New Food Industry 2012年 4月号

セルロース粒子サイズが製パン性に及ぼす影響

田原 彩

要 約
様々なサイズに造形したセルロース粒子を7種類(6-650μm)準備した。セルロース粒子を小麦粉に10,20%ブレンドしたものを用いて製パン試験を行った。セルロース粒子サイズが154μm以上の場合,小麦粉だけのパンとほぼ同様の製パン性(パン高 mm,比容積 cm3/g)の得られることが観察された。一方,粒子サイズがそれより小さくなると製パン性は次第に減少した。最も大きいセルロース粒子を機械的に20,40,60分間粉砕したものを小麦粉にブレンドし製パン試験を行った結果,粉砕時間の増加に従って製パン性は減少した。次にセルロースブレンド小麦粉のミキソグラフ試験を行った。154μm以上のセルロース粒子をブレンドした小麦粉では,ミキソグラフのプロフィールは小麦粉だけのプロフィールとほぼ同じパターンであり,粘性のあるグルテンマトリックスを示した。しかし,154μmより小さいセルロース粒子の場合,小麦粉のみのプロフィールとは異なるパターンを示した。このドウからは顕微鏡観察によるグルテンマトリックスの連続性を確認できなかった。またファーモグラフ試験では,セルロース粒子サイズの減少に伴って,セルロース粒をブレンドしたパンドウから漏れ出たガスの量が増加した。

わさびとウド・セリ科野菜に含まれるGSK-3β阻害物質の2型糖尿病に関わる機能性

吉田 潤、伊藤 芳明、木村 賢一

70年前の日本人の死因別死亡者の割合は,第1位から第3位までを細菌による感染症(肺炎,気管支炎,結核,胃腸炎)が占めていたが,微生物天然資源から抗生物質(ペニシリンやストレプトマイシン)が発見されて実用化に至ったノーベル賞の研究により著しく減少した1, 2)。その結果,現在の日本人の死因別死亡者の割合は,厚生労働省の平成21年版厚生労働白書によると,第1位は癌,第2位は心疾患,第3位は脳血管疾患と変化し,生活習慣病の増加が大きく影響している。
 さて,生活習慣病の1つである糖尿病の患者数は,厚生労働省の平成19年国民健康・栄養調査によると,日本人で糖尿病を強く疑われる人は890万人,可能性が否定できない人を合わせると2210万人と推計されている。糖尿病のうち9割以上がインスリン非依存性の2型糖尿病である。従って,2型糖尿病の予防,または病気の進行を遅らせる目的で,機能性が科学的に証明された食品を積極的に摂ることは,今後益々重要になると考えられる。機能性が科学的に証明された食品を新たに作り出すためには,機能性物質の構造,並びにどの位の量でどの程度作用し,体のどの部位(分子)に作用しているのかを明らかにする必要がある。このような研究は,医薬品開発の研究手法に近いが,安全かつ有効な機能性食品を作るためには必須の研究である。また,生物活性物質とその作用点を明らかにする研究は,最近ではケミカルバイオロジーと呼ばれ,未知の生命現象の解明を通して,新たな機能性研究へのパラダイムシフトにつながることが期待されている3, 4)。
 このような背景において筆者らは,微生物,植物,食材,海藻などの天然資源より,疾病と関連する遺伝子を改変した各種遺伝子変異酵母スクリーニング系を用いて,構造や生物活性の面で新しい生物活性物質を探索し,その分子構造と作用メカニズムの研究(ケミカルバイオロジー)を行なっている5)。その中で本稿では,2型糖尿病の薬剤標的分子として注目されているグリコーゲンシンターゼキナーゼ-3β(GSK-3β)を阻害する食材由来の化合物について紹介する。

メタボ改善素材開発におけるリポタンパク質プロファイル解析の意義と応用
~機能性素材探索からヒト臨床試験まで~

畠 恵司、木内 高信、高橋 純一郎、浜田 健太郎

2008年 4月に特定健康診査(通称メタボ健診)が始まり,メタボリック・シンドロームや脂質異常症への注目が高まり,これらを改善する機能性食品素材の研究・開発がますます盛んに行われるようになってきた。こうした研究開発には,主に疾患モデル動物への投与による評価が用いられているが,個体差が少なく,開発に要する費用や時間の短縮・効率化が期待できるin vitroの評価系の確立が重要である。
 今回我々は,ゲル濾過HPLCによるリポタンパク質解析法を用い,ヒト肝臓癌由来細胞の培養上清に分泌されるリポタンパク質の脂質プロファイルを分析することで,新たな“抗メタボ素材”の in vitro探索評価系を開発した。さらに,本評価系を用いて,実際に脂質異常症改善効果を示す食用植物を探索した。顕著な改善作用が認められた秋田県の特産品であるジュンサイ(Brasenia schreberi)については,モデル動物実験ならびにヒト臨床試験を実施し,脂質異常症改善効果をさらに検証した。

