New Food Industry 2011年4月号

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New Food Industry 2011年 4月号

クエン酸を基体とした消毒剤バイオイオナースⓇの錠剤化製剤および粉末化製剤の殺菌効果

窪田 倭、松澤 皓三郎、和田 雅年、森 勲、山地 信幸

生野菜や果物などの消毒には消毒剤が野菜や果物の味,色,臭いなどに変化を起こさせないと同時に人体に無害であることは必須の条件である。著者らが開発したクエン酸を基体とした新規消毒剤バイオイオナースⓇは人体に無害であり,かつ地球環境に負荷をかけない特徴を有している1)。従って,手指の消毒以外に食料品の消毒にも適している。しかし,将来的に大規模な調理場に於いて多量の生野菜や果物の消毒にバイオイオナースⓇを使用することを想定すると,何百リットルも必要である。そのためにはその製造,運搬などに於ける費用の面および保管に広い空間容積を要する大きな欠点を有している。この欠点の解決策としてバイオイオナースⓇの錠剤化や粉末化が考えられた。
 バイオイオナースⓇの殺菌効果は当初pH3.0以下の酸性水のクエン酸にアルコールが相加的あるいは相乗的に殺菌作用を起こすと推定していた。しかし,本剤の厨房内消毒および消臭実験においてアルコールの引火性や鼻粘膜刺激性を考慮に入れてアルコール非含有のものとの殺菌効果を比較検討したところ,その結果両者の殺菌効果に差が認められなかった2)。即ち,アルコールはpH3.0以下の酸性溶液中のクエン酸の殺菌作用には何ら関与しないことが判明した。本剤の殺菌作用の主体が酸性水溶液中のクエン酸であることより本剤の錠剤化や粉末化の可能性が示唆された。今回著者らはバイオイオナースⓇの錠剤化および粉末化に成功したので,その製造法および殺菌効果について述べる。

水可溶性ルテインの開発とその生理機能

渡辺 敏郎

カロテノイドは自然界に数百種類存在しているが,ヒトの体からはわずかな種類のものしか検出されていない。その中でもルテインはヒトの血清や組織中から検出される代表的なカロテノイドの一つである。ルテインはキサントフィル類に分類され,様々な緑色野菜や果物に含まれており,これらを食品として摂取することでヒトに対して生物学的機能を果たすものと考えられている。乳癌1),結腸癌2),肺癌3),皮膚癌4)等の腫瘍および白内障5),加齢性黄斑変性症6)等の眼疾病は,ルテインの摂取量と負の相関を示す疫学的研究結果が得られている。しかし,緑色野菜のルテイン含量は低いため,近年,高濃度にルテインを含有するマリーゴールド(Tagetes erecta L.)花弁抽出物(疎水性ルテイン)が機能性食品(サプリメント)としてよく利用されている。Johnsonら7)は,ホウレンソウから摂取したルテインのバイオアベイラビリティは,疎水性ルテインよりも低いため,高濃度のルテインを効率よく摂取することの必要性を報告している。しかしルテインは脂溶性カロテノイドであるため生体への吸収は食事における脂質摂取量によって異なることが考えられる。脂質は胆汁によってミセル化し腸管から吸収されるが,脂質が少ないと脂溶性化合物は腸管から吸収されにくい。したがって,脂溶性である疎水性ルテインをO/W(Oil in Water)乳化することで微粒子分散化できれば水可溶性となり,ルテインの生体への吸収性が高まることが推測された。ここでは,乳化した水可溶性ルテインの調製と動物実験による疎水性ルテインと水可溶性ルテインの吸収性の違いについて比較し,さらにルテインの新しい機能性評価として脂肪蓄積抑制効果について検証した。

大麦を利用した食後高血糖抑制割合の検討と食品評価法

奥村 仙示、川上 由香、佐久間 理英、武田 英二

食後高血糖は,糖尿病・心血管疾患などの生活習慣病の発症・進展に関与している1-3)。DECODE研究及びDECODA研究より,負荷後2時間値が空腹時血糖値よりも心血管疾患や全死亡率のより優れた予測因子であること4, 5)や,UKPDS80より,糖尿病発症早期からの厳格な血糖管理が重要であることが明らかになっている6)。また,2007年には国際糖尿病連合(International Diabetes Federation : IDF)により,「食後血糖」という狭い分野に特化したガイドラインが策定され,日々の食事により食後血糖を抑制することは重要であると考えられる。
 Jenkinsらは食後血糖値の変動の指標としてグリセミックインデックス(Glycemic Index:GI)を提唱した7)。これは炭水化物50 gを摂取した際の血糖値の上昇度を示すものであり,血糖値曲線下面積から算出する。血糖値を上昇させやすい食品ほどGI値が高く,上昇させにくいほどGI値は低くなる。
 主食を低GI化させることで,インスリン抵抗性が改善することが2型糖尿病患者および健常者を対象とした研究で報告されており8),主食を中心とする食事の低GI化が糖尿病の発症予防に有用であることが示されている。米は日本人の主食であり,欠かすことのできない主な糖質源であるが,GI値の高い食品として知られている9)。パンやパスタは米に比べてGI値が低いが,日本人の主食として置き換えることは現実的には難しい。また,パンやパスタを主食とする食事は脂肪エネルギー比率が高い食事となり,このような食生活は糖尿病の発症の危険因子となることが報告されている10)。したがって主食として米飯は一定量摂取する必要がある。そこで,高GI食である米飯に一工夫を加え,主食を低GI化させる工夫が重要であると考えられる。

