New Food Industry 2012年 3月号

食品と放射線
東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う食品の放射性核種
汚染とその健康影響評価基準についての放射線生物学的考察
Radiation in Food: Current Estimates of the Health Effects of Low-Dose Ionizing Radiation from Contaminated Food and Drink Caused by the Tokyo Electric Power Company Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Accident

岡本 茉佑美、古賀 里美、藤井 幹子、古家 早苗、嶋本 文雄、松田 尚樹、達家 雅明


要旨
日本近海の三陸沖で2011年3月11日に発生した地震とその後の津波の結果,東京電力福島第一原子力発電所で事故が発生し,大気中に放射性核種が放出している。福島1号機〜3号機を合わせてその量は,ヨウ素-131とセシウム-137それぞれ旧ソビエト連邦のチェルノブイリ4号機に次ぐ量であり,原子炉外に広く拡散されたと考えられる。これらの放射性核種は,その後,食品からも検出されている。本稿では,事故後の食品の汚染程度とそこから受ける健康影響評価について放射線生物学的に考察をおこない,低線量放射線内部被曝の実態解明に役立てることを目指した。

Summary
On 11 March 2011, the magnitude 9.0 (Mw) earthquake and triggered powerful tsunami struck off the northeast coast of Japan. The ongoing INES (International Nuclear Event Scale) level 7 meltdowns at three reactors in the Fukushima Daiichi nuclear power plant complex are serious social problems due to radionuclide releases outside the crippled reactors. Provisional regulation values for radioactivities of contaminated radionuclides in food and drink were set on 17 March. Food and drink samples which exceed the provisional regulation value were detected in various parts of Japan. Here we discuss current estimates of the health effects of low-dose ionizing radiation from these contaminated food and drink.
Key words: radioactive contamination, nuclear power plant accident, radiation risk assessment, iodine-131, caesium-137

ティラピア由来コラーゲン関連物質の有用性と開発状況

飯島 道弘、中嶋 雪花

近年,コラーゲンに関する興味や関心が高まっており,化粧品やサプリメントをはじめとする美や健康に関係する商品などに多く使われている。コラーゲンは,日本では古くから膠原質(こうげんしつ)として知られていたが,近年の美容健康ブームおよび医療技術の発展などの影響もあり,重要性が再認識されている。

ポリアミンと健康長寿食− (日本食と地中海食) − 

早田 邦康

要旨
ポリアミンは、ほとんど全ての生物に存在し、遺伝子発現を含めたさまざまな細胞機能に重要な役割を果たす物質である。しかし、加齢とともにその合成能は低下する。我々は、ポリアミンがlymphocyte function-associated antigen 1 (LFA-1)という細胞膜分化抗原の発現を選択的に抑制することを見いだした。LFA-1は接着分子とも呼ばれ、LFA-1を介した細胞の接着により免疫細胞の活性化が生じ炎症が誘発される。老化や生活習慣病の進行が炎症によって誘発され、高齢になるほど炎症が誘発されやすくなる免疫環境になることが知られているが(inflamm-aging)、加齢とともに増加するLFA-1発現も重要な因子である。そこで、ポリアミンをマウスに投与し続けたところ、血中ポリアミン濃度が徐々に増加し、老化の進行が抑制されて寿命が延長することがわかった。また、ヒトが高ポリアミン食を継続して摂取すると、体内ポリアミン濃度が上昇することも確認した。これまで、数種類の食品や食事形態が健康長寿に寄与していることが指摘されているが、食品中のポリアミン濃度は食品間で大きく異なる。そこで、これらの食品や食事形態とポリアミンの関係を検討したところ、長寿食と考えられている日本食も地中海食も高ポリアミン食であることがわかった。

