New Food Industry 2011年5月号

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New Food Industry 2011年 5月号

ヤマブドウ搾りかす抽出物の抗糖尿病作用

長澤 孝志、澤井 秀幸、小浜 恵子

2009年現在,国際糖尿病連合の調査によると全世界の糖尿病患者数は2億8,500万人と報告されており,2006年の発表から3年で約4,000万人も増加しさらに増える可能性が強く指摘されている。わが国においても食や生活の欧米化に伴い糖尿病患者数は増加傾向にある。厚生労働省の国民健康・栄養調査によると糖尿病が強く疑われる人は890万人,可能性が否定できない人を合わせると2,210万人と推定されている。平成9年の調査では1,370万人であったので,10年間で1.5倍以上の患者数の増加があったことになる。糖尿病は高血圧,脂質異常症とならぶ代表的な生活習慣病である。血糖値を低下させるホルモンであるインスリンの作用不全による疾病であり,その原因はインスリン生産細胞である膵臓β細胞数の減少による1型糖尿病と,過剰なエネルギー摂取や運動不足などが複合的に作用してインスリン標的組織においてインスリンが作用しないインスリン抵抗性を起こす2型糖尿病があり,後者の患者数の増加が大きな問題となっている。
 糖尿病においては,血糖値の増加により誘発される合併症も問題となる。糖尿病性網膜症,糖尿病性腎症(腎不全)および糖尿病性末梢神経障害(ニューロパチー)を三大合併症と呼ぶが,これらは失明や透析など患者の生活の質(QOL)を著しく低下させる。したがって,合併症を誘発しないように血糖値をコントロールすることが糖尿病の治療では重要である。これらの合併症の原因の一つとして,タンパク質の非酵素的糖化反応(グリケーション)がある。食品化学の分野で知られる還元糖とタンパク質やアミノ酸のアミノ基の間でおこる褐変反応であるMaillard反応が,生体内においても起こっていることを糖化ヘモグロビンの存在から示され,さらにその結果生成した蛍光物質の蓄積も糖尿病患者で増加することが1980年代に明らかにされた1)。

クマイザサ葉のフラボン配糖体とその抗酸化活性

松田 友彦

ササはイネ科のタケ亜科(Bambusoideae)に属し,タケ類のなかでは最も寒冷な地域に適応し,小型化した植物である1)。ササ属は温帯や亜寒帯に分布する植物で,日本を中心とし,サハリン,朝鮮半島および中国に分布する。北海道の林野面積の60〜70%には下層植生としてササ植物が自生し,その蓄積量は生重量で1億5千万トンと推定され2),バイオマスとしては他に例を見ないほど大きなものである3)。ササ葉は昔から薬用,抗菌防腐作用があることから食品の包装に利用され4),市販ササエキスには,抗菌作用5),フリーラジカル消去活性6,7),アルコール性脂肪肝抑制8),糖尿病抑制9),食欲増進作用10),抗腫瘍活性11-14)などの機能性15-17)が明らかにされ,そのエキスは機能性食品となっている。
 一般に植物には,ポリフェノール類が多く含まれ,ポリフェノール類のなかにフラボノイドがある。フラボノイドは抗酸化性や抗変異原性を示すことが知られている。また,発がんプロモーション抑制作用,がん細胞の増殖抑制やアポトーシス誘導と正常細胞への分化誘導作用,カイトサイン産生の促進と抑制による免疫調整作用,リポキシゲナーゼやシクロオキシゲナーゼなどの酵素の阻害作用,コレステロール降下作用,血圧降下作用,紫外線防護作用などの生理機能18-21)が認められているものもある。これらのなかでフラボノイドの抗酸化性は,生活習慣病予防の関連性から特に重要視されている生理機能である。今回,クマイザサ葉に含まれているフラボノイドの同定と抗酸化活性について評価した。

