New Food Industry 2012年10月号

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New Food Industry 2012年 10月号

微生物を用いた二段階培養法による長鎖多価不飽和脂肪酸含有リン脂質の発酵生産
Fermentative production of long-chain polyunsaturated fatty acid-containing phospholipids by the two-step cultivation method using microorganisms

Ahmad Iskandar Bin Haji Mohd Taha、佐藤 眞美子、東條 元昭、神田 啓史、
木元 貴士、金田 輝之、奥山 英登志

Summary
Long chain-polyunsaturated fatty acids (LC-PUFA), such as arachidonic acid (ARA), eicosapentaenoic acid and docosahaenoic acid (DHA), have received a great deal of attention due to their health benefits. A brief introduction on biosynthesis, sources of bioproduction, advantages of phospholipids rich in LC-PUFA, the two-step cultivation and its principle is presented together with application to two microbial species, ARA-accumulating Mortierella umbellata strain NBRC 32836 and a DHA-accumulating thraustochytid strain 12B. The widespread use of this cultivation process is expected in the future as preference and demand for LC-PUFA-containing phospholipid health supplements is also expected to increase.

要 旨
アラキドン酸 (ARA),エイコサペンタエン酸,ドコサヘキサエン酸 (DHA) などの長鎖多価不飽和脂肪酸(LC-PUFA)はその生理機能から有用脂肪酸と呼ばれている。現在,LC-PUFAが食品やサプリメントとして利用される際の分子形態はトリアシルグリセロール(脂肪)である。LC-PUFA は,脂肪として細胞内に貯蔵される以外に,各種の生体膜を構成するリン脂質成分として特有の機能を発揮している。このことからLC-PUFAを摂取する場合の分子形態はリン脂質である方がより望ましいと考えられる。最近,微生物がLC-PUFA源として広く用いられるようになってきているが,ARA,DHA何れの場合も脂肪体が対象となっている。著者らが開発した二段階培養法により,脂肪としてARAを蓄積するMortierella umbellata NBRC 32836株とDHAを蓄積するthraustochytrid 12B株を用いてARA含有リン脂質及びDHA含有リン脂質の発酵生産が可能になった。

環境に優しい成分調製技術 —マイクロ波等を活用した乾燥と抽出技術—

大平 辰朗

化学技術は19世紀の医薬革命,20世紀の農薬や肥料革命を生みだし,今日では衣食住や輸送・通信など分野での飛躍的な進歩を成し遂げ,生活の質の向上に貢献してきた。しかしながら,それらの発達により,人間の健康や住環境を損なうことが問題になってきている。そのため,物質の製造・使用だけでなく,それらの廃棄にいたるまでを規制する動きが活発になっている。このような背景のもと,環境に優しい化学,即ち「グリーンケミストリー」という考え方が注目され,様々な産業分野でその考え方にそった対策がとられるようになった。本稿では,農・林産物の利用分野において,環境に優しく効率性も高いといった点で注目を集めているマイクロ波等を活用する乾燥や抽出技術について紹介する。

サルナシの抗発癌・抗炎症機能性

有元 佐賀惠、沖増 侑磨、西村 麻里

サルナシ(猿梨,Actinidia arguta)はマタタビ科マタタビ属に属し,日本,朝鮮,中国などに分布する蔓性の落葉樹である。6月下旬頃に花をつけ,9月上旬から10月中旬には2〜3cm程度の緑色無毛で特徴的な芳香を持つ果実をつけ,食べ頃を迎える(図1)。熟したサルナシの実は生食に適するほか,ジュース・ジャムなどの加工品やアルコール発酵させたサルナシワイン等が開発されている。果実断面(図2)に見られるとおり,黒い種子を含むが,種ごと生食できる。
 サルナシは山地に自生するが,一部は栽培もされており,「光香(みつこう)」「峰香(ほうこう)」などの栽培品種がある。近縁種にはキウイフルーツ(kiwifruit,学名:Actinidia deliciosa あるいは Actinidia chinensis)がある。キウイフルーツは原種がマタタビ科マタタビ属のシナサルナシであるが,果実はサルナシの方が小ぶりで果実の周りに毛は生えていない点が異なる(図3)。
 サルナシの果実や葉,茎抽出物はアジア諸国で伝承薬として使われ,たとえば韓国では果実が利尿や熱,黄疸,消化不良に対して使用されてきた1, 2)。しかしこれまで,サルナシによる,抗発癌に関する報告はなく,発癌物質によるイニシエーション活性やプロモーション活性などの多段階発癌に対する抑制または阻害作用を示す物質が果汁中に存在するか否かは知られていない。
 本研究では,サルナシ果汁およびその成分による,発癌予防について検討を行った。

緑茶カテキンによるインスリン誘導性転写因子遺伝子 SHARP-1の発現調節機構の解析

浅野 公介、高木 勝広、羽石 歩美、山田 一哉

要 旨
現在,我が国では,糖尿病患者およびその予備軍が,約 2,210 万人にも達している。 我が国の糖尿病の 95 %以上は 2 型糖尿病であり,その成因は,過食・高脂肪食・運動不足などの生活習慣の悪化による肥満から生じるインスリン抵抗性と考えられている。したがって,インスリン作用を引き起こす,すなわちインスリンシグナル伝達経路を刺激できる食品由来の低分子化合物の研究は,病態の予防や治療に有用であると考えられる。私どもは,肝において,インスリンによる血糖低下作用に関わる転写因子として,SHARP ファミリーを同定している。これまで,血糖低下作用を有することが知られている食品成分の中から, SHARP 遺伝子の発現誘導を指標にスクリーニングを行い,いくつかの候補成分を得ている。それらのうち,本稿では緑茶カテキンによる SHARP-1 遺伝子の発現誘導とそのメカニズムについて議論する。

