New Food Industry 2012年 6月号
カエデ属植物の血糖値上昇抑制作用
本間 篤史、矢澤 一良
糖質は動植物の重要な構成成分,あるいは生体維持活動のエネルギー源として利用される最も重要な栄養素の一つである。しかし遺伝的要因,環境やストレス,食生活などの生活習慣の変化に伴い,糖代謝異常が起きるケースがある。低血糖症や糖原病がそれに当たるが,これらの中で患者数がとりわけ多く,発症の可能性が高い疾患が糖尿病である。
糖尿病はインスリンの分泌不全や感受性不全(インスリン抵抗性)によって血糖値が上昇する代謝異常である。大きく前者は1型に後者は2型に分類され後者は糖尿病患者全体の約9割を占める。糖尿病時の高血糖状態の持続によって腎症,神経障害,網膜症,動脈硬化性疾患などの合併症が引き起こされ,深刻なダメージを与える。さらに糖尿病の自覚症状の出現が遅いため,悪化が進行し死に至るケースもある。よって日頃から自己管理を行い,糖尿病を予防することは非常に重要である。
厚生労働省が発表した平成22年度国民健康・栄養調査によれば,日本の30歳以上の男性の16.1%,女性の8.8%が医療機関や検診で「糖尿病」と診断され,糖尿病予備群として糖尿病が強く疑れた人の割合が男性で17.4%,女性で9.6%であり,これまでの調査の中で最も高い数字となっている1)。この数字は日本国民の30歳以上のうち約3割(3.3人に一人)が糖尿病およびその予備軍に該当し,とても大きな数字である。
クマ笹葉エキス由来製品の開発、機能性評価及び口腔疾患への適応
坂上 宏、松田 友彦、田中 庄二、町野 守、安井 利一、伊藤 一芳、北嶋 まどか、杉浦 智子、大泉 浩史、大泉 高明
要約
クマ笹葉エキス由来製品である第三類医薬品の製品A,製品B,製品C,そして健康食品のSE-10(エスイーテン)の生物活性を比較検討した。これら4種いずれも,他の低分子ポリフェノール(タンニン類,フラボノイド類)と比較し,高い抗HIV活性,紫外線に対する細胞保護活性(抗UV活性)を示した。その中でも,製品AおよびSE-10の活性が最大であった。製品AおよびSE-10は,CYP3A阻害活性が最低値を示すことから,併用薬による副作用のリスクが相対的に低いことが判明した。製品Aを口腔扁平苔癬患者に投与することにより,症状の緩和が見られた1例を紹介する。クマ笹葉エキスの高い抗ウイルス活性は,口腔疾患への適応を示唆する。
SUMMARY
Biological activities of four Sasa Makino et Shibata leave extract products: the third group of over-the counter drugs (products A, B, and C) and health food (SE-10) were compared. All products showed higher anti-HIV and UV protection activities, as compared with lower molecular weight polyphenols such as tannins and flavonoids. Product A and SE-10 were the most potent, and showed lower CYP3A4 inhibitory activities, reducing the risk of adverse effects of accompanying drugs. One case of therapeutic effect of product A against oral lichen planus is shown. Potent anti-viral activity of Sasa Makino et Shibata leave extract products suggests their possible application to the virally-induced oral diseases.
もち麦を用いたγアミノ酪酸の高生産技術(その1)
Method for Producing Seeds of Mochi Barley Containing a High Concentration of γ-amino Butyric Acid (GABA)
渡部 保夫