アルツハイマー病を予防するコーヒーの薬理学

岡 希太郎

アルツハイマー病(AD)は治療満足度が最も低い病気で,薬剤の貢献度は最下位という現状である(医薬産業政策研究所 2010)。近年の疫学調査によれば,遺伝的素因を除くリスク因子は喫煙,肥満,高血圧,高脂血症,糖尿病などの血管病変である1)。これを受けて,ADを生活習慣病とする傾向が生じたが,生活改善についての前向きの議論は少ない。
 コーヒー飲用とADリスクの疫学調査はまだ少数で,信頼できるメタ解析には至っていない。しかし,どの論文もコーヒーによるリスク軽減(平均RR=0.65)を認めているという点で,他の痴呆症とは違っている2)。この数値は,ADの薬物治療成績より遥かに優れているから,これがコーヒーのAD予防効果に通じるならば,医療におけるコーヒーの意義は計り知れない。

人体への寄生虫感染を警戒すべき食材(1)― 広東住血線虫の感染源となりうるもの(ノート)

牧 純、関谷 洋志、玉井 栄治、坂上 宏

SUMMARY
Maki J, Sekiya H, Tamai E and Sakagami H: Food that needs precautionary awareness for infection in human body (1)- Possible candidate as source of infection Angiostrongylus cantonensis (Note)

Safety of food is an important problem today. Parasitoses are sometimes neglected or ignored in Japan, regarded as diseases in former days. This note describes the dreadful infection with Angiostrongylus cantonensis with the important references accessible for foreigners. It has been endemic in the Area of Pacific Ocean, Southeast Asia and Japan, hazardous to inhabitants. This parasitic nematode invades orally human brain when man eats raw snails and slugs harboring the larvae or vegetables contaminated with the larval nematodes shed by the mollusks. We have to be prepared for the worst. We cannot avoid suffering from eosinophilic meningoencephalitis, severe nervous and eye problems. Occasionally or rarely the accidental infection will lead to the coma and unfortunate death. No excellent therapeutic methods for the treatment of the infection have been established. We have to avoid the infection, paying attention to the mollusks infected and the contaminated vegetables. We should not eat them raw. The vegetables should be in the boiling water for a minute for the sterilization.

 「食の安全」が極めて厳格な基準で要求される昨今である。遺伝子組み換えの問題も,商品の品質表示上の関心事となり,ごく普通の日常的話題に上る。国産か海外産であるかについても,重大な関心が払われる。家庭の主婦にとっても頭の痛い問題に違いない。そういう陰にあって,大切な「食品感染症」のひとつでありながら,すっかり忘れ去られる傾向にあるのが「寄生虫症」である。
 我々はともすると,寄生虫病はいつしか過去の病気となったような錯覚に陥っている。しかし海外からの寄生虫が後を絶たない。それどころか,国内土着の寄生虫に関しても,いまだにしぶとく残っているものがある。医療系における寄生虫学教育も今日手薄となっており,医療の盲点が突かれるのが怖い。特に,診断に置いて寄生虫感染症の疑いは,他の疾患の後となり,重症化するケースもある。また,確定診断や治療においても専門的な知識と経験を必要とするが,その分野に長けた医師や薬剤師の減少も問題点である。
 本筆者らは松山大学薬学部感染症学研究室において,国際的に重要な種々寄生虫感染症に関する英文・邦文セミナーと卒業研究の実地指導,これら2つを視野に入れた事前の基礎調査を行ってきた。専門外の方々にも出来うる限りわかりやすくまとめ,予防,診断,治療の方法を提示する作業を進めている。

記憶を失くさせた貝の毒(ドウモイ酸)− 有毒プランクトンを摂取したムラサキイガイによる −

村上 りつ子、野口 玉雄

貝類には美味なものが多く,私たち日本人には好んで食される食材の一つであるが,新鮮なものでも時として毒を保有することがある。毒化した貝の多くは外観からは区別できないため,ヒトがこれを食べて食中毒し,深刻な症状を呈したり,死に至ることもある。
 このような貝の毒には,有毒プランクトンがつくる,フグ毒と同様な麻痺を起させる麻痺性貝毒,下痢を起こす下痢性貝毒など,多様なものが知られているが,その中に,記憶を失わせるといった特異な中毒症状を引き起こす「記憶喪失性貝毒 Amnesic shellfish poison;ASP」とよばれる貝の毒がある。
 「記憶」の仕組みに関しては最近次第に明らかにされつつあり,脳内の分子レベルでの研究が進んできている。一方,類を見ない速さで高齢化する社会になりつつある現代では認知機能に関心が高まっていることから,あらためて,貝を食べることによって記憶喪失を招く可能性がある「記憶喪失性貝毒」について考えてみたい。

