New Food Industry 2011年10月号

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New Food Industry 2011年 10月号

緑藻シフォナキサンチンの新しい機能性

菅原 達也

黄色から赤色を呈する脂溶性色素であるカロテノイドは,動物,植物,微生物など自然界に幅広く分布している。カロテノイドを生合成できる生物は,光合成を行う独立栄養生物のみであり,一般に動物では生合成できない。植物や光合成細菌などの独立栄養生物によって作られたカロテノイドは食物連鎖によって動物にも供給され,そのまま,あるいは代謝的に変換されて体内に蓄積する。これらを含めて,自然界から750種類以上もの多種多様なカロテノイドが同定されている1)。なかでも海洋生物は,陸上生物とは異なる特徴的なカロテノイドを有しており,その機能性に関する研究も進められてきている2, 3)。代表的なものとしては,サケやカニの主要な色素成分であるアスタキサンチン,海藻類に含まれているフコキサンチン,原索動物に含まれるハロシンチアキサンチン,アロキサンチン,渦鞭毛藻に特徴的なペリジニンなどが挙げられる。アスタキサンチンの抗酸化活性は他のカロテノイドと比べ際立って強く,抗酸化活性に由来すると考えられる抗がん作用,免疫増強作用,筋肉損傷の緩和作用などが示されている4)。また,日本人が好んで食しているワカメ,コンブ,ヒジキ,モズクなどの褐藻類に含まれているフコキサンチンは,抗肥満作用を有することが報告されており,機能性食品素材として大変注目されている5, 6)。筆者らもまた,フコキサンチンをはじめとする海洋生物のカロテノイドに着目して,血管新生抑制作用,アポトーシス誘導作用,抗炎症作用など,様々な機能性について解析を進めている7-11)。その過程で,これまで全く注目されていなかった緑藻に特有のカロテノイドであるシフォナキサンチンに様々な機能性が見出されてきている。そこで本稿ではその一部を紹介する。

植物乳酸菌のヘルスサイエンス

杉山 政則、野田 正文

結核に有効な抗生物質ストレプトマイシンの発見により,ノーベル医学生理学賞を受賞した米国のワックスマン (S.A. Waksman) は,「微生物がつくり,微生物の増殖を阻害する物質」を抗生物質 (antibiotic) と呼ぶことを提唱した。抗生物質は微生物に対する毒物として機能するが,それをつくる微生物は自らつくる抗生物質で自滅することはない。この生体防御の機構を自己耐性 (self-resistance) 機構と呼ぶ。現在,当研究室では,結核に有効で,統合失調症の治療薬としても期待されているD-サイクロセリン (DCS) を生産するStreptomyces属放線菌の自己耐性機構解明を進めている。これまでの成果として,DCS生合成遺伝子クラスターのクローニングに成功し,その生合成遺伝子クラスターの近傍に自己耐性遺伝子が存在することを見出している1)。一般的に,抗生物質は菌の生育に連動して生合成されるものではなく,菌の対数増殖期後期から定常期にかけて抗生物質合成のスイッチが入ることから,抗生物質生産の制御機構の解明は研究課題として興味深い。
 地球には,放線菌以外にも抗菌物質をつくる微生物がいる。バクテリオシン (bacteriocin) と総称される「抗菌性ポリペプチド」をつくる乳酸菌も,その一例である。当然ながら,バクテリオシンを生産する乳酸菌にも自己耐性機構が備わっている。このような経緯から,近年,乳酸菌も研究材料の1つに加え,バクテリオシン生合成の制御機構の解明に力を注いでいる。

