New Food Industry 2012年 8月号

酵素処理アスパラガス茎熱水抽出物の熱ショックタンパク質発現増強効果

伊藤 知洋、下廣 慶宜、小野 智子、前田 哲宏

現代はストレス過負荷の時代であり,「疲労大国」といわれる日本では疲労やストレスを感じている人は国民の約8割にのぼる。また,不眠人口や自殺者の増加を背景にストレス対策が社会的な課題となっている。さらに,健康診断などの検査を行って異常が認められないにもかかわらず,食欲不振,不眠,めまい,冷や汗などの身体的症状,あるいは人間不信,情緒不安定,イライラ,抑うつ気分などの精神的症状を訴える人が多い。こういった不定愁訴を伴う症状は自律神経失調症と診断されることが多い。自律神経は交感神経と副交感神経から成り立っており,過度のストレス負荷により交感神経と副交感神経のバランスが崩れたり,自律神経の活動度が低下したりすると自律神経失調症が誘発される。
 熱ショックタンパク質(heat shock protein:HSP)は,ストレスタンパクとも呼ばれ,分子量が約数万から15万程度のタンパク質であり,分子量によりいくつかのファミリーに分類されている(HSP10,HSP27,HSP40,HSP60,HSP70,HSP90,HSP110など)。HSPは生物が物理的,化学的,生理的あるいは精神的ストレスを受けた場合に細胞内に誘導されるタンパク質の一群である。具体的には,熱,細菌感染,炎症,活性酸素,紫外線,飢餓,低酸素状態などの様々なストレス条件に曝された際に発現が上昇して細胞を保護し,さらにはタンパク質の折りたたみ(フォールディング)を制御したり,異常タンパク質(狂牛病プリオンタンパク質,アルツハイマー病アミロイドベータタンパク質など)の凝集を抑制したりする分子シャペロンとしての機能を有する。

キノコの抗Ⅳ型アレルギー作用

芳野 恭士

キノコは低カロリーで,特有の香りと旨みといった嗜好性の良さが好まれている食品である。キノコには毒性に関する報告も多い一方で1),ヒトの健康保持に有用な様々な効果があることも知られている2)。食用以外のキノコを含め,抗がん作用,抗菌作用,抗ウイルス作用,血糖降下作用,血圧降下作用,コレステロール低下作用,抗炎症作用などの多くの保健作用を示すキノコとその成分が報告されている(表1)。中でも,抗腫瘍作用は特に注目されてきた。有効成分としては,β-D-グルカン,ヘテロ-β- D-グリカン(キシロース,マンノース,ガラクトース,ウロン酸等を含む),キチン質(キチン,キトサン),ペプチドグリカン,プロテオグリカン,レクチン,核酸(RNA),難消化性多糖(食物繊維),ゲルマニウム,テルペノイド(ガノデリン酸),ステロイドや不飽和脂肪酸などの脂質成分等がある。また,その作用機序としては,主に宿主免疫能への作用が報告されている。特に,キノコに含まれる抗腫瘍性のβ-D-グルカンやヘテロ-β-D-グルカン,キチン質などは,宿主の免疫能を増強することにより,その効果を発揮するものと考えられている3)。このような作用を持つものとして,シイタケ(Lentinula edodes)から得られる抗腫瘍成分のレンチナン(分子量40-80万,β-(1→6)分岐(1→3)-β-D-グルカン)がよく知られている。さらに,キノコには過剰に発現した免疫反応を抑制する作用があることも報告されており,いわゆる免疫調節機能を有するものと考えられる。その有効成分としては,エノキタケ(Flammulina velutipes)のFveタンパク質4)や,キシメジ属(Tricholoma)の糖タンパク質5),フクロタケ(Volvariella volvacea)の新規レクチン6)などがある。

