコで10.3%に上る1)。このような,ペットの定着には少子高齢化や生活水準の向上を背景として,ヒトがペットに癒しや家族同様の関係を求めるようになったことが関係しているものと思われる。一方,最近のペットを取り巻く環境の変化から,アレルギー性疾患を抱えるペットが増えている。そこで,本稿では乳酸菌の抗アレルギー作用に着目したペット向けサプリメントの開発について紹介する。
純水と-20℃を用いたエノキタケ菌株の凍結保存の試み
富樫 巌、幸田 有以
北海道における食用キノコの人工栽培産業の生産額は,最新の統計によると2008年から100億円/年を超えるまでに達し,その生産量は生シイタケ6,400 t /年,以下エノキタケ4,300 t /年,ブナシメジ3,300 t /年,マイタケ2,400 t /年,ナメコ1,300 t /年と続く1)。そして,この産業を支えてきた主要因としては,キノコ生産先進地域からの栽培技術(培地組成,温湿度管理など)の習得と独自改良,本州種菌メーカーや北海道立林産試験場が開発した優秀な栽培用キノコ菌株2, 3)の利用を挙げることができる。
一方,食用キノコの菌株保存に注目すると設備的に恵まれている試験・研究施設等であれば-80℃以下での凍結保存法が用いられるが4, 5),一般には5℃前後の温度を用いる継代培養保存法が汎用されているものと考えられる。しかしながらエノキタケの菌株を継代培養保存すると,発茸温度と保存温度が重なっている6)ことで保存培地に子実体が発生してしまうことが少なくない(図1参照)。本研究では,この課題解決の一方策を狙い,リーズナブルな家庭用冷凍庫レベル(-20℃程度)の温度を利用したエノキタケ菌株の凍結保存の可能性,および同保存が菌株の子実体形成に及ぼす影響の把握を試みることとした。また,コスト削減や作業の簡略化を考慮し,凍結保護液の代わりに殺菌した純水の利用可能性についても併せて検討した。
食中毒細菌カンピロバクター属菌の簡便で迅速な高感度検出キットの開発
山崎 伸二、朝倉 昌博
カンピロバクター属菌は,獣医学領域では100年以上も前から家畜の流産の原因菌として問題となっていた。1970年代に入り,カンピロバクター属菌が小児の下痢症の原因となることが明らかとされ,医学領域でも注目を集めるようになった1)。近年では,カンピロバクター属菌,特にCampylobacter jejuniとC. coliは,我が国や欧米において最も重要な食中毒細菌の1つとなっている。しかしながら,培養法に基づくカンピロバクターの検査法には様々な問題点がある。 多くのカンピロバクター属菌は,微好気条件を好み,増殖が遅く,菌種同定まで約1週間を要する。生化学的性状が酷似しており,菌種同定が容易でない。16S rRNA遺伝子の菌種間での相同性が高く,16S rRNAを基にした菌種の鑑別が困難である。
我々は,細胞膨化致死毒素(cdt)遺伝子がある種のカンピロバクター属菌に菌種特異的かつ普遍的に存在することを見いだし,菌種同定の標的遺伝子となりうることを報告した2-5)。本稿ではcdt遺伝子を標的としたカンピロバクター属菌の簡便で迅速な高感度検出キットとその応用例について紹介する。
ビタミンKオフ納豆風味大豆加工食品の開発
北村 豊、平松 祐司、斉藤 有希