健康志向からいろいろな効能が表示された健康食品が販売されており,販売も好調と聞く。厚生労働省は,1991年から「食生活において特定の保健の目的で摂取をする者に対し,その摂取により当該保健の目的が期待できる旨の表示をする食品」を特定保健用食品と呼び,栄養改善法第12条に基づいて表示許可をスタートしたとしている1)。 さらに,2001年4月には,次に一部例示する表示可能な内容に応じて個別に審査して許可する「特定保健用食品(トクホ)」と,ある一定の規格基準を定めて許可する「栄養機能食品」に分け,両者をまとめて「保健機能食品」という制度を作った。保健の効果を表示できるのは特定保健用食品(トクホ)だけであり,それぞれ製造企業が有効性や安全性を担保する科学的データを政府に提出して審査を受けた後,効能の表示の許可を受けることになっている2)。「血圧が高めの方」,「コレステロールが高めの方」,「おなかの調子を整える」,「虫歯の原因になりにくい」などの効能が表示された食品が,現在多数市販されている。これらの特定保健用食品にはそれぞれ機能性物質を含んでおり,その種類は多種多様である。本稿で紹介する機能性物質であるγアミノ酪酸(GABA)は一般にギャバを呼ばれているが,上記の「血圧が高めの方」として表示が許可されている。
γアミノ酪酸(GABA)はグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)の作用によりグルタミン酸(Glu)から作られる3)。植物には普遍的にGADが含まれているため,お茶の嫌気的処理(ギャバロン茶)4)や玄米の発芽5)によりGADを活性化して高濃度のGABAを生成している。カボチャは高等植物の中でもGAD活性が高いので,これを利用してGABAカボチャ粉末を製造している6)。また,キムチやヨーグルトなどでは,Lactobacillusなどの乳酸菌の作用でGABAが生産される。その発酵乳はGABAの血圧降下作用により「血圧が高めの方」のための特定保健用食品として市販されている7, 8)。これら以外のいろいろな食材にGABAを付与できれば,GABAの保健効果がより広く一般に受け入れられるとも考えられる。本稿では,従来にないGABA強化食材を開発できたので,研究内容を紹介したい。
トコトリエノールによる中性脂肪代謝の改善:
米糠トコトリエノールを利用した肥満になりたくない健康食品の開発に向けて
仲川 清隆、BURDEOS Gregor Carpentero、加藤 俊治、小野瀨 晋司、明石 直美、木村 ふみ子、宮澤 陽夫
ネズミを全乳で飼育すると成長異常がないのに繁殖しないという1920年の動物実験が契機となり,ビタミンE(トコフェロール,Toc,図1)は発見された1)。それから約40年後に,トコトリエノール(T3)はゴム樹液から見出された2)。TocとT3の違いは,側鎖構造の違いで,Tocは飽和フィチル側鎖を,T3は不飽和イソプレノイド側鎖を持つ。自然界には8種類のビタミンE(α-,β-,γ-,δ-Tocおよびα-,β-,γ-,δ-T3)が存在し,異性体の違いはクロマン環上のメチル基の数と位置の差異による。ビタミンEは植物の葉緑体で生合成され,Tocは植物界に広く分布し,米油,小麦胚芽油や大豆油に多く含まれる。一方,T3が含まれる天然物は限られ,米糠やパーム油に特徴的に含まれている。従来,ビタミンEとしてのトコフェロール(Toc)の研究が進められてきたが,不飽和ビタミンEであるトコトリエノール(T3)の生理機能が近年注目されてきている。
多糖類ハイドロゲルの熱的及びレオロジー的性質に影響を与える架橋領域を考察する
渡瀬 峰男
牛乳などの液体食品やせんべいなどの固形食品を除くほとんどの食品はゲル状態で提供される。特に,嚥下困難者における嚥下訓練食はゲル状態で食べられる。ゲル状態は嚥下訓練食の口当たり,歯ざわり,喉越しなど口腔内感覚,いわゆるテクスチャーを改善するためのテクスチャー・モディファイアーとして用いられる。従って,ゲル状嚥下訓練食を作製するためにはゲル形成能をもつ多糖類などを使用することになる。これらに使用される多糖類などは原料の採取する場所,時期など,さらに製造法などによってもゲル形成能が異なるため製造番号がかわると,ゲル形成能も変わる。これらは,分子量や側鎖基などの影響が主たる要因と考えられる。
ゲル状嚥下訓練食のテクスチャーは,嚥下困難者が皮膚または筋肉感覚で知覚する性質であり,その評価は嚥下困難者を通じて行わなければならない。しかし,嚥下困難者の体調によっては誤解や錯覚,さらに集中力の欠如,先入観などが考えられるため,再現性のよいゲル状嚥下訓練食を作ることが困難である。さらに,ゲル状嚥下訓練食の官能評価は健常者によって行われているのが現状である。
ニジマスでFlavobacterium属細菌の被害を軽減する方法-1
酒本 秀一
養殖ニジマスにおいて鰭の一部あるいは大部分が無くなる鰭欠損症の原因として,養殖業者間では経験的に池の構造,過剰な飼育密度,魚の系統など色々なことが云われてきた。しかしながら,いずれの説も信憑性に乏しく,有効な対策が確立出来ていなかった。
そこで鰭欠損症の原因を調べたところ,冷水病菌1, 2)(Flavobacterium psychrophilum)やカラムナリス病菌3, 4)(Flavobacterium columnare)などのFlavobacterium属細菌の感染症の一症状であることと,飼料にパン酵母由来β-1,3/1,6-グルカン(MacroGard)やブドウ種子抽出物,ビタミンC,ビタミンEなどを適切量添加してやれば可也被害を軽減出来ることなどが証明出来た5)。また,体表の粘液がFlavobacterium属細菌の感染を防いでいることと,この作用は粘液に含まれるリゾチウムなどの化学物質によるものでなく,単純に病原菌の付着・侵入を防止する物理的作用が主体であるらしいことも分かった。