中鎖脂肪酸含有油脂のもつ優れた食品機能特性 − パン生地に対する効果 −

豊﨑 俊幸、笠井 通雄

 油脂の主成分は,三つの脂肪酸がグリセロールに結合したトリアシルグリセロールであり,一般に中性脂肪として知られている。三つの脂肪酸は炭素数の違いから分類すると,炭素数が8〜10結合した中鎖脂肪酸と炭素数が12以上結合した長鎖脂肪酸とに分類される。中鎖脂肪酸は牛乳脂肪中に約4〜5%含まれる。また,母乳中にも約1〜3%含まれる。植物性固形脂では,パーム核油に約7%,ヤシ油には約14%含まれている。
 ところで,中鎖脂肪酸のみで構成されている中鎖脂肪酸含有油脂(以下MCTと略す)に関しては,1950年に迅速な吸収で引き起こされた吸収不良症候群の食事療法で使用されたのがきっかけで,それ以来多くの優れた報告がなされた1-22)。
 MCTの特徴の一つとして,通常の食事に含まれている油脂(長鎖脂肪酸含有油脂)に比較して,消化・吸収されやすく体内で酸化分解されやすい性質がある。この現象は長鎖脂肪酸含有油脂に比較して非常に特異的であり,この効果は抗肥満作用として考えられることから,現在では特定保健用食品として様々な用途に使用されている。
 MCTに関する報告のほとんどは臨床栄養学分野あるいは生化学分野から主に追跡されてきたが,食品科学分野からの報告は著者らが知る限りに於いてはほとんど見あたらないのが現状であることから,今後は食品科学分野からの追跡が必要不可欠である。その理由は,MCTにかかわらず食物はすべて最終的には人間が摂食するからである。MCTの生体に対する効果が優れていても,摂食しなくては全く意味をもたないものになってしまうからである。また,基本的に摂食するためにはその食物が美味しくなくてはならない。この壁をクリアーしなければMCTの優れた特性を利用できないことになる。このような単純な理由から著者らは,MCTのもつ優れた特性に関して,食品科学分野から明らかにすることを主目的として,ここ数年に種々の角度から検討してきた結果,若干ではあるが面白い特性を明らかとし,それらの結果について報告23-24)してきた。

沖縄食文化における“きのこ”

寺嶋 芳江

沖縄と聞いて“健康と長寿”を連想する人は多い。では,沖縄料理といわれて,何を思い浮かべるであろうか。豚,豆腐,昆布,芋,黒砂糖などが代表的な食材,チャンプルー(豆腐入り野菜炒め),豚料理,ジューシー(炊き込みご飯,雑炊),沖縄そばなどが代表的な料理である。
 一方,“きのこ”は,5'-ヌクレオチド,遊離アミノ酸,糖などの旨味物質を多く含み,味とともにその香りや触感を楽しむことのできる優れた食材である。近年,きのこは低カロリーで食物繊維を多く含むこと,抗変異原物質,抗腫瘍物質などの生理活性物質を含み,機能性をも併せ持つことが解明されたこと1)から人気が高まっている。しかし,“長寿”が形容詞とされてきた沖縄では,きのこはあまり食べられていない。これはなぜであろうか。きのこは,沖縄の伝統料理に食材として使われてこなかったのであろうか。ここでは,沖縄の食文化の中でのきのこという食材の位置づけ,現在のきのこの消費と生産の状況について解説する。