官能評価とは何か,何が分かるか

相島 鐵郎

衣食が満ち足りた社会において,食文化は民族や個人のアイデンティーとしても重要な役割を果たす。フランス革命時,美味学の創始者として有名なブリア・サヴァランは著書「美味礼賛」で「君がどんなものを食べているか言ってみたまえ,君がどんな人であるか言い当ててみせよう」と述べている1)。確かに食は命の源であり,日頃の食生活と人間性の関係は深い。食べ物に対する嗜好の根は深く,妊娠中に母親の食事から血中に移る香りを胎児が記憶したり,母乳に移行する食品の香りが離乳食に対する乳幼児の嗜好や成長後の食品選択を左右するという追跡調査の結果も多々得られている2)。
 さて食品は多種多様な無機,有機化合物の集合体であり,それらの化合物が単独あるいは相互作用を通じて飲食時に認識される,外観,香り,味,咀嚼音,食感などを官能特性と呼ぶ。今日,食品成分はクロマトグラフィー,スペクトロメトリー,センサなどにより高感度な測定が可能ではあるが,残念ながらいかなる分析機器も味や香り自体は測れない。
 一方,人間の五感を利用して味や香りそのものを分析するのが官能評価である。官能評価の歴史は人類の誕生時にまで遡る。食糧の自給自足時代,私達の先祖が手にした獲物が食べても安全か否かを判断する基準は香りと味以外にはなかった。一般に腐敗臭と苦味は危険信号であり,遺伝的にそれらを認識できた家系は生き残り,できない血統は絶えざるをえなかった。しかし統計的な検定法を導入した今日の官能評価は,わが国では食糧不足により餓死者も続出していた第二次世界大戦直後,アメリカと北欧で誕生した3)。
 本稿では近年,飲食品の研究開発に利用例が急速に広がりつつある最も情報量の豊かな官能特性計量法,嗜好評価法及び得られたデータの解析法を具定的な例を挙げて紹介したい。

医薬品の範囲に関する基準の一部改正と
生薬成分等のリスク区分見直しの考え方と検討の結果について

劉 勝彦

本誌2010 VOL.52 No.4「『食薬区分』見直しで医薬品への変更が予測される健康食品素材について」で取り上げた注目素材であるフーディア・ゴードニーやシッサス・クアドラングラリス等が,平成23年年7月28日「医薬品の範囲に関する基準」の「食薬区分における成分本質(原材料)リスト」の一部改正に関する意見募集が厚労省医薬食品局監視指導・麻薬対策課より発出された。と報告したが,その後の経過と関係当局の考え方について,『平成24年(2012)3月7日第24回 伝承素材研究会セミナー(糖業会館 東京・有楽町)第2部「食薬区分」で「専ら医」とならないための方策を探る「医薬品の成分本質に関するワーキンググループ」の考え方を読み取る』において講演した。本稿は前報の経緯に加え今回の講演内容を整理改稿したものである。

特許明細書から見たチョコレートドリンク類の有益な技術情報

宮部 正明

食品に関する教科書,専門書等から得られる知識,情報と開発現場において必要とする知識,情報に“乖離”があることをしばしば経験する。
この“乖離”という事象に対する認識に差があるのは,前者は技術情報としての一般論に留まるのに対して,後者は風味,食感,物理的性状,保存性等,食品に総合的に求められる完成度の高い商品設計に係わるものであるという大きな違いによると思われる。
 特許明細書は実戦レベルで得られた技術情報であり,更にこれらの情報を技術思想に止揚したものである。そうであるから特許明細書は開発現場での新たな商品設計や解決に必要とする技術知識,技術情報の宝庫と言える。
 ここでは,食品の中でもチョコレートドリンク類を取り上げて,実戦レベルで役立つ有益な技術情報を特許明細書より提供しようとするものである。

魚油の再評価−Undenatured Tuna Oilの機能性−

伊東 芳則

日本が主要な研究基地となって,世界の魚油利用をリードしてきて30年,今では,日本より欧米でその機能性の評価が高く,欧米では高度不飽和脂肪酸の代名詞となっているオメガ3は,健康に良い油と言うことで,社会的認知度抜群であり魔法の言葉となっている。近年米国では,健康食品市場の売り上げナンバーワンは,オメガ3魚油となっている。筆者は,約5年前に冷凍鮪水揚げ日本一の静岡県の清水市のまぐろ加工会社に乞われて,まぐろの廃棄部分の有効利用をテーマに商品開発を継続してきた。
 最初は,まぐろからのDHAやEPA高度含有油の採取は,研究が進んでいることもあり,新しい発見は無いだろうし,大企業が大規模設備で石油化学工業的に生産する魚油に対して,コスト的にも量的にも太刀打ち出来ないのでは,と,漠然と考えていた。赴任した鮪加工会社は,鉄鋼団地内にあり,富士山が目の前に見える絶景の地であったが,使用できる水は,井戸水だけで,1日30トンのみであった。これでまぐろの切り身・刺身加工とコラーゲンや油の抽出加工をしなければならない状況であった。常識的には,魚の加工には,1トン当たり10トンの水が必要と言われているので,一時はここで加工が出来るのかと暗澹たる思いであった。兎に角智恵を尽くせば何か良い方法が有る筈と思い,目の前に広がる富士山の絶景を見ながら漠然と考えていた。高校生時代に山登りが好きで,北アルプスを縦走した思い出に浸りながら,ふと富士山の頂上では,気圧が低く,低温でも沸騰してしまい,米が旨く炊けないと言うことを思い出した。閉ざされた容器内で,真空下で,まぐろの頭部からコラーゲンを抽出したら,水の使用量も少ないし,高品質のコラーゲンが抽出できるのでは思いついた。早速真空下で低温沸騰させ,身肉をほぐし,次に収率を上げるために加圧し,今度は沸騰させずに抽出すると言う方法を考え出した。