杉本ら6)はウナギの養殖池においてFlavobacterium属細菌は飼料のタンパク源である魚粉を栄養源とし,食べこぼしや食べ残した飼料の表面で増殖していることを報告している。つまり,池が残餌や糞で汚れている環境下で体表の粘液が剥がれればFlavobacterium属細菌に感染し易いことになる。
よって本試験では残餌や糞の蓄積に大きな影響を及ぼす魚の飼育密度,通水量および給餌率と鰭欠損症発生率の関係を調べた。更に,魚の系統の違いによる発生率の違いも調べた。
本報で魚の飼育密度と通水量に関する試験結果を,次報で給餌率と魚の系統に関する試験結果を説明する。
特許取得8件・冷食をレンジで揚げたて 驚くべきヒット食品
−「パリパリの春巻」 株式会社ニチレイフーズ社 −
田形 睆作
ニチレイグループは創業60周年の2005年(平成17年)度より,持ち株会社と5つの基幹事業会社からなる持株会社体制に移行した。株式会社ニチレイフーズはその中で加工食品事業を担当する。
ニチレイグループは,戦時中,国民に不足がちであったタンパク資源の確保を目的として設立された帝国水産統制株式会社を前身とし,終戦間もない1945年(昭和20年)12月に日本冷蔵株式会社として創業した。それ以来,「毎日の食卓に出来うる限りとれたて,作りたてのおいしさ」を提供することを目標に,産地と食卓を結ぶ低温物流ネットワークを構築してきた。ニチレイの事業領域が食品産業の川上から川下にまで広がっているのは,「おいしさ」と「新鮮」を追求した結果である。ニチレイグループ全体の強みとして「より高品質 をモットーに素材へのこだわりと冷凍技術を磨き,安全・安心と美味しさの提供」を掲げている。
ニチレイフーズも「素材へのこだわり冷凍技術を磨き,生活者にとって新しい価値の提案」を企業目標に掲げ,「安全・安心・健康」「簡便かつ高品質」「おいしいものを適正な価格で」というテーマのもと,さらなる素材へのこだわりと優れた加工技術によって,加工食品の開発に取り組んでいる。こういった企業目標のもと,長年培ってきた独自の冷凍技術を活用し,日本の食生活を革新する多くの商品を開発してきた。今回の『パリパリの春巻』はニチレイフーズの技術陣の創造力を発揮した商品である。実に出願特許が10件,うち登録特許8件が基幹となっている商品である。もちろん,特許以外に長年培ってきた技術ノウハウも入り込んだ商品である。
株式会社ニチレイフーズ 技術開発センターに伺い,研究開発部に取材した。
伝える心・伝えたいもの —カントリーウォーク —
宮尾 茂雄
2011年10月半ばの土曜日,長野市内での用事を済ませたその足で小布施を訪れた。長野電鉄で長野駅から30分余り,小布施はちょうど栗の季節。駅前はこれから散策する人やサイクリングツアーのグループなどで賑わっていた。駅にある「六斉舎」という案内所で「小布施deカントリーウォーク①」1)という地図(カントリーマップ)をもらい(写真1),栗林を目指して歩きはじめた。春先,栗やリンゴの花の咲く前に訪れたとき,秋に再び訪ねてみたいと思っていた。
築地市場魚貝辞典(アサリ)
山田 和彦
日が高くなり,暖かな日が増えるとともに木々の緑も濃くなってくる。築地市場正門向かいにある朝日新聞前のカラマツも緑を吹き返す時期である。暖かくなると水も温んでくる。温むとともに昼間の引き潮の下げ幅が大きくなるので,波打ち際で遊ぶ助けとなるのである。これは江戸の頃からもそうであったようで,浮世絵や川柳などにも,その様子が描かれている。現在の築地からは海の様子は直接見えないが,かつては隅田川の河口にも,広く干潟が広がっていたに違いない。干潟,そして引き潮とくれば,それはもう潮干狩りである。今回はアサリを紹介する。
“薬膳”の知恵(67)
荒 勝俊
最近,中国においても食生活のリズムの乱れや劣質化,ストレスによる自律神経の失調,疲労,により胃炎と胃・十二指腸潰瘍が増加傾向にある。主な症状としては食欲減退,胃や上腹部の痛み,胸焼け,膨満感,吐き気,嘔吐,などがある。
胃・十二指腸潰瘍は中医学において,“胃痛”,“胃脘痛(心窩部付近の疼痛を主症とする病症)”,“吐酸”,“嘈雑”,の範疇に属し,脾と胃の疾患に分類される。
胃・十二指腸潰瘍の原因は,飲食の不摂生,冷え,アレルギー,ストレス,脾胃虚弱,肝脾不和,による。
中医学では人体を一つの有機的統一体と考え,人体の構成要素である気・血・津液のバランスを改善させる事でその人が本来もっている臓器の機能を回復させ,身体の内部を整え,新陳代謝を改善し,胃・十二指腸潰瘍が改善できると考えている。
そこで,中医学の基礎概念である陰陽五行学説に基づき,健康管理や病気治療のために食材の持つ様々な機能を組み合わせて作った“薬膳料理”を食す事で人が本来もっている臓器の機能を回復させ,身体の内部を整える事で胃・十二指腸潰瘍に対して改善できると考えている。