清酒の香味とその評価

古川 幸子

ご存知の方は少ないのかもしれないが,清酒は「国酒」である。
 わが国の伝統的な醸造酒である清酒を国酒にという動きが始まったのは,大平内閣のときである。契機は,田中内閣における1972年の日中国交正常化に遡る。この晩餐の席において,中国側が白酒(中国の国酒)での乾杯で日本側を遇したことに影響を受け,政府が清酒を,国を代表する酒「国酒」とすることで,その地位を向上させようと考えたのではないかと言われている。以来,歴代の総理大臣により「国酒」と揮毫された色紙が作成され,日本酒造組合中央会に展示されている1)。
 「国酒」たる所以として,清酒は,現在に至るまでおよそ2000年に亘り,日本人の生活や文化の中心的な役割を果たしてきた。その間,清酒醸造に必要な知識やスキルは,日本全国各地に広まっていった2)。平成21酒造年度(2009年7月1日〜2010年6月30日)においては,1302の酒造場が酒造りに従事している3)。有名な清酒の産地は,良い水や良い米のできるところにあり,中でも兵庫県の灘,京都府の伏見,広島県の西条などが酒どころとして知られている。
 清酒は,ビールやワインと同様に醸造酒であるが,その醸造工程はより複雑である。図1に,清酒とワインの醸造工程の違いを示した。清酒は,精白米を水に浸漬した後,蒸きょうして蒸米とし,これに麹と水と酵母を加えて発酵させる。この発酵の過程で,米デンプンは麹酵素の働きでグルコースに分解され,遊離したグルコースは,酵母によりアルコール発酵される。一方,ワインの場合,原料となるブドウには,糖分(グルコース)が含まれているので,糖化の工程がない。このように清酒の醸造では,麹によるデンプンの糖化と酵母によるアルコール発酵が並行して行われる。この発酵系は,並行複発酵と呼ばれるが,他のアルコール飲料には類を見ない,清酒に特徴的な極めて高度な技術を駆使した醸造法である。また,他のアルコール飲料と比較して飲用温度帯が広く,5℃から55℃くらいまで楽しめるのが特徴である。
 本稿では,清酒の品質,成分,香味特性や官能評価方法について紹介する。

シロザケ飼料の魚油添加効果-1

酒本 秀一、大橋 勝彦

前報1)で放流されたシロザケ稚魚,特に早期放流魚は「①かなり長期間河川に滞留していること。②河川で餌の量が不足しているのか,降海時にはかなり痩せており,飢餓状態にあると考えられること。③絶食期間中は主として蓄積脂質がエネルギー源として利用されているためか,魚体の脂質含量の減少が著しいこと。④魚体の脂質含量によって絶食耐性,絶食後の再摂餌による回復能力,海水馴致能などに大きな違いが出ること。⑤魚体成分の脂質は,含量も脂肪酸組成も飼料の影響を強く受けること。」等を説明した。
 本試験では,シロザケ用飼料に数段階の量で魚油を添加した場合,どの様な効果が認められるかを調べた。試験手順は前報1)と同じで,飼育試験,絶食試験,回復試験,海水馴致試験の順に行った。

おからの有効利用を考える

一森 勇人、田中 達治、柴山 和也

わが国の食料自給率は,約40%である。農水省2008年発表のデータによると,自給率は,野菜類79%,果実39%,ミカン94%,リンゴ56%,キノコ81%,魚介類52%,海藻類67%であり,コメは100%である。一方肉類,乳製品,油脂類飼料を輸入依存しているために数字が低くなっており,豚肉5%,牛肉10%,鶏肉7%,卵9%となっている。問題は日本の伝統的な食品を形成する大豆が3%,ウドンなどの小麦が13%であり,油脂類が13%ということである。これらの中で,日本の農業の特異性を考えた場合,大豆,小麦以外は輸入依存でいいのかもしれない。私は日本の農業の課題は「食料自給率引き上げ」ではなくて「大豆と小麦の増産計画」ではないかと考えている。ここでは,食糧自給率の問題には,これ以上触れないが代表的な日本食が海外からの輸入で成り立っていることは,エネルギー自給率4%であることとともに,日本の将来に重荷となっていると考えている。
 ところで,輸入された大豆から豆腐を作る過程でできるおからは,年間65万tもの産業廃棄物になっている。このおからの有効活用は,大豆の増産とおなじ効果をもち,おからから飼料(鶏,豚,牛)を作れば,食糧自給率の改善に役立つことができる。さらに,肥料,食品を作ることも可能であり,バイオ燃料,健康成分の抽出を提案したい。