新潟県がリードする食品への高圧処理技術

鈴木 敦士

新潟県は,農林水産業や食品産業などを主要産業とした全国有数の食料生産基地である。2008年度産業分類別統計の県内製造品出荷額等をみると,製造業計51,954億円のうち,食料品製造業は7,428億円で,全体の14.3 %を占めている。特に,米菓,無菌包装米飯,水産練製品等は,高い品質と加工技術を有し全国のトップシェアを占めている。また,社団法人新潟県食品産業協会や新潟県酒造組合など食品産業界の連携体制も取れており,食料品製造業は本県の主要産業となっている。しかしながら食品製造業界には中小企業が多く,一社当たりの出荷額は必ずしも高いものではない。また,高齢者社会の到来,国民の健康意識の高まりによる機能性食品市場の拡大,食品の安全性,食育など,食を巡る問題が声高に叫ばれるようになった作今,食品の付加価値を高め,食を巡る諸問題の解決に資する基盤技術の開発が強く望まれるに至った。
 「食の高付加価値化に資する技術」とは何か,を考えたときに,1980年代後半から約20年にわたる基礎的研究と実用化研究の成果を蓄積した新潟県の誇る高圧処理技術こそ,その目的に適う技術であると考えた。「食品への高圧加工の概要」については他の成書1, 2)を参照されたい。

−地域の食資源から抗酸化作用と生理機能の探索− 納豆の持つ抗酸化作用と生理機能

岩井 邦久

大豆を主原料とした発酵食品のひとつである納豆には,粘り,独特の匂い,糸など様々な特徴がある。納豆以外にも豆腐や味噌などの大豆加工食品は,日本人にとって非常に身近な食品である。それとともに,このような大豆加工食品は,世界から注目を集めている日本型食事にとって代表的な食品の一つでもある。我々は,地域の食資源の中から抗酸化作用に優れた素材を探索し,健康の維持・増進,特に生活習慣病の予防に役立てることを目的に抗酸化活性のスクリーニングを行ってきた。これは,多くの生活習慣病が,その原因を辿ると生体内で過剰に発生した活性酸素種やフリーラジカルによる酸化傷害に起因していることが明らかになってきたからである1, 2)。抗酸化活性の評価には種々の原理と方法が存在するが,我々はフォトンを測定する方法を用いた。これは,大久保ら3)のXYZ原理に基づき,多種多様な食品や素材を迅速かつ簡便に測定できる方法として確立したものである4, 5)。この方法を用いて,青森県産の農水産物,食品および飲料など数百に及ぶ試料を評価した。その中で,納豆に抗酸化活性のあることが見出された。納豆は血圧降下作用6),血栓予防効果7),ホルモン様作用8),抗腫瘍効果9)など多くの生理作用を有することが明らかになりつつあり,健康的な食品として認識されてきている10)。そこで,我々は納豆の抗酸化性,特に粘性物質に着目し,その抗酸化作用と生理機能を解明する研究を進めた。

エチレンプロピレンゴムへの次亜塩素酸の浸透とその劣化作用

福崎 智司

エチレンプロピレンゴム(EPDM)は,主鎖に不飽和二重結合を持たず,極性の官能基も有していないため,耐水性,耐薬品性,耐酸化性に優れた特性を有している。さらに,EPDMは安定した止水性能を持つことから,食品製造機器や建築用設備の各種シール,ガスケット,O-リング類に広く用いられている。しかし,次亜塩素酸ナトリウムを配合(50〜1,000 ppm)した洗浄・殺菌剤や残留塩素(0.1〜0.5 ppm)を含有する水道水によるEPDMの劣化事例が数多く報告されており,塩素による劣化メカニズムの解明とその対策が課題となっている1)。現状では,劣化による事故として問題視されているのは,漏水や黒粉とよばれるゴム粉の脱落であるが,水や食品に接する部材には衛生的な観点から低い表面粗さが求められており,劣化によって生じるEPDM表面の荒れや亀裂は,たとえ事故が顕在化しない場合でも,決して看過できない問題と考えられる。
 EPDMの塩素劣化においては,EPDM内部への水および塩素(Cl)の浸透が劣化の進行に寄与していることが明らかになっている2-4)。しかし,従来の研究は,中性からアルカリ性の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いてEPDMの劣化における配合剤,充填剤,老化防止剤の影響を調査したものであった。昨今,pHを制御した弱酸性の次亜塩素酸水溶液や電解水の利用が普及する中,EPDM内部への拡散に関与する有効塩素成分を特定することができれば,耐塩素性のゴム材料の開発や具体的な劣化事故の防止策,さらに殺菌・洗浄の効率化につながると考えられる。
 本稿では,弱酸性〜アルカリ性のpH領域における次亜塩素酸(HOCl)の解離平衡成分,すなわち非解離型次亜塩素酸(HOCl)と次亜塩素酸イオン(OCl-)の存在比率に注目してEPDM内部へのClの浸透と拡散を検討した研究事例を紹介する。さらに,有効塩素の浸透と劣化の因果関係についても触れてみたい。