パン酵母β-グルカンとブドウ種子抽出物のヒラメ腹面黒化症抑制効果

酒本 秀一、山本 眞司、糟谷 健二、村田 修

放流用や養殖用として需要の高いヒラメ(Paralichthys olivaceus)人工種苗の生産技術は確立されているものの,質的には体型異常や体色異常など,まだ多くの問題を残している。体型異常については別途報告するとして,本稿ではパン酵母β-グルカン(β-1.3/1.6-グルカン,以下グルカンと略記)とブドウ種子抽出物(GSE)による生物餌料の強化とヒラメ体色異常抑制の因果関係を中心に報告する。
 体色異常は,正常な個体なら褐色~黒色に着色しているべき背中側の色素が抜けて白くなった背面白化(白化)と,半透明~白色であるべき腹面が褐色~黒色に着色している腹面黒化(黒化)がある(写真1)。その程度(体色異常部分の占める面積比率と色の濃さ)も様々であり,種苗生産の段階で既に発症している場合が多い。
 これらの体色異常魚は食味などに正常魚と違いは無いが,外見が異質であることから商品価値は低い。現在は解決策として,種苗生産段階で体色異常を呈した個体を選別し,廃棄している。選別に多くの人手と時間を要することに加え,体色異常魚の出現率がかなり高いので,種苗生産事業上大きな問題になっている。
 体色異常のうち白化に関しては現在までに色々な試験が行われてきた。その結果として,飼育方法や餌飼料の栄養面での改善が行われ,近年ではあまり大きな問題にならなくなってきた。一方,黒化に関しては紫外線やレチノイン酸等に関する研究が進められ,改善が図られているが,まだ根本的な解決には至っていない。
 我々は黒化の発症を抑制する手段を開発するため,ヒラメの種苗生産法を加味しつつ過去の知見を調べて原因を推定し,問題を解決するための実証試験を行った。その結果,ある程度有効と思える方法が開発できた。

イチジクの揮発性画分より単離されたベンズアルデヒド —その抗腫瘍活性と誘導体の開発—
Benzaldehyde, isolated from a volatile fraction of figs
– antitumor potential and development of derivatives –

坂上  宏、石原 真理子、斎藤 潤、東風 斡子、東風 睦之

SUMMARY
Antitumor entity of volatile fraction of figs has been identified as benzaldehyde. Several water-soluble derivatives such as β-cyclodextrin benzaldehyde inclusion compound (CDBA), 5,6-benzylidene-L-ascorbate (SBA), 4, 6-O-benzilidene-D-glucopyranose (BG) have been manufactured. Treatment of CDBA or SBA showed dramatic anti-tumor activity against inoperable cancer patients. Intravenous administration of SBA induced anti-tumor activity accompanied by necrotic degeneration in chemically-induced rat tumors. These derivatives showed slightly higher cytotoxicity against tumor cell lines as compared with normal cells, by inducing non-apoptotic cell death (possibly autophagy and necrosis). SBA was found to be labile: the acetal bond is cleaved to produce benzaldehyde and ascorbic acid under extremely acidic condition, whereas the lactone ring is cleaved under neutral and alkaline conditions. Benzaldehyde showed much higher tumor-specificity than SBA and ascorbic acid. Both SBA and ascorbic acid act as oxidants (that increase the oxidation potential, oxidize methionine into methionine sulfoxide and produce hydrogen peroxide), and their cytotoxicity was augmented by copper ion. However, the cytotoxicity of ascorbate, but not that of SBA, was markedly reduced by iron, cysteine analogs or catalase, indicating that the action point of SBA is not the same with that of ascorbic acid. These data suggest the possible role of benzaldehyde as the antitumor principle of SBA.

 ベンズアルデヒド(benzaldehyde)(C6H5CHO,MW 106.12,benzenecarbaldehyde)(図1)は,芳香族アルデヒドに分類される有機化合物の一つである。ベンゼンの水素原子一つが,アルデヒド基で置換された構造を持つ。融点 −56.5 ℃,沸点 179 ℃ の無色の液体である。苦扁桃油(アーモンドの一種から取った薬用油)様の香気を持ち,揮発しやすい。芳香族アルデヒドは特異な臭いを有するものが多いが,ベンズアルデヒドはアーモンド,杏仁(アンズの種)の香り成分である。安価であり石鹸などの香料として用いられるほか,抗炎症作用が認められている。酸化されやすく,酸化されると安息香酸になり,表面に膜状物質として浮かぶ。
 東風は,旧約聖書に記述されているイチジクの癌に対する効能に着目し,イチジクの揮発性画分より抗腫瘍成分のベンズアルデヒド(構造式を図1に示す)を単離した1)。ベンズアルデヒドおよびその誘導体は,マウスに移植したエールリヒ腹水肝癌,腺癌や大腸癌に有効であったが,他の腫瘍には無効であった2)。ベンズアルデヒドは脂溶性であり,臨床応用を目指して,β-cyclodextrin benzaldehyde inclusion compound (CDBA),5,6-benzylidene-L-ascorbate (SBA),4, 6-O-benzilidene-D-glucopyranose (BG)などの水溶性誘導体が開発された。動物実験の結果とは対照的に,これら誘導体の投与は,治療不治の癌患者に著明な効果を示した 3−7)。

ポリフェノールはなぜ効くのか Why polyphenols are almighty?

矢澤 幸平、坂上  宏

SUMMARY
Polyphenols are defined as molecules that contain several phenolic hydroxyl groups attached to aromatic rings such as benzene and naphthalene. They have been reported to reduce the blood sugar level, inhibit the thrombosis, and prevent the eye aging, Alzheimer's disease, viral infection and health risk evoked by radiation exposure. We present here our challenging hypothesis about why polyphenols produce such favorable effects.