シロザケ飼料の魚油添加効果-2

酒本 秀一、大橋 勝彦

 前報の結果を受け,本試験は以下の4点を目的に実施した。
・魚油無添加飼料から添加飼料への適切な切り替え時期の確認。
・シロザケ用飼料への魚油の適切な添加量の確認。
・魚体の脂質含量と脂肪酸組成が飼料の脂質含量と脂肪酸組成を反映することの再現性を確認。
・絶食耐性と絶食からの回復能力が魚体の脂質含量によって規定されることの再現性を確認。
 試験の手順は前報と同じで,飼育試験,絶食試験,回復試験の順に実施した。なお,回復試験後の魚は海水馴致能に区間差が無いことを前報で確認したので,今回は海水馴致試験は行わなかった。

人体への寄生虫感染を警戒すべき食材(5)
横川吸虫類(Metagonimus spp.)の感染源となりうる淡水魚(ノート)
Food that needs precautionary awareness for infection in human body (5)
- Prevention from the infection with Metagonimus spp. in several kinds of fresh-water fish(note)

牧 純、関谷 洋志、玉井 栄治、坂上 宏

Abstract
Jun Maki 1), Hiroshi Sekiya 1), Eiji Tamai1) and Hiroshi Sakagami2)
1) Department of Infectious Diseases, College of Pharmaceutical Sciences, Matsuyama University
2) Division of Pharmacology, Department of Diagnostic and Therapeutic Sciences, Meikai University School of Dentistry:Food that needs precautionary awareness for infection in human body (5)- Prevention from the infection with Metagonimus spp. in several kinds of fresh-water fish(note)
The present paper pays attention to the group of the fish from which man is infected with Metagonimus spp. People in Japan are found to harbor Metagonimus spp., a group of trematodes, possibly causing severe diarrhea and the aches of the abdomen following eating the raw fresh water fish. The representative of them is M. yokogawai. The important sources of its infection have been demonstrated to be the sweetfish or the Oriental fresh-water trout (Plecoglossus altivelis)and Salangichthys microdon (Japanese icefish). In addition to this fact, several fresh water fish have been incriminated as the second intermediate host. These are mentioned in many textbooks about the parasites cited in this communication. The point is that people are infected with M. yokogawai or Metagonimus spp. ingesting the infective larvae present on or in the flesh of the fish. There are many kinds of cooking methods for the fish traditional in Japan. Which ones are responsible for the infection? Those fish which have been frozen for 2 days and thawed before the preparation of “sashimi” are generally not responsible for the parasite infection. Needless to say grilled fish have no problems in the infection. This paper describes the dangerous cooking methods and dishes which may cause M. yokogawai and Metagonimus spp. infection so that readers might avoid the infectious disease.

要 約
本論文では,感染虫体数にもよるが,激しい下痢と腹痛をもたらす横川吸虫感染の原因となる食材に焦点をあてる。従来問題となる魚種の代表はアユ(鮎)とシラウオ(シラウオ科)とされてきた。今回は,生食などにより横川吸虫ならびに同属の寄生虫(高橋吸虫等)に感染する危険性について,従来の成書・教科書のみならず,最新の学会・論文発表等についても調査し,以下の結論を得た。ただし,刺身やナマモノでも2日間凍結し融解したものであれば,寄生虫の感染は一般に大丈夫である。(1)感染幼虫を蔵している可能性のある魚種および危険な食べ方(これはカッコ内に記す)はアユ(せごしなどの刺身),シラウオ(踊り食い,軍艦巻きなどの寿司),コイ(洗い),フナ(寿司),ヤマメ(刺身),ナマズ(刺身),ウグイ(ヌタ)などである。(2)シロウオ(ハゼ科)には幼虫感染の知見は見出せなかった。しかし,互いに字面と響きの似ているシラウオ(シラウオ科)とシロウオ(ハゼ科)の呼び名は全国的に混称されることがあると報告されている故,地方にもよるが,いわゆる“シロウオ”も実際上は気をつけなければならない。例えば,寿司の「軍艦巻き」に乗っているシラウオまたはシロウオは果たして大丈夫であろうか。(3)オイカワ ヤリタナゴ,モツゴにも感染幼虫がいるが,これらは食用目的ならふつう甘露煮にするので,その調理過程で周囲の器材が汚染されない限り,問題はない。
 以上のような知見と情報の収集・整理は健康的な食生活に大いに役立つと考えられる。感染予防は,いうまでもなく我々が正確な知識を常に持ち合わせ,随時注意を喚起することが必須である。