糸引納豆は一般に蒸煮した丸大豆の表面に納豆菌を生育させ,独特の粘りと香りを醸成する日本独自の大豆発酵食品である1)。醤油,味噌の発酵には麹菌や乳酸菌類,酵母菌類など数々の微生物が関与しているが,納豆の発酵・熟成に直接関わる微生物は納豆菌のみである2)。納豆菌の代表的な発酵生産物に血栓溶解酵素であるナットウキナーゼがあり,これが含まれていることで納豆は血栓症の治療食としても期待されている1)。また納豆菌による大豆の発酵では,多量のビタミンK(主にビタミンK2:menaquinone-7; MK-7)が産出されることが知られている。発酵前の大豆(国産の蒸煮品)可食部100gあたりビタミンKは7 μgであるのに対して,発酵後の糸引納豆のビタミンKは600 μgと大幅に増加する3)。ビタミンKは骨へのカルシウム沈着に効果があるとされる一方,血液凝固因子の生成にも関与しており,ビタミンKの投与が血液凝固抑制作用を急速に減弱することが動物実験および臨床実験で報告されている4)。したがって,心臓の人工弁置換術後などの患者が生涯の内服を求められるワーファリン(抗血液凝固剤)と拮抗して,ビタミンK依存凝固因子の合成を阻害する。そのためワーファリン内服患者はビタミンK含有量の多い食品を避ける必要があり,ビタミンKを多量に含有する納豆の摂食は禁忌とされている5)。
ブラックジンジャーについて
堀田 幸子、小谷 明司
生姜は全世界的に香辛料あるいは薬草として賞用されているが,その類縁植物の約80種類も食材,香辛料,薬草としてインドと東南アジアで用いられている。ショウガ科の植物の原産地はインドからマレイにかけての熱帯地方と推定され,いくつかは栽培されている。
本稿では伝統的にタイで用いられているブラックジンジャーについての最近の知見を概観し,特にその機能性食品への応用可能性について考察したい。
東京都江戸川区産小松菜の色素成分の生理機能と硝酸塩の安全性の検討
前多 隼人、阿部 美菜子、伊藤 聖子、片方 陽太郎、加藤 陽治
小松菜は東京都江戸川区が全国でもトップクラスを誇る野菜である。小松菜は江戸幕府将軍の徳川吉宗が「冬菜(とうな)」と呼ばれている葉物を,江戸川区の小松川にちなみ命名したと伝えられている。東京都江戸川区では区内農家の団体である江戸川区農業経営者クラブと連携して,特産である小松菜のブランド化に向け,新しい品種の栽培や加工食品への応用を進めてきた。その取り組みの一つとして,小松菜に含まれる様々な成分の健康に対する機能を明らかにする共同研究を,平成18年度から弘前大学とおこなっている。これまでに,糖などの栄養成分や調理方法によるおいしさの評価,青森産のリンゴと小松菜を組み合わせた商品開発など様々な取り組みをおこなってきた。今回はこの取り組みの中で見いだされた,小松菜に含まれる色素成分であるカロテノイドによる,主に脂肪細胞をターゲットとした肥満による疾患の予防改善作用と,硝酸塩を含む生の野菜を摂取した際の安全性に関する検討について紹介する。
小麦粉の一部に加工澱粉を添加した食パンの調理科学的特性
菊地 和美、吉田 訓子、高橋 セツ子、知地 英征
北海道における馬鈴しょ澱粉の製造は安政年間(1850年代)に始まったともいわれ,販売用としては明治15年(1880年)渡島支庁八雲村において水車を動力として製造されてきた1)。北海道の馬鈴しょ生産量(2010年175万3,000t・全国の78.4%)のうち,約50%(2007年55.3%,2008年54.2%,2009年51.3%,2010年49.1%)が澱粉の原料として用いられている2-4)。
澱粉に化学的・物理的処理を施した加工澱粉がさまざまな形で利用されるようになり,親水性の増加,糊化開始温度の低下1, 5-6)や食粘度安定性および耐熱性の向上7)などの特徴が挙げられている。ベーカリー製品への加工澱粉の役割としては,テクスチャーの改良や機能性付与(保存性の向上,電子レンジ耐性,水分や糖度のコントロール)など8)が挙げられている。そこで,今回は加工澱粉添加パンの調理科学的特性と嗜好性について報告する。
レポーターアッセイを用いた美白評価
白杉 一郎、榊原 陽一、松井 隆史、水光 正仁
