New Food Industry 2008年 9月号

フランス海岸松樹皮エキス 「ピクノジェノール」の薬理効果並びにメカニズム

松下 昌史

ピクノジェノール(R)はホーファーリサーチ社(本社・スイス)が1970年に開発したフランス海岸松樹皮エキスのブランド名称である。日本をはじめ米国,カナダ,オーストラリア,中国,東南アジアなど世界80カ国以上に輸出販売されている。また,ホーファーリサーチ社ではサプリメントの1日の摂取量が 25mg以上の製品に対しロゴマークを発行しており,同ロゴマークが記載されている製品はピクノジェノール(R)を使用しているという品質保証の意味も込められている。(図1参照)
 海岸松の利用の歴史は古く1535年のフランス人探検家のジャック・カルティエの日記にカナダを探検中に壊血病に侵された船員たちが土着民に松の樹皮と葉からなる煎じ薬を与えられて回復したという記録が残されていたことが明らかになっている。

ゴボウ葉抽出物の脂肪蓄積抑制作用

片柳 悠紀、柴田 健次

2006年5月に発表された厚生労働省の統計(2004年度国民健康・栄養調査)によると,日本人にとって肥満者といわれるBody Mass Index (BMI) が25以上の人口は,男女併せて2000万人以上,特に30〜60歳の男性と60歳代の女性の3割は肥満と報告されている。特に問題視されているのは,食生活の変化により,過剰なカロリー摂取や脂肪摂取過剰が原因となったメタボリックシンドロームであり,予備軍も併せてその数は1960万人と推定され,社会的に大きな問題となっている。そして,平成20年4月から,メタボリックシンドロームやその予備群の人を見つけ出し,その改善と予防に向けた支援を行う保健指導に重点をおいた内臓脂肪型肥満に着目した健診及び保健指導がスタートしたことにより,メタボリックシンドローム予防に対する関心は高まっている。

葛の花エキスの抗肥満作用に関与する成分の検討 -高脂肪食誘発肥満モデルを用いた試験-

神谷 智康,松塚 祐樹,鮫島 まゆ,鍔田 仁人,池口 主弥、河田 照雄

葛(くず)は日本,中国,台湾,東南アジアに分布するマメ科のつる性多年生植物である。日本や中国で古くから薬用として利用され,特に,その根部は『葛根(かっこん)』と呼ばれ,中国の薬物書の古典『神農本草経』に掲載され,感冒薬として知られる『葛根湯(かっこんとう)』の原材料として利用されている 1)。
 一方,葛の花部は『葛花(かっか)』と呼ばれ,中国の薬物書『本草網目』に掲載されており,二日酔いの予防・緩和の目的で民間薬的に用いられていたとされ,二日酔いの予防・緩和などを目的とした『葛花解醒湯(かっかかいせいとう)』の原材料として利用されている1)。我が国においても,葛の花部は酢の物や天ぷらとして食されており2,3),国内外において長い食経験を有することが伺える。しかしながら,その有効成分についての報告はほとんど存在しなかった。

乳酸菌とレンコンの免疫相乗効果

和合 治久

消化管に存在してガス壊疽菌などの悪玉菌を撃退し,腸管免疫力を高めて感染防御を増強するようなプロバイオティクス効果を発揮するのが,善玉菌である乳酸菌である。加えて乳酸菌は,肝臓の解毒機能を高めて病気を改善させたり,がんや糖尿病あるいはアレルギーなどの生活習慣病の予防に対しても効果を示すことが知られてきた。一方,ウイルスなどの微小な病原体やがん細胞などを異物と認識して排除し健康を維持する免疫システムを根底から支えているリンパ球の働きを高めるような食材も数多く知られ,特にキノコ類や海草類あるいはバナナやニンニクなどは一般的に有名な素材になっている。

GABA茶の製造技術とその改良

澤井 祐典

植物としての「チャ」は,ツバキ科 (Theacea),ツバキ属 (Camellia) のチャ節に分類されており,本来照葉樹林の下生えとして自生する永年性の照葉樹である1)。チャの新芽を摘んで加工し,乾燥させることにより,ヒトが飲用するのに適した食品としての「茶」となる2)。
 茶の化学的研究は1827年のカフェインの単離に始まったといってよいが,これはすでに1820年にコーヒーから発見されていた成分と同一であることがのちになって判明したものである。
 カフェインを含有する植物は数十種あるといわれており,コーヒーの実に1〜2%,カカオの実に0.3%,コーラの実に1〜2%,マテに0.2〜2%含まれているが,中でもチャの葉には2〜4%と最も多く含まれている。これらはいずれも嗜好品に用いられ,茶がコーヒー,ココアと並んで世界を三分する非アルコール性の嗜好飲料として広く愛飲されるのもカフェインの故と考えられる3)。