ポリフェノール (polyphenol) とは1分子内に複数のフェノール性ヒドロキシ基(ベンゼン環,ナフタレン環などの芳香環に結合したヒドロキシ基)を持つ植物成分の総称である。ポリフェノールの効用として,食後の血糖値の上昇を抑制し,血栓ができにくい血液と血管の状態を保持し,目の老化を予防し,さらにアルツハーマー病を予防し,ウィルス感染を予防し,放射能被曝による障害を予防するなど,万病薬のごとき新聞記事,学会発表,総説があふれている。
 この機会に,このような効果がどの生体内分子種に作用した結果として発揮されるのかを,多少強引とは思うが,医薬品になっている化合物,あるいは臨床開発試験に供された化合物と関連する機序を引用して,総合的に考察してみたい。

きのこの発酵能を利用した機能性食品の開発

松井 徳光、田畑 麻里子

近年,食の欧米化や高齢化社会を迎える中で,心筋梗塞や脳血栓などの血栓症およびガンが増加し,社会的に重大な問題となっている。これらの疾病は,現在の医学では完治させることが難しく,患部の切除などで応急的に処置しているのが現状であり,そのため,発症してから治療するのではなく,医食同源・予防医学の観点に立ち,毎日の食生活から予防することが大切である。特に現在,日本や欧米諸国の主な死因となっている血栓症やガンに注目し,これらの疾病に対して予防効果を示す生理活性物質について検討した。植物や細菌,酵母,カビ,放線菌,そしてきのこ(担子菌)について調べたところ,血栓症に予防効果を示す抗トロンビン活性物質および線溶活性物質の存在が多種のきのこ類に見出された1)。また,きのこには免疫力を高め,ガンを予防するβ-D-グルカンが含まれていることも報告されている2)。さらに,きのこには細菌やカビのような微生物とは異なり,非常に親しみやすいイメージがある。そこで,“きのこ”という食品素材に注目し,本研究室の主テーマである機能性食品の開発を手がけることにした。

ウンシュウミカン果実におけるβ-クリプトキサンチンの蓄積・調節メカニズム

加藤 雅也

ウンシュウミカンの砂じょう(果肉部分)には,多量のβ-クリプトキサンチンが含まれる。β-クリプトキサンチンは,カロテノイドの一種であり,オレンジ色を呈する。このβ-クリプトキサンチンは,ビタミンAの前駆体として働くこと,また,近年,抗酸化成分として発ガン抑制作用1, 2)や骨粗しょう症などの生活習慣病の予防3)に役立つことが明らかとなってきている。
 カロテノイドは,自然界に700種類以上も存在する色素群の総称である。私達の食生活の中では,ニンジンやカボチャに含まれるオレンジ色のβ-カロテン,トマトやスイカに含まれる赤色のリコペン,そして,ウンシュウミカンに含まれるβ-クリプトキサンチンなど様々なカロテノイドが存在している。カロテノイドは,炭化水素骨格からなるカロテンと含酸素カロテノイドであるキサントフィルの2つのグループに大きく分けることができる。
 カンキツ果実は,キサントフィルを豊富に含有する上に,カンキツ属の種間で,カロテノイド,特に,キサントフィル含量・組成において非常に多様である。中でも,大きくカロテノイド含量・組成において差が認められるウンシュウミカン(β-クリプトキサンチンを蓄積する種),バレンシアオレンジ(ビオラキサンチンを蓄積する種)およびリスボンレモン(カロテノイド含量が少ない種)を研究材料として(図1),カロテノイド生合成・分解に関わる遺伝子の発現を比較することにより,カロテノイド,特に,β-クリプトキサンチンの蓄積メカニズムを解明する研究に取り組んできた4, 5)。また,現在,上記カンキツ3種の砂じょうを培養し,β-クリプトキサンチンの含量を調節する種々の要因について研究を進めている。

ユーラシア大陸の乳加工技術と乳製品
第10回 アジア大陸中央部高地地帯 — インド北部でのチベット系移牧民ラダークの事例

平田 昌弘

インド北部のジャンムー・カシミール州ラダーク管区に,チベット系の人びとが居住している。ラダークの人びとには,いつも穏やかで,笑顔が輝く(写真1)。ジュレー(こんにちは)と挨拶を交わすと,優しく受け入れてくれる。家畜管理や畑仕事が忙しい時,当然のように隣人や親戚が助け合い,労働後には飯や酒を振る舞って共食する。村の協同体としての機能が今日も脈々と生き続けている。本稿では,そんなラダークの人びとの乳加工技術とその乳製品利用について紹介したい。3000m以上の高地で,ラダークの人びとはいったいどのような乳製品を加工しているのであろうか。なお,本稿で紹介する乳加工体系の事例は,2007年の現地調査に基づいている。