トレハロースの新たな生理機能 −抗メタボリックシンドローム作用−

向井  和久、新井 千加子

最近,日本人の食生活は高脂肪・高カロリーの欧米化が進んでいるといわれている。また,脂質や糖質の過剰摂取による肥満の割合が,中高年を中心に年々増加していることが示されている。このような背景を受けて,食習慣や運動習慣の改善などメタボリックシンドローム対策の意識が高まり,近年の食品市場では,カロリーや糖質・脂質を抑えた“ゼロオフ商品”の発売が相次ぎ,支持を受けている。本来,糖質や脂質は生命維持に必須の栄養素であり,体にとって重要な役割を果している。たとえば,脳のエネルギー源は糖質のグルコースであり,グルコースが不足すると,脳の能力低下を招いたり,精神的にも不安定となる。また,脳が食事の満足感を得られず空腹と認識し,さらにエネルギーを補おうとすることで過食につながり,摂食障害に陥ることもある。
 糖質の一種であるトレハロースは,摂取すると小腸トレハラーゼで加水分解されてグルコースとなり,腸管から吸収され,エネルギー源としての役割を果たすことが知られている。トレハロースはグルコースに比べて,吸収後のインスリン分泌が緩やかな点が特徴的である。この穏やかなインスリン分泌性に着目し,トレハロースの生理機能について研究を進めたところ,高脂肪食摂取によって誘導される脂肪細胞の肥大化を抑制することを新たに発見し,さらに,糖尿病やメタボリックシンドロームの発症の基盤となるインスリン抵抗性の進行を抑制する作用を見いだした1)。本稿では,トレハロースについて概説した後,トレハロースの生理機能に関する最新の研究成果を紹介する。

植物性乳酸菌K-2のアレルギー症状緩和効果

斎藤 真理子、熊谷 武久

近年, 日本を始め先進国ではアレルギー罹患率が増加している。アレルギーにはⅠ〜Ⅳ型のタイプがあり, アトピー性皮膚炎, 花粉症, 気管支ぜん息などの疾患はⅠ型アレルギーに分類される。Ⅰ型アレルギーはイムノグロブリンE(IgE)抗体が産生されて引き起こされる炎症反応であり, かゆみ, 腫れ, くしゃみ・鼻水の過多を伴う呼吸困難などの症状が現れる。機序は以下の通りである。 ①通常人体に無害な物質(ホコリ, 花粉, ダニなど)が抗原として認識され, 体内で抗体が作られる。②抗体は体中の組織に存在するマスト細胞表面に結合する。③再度その物質が体内に侵入し, 抗体と結合することでマスト細胞が脱顆粒を起こし,アレルギー症状が引き起こされる。
 日本ではアトピー性皮膚炎の患者は38万人1), 花粉症の有病率は29.8%2), ぜんそく患者は400万人3)であり, 何らかのアレルギーを持つ人は人口の3分の1とも言われている。症状を抑えるための薬剤治療によって医療費は年々増加しており, 国の財政を圧迫している。アレルギー症状によって引き起こされる経済的損失は花粉症だけでも年間7500億円以上と言われている4)。

ポリアミン摂取量と食品摂取量 − 地中海食は高ポリアミン食である −

早田 邦康

 ポリアミンは,ほとんど全ての生物に存在する物質であり,生活習慣病を抑制する大豆などの豆類には多量のポリアミンが含まれる。我々は,このポリアミンが炎症を抑制する事を発見した。生活習慣病の発症や進行には炎症が関与しており,抗炎症作用のある物質が生活習慣病を抑制することから,マウスにポリアミンを投与し続けたところ,老化の進行が抑制されて寿命が延長することを見いだした。さらに,ヨーロッパと西欧の49カ国の食品供給量,および既存の論文から各食品のポリアミン量を用いて,各種食品の相対量とポリアミン量を比較検討した。すると,オリーブオイルが総脂肪(油脂)量に占める割合,総エネルギーあたりの豆類とナッツ,果物,野菜,およびワインの量,さらに魚介類と赤肉(牛肉,豚肉)比率は,総エネルギーあたりのポリアミン量と正の相関を示した。エネルギーあたりの全乳の量はポリアミン量と負の相関を示したが,エネルギーあたりのチーズの量は正の相関を示した。ポリアミン量と正の相関をしめした食品は地中海食とよばれている食事形態の特徴と一致しており,現在健康長寿の食習慣として注目されている地中海食は高ポリアミン食であることがわかった。