強酸性電解水にクエン酸と低濃度アルコールを添加した消毒剤(バイオイオナース)の殺菌効果

窪田 倭、松澤 晧三郎、和田 雅年、山地 信幸

公衆衛生の普及とともに法定伝染病は減少しているが,細菌性食中毒は依然として減少していない1)。食中毒は個々の家庭内の個人の問題から最近の外食産業の伸びにともなう多発大型化の社会問題となっている。食中毒の多くは清潔で衛生的環境,すなわち洗浄,殺菌に関連する衛生管理が遵守されなかったことが原因となっている場合が多い。
 一般家庭内や外食産業での食品の細菌汚染,とくに二次汚染は厨房内の容器,機器,あるいは従業員に付着している細菌,空中浮遊菌などからの汚染源により引き起こされる。これらからの食品の細菌汚染を防止するために洗浄,消毒剤が使用されている。消毒剤は微生物汚染の原因となる細菌・真菌・ウイルスなどに対して広い抗菌スペクトルを持つことが理想的である。しかしながら現有の消毒剤にはこれら全ての菌に対して優れた効果を持っているものは少ない。現在頻用されているのはアルコール系,過酸化物系,ハロゲン系,界面活性剤などであるが2),これらの消毒剤は食品への化学的な害と使用上の安全性の問題から一般家庭内よりむしろ食品産業界で使用されている。

乳酸菌スターターの科学

宮本 拓

広範囲の微生物が,人類により数千年にわたって食品や飲料の調製に利用されてきた。Tamime1)によると,食品や乳製品に利用される微生物スターターの主な機能は次のように要約される。
 ①保存性を向上したり,安全性を高める効果のある微生物の発酵作用に起因する食品保蔵機能
 ②食品保存剤としての利用の可能性を秘めたバクテリオシンを生産する能力
 ③製品の官能的特性を強化(例えば,有機酸やカルボニル化合物の生成あるいはタンパク質や脂肪の部分加水分解物など)
 ④発酵乳製品のレオロジー的特性の改良(粘性や堅さなど)
 ⑤プロバイオティック機能を有する微生物の使用などによる発酵乳製品への栄養的・生理的機能の付与

機能性ホエイ味噌

六車 三治男

チーズの本場ヨーロッパでは昔からいろいろなチーズが作られ沢山消費されている。近年,日本でも牛乳の栄養のエッセンスといわれるほど高い栄養特性を持つチーズの消費量は増大している。健康と食生活の認識が高まるにつれ,さらに私たちの食卓に並ぶ機会も増えるものと思われる。それに伴って得られる副産物であるチーズホエイを効率的に利用することは乳業界における大きな課題の一つである。
 牛乳ホエイタンパク質の主用構成成分は,β-ラクトグロブリン,α-ラクトアルブミン,血清アルブミン,免疫グロブリン,ラクトフェリン,ラクトパーオキシダーゼなどである。ホエイタンパク質はさまざまな機能性を有し,β-ラクトグロブリンやα-ラクトアルブミンは腸管でのカルシウム吸収促進1),血圧降下に関与するアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害活性を有する2-7)。

薬膳の知恵 (28)

荒 勝俊

人体は一つの有機的統一体であり,局所における変化は全身に影響を及ぼし,内臓の変化は五官,四肢,体表などに変化を及ぼす。こうした観点から,中医学における証の診断は,舌を観察し,脈を診断し,声を聞き,症状を尋ねる事で,体の各方面に現れた変化を情報として取り出す事で行われる。具体的には,視覚により全身および局所の状態を観察する「望診」,聴覚と嗅覚により声や分泌物の臭いの異常を知る「聞診」,本人や家族から自覚症状,愁訴を詳しくたずね,病気の経過,熱・汗・食欲など診断に必要な情報を収集する「問診」,直接触れて診察する「切診」の4種類の診断方法(四診)から構成されている。四診で得られた情報を整理・分析し,「証」を見極める事で各々の状態により適した治療方法を選択する根拠(弁証論治)ともなる。

築地市場の魚たち 魚貝類の産地−世界

山田 和彦

これまで,築地市場に入荷する魚貝類を様々な角度から見てきた。これらは,市場内外で多くの方から寄せられた問合せと筆者の乏しい知識を元に,表題ごとにまとめなおしたものである。よく聞きかれた質問の1つに,調べようとした名前が本に出ていない,というのがあった。以前もふれたように,魚貝類の名称は,多種雑多である。そこで,今回から築地市場に入荷する魚貝類を五十音順に並べて紹介しようと考えた。ここには図鑑に出ている名前を中心に,市場名や,若干の地方名も含めようと思う。また,標準和名で示した魚貝類には,簡単な解説も付けて調べるときの参考になるようにした。