ユーラシア大陸の乳加工技術と乳製品
第5回 南アジア―インドの牧畜民の事例

平田 昌弘

これから3回にわたってインドの乳加工技術と乳製品とを紹介する。
 インドはウシとスイギュウを合わせた生乳の生産量が2008年では10,500万トンと,世界第一の生産量を誇る(FAOSTAT,2010)。インドは,ウシ(4,410万トン)よりもスイギュウ(6,090万トン)の生乳生産の方が多い珍しい国である。インドで生乳の生産・集荷量が飛躍的に増加しえたのは,イギリスのインド支配の影響とホワイト・リボルーション(白い革命)とも呼ばれる酪農協同組合の組織化・発達によっている。紙面上の都合で説明は省略するが,詳しくはKatar and Virendra(1998),平田(2005)の論文を参照されたい。世界の中で最も生乳の生産量が多いことを鑑みると,ユーラシア大陸の乳加工技術や乳製品利用を考察するにあたって,インド乳文化の研究は不可欠であることが理解される。

フランス チーズ事情 4 サントモール・ド・トゥーレーヌ

清田 麻衣

フランスでは牛乳だけでなく,山羊乳や羊乳からも様々なチーズを造っている。例えば前回記したロックフォールは羊乳製チーズの一つである。この「フランス チーズ事情」の締めくくりに,山羊乳製チーズの一つ,サントモール・ド・トゥーレーヌについて記そう。このチーズは,私が約10ヶ月滞在し,当時働いたチーズ屋のあるトゥーレーヌ地方を代表するチーズでもある。
 この山羊乳製チーズはトゥーレーヌ地方と呼ばれる地域で製造されるAOPチーズの一つである。トゥーレーヌ地方は,長さ1000km以上におよぶフランス最長の川,ロワール川が大西洋に向かって西に流れ込む流域のうち,パリから南西およそ200kmの場所に位置するトゥール市周辺地域をさす。この地域一帯はフランス国内でも山羊乳製チーズの一大産地である。歴史は8世紀,アラブ人たちがフランスを侵略した時代に遡る。アラブ人たちがトゥール・ポワチエの戦いで敗れ撤退した後,アラブの女性たちはフランスの人々に溶け込み,山羊乳製チーズの製造方法を伝えた1)という。
 この地方ではサントモール・ド・トゥーレーヌの他にも「セル・シュール・シェール」,「ヴァランセ」,「プーリニー・サンピエール」というAOPで規定されたチーズが製造されている。
 これらはいずれも一個数百グラムと小型で,それぞれ非常に個性的な外観をしている(写真1,2)。セル・シュール・シェールは平たいプリンのようなグレーの円錐台,ヴァランセとプーリニー・サンピエールはともにピラミッドの先端を切ったような四角錐台だ。また,ヴァランセはグレーで,プーリニー・サンピエールは白く,ヴァランセよりも背が高い。同じ山羊乳製チーズなのに色がグレー,白とあるのは,木炭の粉を表面にまぶすか,否かの違いである。黒い木炭の粉を表面にまぶしたチーズは熟成を経てグレーの色合いとなる。もちろんグレーなのは表面だけで,内部は白い。