β -クリプトキサンチンは飲酒・喫煙による健康影響に対して有効か
−最近の栄養疫学研究から明らかになったこと−

杉浦 実

果物・野菜はビタミンやミネラル,食物繊維など健康の維持増進に必要な栄養成分の重要な供給源であるが,これらの栄養素以外にも近年その生体調節機能が注目されているカロテノイド類が豊富に含まれている。これらカロテノイド類は何れも強力な抗酸化作用を有するものが多く,近年の疫学研究から,がんや循環器系疾患,糖尿病などの生活習慣病リスクとの関連が数多く報告されている。一方,喫煙者や飲酒者では生体内において酸化ストレスが亢進していること,またこれらの生活習慣が様々な病気の危険因子になることが解っているが,最近,喫煙や飲酒によって引き起こされる酸化ストレスに対してカロテノイドが有効なのではないかと考えられる疫学研究の結果が報告されるようになってきた。本稿では,喫煙・飲酒習慣とカロテノイドの血中濃度との関連について最近の研究を紹介する。

マンゴー生姜について

堀田 幸子、小谷 明司

マンゴー生姜の学名はCurcuma amada Roxb.で,普通の生姜がショウガ属[Zingibera]に分類されるのを考慮すれば植物分類学的にはやや類縁が薄い。生姜の類縁植物のうち約80類が利用されているが,これらの多くはアジア,アフリカ,オーストラリアの熱帯から亜熱帯に分布する。マンゴー生姜の植物学的位置づけは単子葉植物綱,ショウガ目[Zingiberales],ショウガ科[Zingiberaceae],ウコン属[Curcuma]である1, 2)(図1)。 生姜類の原産地はインドからマレイにかけての地帯と推定され,インドの西ベンガルにマンゴー生姜の野生種の自生が確認されている。栽培はインド各地で行われている。

養魚用初期飼料原料としてのスサビノリスフェロプラスト

酒本 秀一、荒木 利芳、吉松 隆夫

現在の養魚用飼料には植物性原料として小麦粉,脱脂大豆粕,コーングルテンミールなどの陸上植物由来の物が用いられている。ところが海藻類は一部でアスコフィルムの粉末などが用いられている程度で,使用料はごく少ない。しかも海藻類の使用は,魚がある程度大きくなってから与えられる育成用飼料向けが大部分で,仔稚魚に与えられる初期飼料には殆ど用いられていない。その主たる理由は,海藻類の細胞壁が魚によって殆ど消化されない為に栄養成分が吸収出来ないことと,海藻の栄養成分には偏りが有って養魚飼料の原料として適切でない為とされている。
 上記の理由によるのであれば,海藻の細胞壁を除去してプロトプラスト(植物や微生物などの細胞壁を酵素処理によってほぼ完全に取り除くことによって得られる球状の細胞)あるいはスフェロプラスト(細胞壁を酵素処理によって部分的に取り除くことによって得られる球状の原形質体で,細胞が一つ一つバラバラになっている物以外に,数個〜数十個の細胞が凝集している物も混在している)の状態にすることによって魚の消化吸収を容易にし,更に不足している栄養成分を補足することによって養魚用初期飼料の原料として利用出来るのではないかと考えた。

塩麹 ~温故知新の調味料~

山本 晋平、松郷 誠一

米麹注)に食塩と水を混ぜて発酵させた調味料「塩麹」が近年とりわけ2011年の夏ごろから注目を集めている2)。日本の伝統的発酵食品である味噌,醤油,酒などの醸造には,必ず麹菌が用いられており3),日本の人々のものの見方,考え方,そして,日本の社会に大きな影響を与えてきた微生物である4)として,2006年10月12日の日本醸造学会大会で麹菌が国菌に認定された。しかしながら,味噌5),醤油6),酒7)などの販売数量は減少傾向に歯止めがかからない状況で推移しており,国菌の将来に不安があった。国菌を使用した「塩麹」が単なる一過性のブームで終わらず,わが国の伝統的な食文化の根底を見直す一助となることを期待して,本総説にまとめてみる。

“お好み焼”を全国に拡大中の驚くべきヒット食品
−『お好みソース』オタフクソース株式会社 −

田形 睆作

オタフクソース株式会社は1922年(大正11年),創業者・佐々木清一が広島市横川町で,酒・醤油類の卸小売業「佐々木商店」を創業したことが始まりである。その後,1938年(昭和13年)醸造酢の製造を開始。ブランド名を「お多福酢」とした。
 「お多福酢」と名付けた気持ちは”精魂込めてつくった酢を食してもらうことによって,一人でも多くの人たちに幸福を広めたい”という考えからである。創業者には,「人々に喜びと幸せを広めることを自らの喜びとする」という思いがあった。これは今でも社員に理念として受け継がれている。
 現在の経営基本理念に使命観として「『健康と豊かさと和』をもたらすことにより,社会に貢献します」。また,行動の誓いとして,
1.一滴一滴に真心を込めて,美味しさと安全・安心を笑顔でお届けします。
2.お天道様に恥じない企業として,法令と企業倫理を遵守します。
3.郷土の誇る企業として,「食を通じて団らんの楽しさ」を発信します。
4.自然の恵みに感謝し,天然の味覚をつくります。
5.無限の変化にスピードある行動で挑み,喜びと幸せに奉仕します。
6.自ら高い目標を掲げ,気迫,執念,勇気,責任感をもって行動します。

 これらを掲げている。使命感,行動の誓いともに,全社員が共有している。本稿を記述するにあたり,オタフクソース株式会社 佐々木茂喜社長に取材をした。