業界を変えた 驚くべきヒット食品 —「じゃがりこ」カルビー株式会社—

田形 睆作

1995年(平成7年)にカルビー株式会社から「じゃがりこサラダ」「じゃがりこチーズ」が発売された。ふかしたじゃがいもをフライする独自の製法で,カリカリした食感とじゃがいもの味がしっかりしたユニークな商品である。また,特記すべきはカップ入りスナック菓子の草分けである。今年は発売から16年目になるが,現在のベーシックライン商品はサラダ,チーズ,じゃがバターの3品である。表1に2010年3月〜2011年2月の1年間におけるスナック市場のPOSデータを示した。スナック市場におけるブランドシェア1位はカルビーの「じゃがりこサラダ」であり,金額シェアは3.88%である。ちなみに,「じゃがりこチーズ」のブランドシェア順位は17位であり,シェアは0.94%である。合わせて4.82%である。カルビーのポテトチップス20位までに5品あり、2位のうすしお味シェア3.24%、3位のコンソメパンチ2.43%,10位の堅あげポテトうすしお味1.18%,14位のビッグパックうすしお味1.09%と15位のピザポテト1.05%である。合わせて8.99%である。カルビーポテトチップスは1975年に“うすしお味”を発売し,翌年の1976年に“のりしお”,78年に“コンソメパンチ”を発売し,ポテトチップスの市場を構築し,磐石のものとした。カルビー「じゃがりこ」はカルビーポテトチップスには金額シェアでは未だ追いついてはいないが,スナック菓子市場にカップ入りスナックという新たな市場を構築したことはスナック業界を変えた商品といっても過言ではない。事実,カルビー社内でもカップ入りスナックとして“Jagabee”を追加発売した。

薬膳の知恵(61)

荒 勝俊

中医学において,便秘は①熱による便秘(実熱証便秘),②気滞による便秘(気滞証便秘),③虚証による便秘,④血虚証による便秘,⑤陽虚証による便秘,の5つに大きく分けられる。具体的には,熱による便秘は陽気が盛んで胃腸に熱が溜まる事で起こるもの,気滞による便秘はストレスや運動不足によるもの,虚証による便秘は過労や病後などの気血不足,陽虚による便秘は陽気不足による冷え(冷え証)から起こるものである。
 中医学からみると,肺は大腸と表裏の関係にあり,脾胃は消化管として大腸とつながっており,更に腸管を循環している気・血・津液は腎臓に関連している事から,便秘は肺,脾胃,腎と密接に関係していると言われている。人体は自然界の小宇宙として“陰”と“陽”が存在し,常に相互作用しバランスを保ちながら生命活動を営んでいるが,陰陽のバランスが崩れる事で体内部の状態が変化し,便秘などの症状が現れる。即ち,人体を一つの有機的統一体と考え,便秘を引き起こす原因を人体の構成要素である気・血・津液の状態で診断し,そのバランスを改善させる事でその人が本来もっている臓器の機能を回復させ,身体の内部を整え,新陳代謝を改善する事で,健康な便の排泄が獲得できると考えている。
 “薬膳”とは《中医学の基礎概念である陰陽五行学説に基づき,健康管理や病気治療のために食材の持つ様々な機能を組み合わせて作った食養生》のことである。毎日の食生活に薬膳的思考を取り入れ,身体のバランスを保つことで自然な排便を促す事が肝要と考える。

築地市場魚貝辞典(アワビ)

山田 和彦

真夏の築地。生鮮食料を扱う市場では,食中毒に対する注意が払われている。中でも,東京都市場衛生検査所は,場内の巡視と共に検体の検査などを行って,市場から食中毒が出ないよう努めている。衛生や細菌などの専門的な目をもって巡視されることは心強いが,広い場内をくまなく調べるのは,大変なご苦労であろう。また水産物は,ほかの市場より扱うものの種類が多いので,それを把握するだけでも大変である。中でも貝類は,魚類より識別が困難な反面,よい資料が少ないので調べるのも難しいことが少なくない。
 今回は夏の貝,アワビを紹介する。アワビには,クロアワビやメガイアワビ,マダカアワビなど多くの種類があるが,ここでは断りのない限り,総称としてアワビを用いることにする。