イオン飲料市場を創造した驚くべきヒット商品−「ポカリスエット」大塚製薬株式会社 −

田形 睆作

大塚グループの発祥企業,大塚製薬工業部は,1921年徳島県鳴門の地に生まれた。徳島は江戸時代末期から明治初期にかけ,藍産業の中心とした各種産業が繁栄により,日本十大都市の一つになった。その藍産業衰退後も銀行や鉄道などの社会的インフラが整備され,紡績・製塩,また塩田の残渣を利用した化学原料産業などで,盛んに投資と起業が行われた。大塚製薬工業部もこの波に乗り,化学原料メーカーとしての立場を固めた。その後,1946年点滴注射液により医薬品産業に参入し,事業エリアも日本全国に拡大した。この輸液事業は,1968年に導入したプラスチックボトル製品など,容器の革新や画期的な処方の開発により事業の拡大に成功し,1970年代には海外展開も行った。またこの時期,大塚化学(1950年設立)を皮切りに,大鵬薬品(1963年設立),大塚製薬(1964年設立),大塚食品やアース製薬など,大塚グループの主要会社を相次いで設立した。同時にオロナイン軟膏,オロナミンCドリンク,ボンカレー,チオビタドリンクそしてごきぶりホイホイなどの一般になじみの深いロングセラー商品が誕生した。

築地市場魚貝辞典(キンメダイ)

山田 和彦

冬の築地。大都市の胃袋を満たすために,各地から魚介類が集まり,そして小売のために運ばれていく。魚を運ぶのは,ふつうの貨物より手間がかかる。液体やら,冷たいものなど特別な手段が必要になってくる。大きなものは,地方から魚を満載してくる大型の活魚トラックや保冷トラックがある。活魚トラックは,大量の水を積んで,そこへ活魚を入れる水槽設備を備えなければならない。25トントラックともなると,その大きさだけで圧倒されてしまう。反対に,いちばん小さなものは手に持つ籠であろう。たくさんの魚を入れた籠は重い。早朝の築地界隈は,昔ながらの竹で編まれた籠で買出しに来る人を多く見かける。頑丈そうな自転車も,市場らしい。たくさんの荷物が積めるように荷台が大きく,全体に骨太に作られているように見える。とくにスタンドなどは,重い荷物を載せてもひっくり返らないよう,大きく作られている。自転車を横目に,せわしなく行きかう人のはく息も白い。今回は冬の魚,キンメダイを紹介する。

“薬膳”の知恵(64)

荒 勝俊

最近,中国においても生活環境が加速度的に近代化して自然が少なくなっており,また,温湿度が一定に制御された部屋で過ごす事で“アトピー性皮膚炎”が増加している。中医学において,“アトピー性皮膚炎”は“異位性皮膚炎”あるいは“遺伝性過敏性皮膚炎”と呼ばれ,治療研究も進んできている。こうした“アトピー性皮膚炎”は体の免疫能のアンバランスな状態が起因すると言われている。 
 中医学では『皮膚は内臓の鏡』」と表現され,ステロイド薬などの外用薬だけでなく中成薬によって内臓のバランスも整える。最終的には,刺激を受け易い乾燥肌を改善し,繰り返し皮膚の炎症を発症する体質を改善する事である。
 また,中医学的に“アトピー性皮膚炎”を“本(病気の本質)”と“標(表面に現れた症状)”に分けて考えてみると,“本”は≪湿熱 血熱 熱毒 血虚≫,“標”は≪皮膚症状:風(痒み),湿(糜爛),燥(乾燥),熱(紅斑)≫,となる。“アトピー性皮膚炎”の特徴は痒みであり,痒いので皮膚を掻く事により傷がつき,それに引き続いてさまざまな症状が引き起こされる。こうした“本”に対する治療を“本治(治本)”,“標”に対する治療を“標治(治標)”と分けて行う。そして,治療の原則は「黄帝内経,素問」に『急則治標,緩則治本;急なれば則ちその標を治し,緩なれば則ちその本を治す』と書かれている。症状がひどい場合は“標”を治療し,症状が軽い場合は“本”を先に治療する,という事である。この様に,中国では皮膚炎を引き起こす原因を無くしながら症状も緩和させていくといった方法を取っている。特に,皮膚疾患は脾胃の働きが崩れる事で症状が生じると考えている事から,飲食のバランス改善も重要な治療と考えられている。
 そこで,中医学の基礎概念である陰陽五行学説に基づき,健康管理や病気治療のために食材の持つ様々な機能を組み合わせて作った“薬膳料理”を食す事で,人が本来もっている臓器の機能を回復させ,身体の内部を整える事で“アトピー性皮膚炎”をはじめとする皮膚炎に対して改善できると考えている。