ユーラシア大陸の乳加工技術と乳製品
第4回 西アジア—イランの事例および西アジアの乳加工体系の整理

平田 昌弘

本稿では,西アジアの乳加工体系としてイランの事例を紹介する。そして,西アジアシリーズのまとめとして,西アジア全域における乳加工体系を整理してみたい。
 調査地は,イラン南部のファールス州である(図1)。かつてのアケメネス朝ペルシャの首都ベルセポリスがあった地である。イランといっても多様な民族集団が牧畜を営んでいる。そこで,事例としてチュルク系牧畜民カシュガイ族(写真1),イラン系牧畜民,アラブ系牧畜民ファームール族の乳加工体系をそれぞれ紹介する。調査時期は2004年である。

フランスチーズ事情3
ロックフォール

清田 麻衣

私がこの青カビチーズに興味を持ったのは,このチーズをある洞窟内で熟成し,青カビを生育させるのだと知ってからだ。「洞窟熟成」から連想される古めかしさや小規模製造のイメージと,日本でもどちらかというと手に入りやすい輸入青カビチーズである状況とのギャップがあった。いったい洞窟や,製造施設の規模はどのくらいなのか,気になっていたのだ。
 ロックフォールは羊乳製の青カビチーズである。直径19cmから20cm,高さは8.5cmから11.5cmの円筒型で,重さ2.5kgから3kgである。無殺菌の羊乳を脱脂することなく用いる1)。
 乳の生産とこのチーズの製造を行う地域としてかつてはボルドーやコートダジュール,コルシカ島など,東西に渡り広範囲が許可を受けていた1)が,2005年に変更された。現在の指定地域はフランス南部のオード県,アヴェロン県,ガール県,エロー県,ロゼール県,タルン県にまたがる地域である(図1)2)。ここでいう製造とは,ロックフォールの熟成前の白くカビの生えていない状態までを作ることである。ロックフォールは製造後,最低でも90日以上熟成し,そのうち2週間以上はアヴェロン県ロックフォール・シュール・スールゾン村の洞窟内で熟成するとAOPの規定で定められている1)。このように,熟成期間の一時期を,一箇所で行うと指定しているのがロックフォールの特徴である。よって,製造者はこの村内に熟成用のカーブを持っている。現在ロックフォールを製造するのは7社で,ソシエテ社,オクシタヌ/3A社,パピヨン社,クーレ社,ヴェルニエ社,カルル社,コンブ社である。

山田築地市場魚貝辞典(ニシン)

山田 和彦

日増しに弱々しかった日差しも明るさを増し,冷たい空気もようやく温んでくる。そんな春の空気に誘われて,築地市場内の散策に出てみる。いつもの仲卸店舗の通路を抜け,活魚卸売場を抜けて隅田川沿いの岸壁へ。かちどき橋を左に見て岸壁を河口に向かって歩くと,市場の岸壁の終点。冷凍倉庫が立ち並ぶ場所から垣間見えるのは,隣の浜離宮である。海の水を引き入れた緑の多い庭園は,江戸の面影を残す都会のオアシスである。水面を泳ぐボラの群れを眺めていると,梅の香りも漂ってきそうである。今回は春の魚,ニシンである。

薬膳の知恵(56)

荒 勝俊

中医学は,《すべての物質は陰陽二つの気が相互作用し,表裏一体で構成されている》と考える(陰陽学説)と,《宇宙に存在する全ての事象は“木・火・土・金・水”と呼ばれる五つの基本物質から成り,その相互関係により新しい現象が起こる》と考える(五行学説)に基づいた独自の整体観から構成されている。中医学における治療は,古代帝王の神農が草木の薬効などを記した「神農本草」を基に,医療技術と調理技術を双方修得した食医がおかれ,医療と食事を兼ね揃えた“薬食同源”という観点から食療法としての“薬膳”が形成された。即ち,“薬膳”とは《中医学の基礎概念である陰陽五行学説に基づき,健康管理や病気治療のために食材の持つ様々な機能を組み合わせて作った食養生》のことである。薬膳には①食養生としての薬膳と,②治療補助的な意味の薬膳があり,健康維持を目指す薬膳は“養生薬膳”に属している。
 “薬食同源”の歴史は周の時代に遡ることができ,食療法が論述された著書が多く執筆された。唐の時代の孫思邈が書いた『千金方』と『千金翼方』には食療法に関する専門的な論述があり,古代の食療法の発展に大きな影響を与えた。今月は一年中で一番気温の低い季節で,自然界では草木が枯れ,動物は冬眠に入るという特徴を持つ冬季に焦点を絞り,その養生法を紹介する。