最近日本では肌の美白を望む女性が増えており,美白化粧品を含む化粧品の市場規模が年々大きくなっている。美白成分の探索にはマウス由来B16メラノーマ細胞を用いたメラニン産生試験とマッシュルーム由来チロシナーゼを用いたチロシナーゼの活性阻害試験が広く利用されている。しかし,メラニン産生試験は時間や培養スケール,さらには利便性などの様々な問題がある。また,チロシナーゼの活性阻害試験は簡便で迅速ではあるが,用いているのがマッシュルーム由来のチロシナーゼであり,結果がヒトに応用できるか不明であること,そしてチロシナーゼの発現量の減少を見出すことができないという問題点がある。したがって,これらの方法はスクリーニングには不向きである。そこで,私たちはメラニンの産生に最も重要な酵素であるチロシナーゼの転写調節領域に着目をし,マウスのチロシナーゼの転写活性を測定するハイスループットなレポーターアッセイ法を構築した。
この評価系を用いて,メラニンの産生を亢進させるテオフィリン,メラニンの産生を抑制するアルブチンを測定したところメラニン産生試験の結果と強い相関があった。また,以前私たちが美白作用を有する化合物として紹介したブロッコリーのスプラウトに含まれるスルフォラファンもチロシナーゼのプロモーター活性を低下させた1, 2)。これらの結果より,このレポーターアッセイ法は美白成分を探索する評価系として用いることが可能であることが示された。
50種類以上の化合物を用いてスクリーニングを実施したところ,新規の美白剤の候補としてローズマリーに含まれるカルノソール,アカメガシワに含まれるロットレリンを見出すことが出来た。
本稿では,レポーターアッセイ法を用いた美白効果の評価システムの構築とその応用について紹介する3)。
シロザケ用飼料の油脂源
大橋 勝彦、酒本 秀一
著者らは一連の報告1-4)で以下の点を明らかにした。
・シロザケ稚魚に与える飼料によって体型や成長に違いが生じるのみでなく,体成分組成,絶食耐性,絶食からの回復能力,海水への馴致能力等にも大きな違いが出る。
・餌付け用飼料に魚油を添加すると摂餌性が悪く,成長他に可也長期間悪い影響を及ぼす。餌付け時に魚油を添加すべきではなく,餌付け後4日程度で魚油添加飼料に切り替えれば良い。
“インスタントカレー市場”を創造した驚くべきヒット商品
−『バーモントカレー』ハウス食品株式会社 −
田形 睆作
ハウス食品株式会社は1913年(大正2年)に創業者浦上靖介が,大阪市松屋町筋に薬種化学原料店「浦上商店」を創業。当時の主な扱い品目は肉桂,大黄などの和漢薬品であった。その他,ソースの原料である唐辛子,山椒,クミン,セージなども扱っていた。会社が軌道に乗ってきた1921年(大正10年)に,得意先からカレー粉の販売を委託された。これが後のハウス食品とカレーとの出会いである。これを機にカレー粉の研究に没頭した。1926年(大正15年)には懇意にしていた会社の社長から自社の「ホームカレー粉」の製造・販売部門を買い取って欲しいという依頼があり,熟慮の末,多額の借金をして,営業権や工場などの譲受を決断した。早速,オリジナルの粉末即席カレーを研究開発し,販売を開始した。これが,ハウス食品のカレーの誕生である。
築地市場魚貝辞典(シシャモ)
山田 和彦
師走ともなると先生でなくても,なんとなく慌しい。普段からせわしなく人が動き回っている築地にいてもそう感じるのは,体内の遺伝子に刻み込まれた体内時計が感じるからなのか,などと考えつつ,木枯らしの吹く晴海通りを築地市場へと向かう。場外市場は普段より買出しの人が増え,正月飾りを売る出店などもあって,年末の風景に彩を添えている。場内を見ても,北国の魚を中心にした冬の魚が増えて,冬を感じさせる。
今回は冬の貝,ホタテガイを紹介する。