養魚用飼餌料への機能性物質の添加効果

酒本 秀一

前報1)においてニジマスの鰭欠損症はFlavobacterium属細菌の感染症状の一つであること,ブドウ種子抽出物(KPA-F)とβ-1,3/1,6-グルカン(MacroGard)の飼料添加が発症抑制に効果が有ること,KPA-FとMacroGardには併用効果は認められないが,これらにビタミンCとビタミンEを添加すると効果がより強くなり併用効果が有ること,KPA-F,MacroGard,ビタミンC,ビタミンEそれぞれの至適添加量は0.1,0.1,0.5,0.1%であることなどを簡単に説明した。更にブドウ種子抽出物のみでなく,ブドウ皮の乾燥粉砕物にも同様の効果が有ることも別報2)で説明した。
 それぞれの報告は紙数の都合で大幅に説明を省略したので理解し難かったのではないかと危惧したことと,全く説明しなかった試験についても概要を書いておく方がより理解し易くなると考え,本報告を作成した。

野菜飲料市場を創造した驚くべきヒット食品
−『カゴメトマトジュース』カゴメ株式会社 −

田形 睆作

カゴメ株式会社は1899年,創業者・蟹江一太郎がトマトの発芽を見た日に始まる。それ以来,時代に先駆けた新しい食のあり方を提案してきた。その中心にあるのは「自然を,おいしく,楽しく」という考え方である。これは「カゴメブランドがお客さまに約束すること」であり,自然の恵みを活かして,お客さまと社会の健康長寿に貢献できる企業であることを願っている。企業理念である「感謝」「自然」「開かれた企業」という3つの言葉のうち,「感謝」「自然」は創業以来培ってきたものであるが,「開かれた企業」は21世紀に実現していくべき理念であると捉えている。開かれた企業として,新しい価値を創造し,人・社会・環境に貢献することが企業目標である。
 会社概要は創業1899年(明治32年),設立1949年(昭和24年)。資本金199億85百万円,売上高(連結)1,813億円,経常利益(連結)84億円,純利益(連結)25億円,従業員数2045名,(数値は2011年3月31日現在)である。

築地市場魚貝辞典(ハモ)

山田 和彦

築地市場の海幸橋門を出てすぐ右側に,木立に囲まれた一角がある。正面の鳥居をくぐるとこじんまりとした社殿があって,ここが波除神社であることがわかる。築地市場に出入りする人の中にも,鳥居の前で一礼して通る人が少なくない。例年,6月の上旬になると波除神社の夏の大祭が行われる。築地界隈に祭囃子が聞こえ,神輿や大獅子が周辺を練り歩く夏の大祭が終わるといよいよ夏も近い。今回は夏の魚,ハモを紹介する。

“薬膳”の知恵(69)

荒 勝俊

中医学において,肥満は体のバランスが崩れているために太りやすい体質になっていると考える。従って,中医学において考えるダイエットは単純に体重を減らすことではなく,体のバランスを整えることを目的にする。そこで,個人個人の体質を見極め,中医学の理論に基づき身体のバランスを整える事を主体にダイエットが行われる。我々の体は本来,その人の一番理想的なバランスを自然に保つ様にできており,生活の乱れやストレスによって,そのバランスが崩れてくると,気・血・水の流れが悪くなり,余分な物が体内に溜まって太ると考えている。中医学におけるダイエットの考え方は,体重を減らすのではなく,体のバランスを整えることを目的とする。
 中医学では人体を一つの有機的統一体と考え,人体の構成要素である気・血・津液のバランスを改善させる事でその人が本来もっている臓器の機能を回復させ,身体の内部を整え,無理の無い自然なダイエットが可能と考えている。
 そこで,中医学の基礎概念である陰陽五行学説に基づき,健康管理や病気治療のために食材の持つ様々な機能を組み合わせて作った“薬膳料理”を食す事で人が本来もっている臓器の機能を回復させ,身体の内部を整える事で自然とダイエット効果が得られると考えている。

㈱クリマ 氷温熟成豚肉氷室熟成豚肉は新たな時代の幕開けか?

山川 茂宏

2012年2月3日,関東経済産業局で「地域産業資源活用事業計画」の認定がされた。第16号として16件の認定である。地域産業資源活用事業計画とは,都道府県が地域産業資源活用事業の促進に関する基本的な構想(基本構想)において指定を行った地域産業資源(農林水産物,鉱工業品,観光資源)を活用して,中小企業等が新商品・新サービスの開発や需要の開拓を図る事業に関する計画である。