高齢者1人1人の口腔内状態の評価と適した食物の調理法の提案

畑江 敬子

わが国の平均寿命は平成22年,男は79歳,女は86歳となった。世界で最も平均寿命の長い国である。一方,65歳以上の高齢者の割合も平成6年に14%を超え,高齢化社会から高齢社会となって久しい。今後高齢者の全人口に占める割合はさらに増加することが見込まれている。
 高齢者は個人差が大きいものの,多かれ少なかれ味覚感受性や消化吸収機能,咀嚼に関する機能等が低下し,加齢に伴う身体機能の変化が起こっている。その結果,タンパク質摂取量の減少や,食べにくい食品を避けることによるビタミンや食物繊維の不足など,低栄養状態を引き起こすことが報告されている。
 咀嚼能力の低下は欠損歯の増加,咬合力の低下,舌や頬の動きの鈍化などに由来すると考えられるので,高齢者の口腔内状態に合わせて調理方法を変えることにより,食物を食べやすくできると考えられる。高齢者にはとかく軟らかくすればよいと考えがちであるが,歯で咀嚼することは脳の血流をよくする,認知症を予防する1)など,その効果が認められている。したがって,高齢者もそれぞれの状態にあわせて咀嚼が必要な食物を摂取しなければならない。
 そのために,高齢者の口腔内の状態を知り,高齢者一人一人に適切な食物を提供することは,今後の高齢社会において高齢者が生き甲斐を持って自立し,活力ある社会を創造するためにぜひとも必要なことである。
 この報告は,長年にわたり戸田貞子と共同で行ってきた研究を中心に概略をまとめたものである。

プレーンヨーグルト市場を創造した 驚くべきヒット食品
−株式会社 明治『明治ブルガリアヨーグルトLB81プレーン』 − 

田形 睆作

株式会社 明治は2011年4月,赤ちゃんからお年寄りまであらゆる世代のお客さまに,菓子,牛乳,乳製品,育児・健康食品など幅広い商品・サービスを提供する食品事業会社として,明治製菓株式会社のフード&ヘルスケア事業と明治乳業株式会社が統合して発足した。グループ理念を象徴する,明治ブランドマークも”明日をもっとおいしく”をスローガンに作られた。また,経営体制は菓子事業,乳製品事業,健康栄養事業,海外事業の4事業体制である。今回,記述する『明治ブルガリアヨーグルトLB81』は乳製品事業に属する商品である。

築地市場魚貝辞典(アイナメ)

山田 和彦

冬の厳しい寒さが和らいでくる頃には,日差しも温かみを取り戻してくるように感じる。築地市場の大屋根には明り取りがあって,そこから差し込む光の強さが日毎に増してくる。大通路に靄が掛かっていると,空間を斜めに横切る光の束が鮮明に見えてくる。古い築地の写真などで,何度か見たことのある光景なのであるが,古めかしい無骨な屋根と,その下で繰り広げられる雑踏の間を横切る光が,なにやら芸術作品でも見るようで,かといって,築地以外では味わえない雰囲気も加わって,好きな風景の一つとなっている。今朝も,光の中をターレットが走り回っているが,気に留めている人はいないようである。今回は春の魚,アイナメを紹介する。

“薬膳”の知恵(65)

荒 勝俊

最近,中国においても食生活環境が欧米化し,肥満と共に糖尿病が増加傾向にある。糖尿病は中医学においては“消渇(しょうかつ)”と呼ばれる。その症状は,多飲(渇き),多食,多尿,消痩(痩せすぎ)で,“三多一少”と表現される。多飲は肺部で“上消証”,多食で痩せるは胃部で“中消証”,多尿は腎臓部で“下消証”と三種に分類される。一方,西洋医学においては,急性発症型の若年型の糖尿病1型,肥満や慢性膵臓炎などの病因によって中年以後に発症する糖尿病2型に分類される。 
 糖尿病の原因は,体質,特にインスリン非依存型といわれる人は遺伝的な素因が大きく,糖尿病になりやすい。また,飲食不節(食べ過ぎ,飲み過ぎによる脾胃の運行失調),房室過度(過労による津液の消耗),情志失調,運動不足,により肺,胃,腎の陰液不足,燥熱内盛を引き起こし,糖尿病になる。従って,糖尿病に対して中医学的には肺燥を潤い,胃熱を清め,腎陰を補う事が治療原則となっている。
 中医学では人体を一つの有機的統一体と考え,人体の構成要素である気・血・津液のバランスを改善させる事でその人が本来もっている臓器の機能を回復させ,身体の内部を整え,新陳代謝を改善し,糖尿病や合併症が改善できると考えている。
 そこで,中医学の基礎概念である陰陽五行学説に基づき,健康管理や病気治療のために食材の持つ様々な機能を組み合わせて作った“薬膳料理”を食す事で人が本来もっている臓器の機能を回復させ,身体の内部を整える事で糖尿病に対して改善できると考えている。